爆走
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
畑仕事のダメージが後を引いている陽介は、スタッフ専用のプレハブ小屋に入った。すこし休憩と、備え付けの机に突っ伏したのである。そこに一条が訪ねてきたのだ。
帰りがけの一条は、肩にひっかけたバックの中をごそごそと漁る。快活な声が柔らかさをともなって、陽介へと話しかけた。一条は陽介に感心した様子である。
「ほんとに頑張ったよ、転校してきて間もないのにさ。クラスでも話題になってんぞ」
「そーすかあ。おかげで身体バッキバキだわ。つーか、飯食わずに走ったからクッタクタ。今、風呂に入ればいいダシ出るんじゃねえかな」
「とるなら疲れをとれよ。んじゃ、苦労した花村にこれやる。日暮れ早いから、さっさと帰れよ?」
一条は机にスポーツドリンクを置く。親切な心遣いが、陽介には温かい。陽介はサンキュと手を振った。一条も手を振り返して教室を去った。陽介も帰ろうと身体を持ち上げようとする。が、疲労が鉛のように堆積していた。
──誰も来ねぇし、少し寝ちまってもいいかな。
設置された時計に目をやると、最終下校時間まで余裕はある。陽介は重くなる瞼にしたがって、眠りに落ちた。
◇◇◇
香ばしい匂いに誘われて、陽介は目を覚ました。顔をあげると、目の前には料理がいくつか並んでいる。たしか自分は、畑仕事から帰ってきて、教室内のプレハブ小屋で眠ったはずだ。腹が空きすぎて夢でも見ているのかと、陽介はあくびをする。
「……夢にしては妙にリアルだな」
素揚げした野菜が乗ったスパイスの複雑な芳香が漂うカレー。チーズがとろけたトマトベースのピザは生地がパリッとクリスピーに焼き上げられている。サツマイモの黄色とキャベツの緑が鮮やかなホットサラダは、作り立てなのか湯気を立てて、甘い匂いを漂わせた。用意周到に、プラスチックのスプーンと箸まで並んでいる。
「ああ、起きたか。花村くん」
「は……瀬名さん!? 帰ったんじゃなかったのか?」
プレハブ小屋の入り口に、やかんと紙コップを持った瀬名瑞月が立っている。起きた陽介を確認するなり、瑞月は机の空きスペースにコップを置き、やかんの中身を注ぐ。
「模擬店と、私が管轄する調理室の見回りをしていたんだ。そうしたら、君を見つけた。ちょうどいいので、お礼をすると決めたんだ」
「お礼……?」
「昼休み、私を追ってきてくれたろう。昼食も摂らずに。目の前にあるのは、今日、調理班で試作したメニューだ。味は、確認した私が保証する。……アレルギーは、持っていないのだろう?」
つまり、目の前のごちそうは瑞月が花村のために用意したということだ。夢ではなく、現実だった。魅惑的な匂いを漂わせる料理たちに、唾液が湧き上がってくる。
「据え膳食わぬは何とやらッていうよな」
「どうぞ、どうぞ。そのために用意した料理だ」
「よっしゃーーー!! いっただっきまーーーす!」
瑞月は紙コップを陽介に差し出す。食べ盛りの男子高校生の胃袋に、目の前のごちそうは誘惑が大きすぎた。そばに置いてあったスプーンをペン回しの要領でまわし、カレーを掬いとる。とろりとツヤの出たルーを白飯ごと、口に運ぶ。スパイスの香りが口腔を満たした。
「!」
肉とは異なる、まろやかな旨味が味覚に広がった。複数の香味野菜の風味と唐辛子による控えめな辛みがアクセントになり、味にメリハリがついている。肉のパンチで攻めるのではなく、野菜が持つ味をうまく組み合わせて作った優しいカレーだ。
つづいて、ピザに手を付ける。トマトソースの酸味とチーズの滑らかな脂肪が絶妙に重なり合って美味しい。クリスピーに焼きあがった耳の部分は、食べるとパリパリと音を立てて食べていて楽しい一品である。
忘れていたサラダへと手を伸ばす。好みで用意されたドレッシングのうち、シーザードレッシングをかけた。ほくほくに蒸されたサツマイモが口の中でほろりとほどける。蒸されたキャベツとサツマイモのじんわりと沁みる甘さが疲れた体には嬉しい。
キリッと冷やされた水は、都会のものと違ってよどみがなかった。空になった紙コップに瑞月がお代わりを注いでくれる。水が水道のものだと言われたとき、そのうまさに陽介は驚いた。
カレーを掬い、ピザにパクつく。たまにサラダをかきこんで、舌をリセットするために水を飲む。空腹のゆるすままに、陽介は夢中になった。料理をすべて完食して、陽介は満足に息を吐く。
「あーーー、幸せ……全部うめぇとか、何事……」
「おそまつさま。気持ちのいい食べっぷりだったな」
瑞月は紙ナプキンを差し出してくる。さんきゅ、といって、陽介はそれを受け取る。心なしか、瑞月の纏う空気は柔らかい。
「これ瀬名さんのお袋さんが考えたんだろ。すげぇよな、料理研究家って。高校生でも美味しく作れるレシピ作っちゃうんだから」
「母を褒めてくれるのは嬉しいが、残念ながらそのレシピを作ったのは私だ。母はもっとすごいよ」
ゲホゴッホと、陽介はむせた。目の前の料理を瑞月が考案したということに驚きを隠せない。
「え、だって、瀬名さんは、お袋さんが地元の野菜に詳しいから引き受けたんじゃないのか!?」
