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11月8日 月曜日
登校直後、花村陽介は里中千枝に話しかけられた。藪から棒に、興味津々な彼女は問う。
「ね、花村。アンタって妹いんの」
「はぁ? どこのリークだ。そのゴシップ」
「ゴシップってひどーい! アタシちゃんと見たことなんですけど!」
陽介は正真正銘の1人っ子である。ならば、千枝は何を見たというのか。千枝は探偵のごとく、ひじを支柱に組んだ両手に顎を乗せ、陽介に尋ねた。
「昨日、ジュネスのフードコート、覚えてない?」
彼女によると、昨日——11月7日の日曜日、フードコートにて子供と遊んでいる陽介を目撃したとのことであった。2人が仲良く笑いあっている様子が、兄弟に見えたのだそうだ。陽介が思い当たる節は1つだけ。栗色の髪の毛に人懐こい若草色の瞳が思い浮かんで、自然と口角が上がった。
「あー、佳菜ちゃんのことか」
「カナチャン?」
「瀬名の妹さんだよ。ほれ、蓮の花飾りつけた」
ガタタッと騒がしい音に、陽介は教科書をショルダーバックから出す手を止めた。千枝はあんぐりと口を開けて椅子にもたれかかり、彼女の隣席に座る天城雪子は黒水晶のごとき瞳孔を見開いている。
「は!? 瀬名さんって妹いんの? つか花村、瀬名さんのこと呼び捨て!? いつの間にそんな仲良くなってんの!?」
「花村くん、さすがね。心臓に毛が生えてる」
「天城さん!? それ、誉め言葉と違いますけどっ」
驚く千枝とは反対に、雪子が辛辣な評価を平然と口にした。校内にて評判の美少女である雪子は、大和撫子然とした風貌と裏腹に舌鋒が鋭い。
「はー、でも意外。あの瀬名さんが花村と仲良くなるなんて。どうやったの?」
「どうって。文化祭で手伝いとかイロイロやったら、そのまま流れで~って感じだな。フツーだよフツー」
「その『普通』のアプローチで仲良くなれない相手だから、千枝は聞いてるんじゃないかな」
「そうそう、雪子ナイスフォロー」
アタシなんて、話すどころか近づくことすらできなかったのに、と千枝は突っ伏した机から羨ましげに陽介を見つめている。同時に、どうやって瑞月と近づいたのかと問うてもいた。
陽介は口笛を吹いて、千枝から曖昧に顔を逸らす。交通事故をきっかけに出会ったなどとは絶対に言えなかった。
千枝が未だ空席の——瑞月の机を見やる。唐突に、千枝がぱちんと指を鳴らした。彼女はにっこりと、陽介に笑いかける。その表情には既視感があった。陽介に肉を奢らせようと企むときのそれである。
「ね、ね、花村。良かったら彼女、紹介してくんない?」
「は!? 自分から話しかければいいだろ」
「それができれば頼んでないっつーのっ。あの子ステルスみたいに消えちゃうんだよ!?」
千枝いわく、瑞月に関しては入学当初から気をひく存在だったとのこと。長らく話しかけられず、興味も落ち着いていたが、文化祭で粗暴な客に啖呵を切った出来事から瑞月につい興味が再燃したのだという。ねーねーと頼み込む千枝に、意外な人物が賛同した。千枝の親友である雪子だ。
「私も紹介してほしいな。話してみたいと思ってたの。瀬名さんのお母さんには、いつもお世話になってるから」
「えー、でもアイツ対人関係についてはマジ塩だぞ。紹介する前に拒否られるかも」
文化祭の後、千枝のように瑞月に興味を持ったクラスメイトが何人かいた。しかし、彼女はその人たちからの接触をすらりと躱し続け、いまだ教室の中で凛とした孤立を保っている。
朝、クラスにいて話しかけられるのが煩わしいから登校時間もずらしているのだと、昼休みの屋上で憂いていた瑞月を陽介は思い出す。
文化祭であれだけの功績を残したというのに、瑞月がクラスメイトと交流する機会はない。彼女と親しげな言葉を交わせるのは、昼休みに彼女の下を訪れる陽介くらいだ。
また、交流しようとする意思も瑞月には依然としてなかった。そんな具合だから、陽介が瑞月に何を言っても焼け石に水だろう。千枝と雪子に期待を持たせるだけ空しい結果になる未来が明らかだ。
なので、紹介する労力をちらつかせて、陽介は2人の頼みを断ろうと試みる。陽介が面倒がれば、瑞月にヘイトが向く事態は潰せるから。しかし、意外にも食い下がったのは雪子だ。
「わたし、この前瀬名さんからお菓子貰ったんだ。文化祭のお野菜の件で。そのお礼がしたいってことで話しかければいいと思う。ね、大丈夫そうでしょ、花村くん」
「俺の労力はサラっと無視なのね……」
もはや、雪子は我を貫くと決めたらしい。大人しそうに見えて、実は芯が強いのだ。返答にどもる陽介に、さらなる追撃が襲い掛かった。
「お願いだよーー!! 花村しか頼れるやついないんだってーー!!」
ばしんっと、千枝が両手を合わせて頼み込んできた。しかも大声で。芯の通った声が教室じゅうに響き渡り、クラス中の視線という視線が陽介に集まる。親友2人の巧みな連携を前に、陽介の選択肢は一つしかなくなった。
