コネクト
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
11月9日 放課後
以外にも、千枝と雪子の願いは早く叶う運びとなった。放課後のまだ日が昇る屋上にて、瑞月の前には千枝と雪子の2人が並ぶ。
陽介は1人と2人の間に立って、対峙する3人を緊張した面持ちで見比べる。瀬名はクラスにいるときの凪いだ表情。雪子と千枝は少し緊張して肩が張っている。
「こんにちは。知っていると思うが、同じクラスの瀬名瑞月だ」
「知ってる知ってる。あたし、里中千枝ね。こっちは友達の天城雪子」
「天城です。瀬名さんのお母さんには、いつもお世話になってます。だからずっと、話してみたいと思ってたの」
応じる瑞月の声音は、陽介と初対面のそれより温かい。元気印の千枝は勢いよく手を振って隣の雪子を示す。雪子は慣れた様子で優雅に頭を下げた。
瑞月の表情は、クラスで見せるそれより柔和なものだ。瑞月は2人に友好的に接しようとしている。
「ありがとう、天城さん。母も、天城屋旅館の板前さんたちは探求心が強くて気が引き締まると言っていたよ。2人とも、文化祭のときは協力ありがとう」
「なんの! 裏方仕事ずっと頑張ってたって、他のクラス委員から聞いたよ。お互い様だよ」
社交的で人懐こい千枝はグイグイと瑞月に迫る。勢いに押された瑞月がわずかに目を泳がせた。瑞月が千枝のペースに飲まれる前に、陽介がすかさずフォローに入る。
「瀬名、立ち話も難じゃねーの? レジャーシート持ってきてんだろ」
「……ああ、そうだ、長く話すなら、座った方がいいだろう」
「あ、あたしジュース持ってきたよ!」
「私も、旅館からお菓子持ってきたの、良かったら食べよう」
瑞月がレジャーシートを持ち出すと、「手伝う手伝う!」と千枝らが飛びつく。せっかくなので、4人で端を持って広げていると、陽介に向って瑞月がこっそりと親指を立てた。陽介も、にんまりと親指を立て返してみせると、瑞月がかすかに目端を下げた。
いつかの昼休み、瑞月と陽介が寝っ転がったレジャーシートは4人が座るには申し分ない大きさであった。雪子が持参したお菓子を中心に四方に各人が座り込む。瑞月は受け取ったジュースを固く握っていた。対人経験が少ない彼女は、やはり緊張しているらしい。
「いやー、こんな女子だらけのお茶会に参加できるとは、俺にもついに春が来ちゃったかなー」
「何いってんのさ。これは瀬名さんとの懇談会でしょ」
「うん。花村くんは静かにしてね。わたしたち、瀬名さんと話したいから」
「ちょっとお二方辛辣すねぇ!? はぁ、振られちまったよー」
「そうそ。あたしらは瀬名さんと話したいんだから、花村はちょっと静かにしてて」
ゆえに、陽介は場を盛り立てるためのムードメーカーに徹する。大げさに肩をすくめながら、陽介は瑞月に微笑んだ。千枝と雪子は大丈夫だと、メッセージを込めて。ジュースを握る瑞月の手が緩んだ。どうやら緊張がほどけたらしい。千枝と雪子もお互いに顔を見合わせ、頷いた。
「ああ、私に答えられることであれば、答えるよ。里中さん、天城さん」
「はいはい! じゃ、あたしから!」
「お、はじめは里中かー。お手柔らかにな」
「はい花村は静かに。あんたと違って変なコト聞くわけじゃないから。 瀬名さんって、剣道でもやってる?」
「なぜ、剣道なんだ?」
「瀬名さんの口調ってなんか武士みたいだからさ、ずっと気になってたんだよね。なんか武道みたいなのやってんのかなって」
確かに瑞月の堅苦しい口調は、千枝の言う通り武士らしい。成熟しすぎていてとっつきにくく、好まれて使われるものではなかった。瑞月がどうして独特な口調で喋るのかはたしかに疑問だ。
「………口調は生来のもので、特段由来は思いつかないな。剣道の経験はないが、合気道なら嗜んでいる」
へぇと、瑞月の答えに一同は感嘆を漏らす。瀬名の凛とした姿勢の良さの秘密が明らかとなった。続けざまに千枝が問う。
「わぁ、合気道してるんだ! 瀬名さんなら似合いそう。じゃあ、特訓とかもしてる?」
「「特訓?」」