「母はプロだ。ゆえに多忙でな。アドバイスはいくつか貰ったが、高校生の模擬店で時間をとらせたくなかった」
言葉とは裏腹に、瑞月の眦 はいつもより柔らかく垂れている。遠くを見つめる彼女のまなざしには、憧憬と尊敬がこもっていた。
帰りがけの一条は、肩にひっかけたバックの中をごそごそと漁る。快活な声が柔らかさをともなって、陽介へと話しかけた。一条は陽介に感心した様子である。
「ほんとに頑張ったよ、転校してきて間もないのにさ。クラスでも話題になってんぞ」
「そーすかあ。おかげで身体バッキバキだわ。つーか、飯食わずに走ったからクッタクタ。今、風呂に入ればいいダシ出るんじゃねえかな」
「とるなら疲れをとれよ。んじゃ、苦労した花村にこれやる。日暮れ早いから、さっさと帰れよ?」
一条は机にスポーツドリンクを置く。親切な心遣いが、陽介には温かい。陽介はサンキュと手を振った。一条も手を振り返して教室を去った。陽介も帰ろうと身体を持ち上げようとする。が、疲労が鉛のように堆積していた。
──誰も来ねぇし、少し寝ちまってもいいかな。
設置された時計に目をやると、最終下校時間まで余裕はある。陽介は重くなる瞼にしたがって、眠りに落ちた。
◇◇◇
香ばしい匂いに誘われて、陽介は目を覚ました。顔をあげると、目の前には料理がいくつか並んでいる。たしか自分は、畑仕事から帰ってきて、教室内のプレハブ小屋で眠ったはずだ。腹が空きすぎて夢でも見ているのかと、陽介はあくびをする。
「……夢にしては妙にリアルだな」
素揚げした野菜が乗ったスパイスの複雑な芳香が漂うカレー。チーズがとろけたトマトベースのピザは生地がパリッとクリスピーに焼き上げられている。サツマイモの黄色とキャベツの緑が鮮やかなホットサラダは、作り立てなのか湯気を立てて、甘い匂いを漂わせた。用意周到に、プラスチックのスプーンと箸まで並んでいる。
「ああ、起きたか。花村くん」
「は……瀬名さん!? 帰ったんじゃなかったのか?」
プレハブ小屋の入り口に、やかんと紙コップを持った瀬名瑞月が立っている。起きた陽介を確認するなり、瑞月は机の空きスペースにコップを置き、やかんの中身を注ぐ。
「模擬店と、私が管轄する調理室の見回りをしていたんだ。そうしたら、君を見つけた。ちょうどいいので、お礼をすると決めたんだ」
「お礼……?」
「昼休み、私を追ってきてくれたろう。昼食も摂らずに。目の前にあるのは、今日、調理班で試作したメニューだ。味は、確認した私が保証する。……アレルギーは、持っていないのだろう?」
つまり、目の前のごちそうは瑞月が花村のために用意したということだ。夢ではなく、現実だった。魅惑的な匂いを漂わせる料理たちに、唾液が湧き上がってくる。
「据え膳食わぬは何とやらッていうよな」
「どうぞ、どうぞ。そのために用意した料理だ」
「よっしゃーーー!! いっただっきまーーーす!」
瑞月は紙コップを陽介に差し出す。食べ盛りの男子高校生の胃袋に、目の前のごちそうは誘惑が大きすぎた。そばに置いてあったスプーンをペン回しの要領でまわし、カレーを掬いとる。とろりとツヤの出たルーを白飯ごと、口に運ぶ。スパイスの香りが口腔を満たした。
「!」
肉とは異なる、まろやかな旨味が味覚に広がった。複数の香味野菜の風味と唐辛子による控えめな辛みがアクセントになり、味にメリハリがついている。肉のパンチで攻めるのではなく、野菜が持つ味をうまく組み合わせて作った優しいカレーだ。
つづいて、ピザに手を付ける。トマトソースの酸味とチーズの滑らかな脂肪が絶妙に重なり合って美味しい。クリスピーに焼きあがった耳の部分は、食べるとパリパリと音を立てて食べていて楽しい一品である。
忘れていたサラダへと手を伸ばす。好みで用意されたドレッシングのうち、シーザードレッシングをかけた。ほくほくに蒸されたサツマイモが口の中でほろりとほどける。蒸されたキャベツとサツマイモのじんわりと沁みる甘さが疲れた体には嬉しい。
キリッと冷やされた水は、都会のものと違ってよどみがなかった。空になった紙コップに瑞月がお代わりを注いでくれる。水が水道のものだと言われたとき、そのうまさに陽介は驚いた。
カレーを掬い、ピザにパクつく。たまにサラダをかきこんで、舌をリセットするために水を飲む。空腹のゆるすままに、陽介は夢中になった。料理をすべて完食して、陽介は満足に息を吐く。
「あーーー、幸せ……全部うめぇとか、何事……」
「おそまつさま。気持ちのいい食べっぷりだったな」
瑞月は紙ナプキンを差し出してくる。さんきゅ、といって、陽介はそれを受け取る。心なしか、瑞月の纏う空気は柔らかい。
「これ瀬名さんのお袋さんが考えたんだろ。すげぇよな、料理研究家って。高校生でも美味しく作れるレシピ作っちゃうんだから」
「母を褒めてくれるのは嬉しいが、残念ながらそのレシピを作ったのは私だ。母はもっとすごいよ」
ゲホゴッホと、陽介はむせた。目の前の料理を瑞月が考案したということに驚きを隠せない。
「え、だって、瀬名さんは、お袋さんが地元の野菜に詳しいから引き受けたんじゃないのか!?」
「母はプロだ。ゆえに多忙でな。アドバイスはいくつか貰ったが、高校生の模擬店で時間をとらせたくなかった」
言葉とは裏腹に、瑞月の