迷子と姉と店員さんと
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
バイトのシフトを終え、陽介は瑞月とその妹と共にジュネスのフードコートでやって来た。佳菜 ——瑞月の妹は冷たいジュースを飲むなり、備え付けの遊具で遊び始めた。
滑り台が特にお気に入りらしく、上っては滑りを繰り返してはキャラキャラと笑っている。陽介と瑞月は遊具に最も近いテーブルに座っていた。
「佳菜ちゃん、ホントに身体動かすのが好きなんだな」
「活発で好奇心が強い子なんだ。ときどき暴走する」
言葉とは裏腹に、佳菜に向かう瑞月の眼差しは優しい。学校ではキリリと上がった眦は、心なしか緩やかにほどけている。
佳菜はジュネスが大好きだという。買い物でジュネスを尋ねようとした瑞月に、自分から連れていくよう頼み込んだのだそうだ。
***
「佳菜、勝手にどこかへ行ってしまったら、私は悲しい。行きたいところがあるのなら、私に告げてくれ。佳菜に悪いことが起こったら、私も、父さんも、母さんもずっと悲しいんだよ。また手をつなごうか?」
佳菜を発見した直後、瑞月は膝を屈め、佳菜に懇切丁寧に言い含ませた。普段凛とした姿が形無しだ。ただ、はぐれてしまった妹を心から案じる姉としての瑞月が、そこにはいた。
しかし、心配しすぎで第三者である陽介までいたたまれなくなるような罪悪感を覚える。当事者である佳菜はシオシオだ。
見かねた陽介は、佳菜に助け船を出した。佳菜としっかり目線を合わせ、にこやかに、柔らかく話しかける。
「迷子になったのは、いけない事かもしんないけど、困ったときに店員さんに声かけようとしたのは、すごいと思うぜ。今度は、お姉ちゃんとはぐれないように手を繋いどけばいいじゃん」
「でも、て、つなぐの はずかしい もうすぐ しょうがくせい なのに って からかわれる」
佳菜はもじもじと両手をすり合わせる。子供特有の、背伸びをしたい・自立したいという思いが、佳菜の心のうちにはあるのだろう。佳菜と目を合わせ、陽介は人懐こい笑みを浮かべる。
「全然恥ずかしいことなんかじゃないって! 俺は佳菜ちゃんがお姉ちゃんと手を繋いでたら、すごく仲のいい姉妹なんだな~って思うけど?」
「ほんと!?」
佳菜の目がきらりと輝く。陽介は確信した。佳菜は瑞月を姉として慕っている。佳菜の自尊心を傷つけず、姉と手を繋ぐ行動への恥ずかしさを取り除けば、佳菜は手を繋ぐ行為を嫌がらないはずだ。
「うんうん。だから、手を繋いだって何にも恥ずかしいことじゃない。それに、他のひとに言われたことと、お姉ちゃんを悲しませること。どっちが佳菜ちゃんは悲しい?」
「……おねえちゃん、かなしむの」
「うん。優しい子だな、佳菜ちゃん」
陽介が髪をなでると、佳菜は気持ちよさそうに目を細めた。陽介の行動を好意的に、佳菜は受け取ってくれている。あと一押しと、陽介は佳菜に向けてウィンクを飛ばした。
「じゃあ、今度から佳菜ちゃんがお姉ちゃんと手ぇ繋いでて、揶揄うやつにはこう言ってやろうぜ。『お姉ちゃんと私はすごく仲がいいんだ』とか、『お姉ちゃんが私を見失わないように、私が手を繋いであげてるの』とか」
「いやちょっと待て花村」
「うん!」
瑞月のツッコミも空しく、佳菜は元気よく頷いた。引き続き佳菜を撫でていて、ふと陽介は自分の失言、および佳菜への接触に思い至る。