合気道なら、稽古ではないだろうか? と陽介は首を傾げた。隣の瑞月も同じ反応だ。ブフッとどこかから、噴き出す音が聞こえた。千枝の隣に座った雪子が何かをこらえるように、口と腹を抑えている。
「あ、天城さん。どうしたんだ。具合でも悪いのか?」
「あ、ち、違うの。せ、瀬名さんと花村くん。首傾げるタイミング一緒だったから、フフッ……」
「いま、どっかに笑う要素があったんか? 里中」
「あーうん。雪子のツボは私でもわかんないから、気にしないで」
身を乗り出す瑞月を雪子は手で制した。ちょっと待って、と呼吸を整えた雪子が気を取り直して口を開いた。
「特訓って、我流のカンフーの事でしょう。千枝、カンフーマニアでね、蹴り技が得意なの。いくつか型も作ってて、蹴り飛ばした缶が思いっきり凹んだりするんだよ」
「ちょ、雪子!? 会って間もない子に何ぶっちゃけてんの!」
千枝が雪子の曝露に飛び上がる。多分、初対面の人間にあまりにお転婆な趣味を知られて恥ずかしいのだろう。蹴り技の餌食になった過去がある陽介はまったく動揺しないけれど(むしろどうして高威力の足技を扱えるのか納得がいった)、対面したばかりの瑞月はどう思うのか。
「缶を凹ませるほどか。なかなか、鍛錬を積んでいる結果だ。だから里中さんは文化祭でも疲れ知らずで活躍していたのだな」
「ほぁ!?」
斜め上の賛辞を瑞月が言い放った。しかも真剣な面持ちで。お転婆すぎる千枝に動じた様子もない。予想だにしない爆弾に「あ、ありがとう」と千枝が鎮まる。会話が止まる。この流れは良くない。
「瀬名ってば、女子を一言で黙らせるなんて罪作りだな」
「花村。酷いことばを、私は里中さんにかけてはいないが。溌剌とした声で客引きしていたことも、細かい装飾を手伝ってくれたのも事実ではないか」
「びゃーーーーー!! 話題、話題変えようっ、瀬名さんは休みの日とか何してんの?」
予期せぬ褒め殺しにあった千枝が、何とか話題を絞り出す。頭から湯気を噴き出さんばかりに千枝は、真っ赤っかだ。質問を振られた瑞月は、一口ジュースを含んでから応じる。
「ひ……」
『昼寝』と言いかけたのを陽介は目で制した。千枝と雪子があからさまに話題を広げにくい話題である。別のものはないのかと、陽介はテレキネシスを試みる勢いで念じた。
「……ヒランヤキャベツなど、家庭菜園の手伝いを」
陽介が放った無言の要求を、瑞月は受け取ったらしい。たしかに、昼寝よりは話題を広げやすい趣味だ。しかし、昼寝といい、家庭菜園といい、瑞月は年寄りじみた趣味嗜好をしている。
「家庭菜園って……外見に似合わず、お前じじくさいなぁ」
「花村。家庭菜園は良い趣味だと思うのだが。野菜は収穫すれば食べられるうえに、作物が日に日に育つのは見ていて楽しい」
「こら花村。女の子に『じじくさい』とか言わない!」
「私もちょっと驚いちゃった。けど、納得。 瀬名さん、文化祭でお野菜を取りに行ったじゃない。お母さんだって、料理研究家でしょう。育てていても不思議じゃないよね」
そういえば、と陽介は文化祭の準備期間を思い出した。納品不足の野菜を取りに爆走した瑞月について。農家の畑にて野菜の取る手際は、プロと言っても過言ではなかった。
『じじくさい』と言われても瑞月はどこ吹く風だ。千枝に向けていた膝を、瑞月は雪子へと向けた。瑞月はしっかりと彼女と向きあって軽く頭を下げる。
「天城さん、あの時は本当にありがとう。お礼の品も受け取ってもらえて良かった」
「あ、うん。実家のコネみたいなもので、私は連絡しただけだけど」
「連絡を取って交渉してくれたのは、他でもない天城さんだ。天城さんが取引先に事情を説明して頼み込んでくれたから、野菜の受け取りがスムーズにできた上、当日お客様に満足のいく品物を提供できた。だから謙遜しないでおくれ」
「あ……えと、そうだね。……ありがとう」
今度は雪子が押し黙り、瑞月から顔をそむけた。心なしか、耳まで朱に染まっている気がする。視線を逸らされた瑞月は、若干方眉を下げて陽介に助けを求めた。“私は何かしただろうか”と紺碧の瞳が不安げに揺れている。
「お前さ、相手を照れさせてる自覚ある?」
「なぜ照れる? 事実を言ったまでなのだが」
