迷子と姉と店員さんと
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
11月7日 日曜日
花村陽介は勤労少年である。休日だろうが、授業で疲れた平日だろうが、バイトに勤しんでいた。父親が大型スーパー『ジュネス』の店長で何かと大変な両親の力になりたいという感情もあるが、自分の小遣いを貯められるという大きな魅力がある。
というわけで、陽介はお菓子コーナーにて品出しに励んでいた。端からすれば地味な作業かもしれない。けれど、時間内に商品をすべて整理し終えたときの達成感は心地いい。コンテナから最後の商品を取り出し、空いた場所に配置した。壁かけ時計は予定時刻より早めの時間を示している。
一息ついて、空いたコンテナと段ボールを持ってバックヤードに戻ろうとして——陽介は視線を感じた。
——なんだ?
視線を感じることは別に珍しくはない。『都会からやって来た大型スーパーの店長の息子』という立場から、大人たちから品定めのような視線を受けることも頻繁にあった。仕方ないと割り切って流しているが。
けれども、今感じているのは、そういった嫌な視線ではない。まるで、手品を見たときのような驚きとか感動とかが入り混じった、明るい好奇心。というか、足元から視線を送られている気がする。
陽介は一歩あとずさり、視線の発生源を確認した。
いたのは、可愛らしい幼女であった。陽介を見上げて、幼女はにっこりと頬をあげる。
「おにいさん、すごいね! パズルみたいに、おかし どんどんならんでいった」
子ども特有の屈託のない、まぶしい笑顔。迷子だろうか、にしては家族とはぐれた寂しさや焦りというものは見られない。やけにマイペースな子だ。
「あ、ありがと、お嬢さん」
とりあえずお礼を言った陽介に、幼女は若草色の目をぱちぱちと瞬かせた。
「どういたしまして? わたし パズルよりも、かけっこしたり なわとびしたりするのが とくいだから しずかにね きれいにおかし ならべてる おにいさん、すごいとおもったの」
ふたたび、幼女は屈託なく笑う。5~6歳くらいの外見をしており、若草色の澄んだ瞳が輝いている。肩口まで伸びた栗色の髪が、喋るたびにふわりと揺れた。ふわもこのアランニットと相まって、森の妖精じみている。
陽介は膝を折りたたみ、幼女と目線を合わせる。周りを見渡したところ、保護者と思われる人間はいない。おそらく、陽介に話しかけてきた目の前の幼女は迷子だ。努めて自然な流れで、陽介は尋問を開始した。
「そっかー。お嬢ちゃんは身体動かすのが好きなのかー。それで走って一人になっちゃったのかなー?」
「うん そうなの。おねえちゃん さがしたんだけど みつけられなくてね。 てんいんさんなら おねえちゃんに あわせてくれるかなって おもって。さがしてたら おにいさんが パズルしてたから すごくて つい みちゃったの」
幼女はくりくりした瞳をまっすぐに陽介へと向けていた。容姿からか弱い印象を受けるけれど、物おじを全然しない子である。
「そっか、お姉ちゃんと一緒だったんだな。お嬢ちゃん、どうしてお姉ちゃんと離れちゃったのかなー?」
「えっと、ね……」
陽介の問いかけに、幼女は素直に成り行きを語った。
幼女がいわく、姉と共にジュネスへ買い物に来たらしい。姉が会計を済ませている間に、色々と店内を見たくて走り回っていたら迷子になったという。この幼女、非常にアクティブで好奇心が強い。
しかし、話すにつれて幼女の声は、だんだんと震えて小さくなっていった。年相応に寂しさを思い出してきたようだ。
陽介は幼女と、幼女の姉に心の内で合掌した。きっと姉は今頃途方に暮れているだろう。姉と目の前の幼女のためにも、サービスカウンターへ連れて行ったほうがいい。陽介は、安心させるよう、幼女に向ってほほ笑む。
「そうなのかー。1人でお姉さん、見つけるために頑張ったんだな。じゃあ、俺と一緒についてきてくれるかな? 店中に大きな声で知らせて、お姉さんに来てもらおっか」
「うん!」
幼女の顔がパッと輝いた。陽介は段ボールとコンテナを邪魔にならないように手早く片付ける。向かう先は、サービスカウンターだ。
「じゃあ、俺の後ろについてきて。必ずお姉ちゃん見つけるから」
「————カナ!」
そうして、陽介が歩き出そうとすると、後ろから切羽詰まった声が聞こえた。焦ってはいるが、どこか研ぎ澄まされた響きに陽介は聞き覚えがある。
「おねえちゃん!」
陽介は後ろを振り返った。幼女——カナはびっくりしてピョンと飛び上がる。カナの見つめる先には、エコバックを片手にひっさげた同級生——陽介の友達——瀬名瑞月が立っている。いつも几帳面にまとめた髪が少しだけほつれて、トレードマークの髪飾りは下を向いている。
瑞月は安堵の表情を浮かべた。しかしそれも一瞬で、カナのとなりにいる陽介を発見すると、目を丸くしてカナと陽介の顔を交互に見比べる。
隙ありとばかりに、カナが瑞月に飛びついた。瑞月はよろけながらも、カナの背中に手を添える。陽介の瞳は驚きで極限に絞られた。
「瀬名、お前、妹いたのか」「花村、君が見つけてくれたのか」
唖然とする2人を、カナが不思議そうに見比べていた。
花村陽介は勤労少年である。休日だろうが、授業で疲れた平日だろうが、バイトに勤しんでいた。父親が大型スーパー『ジュネス』の店長で何かと大変な両親の力になりたいという感情もあるが、自分の小遣いを貯められるという大きな魅力がある。
というわけで、陽介はお菓子コーナーにて品出しに励んでいた。端からすれば地味な作業かもしれない。けれど、時間内に商品をすべて整理し終えたときの達成感は心地いい。コンテナから最後の商品を取り出し、空いた場所に配置した。壁かけ時計は予定時刻より早めの時間を示している。
一息ついて、空いたコンテナと段ボールを持ってバックヤードに戻ろうとして——陽介は視線を感じた。
——なんだ?
