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その後、瑞月は多弁になった2人に質問攻めにされ、ときに2人を照れさせながら、4人の懇談会は下校時間を過ぎて、4人が一緒に帰るまで続いた。分かれ道にさしかかった千枝が名残惜しいと声をあげる。
「話してみたけど、瀬名さんってフツーに喋れる子じゃん。あーーもーー、今まで声かけなくて損した」
「瀬名さん、明日から学校で会ったら、挨拶したり、話しかけたりしてもいい?」
「挨拶なら……、ただ、昼休みは過ごしたい場所があるから応対はできない」
雪子の問いかけに、瑞月は頷いて応じた。夕日に照らされた瑞月の横顔は穏やかだ。クラスで見せる氷じみた雰囲気はない。雪子と千枝は溌剌 と笑って、元気に手を振りながら、分かれ道に踏み出した。
「じゃあねーー!! 2人とも」
「気を付けてね」
仲良し2人組に手を振り返して、陽介と瑞月は下校を再開した。自宅が同じ方向にあるので、自然と同じ帰り道をたどる。チチチと、愛用のマウンテンバイクを引きながら車道側を歩く陽介は、瑞月と歩幅を合わせて問いかけた。
「な、イイ奴らだったろ?」
「そうだな。気持ちのいい人たちだった。それから、新鮮だった。同級生の女子と談笑したのは初めてだったから」
「新鮮って。中学のころとか、話す機会あったろ?」
「なかった。私はあの2人と別の中学出身だ。それに——」
瑞月は何かを言いかけた。しかし、続きは言葉にならず、ゆっくりと、彼女はかむろを振る。
「いや、何もない。気にしないでほしい」
はっきりと、瑞月は話を打ち切った。そのまま続いたのなら、中学での彼女について思い出を語っていたかもしれない。しかし、瑞月は語らなかった。
瑞月は中学生の思い出を——そもそも、陽介と出会う前の瑞月について語ろうとはしなかった。それらしい話題が持ち上がると、彼女は別の話題に逸らしてしまうのだ。ゆえに、陽介は瑞月の過去を知らない。
陽介は疑問に思った。彼女はどんな過去を経てきたんだろうかと。だが、本人が口にせず取りやめた話題を掘り返せるほど、陽介は瑞月と親しくはない。だから、瑞月に乗じる。
「そっか。まぁ、同級生と話したこと少ないワリに、スムーズに話せてたじゃん」
「それは……花村や里中さん、天城さんが気を使ってくれていたし」
瑞月が言いよどむ。しばらく目線をさまよわせ、彼女は歩みを止めた。彼女は口元を抑える。まるで、これから話そうとする言葉が、自分でも信じられないといった風に。
「……私自身、皆の話を聞くのが楽しかったから?」
釈然としない様子で、瑞月は答えた。彼女の声は今まで陽介が聴いてきた、凛とした響きとは違う。微かに柔らかい、というより未熟なふわふわとした響きが混じっていた。
陽介からしても、瑞月が戸惑っているのは明らかだ。しかし、なぜ2人と話しただけで、瑞月は混乱しているのか。
「瀬名、なんでそんなお前自身が戸惑ってんの?」
「……人と話すことで、こんなに浮き立った気持ちになるなんて、私自身が信じられない気持ちなんだ」
パチパチと瑞月は、瞼を上下する。幼い仕草が、陽介には意外だった。凛として動じない印象が強い彼女であっても、対人関係においては未熟な感情を見せる姿は、彼女が陽介と同じ高校生である事実を浮き上がらせる。
いや、人とのかかわりを避けてきた分、陽介よりも対人方面は慣れていないのかもしれない。目的もなく集まるような、カジュアルな付き合いでは。先ほどの千枝たちとの談笑がいい例だ。
瑞月は「あまり人と関わりたくない」から、と人との付き合いを避けてきた。けれど、今、陽介の目の前にいる瑞月は目線を下にして黙っている。陽介を含めた3人との談笑が、彼女のスタンスを揺らがせてしまうほどに楽しかったのだろう。
陽介は腰をくの字に折る。そうして、未だに戸惑っているであろう瑞月に告げた。
「ならさ、無理に避けなくてもいいじゃん」
「え?」
瑞月が陽介に紺碧の瞳を向ける。迷子の子供にかけるような、安心させる声音を心がけて、陽介は言葉を続ける。
「お前も楽しかったんだろ。なら、わざわざ突っぱねる必要もない。相手の気持ちも、自分の気持ちもさ。天城も里中も、もう瀬名のこと、友達だと思ってるだろうからさ」
「そう……か?」
「そそ。だから、瀬名も堅くなんなって。あいつらはお前をよく思ってくれてんだから、俺と話すときみたいに気楽にすりゃいーのよ」
ニッと頬を吊り上げて、陽介は笑ってみせる。瑞月が2人の、そして瑞月自身の気持ちに、素直になれるよう願いを込めて。
