10月31日　日曜日

　文化祭、一般公開日。八十神高校全体が祭りの熱気に活気づいていた。『いなば食堂』への来店客は多い。前日の学校公開の経験を踏まえ、クラスメイト達は要領を掴んだようだ。騒めく教室にホールスタッフの声が高らかに響く。

「いらっしゃいませー。『いなば食堂』です。うまいよ、安いよー」

　花村陽介もホール担当スタッフを務める1人だ。廊下を流れる客を斡旋し、席へ導く。狭い店内でも動線を意識した席の配置によって、スムーズに人が動いた。そのことを密かに陽介は誇らしく思っている。

「花村―。片付け手伝おうかー」
「おー、一条、あんがと。じゃあ俺はお客さん案内するから」
「なかなか、繁盛してんじゃん。お前目当てで来るやつもいるらしいぞ」
「なんだよ、俺は客引きパンダか？」
「パンダはパンダでも、花村はレッサーパンダじゃないか？」

　一条康の親友、長瀬大輔は気安く陽介と肩を組む。陽介は驚いて長瀬の肩を振り払った。長瀬は気にせず、ハハハと豪快に笑っている。
　田舎特有のスキンシップは、都会育ちの陽介には肌に合わない。しばらく、接客を続けていると、千枝と雪子がシフト交代の時間を知らせにくる。

「よっす、お疲れー。休憩だってさ」
「みんなお疲れ様」
　
　シフトが同じだった陽介、千枝と雪子、一条と長瀬が廊下にはける。千枝と雪子の仲良しコンビは共に食品系を巡るらしい。

「花村はどうするんだ？」

　長瀬に聞かれ、陽介は返答に窮した。一条と長瀬は互いに気心が知れた親友同士である。そこに陽介が割って入るのはなんとなく抵抗があった。

「……ちょっと行くトコあるから先に行くわ」