昼休みの友達
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だが、やはりテレビやサブカルに触れていない相手となると、話題が尽きるのも早い。
今日はまさにそんな日だった。ストックしていたネタが尽き、このままではマズイと思った陽介は、なんとか無理矢理話題を捻りだそうとする。
だがしかし、狙ったかのようなタイミングで、瑞月は「時間だ」と宣言した。
彼女は上体を後ろに倒す。これから彼女は眠るのだ。常ならば、陽介はここで屋上を後にするのだが、今日はなぜか残っていたかった。
「瀬名ってさ、ほんとに、昼寝好きだよな」
「好きだとも。日本に昼寝の文化がないと嘆くくらいには」
「じゃあいっそ、海外にでも行くか?」
「それもいいな。こことは違う空気を感じて寝るのはきっと楽しいんだろう」
夢みるように、彼女は陽光の中でまどろんでいる。陽介の冗談に答える声はどこか真面目だ。昼寝に対して、瑞月はかなり執着している。
「おま、昼寝のために、国境越える気かよ」
「それだけの価値が、昼寝にはある。楽しまないなんて、もったいないぞ?」
瑞月が微かに目を細めた。一体、昼寝の何がそんなに魅力的なのか、陽介が密かに抱いた疑問に答えるように、瑞月は言葉を重ねる。
「温かい日差しを浴びて、ときに雨音を聞きながら、そよぐ風を感じながら、自分を労わる時間を無防備に楽しめるということは、とても贅沢なことだ」
しみじみとした実感がこもっている。自分を労わる時間とは、なかなか深いことを考えているものだと、陽介は感心する。
瑞月はその気になれば、昼寝の哲学まで語れるかもしれない。それはさておき、陽介は他に抱いた感想を、素直に告げる。
「……年寄り臭いぞ、お前」
「むっ、昼寝に失敬な。老若男女問わず、睡眠は大切な休息よ」
瑞月はちょっと眉をしかめた。しかし、怒るところが同年代とずれている。千枝あたりなら、『あたしはまだまだピッチピッチじゃ!!』と怒るだろうに、瑞月は『趣味の睡眠をけなされた』ととらえたらしい。
瑞月はジトッとした目を花村に向ける。それから、閃いたと言わんばかりに両手を叩いた。不思議がる陽介をよそに、瑞月はポンポンとレジャーシートの空きスペースを叩く。そこには人一人が寝っ転がれそうな空間があった。
「どうだ、花村も一睡。隣も空いている」
衝撃的な提案を瑞月は言い放った。どうやら陽介は、彼女の変なスイッチを押してしまったらしい。ザッとのけぞって、陽介は瑞月から距離を取る。
「ちょっ、なんでそうなるんだよ!?」
「昼寝の楽しさを、実際に体験した方が速いと思ってな。そうすれば、私も揶揄われまい」
「人来たらどうすんだよっ! こんなとこ見られたらまずいだろうがッ」
「安心しろ。私は耳ざとい人間だ。他の人間が来たら私が隠れる」
陽介はちぎれんばかりに首を振る。女子と同じスペースで昼寝なんて、年頃の陽介には刺激が強い案件だ。
「危機感はないんですかッ!? 女子としての危機感は!!」
「もちろん、不要な接触があれば制裁を下す。言っておくが、私は護身に心得がある」
「制裁って何だよッ。怖ぇっつの!」
「まあ、それは置いておくとして花村はウブだ。社会的な立ち位置もあるから、お互い大事には至らないさ」
「てめこのっ。悩み多き若人を弄びやがって……」
瑞月は昼寝が関わると非常に面倒くさいらしかった。謎めいた押しの強さで陽介に昼寝を進めてくる。
「まーまーそう言わずに」
バスバスと空きスペースを叩く瑞月。根負けした陽介は、渋々とレジャーシートに転がった。見上げた空は高く、青い。隣の瑞月が携帯をいじった。恐らく、タイマーをセットしているのだろう。
「アラームが流れるまで、目をつぶっていてくれ。不安や悩みなど、何も考えないようにすると、なお効果的だ」
陽介は固く目を閉じた。隣に寝転んでいるであろう、瑞月をなるべく意識しないように。彼女に言われた通り、思考をまっさらにしようと試みる。
それは奇妙な感覚だった。雑念を払うにつれて、身体の感覚がはっきりと鮮明化する。柔らかな日差しが陽介を包み込んで、身体がゆっくりと温められていった。
田舎特有の、清浄な空気につられて肺が自然に深く呼吸した。身体が新鮮な酸素で満たされていく。昼間の緊張で固まっていた身体から、次第に力が抜けていく。
隣にいるであろう、瑞月の存在もすぐに気にならなくなって、ただただ陽介はまどろみに身を任せた。
まるで暖かな波の中にいるような、安らぎが陽介を包みこむ。
長い長い静けさが、アラームによって終わりを告げる。陽介はゆっくりと瞼を開けた。
青空が眩しい。昼寝をする前より、意識がくっきりとしている。身体も心なしか軽かった。『自分を労わる時間』という瑞月の言葉は大げさではなかった。隣の瑞月が陽介の表情を伺っている。
「どうだろうか」