ふっと微かに息を吐いて、瑞月は口元に当てていた手のひらを外した。短い瞬きののち、瑞月はおずおずと声を出す。
「…………話しかけられたら、答えるようにはする。ありがとう」
瑞月の答えに、陽介は相好を崩す。言い方は濁しているが、瑞月は千枝と雪子を友達だと認めたのだ。内心ではガッツポーズを取りたいほどに嬉しい。
陽介は瑞月に与えられてばかりだった。楽しい文化祭の思い出も、自分が心地よいと思える屋上も、瑞月がいてくれたから見つけられたものだ。
与えられるばかりだった陽介が、人との関りに頑なだった瑞月の心をほぐせた。瑞月に影響をもたらせたのが嬉しい。
「はっはーん。なんなら、親睦を深めるついでに昼休み2人を屋上に誘ってみるかー?」
「いや。それはしない。昼休みは静かに過ごしたいし。あまり人が増えても困る」
テンションが上がっている陽介に反し、瑞月はいつものように素っ気ない。どうやら依然として、瑞月は昼休みの気ままな時間を維持する心づもりらしい。瑞月にとって、昼休みの時間は特別のようだ。
はたと、陽介は気づく。瑞月にとって昼休みは特別な時間だ。なのに、陽介がそばにいることは、許している。
「なぁ、瀬名」
「ん?」
陽介は歩き出す瑞月にむかって呼びかけた。ポリポリと頬を掻き、陽介は瑞月に問う。陽介が抱いた質問は、もしかすると自惚れかもしれない。しかし、問わずにはいられなかった。
「その、さ……俺ってけっこーお前に信頼されてる?」
彼女はくるりと陽介に背中を向ける。問いかけは小さなものではなかった。瑞月にも聞こえていたはずだ。わりと勇気を振り絞っただけに、スルーされるとやはり陽介は悲しい。
「君が——」
しかし、陽介の落胆は覆される。数歩進むと、凛とした響きが陽介の鼓膜を揺らした。
「君が熱心に説得しなければ、私は里中さんと天城さんに会わなかった」
陽介はぽかんと口を開く。瑞月は少し俯いてから、再び歩き始めた。歩調は速く、立ち止まる陽介を置いていかんばかりだ。慌てて、陽介は瑞月の後を追いかける。
「あ、ちょっと待て瀬名! 暗いんだから、一人で行くんじゃねー!」
「暗いから、早く帰ろうとしているのだろう? ほら、花村。もう日が暮れている。急がないと」
暗さで遠くにいるように思えたが、先を歩く瑞月に、陽介はすぐ追いついた。案外、瑞月との距離は開いていなかったらしい。
マウンテンバイクを引きずったまま、陽介は瑞月の隣に並ぶ。瑞月と共に帰る時間を少しでも増やしたくて。
互いに、普段より少し近づいた肩の距離に気が付かないまま、瑞月と陽介は帰路を辿る。
「話してみたけど、瀬名さんってフツーに喋れる子じゃん。あーーもーー、今まで声かけなくて損した」
「瀬名さん、明日から学校で会ったら、挨拶したり、話しかけたりしてもいい?」
「挨拶なら……、ただ、昼休みは過ごしたい場所があるから応対はできない」
雪子の問いかけに、瑞月は頷いて応じた。夕日に照らされた瑞月の横顔は穏やかだ。クラスで見せる氷じみた雰囲気はない。雪子と千枝は
「じゃあねーー!! 2人とも」
「気を付けてね」
仲良し2人組に手を振り返して、陽介と瑞月は下校を再開した。自宅が同じ方向にあるので、自然と同じ帰り道をたどる。チチチと、愛用のマウンテンバイクを引きながら車道側を歩く陽介は、瑞月と歩幅を合わせて問いかけた。
「な、イイ奴らだったろ?」
「そうだな。気持ちのいい人たちだった。それから、新鮮だった。同級生の女子と談笑したのは初めてだったから」
「新鮮って。中学のころとか、話す機会あったろ?」
「なかった。私はあの2人と別の中学出身だ。それに——」
瑞月は何かを言いかけた。しかし、続きは言葉にならず、ゆっくりと、彼女はかむろを振る。
「いや、何もない。気にしないでほしい」
はっきりと、瑞月は話を打ち切った。そのまま続いたのなら、中学での彼女について思い出を語っていたかもしれない。しかし、瑞月は語らなかった。
瑞月は中学生の思い出を——そもそも、陽介と出会う前の瑞月について語ろうとはしなかった。それらしい話題が持ち上がると、彼女は別の話題に逸らしてしまうのだ。ゆえに、陽介は瑞月の過去を知らない。
陽介は疑問に思った。彼女はどんな過去を経てきたんだろうかと。だが、本人が口にせず取りやめた話題を掘り返せるほど、陽介は瑞月と親しくはない。だから、瑞月に乗じる。
「そっか。まぁ、同級生と話したこと少ないワリに、スムーズに話せてたじゃん」
「それは……花村や里中さん、天城さんが気を使ってくれていたし」
瑞月が言いよどむ。しばらく目線をさまよわせ、彼女は歩みを止めた。彼女は口元を抑える。まるで、これから話そうとする言葉が、自分でも信じられないといった風に。