コンプラ的にまずいことをしたのでは。ギギギギギと、ブリキ人形のごとく陽介は首を回した。だが、陽介の予想に反して、瑞月は一息ついて、陽介に感心を示すように真一文字の唇を緩めた。
「君は幼い子どもにも優しいのだな」
***
滑り台のてっぺんに登った佳菜が、きゃーっと歓声を上げて滑り落ちる。心から楽しそうな佳菜を横目に、瑞月が口を開いた。
「バイト先で会うのは、これが初めてだな。君が働いているところを初めて見た」
「おっ。働く俺の雄姿に、グッときちゃた~?」
「言わぬが花、という言葉を知っているか? だが、佳菜をあやす手腕は、見事だった。私は、君のように明るく諭せそうにない」
「へへっ、子供の面倒見るのは好きだからな」
「『お姉ちゃんが私を見失わないように~』と吹き込んだのは心外だがな」
「そこはすまん。一言余計だった」
学校の昼休みと変わらない様子で、瑞月は陽介と軽口を叩く。屋上で瑞月と共に昼寝をした日以来、陽介と瑞月は一層話すようになった。
いまや、お互いのアルバイトについても話せる仲だ。瑞月は陽介のバイト先がジュネスであると知っている。ジュネス店長の息子が陽介である事実より、瑞月にはそちらのほうが驚きだったらしい。
「親の仕事を手伝っているのか。花村は家族想いなのだな」と目を瞬かせて、陽介をどもらせた。
瑞月はというと、学童保育のアルバイトをしているらしい。もしやと、陽介は話題に挙げてみた。
「瀬名は妹さんがいるから、学童保育のアルバイトやってるのか?」
「ああ、子供たちの挙動に戸惑うことも多いが。佳菜のこれからにも参考になる」
「これからかぁ。佳菜ちゃんってけっこうカワイイよな。このまま、成長すると瑞月とは別種の美人になるかも」
「そうだろう。佳菜はかわいい」
堂々と、瑞月は妹のかわいさをのろける。“シスコン”という言葉が陽介の頭に思い浮かんだ。文化祭の母親の件といい、妹の佳菜の件といい、瑞月はそうとう家族に優しいようだった。
滑り台が特にお気に入りらしく、上っては滑りを繰り返してはキャラキャラと笑っている。陽介と瑞月は遊具に最も近いテーブルに座っていた。
「佳菜ちゃん、ホントに身体動かすのが好きなんだな」
「活発で好奇心が強い子なんだ。ときどき暴走する」
言葉とは裏腹に、佳菜に向かう瑞月の眼差しは優しい。学校ではキリリと上がった眦は、心なしか緩やかにほどけている。
佳菜はジュネスが大好きだという。買い物でジュネスを尋ねようとした瑞月に、自分から連れていくよう頼み込んだのだそうだ。
***
「佳菜、勝手にどこかへ行ってしまったら、私は悲しい。行きたいところがあるのなら、私に告げてくれ。佳菜に悪いことが起こったら、私も、父さんも、母さんもずっと悲しいんだよ。また手をつなごうか?」
佳菜を発見した直後、瑞月は膝を屈め、佳菜に懇切丁寧に言い含ませた。普段凛とした姿が形無しだ。ただ、はぐれてしまった妹を心から案じる姉としての瑞月が、そこにはいた。
しかし、心配しすぎで第三者である陽介までいたたまれなくなるような罪悪感を覚える。当事者である佳菜はシオシオだ。
見かねた陽介は、佳菜に助け船を出した。佳菜としっかり目線を合わせ、にこやかに、柔らかく話しかける。
「迷子になったのは、いけない事かもしんないけど、困ったときに店員さんに声かけようとしたのは、すごいと思うぜ。今度は、お姉ちゃんとはぐれないように手を繋いどけばいいじゃん」
「でも、て、つなぐの はずかしい もうすぐ しょうがくせい なのに って からかわれる」