陽介はため息をついた。どうやら、瑞月の褒め殺しは自覚なく行われたものらしい。
以外にも、千枝と雪子の願いは早く叶う運びとなった。放課後のまだ日が昇る屋上にて、瑞月の前には千枝と雪子の2人が並ぶ。
陽介は1人と2人の間に立って、対峙する3人を緊張した面持ちで見比べる。瀬名はクラスにいるときの凪いだ表情。雪子と千枝は少し緊張して肩が張っている。
「こんにちは。知っていると思うが、同じクラスの瀬名瑞月だ」
「知ってる知ってる。あたし、里中千枝ね。こっちは友達の天城雪子」
「天城です。瀬名さんのお母さんには、いつもお世話になってます。だからずっと、話してみたいと思ってたの」
応じる瑞月の声音は、陽介と初対面のそれより温かい。元気印の千枝は勢いよく手を振って隣の雪子を示す。雪子は慣れた様子で優雅に頭を下げた。
瑞月の表情は、クラスで見せるそれより柔和なものだ。瑞月は2人に友好的に接しようとしている。
「ありがとう、天城さん。母も、天城屋旅館の板前さんたちは探求心が強くて気が引き締まると言っていたよ。2人とも、文化祭のときは協力ありがとう」
「なんの! 裏方仕事ずっと頑張ってたって、他のクラス委員から聞いたよ。お互い様だよ」
社交的で人懐こい千枝はグイグイと瑞月に迫る。勢いに押された瑞月がわずかに目を泳がせた。瑞月が千枝のペースに飲まれる前に、陽介がすかさずフォローに入る。
「瀬名、立ち話も難じゃねーの? レジャーシート持ってきてんだろ」
「……ああ、そうだ、長く話すなら、座った方がいいだろう」
「あ、あたしジュース持ってきたよ!」
「私も、旅館からお菓子持ってきたの、良かったら食べよう」
瑞月がレジャーシートを持ち出すと、「手伝う手伝う!」と千枝らが飛びつく。せっかくなので、4人で端を持って広げていると、陽介に向って瑞月がこっそりと親指を立てた。陽介も、にんまりと親指を立て返してみせると、瑞月がかすかに目端を下げた。
いつかの昼休み、瑞月と陽介が寝っ転がったレジャーシートは4人が座るには申し分ない大きさであった。雪子が持参したお菓子を中心に四方に各人が座り込む。瑞月は受け取ったジュースを固く握っていた。対人経験が少ない彼女は、やはり緊張しているらしい。
「いやー、こんな女子だらけのお茶会に参加できるとは、俺にもついに春が来ちゃったかなー」
「何いってんのさ。これは瀬名さんとの懇談会でしょ」
「うん。花村くんは静かにしてね。わたしたち、瀬名さんと話したいから」
「ちょっとお二方辛辣すねぇ!? はぁ、振られちまったよー」
「そうそ。あたしらは瀬名さんと話したいんだから、花村はちょっと静かにしてて」
ゆえに、陽介は場を盛り立てるためのムードメーカーに徹する。大げさに肩をすくめながら、陽介は瑞月に微笑んだ。千枝と雪子は大丈夫だと、メッセージを込めて。ジュースを握る瑞月の手が緩んだ。どうやら緊張がほどけたらしい。千枝と雪子もお互いに顔を見合わせ、頷いた。
「ああ、私に答えられることであれば、答えるよ。里中さん、天城さん」
「はいはい! じゃ、あたしから!」
「お、はじめは里中かー。お手柔らかにな」
「はい花村は静かに。あんたと違って変なコト聞くわけじゃないから。 瀬名さんって、剣道でもやってる?」
「なぜ、剣道なんだ?」
「瀬名さんの口調ってなんか武士みたいだからさ、ずっと気になってたんだよね。なんか武道みたいなのやってんのかなって」
確かに瑞月の堅苦しい口調は、千枝の言う通り武士らしい。成熟しすぎていてとっつきにくく、好まれて使われるものではなかった。瑞月がどうして独特な口調で喋るのかはたしかに疑問だ。
「………口調は生来のもので、特段由来は思いつかないな。剣道の経験はないが、合気道なら嗜んでいる」
へぇと、瑞月の答えに一同は感嘆を漏らす。瀬名の凛とした姿勢の良さの秘密が明らかとなった。続けざまに千枝が問う。
「わぁ、合気道してるんだ! 瀬名さんなら似合いそう。じゃあ、特訓とかもしてる?」
「「特訓?」」
合気道なら、稽古ではないだろうか? と陽介は首を傾げた。隣の瑞月も同じ反応だ。ブフッとどこかから、噴き出す音が聞こえた。千枝の隣に座った雪子が何かをこらえるように、口と腹を抑えている。