登校直後、花村陽介は里中千枝に話しかけられた。藪から棒に、興味津々な彼女は問う。
「ね、花村。アンタって妹いんの」
「はぁ? どこのリークだ。そのゴシップ」
「ゴシップってひどーい! アタシちゃんと見たことなんですけど!」
陽介は正真正銘の1人っ子である。ならば、千枝は何を見たというのか。千枝は探偵のごとく、ひじを支柱に組んだ両手に顎を乗せ、陽介に尋ねた。
「昨日、ジュネスのフードコート、覚えてない?」
彼女によると、昨日——11月7日の日曜日、フードコートにて子供と遊んでいる陽介を目撃したとのことであった。2人が仲良く笑いあっている様子が、兄弟に見えたのだそうだ。陽介が思い当たる節は1つだけ。栗色の髪の毛に人懐こい若草色の瞳が思い浮かんで、自然と口角が上がった。
「あー、佳菜ちゃんのことか」
「カナチャン?」
「瀬名の妹さんだよ。ほれ、蓮の花飾りつけた」
ガタタッと騒がしい音に、陽介は教科書をショルダーバックから出す手を止めた。千枝はあんぐりと口を開けて椅子にもたれかかり、彼女の隣席に座る天城雪子は黒水晶のごとき瞳孔を見開いている。
「は!? 瀬名さんって妹いんの? つか花村、瀬名さんのこと呼び捨て!? いつの間にそんな仲良くなってんの!?」
「花村くん、さすがね。心臓に毛が生えてる」
「天城さん!? それ、誉め言葉と違いますけどっ」
驚く千枝とは反対に、雪子が辛辣な評価を平然と口にした。校内にて評判の美少女である雪子は、大和撫子然とした風貌と裏腹に舌鋒が鋭い。
「はー、でも意外。あの瀬名さんが花村と仲良くなるなんて。どうやったの?」
「どうって。文化祭で手伝いとかイロイロやったら、そのまま流れで~って感じだな。フツーだよフツー」
「その『普通』のアプローチで仲良くなれない相手だから、千枝は聞いてるんじゃないかな」
「そうそう、雪子ナイスフォロー」
アタシなんて、話すどころか近づくことすらできなかったのに、と千枝は突っ伏した机から羨ましげに陽介を見つめている。同時に、どうやって瑞月と近づいたのかと問うてもいた。
陽介は口笛を吹いて、千枝から曖昧に顔を逸らす。交通事故をきっかけに出会ったなどとは絶対に言えなかった。
千枝が未だ空席の——瑞月の机を見やる。唐突に、千枝がぱちんと指を鳴らした。彼女はにっこりと、陽介に笑いかける。その表情には既視感があった。陽介に肉を奢らせようと企むときのそれである。
「ね、ね、花村。良かったら彼女、紹介してくんない?」
「は!? 自分から話しかければいいだろ」
「それができれば頼んでないっつーのっ。あの子ステルスみたいに消えちゃうんだよ!?」
千枝いわく、瑞月に関しては入学当初から気をひく存在だったとのこと。長らく話しかけられず、興味も落ち着いていたが、文化祭で粗暴な客に啖呵を切った出来事から瑞月につい興味が再燃したのだという。ねーねーと頼み込む千枝に、意外な人物が賛同した。千枝の親友である雪子だ。
「私も紹介してほしいな。話してみたいと思ってたの。瀬名さんのお母さんには、いつもお世話になってるから」
「えー、でもアイツ対人関係についてはマジ塩だぞ。紹介する前に拒否られるかも」
文化祭の後、千枝のように瑞月に興味を持ったクラスメイトが何人かいた。しかし、彼女はその人たちからの接触をすらりと躱し続け、いまだ教室の中で凛とした孤立を保っている。
朝、クラスにいて話しかけられるのが煩わしいから登校時間もずらしているのだと、昼休みの屋上で憂いていた瑞月を陽介は思い出す。
文化祭であれだけの功績を残したというのに、瑞月がクラスメイトと交流する機会はない。彼女と親しげな言葉を交わせるのは、昼休みに彼女の下を訪れる陽介くらいだ。
また、交流しようとする意思も瑞月には依然としてなかった。そんな具合だから、陽介が瑞月に何を言っても焼け石に水だろう。千枝と雪子に期待を持たせるだけ空しい結果になる未来が明らかだ。
なので、紹介する労力をちらつかせて、陽介は2人の頼みを断ろうと試みる。陽介が面倒がれば、瑞月にヘイトが向く事態は潰せるから。しかし、意外にも食い下がったのは雪子だ。
「わたし、この前瀬名さんからお菓子貰ったんだ。文化祭のお野菜の件で。そのお礼がしたいってことで話しかければいいと思う。ね、大丈夫そうでしょ、花村くん」
「俺の労力はサラっと無視なのね……」
もはや、雪子は我を貫くと決めたらしい。大人しそうに見えて、実は芯が強いのだ。返答にどもる陽介に、さらなる追撃が襲い掛かった。
「お願いだよーー!! 花村しか頼れるやついないんだってーー!!」
ばしんっと、千枝が両手を合わせて頼み込んできた。しかも大声で。芯の通った声が教室じゅうに響き渡り、クラス中の視線という視線が陽介に集まる。親友2人の巧みな連携を前に、陽介の選択肢は一つしかなくなった。