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陽介の気になる人(好きな人と言うと、どもって話が一向に進まなくなった)は、八十神高校の2年生、つまり、陽介たちより一つ上の先輩らしい。
「初めて会ったのは……文化祭でさ、転校してきた俺のこと気にかけてくれたんだ。その人俺がジュネスの息子だって知ってたのに」
そういって陽介は、懐かしい目で語った。
2人が再会したのは9月11日。この日初めて、陽介は彼女がジュネスのアルバイトだと知ったらしい。シフトが重なった陽介に、挨拶しておきたかったのだと言って、彼女は笑いかけた。亜麻色のウェーブがかかったロングヘアと、つぶらな瞳という儚げな容姿とは裏腹に、こざっぱりとした芯の強そうな笑みが印象的な女性だったという。
2人はシフトが重なる機会も多くなって、互いに打ち解けていった。その時間のなかで、陽介は彼女の人柄に惹かれていったという。
ジュネス開店当初からバイトに参加していた彼女は、真面目で、仕事もできた。床の清掃もきれいに仕上げるし、商品の陳列も素早く正確にこなす様子はかっこよかったと、熱烈に陽介は語った。
「バイトに対してもさ、将来への投資っていうんだよな。小遣いのために働こうなんて考えてる俺とは全然違ってさ」
自分より大人びた考え方を持つ彼女に、陽介は憧れを抱き──気がつけば目で追うようになっていたという。
端から聞いていた瑞月は確信した。花村は(本人は濁しているが)、その人に異性として興味を向けていると。それを瑞月は複雑な心境で聞いている。
(友人が好 い人を見つけたというのは、喜ばしい出来事なのだろうがな)
しかし、瑞月は喜べない。嬉しそうに話す陽介の隣で、不安と気がかりが瑞月の胸にもやもや沸き上がっていた。例えるなら、怪しい雲行きに家族の出立を心配する、母親のような心情である。
そこに、嫉妬という感情は微塵もない。なぜなら、陽介は瑞月にとって大切な友人だからだ。それ以上でもなく、それ以下でもない。加えて瑞月は、人生において恋愛はしない と決めている。ゆえに友人に好い人ができたこと自体、なんとも思わない。
問題は、陽介が好きになった相手だ。陽介がその人の名前を口にしたときから、瑞月は心から陽介を応援する心持ちにはなれなかった。彼女と付き合った場合に、陽介とその相手が背負うであろうリスクを知りながら応援してしまうのは、あまりにも無責任だ。
「花村、その……君が気になっている人の名前を、もう一度教えてくれないか?」
「それ、普通聞き返す……? てか、最初に言っただろ」
照れ臭そうに、頬を染めた陽介が渋る。だが、瑞月の真剣な様子を汲み取ったのか、渋々と口を開いた。風にかき消えそうな照れた声であっても、瑞月は聞き逃さない。
「小西先輩……名前は『小西早紀 』」
こにしさきさん、と、瑞月は音にせず繰り返す。やはり、と瑞月は覚悟を決めた。友のため、瑞月は友を試すと決めた。小西先輩について語り終えた陽介は、楽しい思い出に浸った余韻に肩を揺らしている。瑞月がしようとしているのは、それをぶち壊す行為だった。
「花村、少し……話がある。きみの心に留めておきたい話だ」
瑞月は真面目に陽介へと告げる。友のただならぬ様子を察してか、陽介は何事かと揺らしていた肩を止めた。そして、瑞月の真剣な様子に、きょとんとしながらも姿勢を正す。
「初めて会ったのは……文化祭でさ、転校してきた俺のこと気にかけてくれたんだ。その人俺がジュネスの息子だって知ってたのに」
そういって陽介は、懐かしい目で語った。
2人が再会したのは9月11日。この日初めて、陽介は彼女がジュネスのアルバイトだと知ったらしい。シフトが重なった陽介に、挨拶しておきたかったのだと言って、彼女は笑いかけた。亜麻色のウェーブがかかったロングヘアと、つぶらな瞳という儚げな容姿とは裏腹に、こざっぱりとした芯の強そうな笑みが印象的な女性だったという。
2人はシフトが重なる機会も多くなって、互いに打ち解けていった。その時間のなかで、陽介は彼女の人柄に惹かれていったという。
ジュネス開店当初からバイトに参加していた彼女は、真面目で、仕事もできた。床の清掃もきれいに仕上げるし、商品の陳列も素早く正確にこなす様子はかっこよかったと、熱烈に陽介は語った。
「バイトに対してもさ、将来への投資っていうんだよな。小遣いのために働こうなんて考えてる俺とは全然違ってさ」
自分より大人びた考え方を持つ彼女に、陽介は憧れを抱き──気がつけば目で追うようになっていたという。
端から聞いていた瑞月は確信した。花村は(本人は濁しているが)、その人に異性として興味を向けていると。それを瑞月は複雑な心境で聞いている。
(友人が
しかし、瑞月は喜べない。嬉しそうに話す陽介の隣で、不安と気がかりが瑞月の胸にもやもや沸き上がっていた。例えるなら、怪しい雲行きに家族の出立を心配する、母親のような心情である。
そこに、嫉妬という感情は微塵もない。なぜなら、陽介は瑞月にとって大切な友人だからだ。それ以上でもなく、それ以下でもない。加えて瑞月は、人生において
問題は、陽介が好きになった相手だ。陽介がその人の名前を口にしたときから、瑞月は心から陽介を応援する心持ちにはなれなかった。彼女と付き合った場合に、陽介とその相手が背負うであろうリスクを知りながら応援してしまうのは、あまりにも無責任だ。
「花村、その……君が気になっている人の名前を、もう一度教えてくれないか?」
「それ、普通聞き返す……? てか、最初に言っただろ」
照れ臭そうに、頬を染めた陽介が渋る。だが、瑞月の真剣な様子を汲み取ったのか、渋々と口を開いた。風にかき消えそうな照れた声であっても、瑞月は聞き逃さない。
「小西先輩……名前は『小西
こにしさきさん、と、瑞月は音にせず繰り返す。やはり、と瑞月は覚悟を決めた。友のため、瑞月は友を試すと決めた。小西先輩について語り終えた陽介は、楽しい思い出に浸った余韻に肩を揺らしている。瑞月がしようとしているのは、それをぶち壊す行為だった。
「花村、少し……話がある。きみの心に留めておきたい話だ」
瑞月は真面目に陽介へと告げる。友のただならぬ様子を察してか、陽介は何事かと揺らしていた肩を止めた。そして、瑞月の真剣な様子に、きょとんとしながらも姿勢を正す。