「あ、天城さん。どうしたんだ。具合でも悪いのか?」
「あ、ち、違うの。せ、瀬名さんと花村くん。首傾げるタイミング一緒だったから、フフッ……」
「いま、どっかに笑う要素があったんか? 里中」
「あーうん。雪子のツボは私でもわかんないから、気にしないで」
身を乗り出す瑞月を雪子は手で制した。ちょっと待って、と呼吸を整えた雪子が気を取り直して口を開いた。
「特訓って、我流のカンフーの事でしょう。千枝、カンフーマニアでね、蹴り技が得意なの。いくつか型も作ってて、蹴り飛ばした缶が思いっきり凹んだりするんだよ」
「ちょ、雪子!? 会って間もない子に何ぶっちゃけてんの!」
千枝が雪子の曝露に飛び上がる。多分、初対面の人間にあまりにお転婆な趣味を知られて恥ずかしいのだろう。蹴り技の餌食になった過去がある陽介はまったく動揺しないけれど(むしろどうして高威力の足技を扱えるのか納得がいった)、対面したばかりの瑞月はどう思うのか。
「缶を凹ませるほどか。なかなか、鍛錬を積んでいる結果だ。だから里中さんは文化祭でも疲れ知らずで活躍していたのだな」
「ほぁ!?」
斜め上の賛辞を瑞月が言い放った。しかも真剣な面持ちで。お転婆すぎる千枝に動じた様子もない。予想だにしない爆弾に「あ、ありがとう」と千枝が鎮まる。会話が止まる。この流れは良くない。
「瀬名ってば、女子を一言で黙らせるなんて罪作りだな」
「花村。酷いことばを、私は里中さんにかけてはいないが。溌剌とした声で客引きしていたことも、細かい装飾を手伝ってくれたのも事実ではないか」
「びゃーーーーー!! 話題、話題変えようっ、瀬名さんは休みの日とか何してんの?」
予期せぬ褒め殺しにあった千枝が、何とか話題を絞り出す。頭から湯気を噴き出さんばかりに千枝は、真っ赤っかだ。質問を振られた瑞月は、一口ジュースを含んでから応じる。
「ひ……」
『昼寝』と言いかけたのを陽介は目で制した。千枝と雪子があからさまに話題を広げにくい話題である。別のものはないのかと、陽介はテレキネシスを試みる勢いで念じた。
「……ヒランヤキャベツなど、家庭菜園の手伝いを」
陽介が放った無言の要求を、瑞月は受け取ったらしい。たしかに、昼寝よりは話題を広げやすい趣味だ。しかし、昼寝といい、家庭菜園といい、瑞月は年寄りじみた趣味嗜好をしている。
「家庭菜園って……外見に似合わず、お前じじくさいなぁ」
「花村。家庭菜園は良い趣味だと思うのだが。野菜は収穫すれば食べられるうえに、作物が日に日に育つのは見ていて楽しい」
「こら花村。女の子に『じじくさい』とか言わない!」
「私もちょっと驚いちゃった。けど、納得。 瀬名さん、文化祭でお野菜を取りに行ったじゃない。お母さんだって、料理研究家でしょう。育てていても不思議じゃないよね」
そういえば、と陽介は文化祭の準備期間を思い出した。納品不足の野菜を取りに爆走した瑞月について。農家の畑にて野菜の取る手際は、プロと言っても過言ではなかった。
『じじくさい』と言われても瑞月はどこ吹く風だ。千枝に向けていた膝を、瑞月は雪子へと向けた。瑞月はしっかりと彼女と向きあって軽く頭を下げる。
「天城さん、あの時は本当にありがとう。お礼の品も受け取ってもらえて良かった」
「あ、うん。実家のコネみたいなもので、私は連絡しただけだけど」
「連絡を取って交渉してくれたのは、他でもない天城さんだ。天城さんが取引先に事情を説明して頼み込んでくれたから、野菜の受け取りがスムーズにできた上、当日お客様に満足のいく品物を提供できた。だから謙遜しないでおくれ」
「あ……えと、そうだね。……ありがとう」
今度は雪子が押し黙り、瑞月から顔をそむけた。心なしか、耳まで朱に染まっている気がする。視線を逸らされた瑞月は、若干方眉を下げて陽介に助けを求めた。“私は何かしただろうか”と紺碧の瞳が不安げに揺れている。
「お前さ、相手を照れさせてる自覚ある?」
「なぜ照れる? 事実を言ったまでなのだが」
陽介はため息をついた。どうやら、瑞月の褒め殺しは自覚なく行われたものらしい。