爆走
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ふと陽介は思いいたる。クラスへの関心が低い瑞月が、文化祭の成功にこだわる理由に。いまだに柔らかく眉を垂らした瑞月へと、陽介は問いを投げた。
「もしかして、瀬名さんが文化祭の成功にこだわるのって、お袋さんのためとか?」
瑞月は肩をぴくんと揺らす。的を射たようだ。つまりこの、文化祭の成功を目指して、リアカーをブッ飛ばすほど頑張っていた少女は──
「お袋さんのためにも、模擬店を成功させたかったのか。なんだ、情に厚いんだな、瀬名さんって」
──陽介は言い切った。関わりたくないと言って、クラスとの付き合いは悪い。けれどもやはり、決して冷たい人間ではないのだと陽介は目の前の少女への認識を改める。
また、親近感を感じてもいた。ジュネスの店長を父親に持つ陽介と、地元の料理研究家を母に持つ瑞月。親のために身体を張っているという共通点があった。案外仲良くなれそうと、陽介は予感する。
「……母の名前に泥を塗りたくない。それだけだよ」
静かに呟き、瑞月は空になった紙皿を重ねていく。心なしか、指先の動きはぎこちない。瑞月は照れているらしかった。
「あ、待って。俺だって食ったし、片付けくらいやるっつの」
「いい、私がお礼のために用意したものだ」
陽介が割りいる暇がないほどの速さで、重ねた食器をさらっていく。指すら触れさせないような急いた動きに、陽介は拒絶の意を取る。陽介はショックで動きを止めた。
瑞月とはある程度打ち解けていると、手伝いを申し出て断られないと思っていたのだ。
「花村くん、今日もありがとう。文化祭が終わるまでの協力関係だが、最後まで付き合ってくれると助かる。帰りは気を付けて」
やかんを片手にとって、瑞月は礼を告げる。そして素早く、プレハブ小屋を後にした。瑞月は反論も許さずに、陽介を一人教室に置き去っていく。瑞月が陽介に手伝いを提案した、あの日のように。
『文化祭が終わるまでの協力関係だが』
──文化祭が終われば、君とは元の関係に戻る。
それはつまり、文化祭が終われば、瑞月は教室で再び1人となり、花村とは関わらないと告げているのだろう。
──そんな寂しい事って、ないだろ。
教室で静かな孤独を保つ瑞月を陽介は想像する。瑞月を自転車でびしょ濡れにする最悪の出会いの前、運が良ければ話してみたいと思っていただけで、積極的に話しかけようとは思わなかった。
けれども、今は違う。自転車事故の後、瑞月は陽介が死んでいたかもしれないと諭すために怒ってくれた。陽介の作ったパンフの出来を評価してくれた。意外とポンポンと弾む瑞月との会話は楽しかった。ときおり見せる人間らしい雰囲気の柔さも知っている。引き受けた仕事のため、家族のために、懸命に努力する様子は尊敬できた。
ここまで瑞月を知ってしまって、果たして自分は元の、何の関りもない関係に戻れるのか。陽介はとめどなく綴られる思考を打ち止める。
陽介だって、八十稲羽に来る前は付かず離れずの友人関係を築いてきたのだ。きっと瑞月に突き放されたとしても、平気に違いない。
そう自分に言い聞かせて陽介は、八十神身高校を後にした。一条と瑞月の忠告通り、太陽が沈んだ通学路は暗かった。
「もしかして、瀬名さんが文化祭の成功にこだわるのって、お袋さんのためとか?」
瑞月は肩をぴくんと揺らす。的を射たようだ。つまりこの、文化祭の成功を目指して、リアカーをブッ飛ばすほど頑張っていた少女は──
「お袋さんのためにも、模擬店を成功させたかったのか。なんだ、情に厚いんだな、瀬名さんって」
──陽介は言い切った。関わりたくないと言って、クラスとの付き合いは悪い。けれどもやはり、決して冷たい人間ではないのだと陽介は目の前の少女への認識を改める。
また、親近感を感じてもいた。ジュネスの店長を父親に持つ陽介と、地元の料理研究家を母に持つ瑞月。親のために身体を張っているという共通点があった。案外仲良くなれそうと、陽介は予感する。
「……母の名前に泥を塗りたくない。それだけだよ」
静かに呟き、瑞月は空になった紙皿を重ねていく。心なしか、指先の動きはぎこちない。瑞月は照れているらしかった。
「あ、待って。俺だって食ったし、片付けくらいやるっつの」
「いい、私がお礼のために用意したものだ」
陽介が割りいる暇がないほどの速さで、重ねた食器をさらっていく。指すら触れさせないような急いた動きに、陽介は拒絶の意を取る。陽介はショックで動きを止めた。
瑞月とはある程度打ち解けていると、手伝いを申し出て断られないと思っていたのだ。
「花村くん、今日もありがとう。文化祭が終わるまでの協力関係だが、最後まで付き合ってくれると助かる。帰りは気を付けて」
やかんを片手にとって、瑞月は礼を告げる。そして素早く、プレハブ小屋を後にした。瑞月は反論も許さずに、陽介を一人教室に置き去っていく。瑞月が陽介に手伝いを提案した、あの日のように。
『文化祭が終わるまでの協力関係だが』
──文化祭が終われば、君とは元の関係に戻る。
それはつまり、文化祭が終われば、瑞月は教室で再び1人となり、花村とは関わらないと告げているのだろう。
──そんな寂しい事って、ないだろ。
教室で静かな孤独を保つ瑞月を陽介は想像する。瑞月を自転車でびしょ濡れにする最悪の出会いの前、運が良ければ話してみたいと思っていただけで、積極的に話しかけようとは思わなかった。
けれども、今は違う。自転車事故の後、瑞月は陽介が死んでいたかもしれないと諭すために怒ってくれた。陽介の作ったパンフの出来を評価してくれた。意外とポンポンと弾む瑞月との会話は楽しかった。ときおり見せる人間らしい雰囲気の柔さも知っている。引き受けた仕事のため、家族のために、懸命に努力する様子は尊敬できた。
ここまで瑞月を知ってしまって、果たして自分は元の、何の関りもない関係に戻れるのか。陽介はとめどなく綴られる思考を打ち止める。
陽介だって、八十稲羽に来る前は付かず離れずの友人関係を築いてきたのだ。きっと瑞月に突き放されたとしても、平気に違いない。
そう自分に言い聞かせて陽介は、八十神身高校を後にした。一条と瑞月の忠告通り、太陽が沈んだ通学路は暗かった。