視線を感じることは別に珍しくはない。『都会からやって来た大型スーパーの店長の息子』という立場から、大人たちから品定めのような視線を受けることも頻繁にあった。仕方ないと割り切って流しているが。
けれども、今感じているのは、そういった嫌な視線ではない。まるで、手品を見たときのような驚きとか感動とかが入り混じった、明るい好奇心。というか、足元から視線を送られている気がする。
陽介は一歩あとずさり、視線の発生源を確認した。
いたのは、可愛らしい幼女であった。陽介を見上げて、幼女はにっこりと頬をあげる。
「おにいさん、すごいね! パズルみたいに、おかし どんどんならんでいった」
子ども特有の屈託のない、まぶしい笑顔。迷子だろうか、にしては家族とはぐれた寂しさや焦りというものは見られない。やけにマイペースな子だ。
「あ、ありがと、お嬢さん」
とりあえずお礼を言った陽介に、幼女は若草色の目をぱちぱちと瞬かせた。
「どういたしまして? わたし パズルよりも、かけっこしたり なわとびしたりするのが とくいだから しずかにね きれいにおかし ならべてる おにいさん、すごいとおもったの」
ふたたび、幼女は屈託なく笑う。5~6歳くらいの外見をしており、若草色の澄んだ瞳が輝いている。肩口まで伸びた栗色の髪が、喋るたびにふわりと揺れた。ふわもこのアランニットと相まって、森の妖精じみている。
陽介は膝を折りたたみ、幼女と目線を合わせる。周りを見渡したところ、保護者と思われる人間はいない。おそらく、陽介に話しかけてきた目の前の幼女は迷子だ。努めて自然な流れで、陽介は尋問を開始した。
「そっかー。お嬢ちゃんは身体動かすのが好きなのかー。それで走って一人になっちゃったのかなー?」
「うん そうなの。おねえちゃん さがしたんだけど みつけられなくてね。 てんいんさんなら おねえちゃんに あわせてくれるかなって おもって。さがしてたら おにいさんが パズルしてたから すごくて つい みちゃったの」
幼女はくりくりした瞳をまっすぐに陽介へと向けていた。容姿からか弱い印象を受けるけれど、物おじを全然しない子である。
「そっか、お姉ちゃんと一緒だったんだな。お嬢ちゃん、どうしてお姉ちゃんと離れちゃったのかなー?」
「えっと、ね……」
陽介の問いかけに、幼女は素直に成り行きを語った。
幼女がいわく、姉と共にジュネスへ買い物に来たらしい。姉が会計を済ませている間に、色々と店内を見たくて走り回っていたら迷子になったという。この幼女、非常にアクティブで好奇心が強い。
しかし、話すにつれて幼女の声は、だんだんと震えて小さくなっていった。年相応に寂しさを思い出してきたようだ。
陽介は幼女と、幼女の姉に心の内で合掌した。きっと姉は今頃途方に暮れているだろう。姉と目の前の幼女のためにも、サービスカウンターへ連れて行ったほうがいい。陽介は、安心させるよう、幼女に向ってほほ笑む。
「そうなのかー。1人でお姉さん、見つけるために頑張ったんだな。じゃあ、俺と一緒についてきてくれるかな? 店中に大きな声で知らせて、お姉さんに来てもらおっか」
「うん!」
幼女の顔がパッと輝いた。陽介は段ボールとコンテナを邪魔にならないように手早く片付ける。向かう先は、サービスカウンターだ。
「じゃあ、俺の後ろについてきて。必ずお姉ちゃん見つけるから」
「————カナ!」
そうして、陽介が歩き出そうとすると、後ろから切羽詰まった声が聞こえた。焦ってはいるが、どこか研ぎ澄まされた響きに陽介は聞き覚えがある。
「おねえちゃん!」
陽介は後ろを振り返った。幼女——カナはびっくりしてピョンと飛び上がる。カナの見つめる先には、エコバックを片手にひっさげた同級生——陽介の友達——瀬名瑞月が立っている。いつも几帳面にまとめた髪が少しだけほつれて、トレードマークの髪飾りは下を向いている。
瑞月は安堵の表情を浮かべた。しかしそれも一瞬で、カナのとなりにいる陽介を発見すると、目を丸くしてカナと陽介の顔を交互に見比べる。
隙ありとばかりに、カナが瑞月に飛びついた。瑞月はよろけながらも、カナの背中に手を添える。陽介の瞳は驚きで極限に絞られた。
「瀬名、お前、妹いたのか」「花村、君が見つけてくれたのか」
唖然とする2人を、カナが不思議そうに見比べていた。