「……案外、よかった。頭すっきりするし、ココは静かで、陽の光もあったけぇし」
「そうか、昼寝への理解者が増えて、私は嬉しい」
今日はまさにそんな日だった。ストックしていたネタが尽き、このままではマズイと思った陽介は、なんとか無理矢理話題を捻りだそうとする。
だがしかし、狙ったかのようなタイミングで、瑞月は「時間だ」と宣言した。
彼女は上体を後ろに倒す。これから彼女は眠るのだ。常ならば、陽介はここで屋上を後にするのだが、今日はなぜか残っていたかった。
「瀬名ってさ、ほんとに、昼寝好きだよな」
「好きだとも。日本に昼寝の文化がないと嘆くくらいには」
「じゃあいっそ、海外にでも行くか?」
「それもいいな。こことは違う空気を感じて寝るのはきっと楽しいんだろう」
夢みるように、彼女は陽光の中でまどろんでいる。陽介の冗談に答える声はどこか真面目だ。昼寝に対して、瑞月はかなり執着している。
「おま、昼寝のために、国境越える気かよ」
「それだけの価値が、昼寝にはある。楽しまないなんて、もったいないぞ?」
瑞月が微かに目を細めた。一体、昼寝の何がそんなに魅力的なのか、陽介が密かに抱いた疑問に答えるように、瑞月は言葉を重ねる。
「温かい日差しを浴びて、ときに雨音を聞きながら、そよぐ風を感じながら、自分を労わる時間を無防備に楽しめるということは、とても贅沢なことだ」
しみじみとした実感がこもっている。自分を労わる時間とは、なかなか深いことを考えているものだと、陽介は感心する。
瑞月はその気になれば、昼寝の哲学まで語れるかもしれない。それはさておき、陽介は他に抱いた感想を、素直に告げる。
「……年寄り臭いぞ、お前」
「むっ、昼寝に失敬な。老若男女問わず、睡眠は大切な休息よ」
瑞月はちょっと眉をしかめた。しかし、怒るところが同年代とずれている。千枝あたりなら、『あたしはまだまだピッチピッチじゃ!!』と怒るだろうに、瑞月は『趣味の睡眠をけなされた』ととらえたらしい。
瑞月はジトッとした目を花村に向ける。それから、閃いたと言わんばかりに両手を叩いた。不思議がる陽介をよそに、瑞月はポンポンとレジャーシートの空きスペースを叩く。そこには人一人が寝っ転がれそうな空間があった。
「どうだ、花村も一睡。隣も空いている」
衝撃的な提案を瑞月は言い放った。どうやら陽介は、彼女の変なスイッチを押してしまったらしい。ザッとのけぞって、陽介は瑞月から距離を取る。
「ちょっ、なんでそうなるんだよ!?」
「昼寝の楽しさを、実際に体験した方が速いと思ってな。そうすれば、私も揶揄われまい」
「人来たらどうすんだよっ! こんなとこ見られたらまずいだろうがッ」
「安心しろ。私は耳ざとい人間だ。他の人間が来たら私が隠れる」
陽介はちぎれんばかりに首を振る。女子と同じスペースで昼寝なんて、年頃の陽介には刺激が強い案件だ。
「危機感はないんですかッ!? 女子としての危機感は!!」
「もちろん、不要な接触があれば制裁を下す。言っておくが、私は護身に心得がある」
「制裁って何だよッ。怖ぇっつの!」
「まあ、それは置いておくとして花村はウブだ。社会的な立ち位置もあるから、お互い大事には至らないさ」
「てめこのっ。悩み多き若人を弄びやがって……」
瑞月は昼寝が関わると非常に面倒くさいらしかった。謎めいた押しの強さで陽介に昼寝を進めてくる。
「まーまーそう言わずに」
バスバスと空きスペースを叩く瑞月。根負けした陽介は、渋々とレジャーシートに転がった。見上げた空は高く、青い。隣の瑞月が携帯をいじった。恐らく、タイマーをセットしているのだろう。
「アラームが流れるまで、目をつぶっていてくれ。不安や悩みなど、何も考えないようにすると、なお効果的だ」
陽介は固く目を閉じた。隣に寝転んでいるであろう、瑞月をなるべく意識しないように。彼女に言われた通り、思考をまっさらにしようと試みる。
それは奇妙な感覚だった。雑念を払うにつれて、身体の感覚がはっきりと鮮明化する。柔らかな日差しが陽介を包み込んで、身体がゆっくりと温められていった。
田舎特有の、清浄な空気につられて肺が自然に深く呼吸した。身体が新鮮な酸素で満たされていく。昼間の緊張で固まっていた身体から、次第に力が抜けていく。
隣にいるであろう、瑞月の存在もすぐに気にならなくなって、ただただ陽介はまどろみに身を任せた。
まるで暖かな波の中にいるような、安らぎが陽介を包みこむ。
長い長い静けさが、アラームによって終わりを告げる。陽介はゆっくりと瞼を開けた。
青空が眩しい。昼寝をする前より、意識がくっきりとしている。身体も心なしか軽かった。『自分を労わる時間』という瑞月の言葉は大げさではなかった。隣の瑞月が陽介の表情を伺っている。
「どうだろうか」
「……案外、よかった。頭すっきりするし、ココは静かで、陽の光もあったけぇし」
「そうか、昼寝への理解者が増えて、私は嬉しい」