最悪の出会い
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十月十二日 月曜日
事故から三日経った昼休み、陽介は八十神高校の屋上にいた。事故に遭ったあの雨の日とは違い、空は晴れて青々と輝いている。しかし、陽介の心情はそれと相対するかのようにどんよりと曇っていた。
緊張をほぐすために、陽介は腕を空へと伸ばす。背後で蝶番が軋んだ。陽介は慌てて姿勢を正す。振り返ると案の定、屋上へ通じる扉が開かれていた。
施錠を確認したその人は、堂々と胸を張って陽介の下へと歩いてくる。風に艶やかな黒髪が靡いた。アクアブルーとパールホワイトのマウンテンパーカーが翻る。凛と背を伸ばしたその人──瀬名瑞月はすらりと立ち止まって、陽介につま先を向ける。
「初めまして、花村陽介くん。私は瀬名瑞月だ。面と向かって話すのは初めてだから、名乗っておく」
湧き水のように冴え渡った声だった。先日水をかけたという相手に嫌悪を向けることなく、彼女は名乗った。罵倒を覚悟していた陽介の不安が吹き飛ぶ。驚く陽介とは対称的に、瑞月の表情は教室で見るのとまったく同じ──何に乱されることなく凪いでいる。
「……花村くん? 約束の通りに来たのだが、どうして硬直している」
「いや、ちょっと、予想以上に斜め上な反応でして……つか、俺の名前知ってたんすね」
「手紙に書いてあっただろう? そうでなくとも、クラスメイトの名前と顔は覚える。話しかけられて慌てたくはないからな」
里中の話を聞く限り、彼女はあまり人と関わらない印象があった。だというのに、加害者だから、転校生だから、といった理由ではなく、クラスメイト、だから陽介を覚えていたという。
そして律儀にも自己紹介を陽介に対して投げかけた。そこには相変わらず嫌悪や憤怒の感情は乗っていない。ただただ、対話する相手にむけた真摯な名乗りだった。実際の反応と抱いていた冷たいイメージがすり合わず、陽介は言葉を忘れてしまう。
「……安否の確認が先だったか? 学校に来ているから、てっきり回復したと思ったのだが」
微動だにしない陽介を不審がった瑞月の問いに、事故の被害者であるという卑屈さや糾弾の感情は感じられない。しかも、あまつさえ陽介の安否まで確認する始末だ。
「いや、この通り無事ですッ! 先日はご迷惑をおかけしてすみませんでしたッ!」
慌てて、陽介は瑞月に頭を下げた。なんとなく、このままでは「怪我がなかったのか。では良かった」と瑞月がさっさと立ち去ってしまう気がしたから。
そうして、腰から上部が直角に曲がった美しいお辞儀を披露する。幸いにも事故の後遺症は残らず、陽介の身体はピンピンしている。すると、「花村くん、頭をあげたまえ」と冷静な声が降りかかる。そして、あいかわらず凛と冴え切った様子で瑞月は続けた。
「大事なかったのなら、幸いだ。では、本題に入ろう。私も、もし君と話をするなら、きみがちゃんと反省しているのか、聞きたかったんだ」
そうして彼女はすっと目を細めて、陽介を見つめる。どうやら彼女は陽介が屋上に呼び出した理由を忘れたわけではないようである。
陽介は瑞月を水濡れにした非礼を詫びるべく、屋上へ呼び出したのだ。
事故から三日経った昼休み、陽介は八十神高校の屋上にいた。事故に遭ったあの雨の日とは違い、空は晴れて青々と輝いている。しかし、陽介の心情はそれと相対するかのようにどんよりと曇っていた。
緊張をほぐすために、陽介は腕を空へと伸ばす。背後で蝶番が軋んだ。陽介は慌てて姿勢を正す。振り返ると案の定、屋上へ通じる扉が開かれていた。
施錠を確認したその人は、堂々と胸を張って陽介の下へと歩いてくる。風に艶やかな黒髪が靡いた。アクアブルーとパールホワイトのマウンテンパーカーが翻る。凛と背を伸ばしたその人──瀬名瑞月はすらりと立ち止まって、陽介につま先を向ける。
「初めまして、花村陽介くん。私は瀬名瑞月だ。面と向かって話すのは初めてだから、名乗っておく」
湧き水のように冴え渡った声だった。先日水をかけたという相手に嫌悪を向けることなく、彼女は名乗った。罵倒を覚悟していた陽介の不安が吹き飛ぶ。驚く陽介とは対称的に、瑞月の表情は教室で見るのとまったく同じ──何に乱されることなく凪いでいる。
「……花村くん? 約束の通りに来たのだが、どうして硬直している」
「いや、ちょっと、予想以上に斜め上な反応でして……つか、俺の名前知ってたんすね」
「手紙に書いてあっただろう? そうでなくとも、クラスメイトの名前と顔は覚える。話しかけられて慌てたくはないからな」
里中の話を聞く限り、彼女はあまり人と関わらない印象があった。だというのに、加害者だから、転校生だから、といった理由ではなく、クラスメイト、だから陽介を覚えていたという。
そして律儀にも自己紹介を陽介に対して投げかけた。そこには相変わらず嫌悪や憤怒の感情は乗っていない。ただただ、対話する相手にむけた真摯な名乗りだった。実際の反応と抱いていた冷たいイメージがすり合わず、陽介は言葉を忘れてしまう。
「……安否の確認が先だったか? 学校に来ているから、てっきり回復したと思ったのだが」
微動だにしない陽介を不審がった瑞月の問いに、事故の被害者であるという卑屈さや糾弾の感情は感じられない。しかも、あまつさえ陽介の安否まで確認する始末だ。
「いや、この通り無事ですッ! 先日はご迷惑をおかけしてすみませんでしたッ!」
慌てて、陽介は瑞月に頭を下げた。なんとなく、このままでは「怪我がなかったのか。では良かった」と瑞月がさっさと立ち去ってしまう気がしたから。
そうして、腰から上部が直角に曲がった美しいお辞儀を披露する。幸いにも事故の後遺症は残らず、陽介の身体はピンピンしている。すると、「花村くん、頭をあげたまえ」と冷静な声が降りかかる。そして、あいかわらず凛と冴え切った様子で瑞月は続けた。
「大事なかったのなら、幸いだ。では、本題に入ろう。私も、もし君と話をするなら、きみがちゃんと反省しているのか、聞きたかったんだ」
そうして彼女はすっと目を細めて、陽介を見つめる。どうやら彼女は陽介が屋上に呼び出した理由を忘れたわけではないようである。
陽介は瑞月を水濡れにした非礼を詫びるべく、屋上へ呼び出したのだ。