佳菜はもじもじと両手をすり合わせる。子供特有の、背伸びをしたい・自立したいという思いが、佳菜の心のうちにはあるのだろう。佳菜と目を合わせ、陽介は人懐こい笑みを浮かべる。
「全然恥ずかしいことなんかじゃないって! 俺は佳菜ちゃんがお姉ちゃんと手を繋いでたら、すごく仲のいい姉妹なんだな~って思うけど?」
「ほんと!?」
佳菜の目がきらりと輝く。陽介は確信した。佳菜は瑞月を姉として慕っている。佳菜の自尊心を傷つけず、姉と手を繋ぐ行動への恥ずかしさを取り除けば、佳菜は手を繋ぐ行為を嫌がらないはずだ。
「うんうん。だから、手を繋いだって何にも恥ずかしいことじゃない。それに、他のひとに言われたことと、お姉ちゃんを悲しませること。どっちが佳菜ちゃんは悲しい?」
「……おねえちゃん、かなしむの」
「うん。優しい子だな、佳菜ちゃん」
陽介が髪をなでると、佳菜は気持ちよさそうに目を細めた。陽介の行動を好意的に、佳菜は受け取ってくれている。あと一押しと、陽介は佳菜に向けてウィンクを飛ばした。
「じゃあ、今度から佳菜ちゃんがお姉ちゃんと手ぇ繋いでて、揶揄うやつにはこう言ってやろうぜ。『お姉ちゃんと私はすごく仲がいいんだ』とか、『お姉ちゃんが私を見失わないように、私が手を繋いであげてるの』とか」
「いやちょっと待て花村」
「うん!」
瑞月のツッコミも空しく、佳菜は元気よく頷いた。引き続き佳菜を撫でていて、ふと陽介は自分の失言、および佳菜への接触に思い至る。
コンプラ的にまずいことをしたのでは。ギギギギギと、ブリキ人形のごとく陽介は首を回した。だが、陽介の予想に反して、瑞月は一息ついて、陽介に感心を示すように真一文字の唇を緩めた。
「君は幼い子どもにも優しいのだな」
***
滑り台のてっぺんに登った佳菜が、きゃーっと歓声を上げて滑り落ちる。心から楽しそうな佳菜を横目に、瑞月が口を開いた。
「バイト先で会うのは、これが初めてだな。君が働いているところを初めて見た」
「おっ。働く俺の雄姿に、グッときちゃた~?」
「言わぬが花、という言葉を知っているか? だが、佳菜をあやす手腕は、見事だった。私は、君のように明るく諭せそうにない」
「へへっ、子供の面倒見るのは好きだからな」
「『お姉ちゃんが私を見失わないように~』と吹き込んだのは心外だがな」
「そこはすまん。一言余計だった」
学校の昼休みと変わらない様子で、瑞月は陽介と軽口を叩く。屋上で瑞月と共に昼寝をした日以来、陽介と瑞月は一層話すようになった。
いまや、お互いのアルバイトについても話せる仲だ。瑞月は陽介のバイト先がジュネスであると知っている。ジュネス店長の息子が陽介である事実より、瑞月にはそちらのほうが驚きだったらしい。
「親の仕事を手伝っているのか。花村は家族想いなのだな」と目を瞬かせて、陽介をどもらせた。
瑞月はというと、学童保育のアルバイトをしているらしい。もしやと、陽介は話題に挙げてみた。
「瀬名は妹さんがいるから、学童保育のアルバイトやってるのか?」
「ああ、子供たちの挙動に戸惑うことも多いが。佳菜のこれからにも参考になる」
「これからかぁ。佳菜ちゃんってけっこうカワイイよな。このまま、成長すると瑞月とは別種の美人になるかも」
「そうだろう。佳菜はかわいい」
堂々と、瑞月は妹のかわいさをのろける。“シスコン”という言葉が陽介の頭に思い浮かんだ。文化祭の母親の件といい、妹の佳菜の件といい、瑞月はそうとう家族に優しいようだった。