「……私自身、皆の話を聞くのが楽しかったから?」
釈然としない様子で、瑞月は答えた。彼女の声は今まで陽介が聴いてきた、凛とした響きとは違う。微かに柔らかい、というより未熟なふわふわとした響きが混じっていた。
陽介からしても、瑞月が戸惑っているのは明らかだ。しかし、なぜ2人と話しただけで、瑞月は混乱しているのか。
「瀬名、なんでそんなお前自身が戸惑ってんの?」
「……人と話すことで、こんなに浮き立った気持ちになるなんて、私自身が信じられない気持ちなんだ」
パチパチと瑞月は、瞼を上下する。幼い仕草が、陽介には意外だった。凛として動じない印象が強い彼女であっても、対人関係においては未熟な感情を見せる姿は、彼女が陽介と同じ高校生である事実を浮き上がらせる。
いや、人とのかかわりを避けてきた分、陽介よりも対人方面は慣れていないのかもしれない。目的もなく集まるような、カジュアルな付き合いでは。先ほどの千枝たちとの談笑がいい例だ。
瑞月は「あまり人と関わりたくない」から、と人との付き合いを避けてきた。けれど、今、陽介の目の前にいる瑞月は目線を下にして黙っている。陽介を含めた3人との談笑が、彼女のスタンスを揺らがせてしまうほどに楽しかったのだろう。
陽介は腰をくの字に折る。そうして、未だに戸惑っているであろう瑞月に告げた。
「ならさ、無理に避けなくてもいいじゃん」
「え?」
瑞月が陽介に紺碧の瞳を向ける。迷子の子供にかけるような、安心させる声音を心がけて、陽介は言葉を続ける。
「お前も楽しかったんだろ。なら、わざわざ突っぱねる必要もない。相手の気持ちも、自分の気持ちもさ。天城も里中も、もう瀬名のこと、友達だと思ってるだろうからさ」
「そう……か?」
「そそ。だから、瀬名も堅くなんなって。あいつらはお前をよく思ってくれてんだから、俺と話すときみたいに気楽にすりゃいーのよ」
ニッと頬を吊り上げて、陽介は笑ってみせる。瑞月が2人の、そして瑞月自身の気持ちに、素直になれるよう願いを込めて。
ふっと微かに息を吐いて、瑞月は口元に当てていた手のひらを外した。短い瞬きののち、瑞月はおずおずと声を出す。
「…………話しかけられたら、答えるようにはする。ありがとう」
瑞月の答えに、陽介は相好を崩す。言い方は濁しているが、瑞月は千枝と雪子を友達だと認めたのだ。内心ではガッツポーズを取りたいほどに嬉しい。
陽介は瑞月に与えられてばかりだった。楽しい文化祭の思い出も、自分が心地よいと思える屋上も、瑞月がいてくれたから見つけられたものだ。
与えられるばかりだった陽介が、人との関りに頑なだった瑞月の心をほぐせた。瑞月に影響をもたらせたのが嬉しい。
「はっはーん。なんなら、親睦を深めるついでに昼休み2人を屋上に誘ってみるかー?」
「いや。それはしない。昼休みは静かに過ごしたいし。あまり人が増えても困る」
テンションが上がっている陽介に反し、瑞月はいつものように素っ気ない。どうやら依然として、瑞月は昼休みの気ままな時間を維持する心づもりらしい。瑞月にとって、昼休みの時間は特別のようだ。
はたと、陽介は気づく。瑞月にとって昼休みは特別な時間だ。なのに、陽介がそばにいることは、許している。
「なぁ、瀬名」
「ん?」
陽介は歩き出す瑞月にむかって呼びかけた。ポリポリと頬を掻き、陽介は瑞月に問う。陽介が抱いた質問は、もしかすると自惚れかもしれない。しかし、問わずにはいられなかった。
「その、さ……俺ってけっこーお前に信頼されてる?」
彼女はくるりと陽介に背中を向ける。問いかけは小さなものではなかった。瑞月にも聞こえていたはずだ。わりと勇気を振り絞っただけに、スルーされるとやはり陽介は悲しい。
「君が——」
しかし、陽介の落胆は覆される。数歩進むと、凛とした響きが陽介の鼓膜を揺らした。
「君が熱心に説得しなければ、私は里中さんと天城さんに会わなかった」
陽介はぽかんと口を開く。瑞月は少し俯いてから、再び歩き始めた。歩調は速く、立ち止まる陽介を置いていかんばかりだ。慌てて、陽介は瑞月の後を追いかける。
「あ、ちょっと待て瀬名! 暗いんだから、一人で行くんじゃねー!」
「暗いから、早く帰ろうとしているのだろう? ほら、花村。もう日が暮れている。急がないと」
暗さで遠くにいるように思えたが、先を歩く瑞月に、陽介はすぐ追いついた。案外、瑞月との距離は開いていなかったらしい。
マウンテンバイクを引きずったまま、陽介は瑞月の隣に並ぶ。瑞月と共に帰る時間を少しでも増やしたくて。
互いに、普段より少し近づいた肩の距離に気が付かないまま、瑞月と陽介は帰路を辿る。