爆走
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外履きに履き替え、陽介は外に出る。途端、陽介の前を小型トラックが横切った。
いや、トラックではなかった。
リアカーを引いた瑞月が猛烈な速度で陽介の前を横切ったのだ。
陽介はパチクリと目を開閉し、コミカルに飛び上がって走り出す。
女の子がリアカーを全速力で引いている絵面はなかなかにシュールである。混乱を抑え込んで、リアカーを引いて爆走する瑞月に陽介はなんとか食らいついた。
農家に着く頃には、全身の筋肉が悲鳴を上げていた。瑞月はというと、息を切らさずにピンピンしている。そして、まったく陽介に気が付いていなかったらしい。
酸欠に喘ぐ陽介に、なぜいるのかと瑞月は本気で首をかしげた。
「ぜぇ……一人で、怪我でもしたら大変だろうが……俺も、手伝うっての」
「……普段、畑仕事をしない花村くんにはつらいと思うのだが」
「心配いらねーって。野菜『取り』に行くだけなんだろ?」
正直、野菜を『取り』に行くだけだと高を括っていた。
まさか野菜を土から引き抜くなどと、都会生まれの陽介に想像できるわけがなかったのである。ウィンクまで飛ばしてカッコつけた自分を、後々陽介は殴りたかった。
畑仕事は、全力疾走した後の身体には酷な所業だった。だが瑞月はというと、野菜と言う野菜を両手で引っこ抜いてはリアカーに投げ入れた。リアカーで爆走した後だというのに、ちぎっては投げである。
陽介も時々出てくる虫にびっくりしながらも、必死で野菜を引き抜いた。手伝うと宣言した以上、逃げるわけにはいかない。しばらく野菜との格闘は続き、瑞月はOKサインを掲げる。在庫分の野菜が集まったのである。
陽介たちの働きを見かねた農家さんから、麦茶を一杯ご馳走になった。丁寧に淹れられた麦茶は香ばしくて美味しかった。
瑞月が丁寧に謝辞を述べ、陽介たちは畑を後にしたのであった。
「ありがとう、花村くん。この件は後ほど礼はする。……その、乗るか?」
「ダイジョブ……。流石に、歩けは、する」
慣れない畑仕事に陽介の身体はヘロヘロだった。対して、瑞月は息も切らさず、満杯のリアカーを引いている。
「なんで瀬名さんはそんなピンピンしてんだ……」
「……畑仕事への慣れと、日ごろの鍛錬?」
「んだよその体力……アマゾネスかよ……」
「誉め言葉として受け取るが、発言には気を付けるべきだ。そうだ、花村くん。君はなにかアレルギーを持っているか? 食べ物の好き嫌いは?」
「? ……いや、豆腐が苦手な以外はないけど?」
瑞月と陽介は会話しながら、八十神高校に帰ってきた。すでに、教室の設営は完了したらしく、校門前では松坂と千枝と雪子を含めたクラスの何名かが立っていた。
「2人ともお疲れ! 野菜の洗浄はやっておくから、休んでて!」
「里中! なんで入口に?」
「瀬名さんも花村も、2日間めっちゃ頑張ってたじゃん。企画を担ってくれたっていう、瀬名さんの話も聞いたよ。模擬店の設営も終わったから、声かかった子で2人を待ってたのさ!」
千枝が高らかに告げると、リアカーに乗った野菜を、クラスメイト達はさっさと運んでいく。去っていくクラスメイトの最後尾にいた松坂が、瑞月と陽介に頭を下げた。
苦労が報われたような満足感に、陽介の身体から力が抜けた。俯いた陽介の背中へと、瑞月が手を添える。
「体調が悪いか? 必要なら、保健室まで連れていくが」
「あ、ダイジョブっす。教室まで戻れるから」
瑞月の提案を断り、陽介は教室へ戻った。模擬店の設営は終わっている。しばらく経つと、野菜の洗浄を終えたクラスメイトと瑞月が入ってきた(リアカーを片付けて来たらしい)。クラス全員の集合である。
当日のシフトや、注意点、接客の応対が書かれたマニュアルを文化祭実行委員が配布し、読み合わせを行った後、解散となった。
***
いや、トラックではなかった。
リアカーを引いた瑞月が猛烈な速度で陽介の前を横切ったのだ。
陽介はパチクリと目を開閉し、コミカルに飛び上がって走り出す。
女の子がリアカーを全速力で引いている絵面はなかなかにシュールである。混乱を抑え込んで、リアカーを引いて爆走する瑞月に陽介はなんとか食らいついた。
農家に着く頃には、全身の筋肉が悲鳴を上げていた。瑞月はというと、息を切らさずにピンピンしている。そして、まったく陽介に気が付いていなかったらしい。
酸欠に喘ぐ陽介に、なぜいるのかと瑞月は本気で首をかしげた。
「ぜぇ……一人で、怪我でもしたら大変だろうが……俺も、手伝うっての」
「……普段、畑仕事をしない花村くんにはつらいと思うのだが」
「心配いらねーって。野菜『取り』に行くだけなんだろ?」
正直、野菜を『取り』に行くだけだと高を括っていた。
まさか野菜を土から引き抜くなどと、都会生まれの陽介に想像できるわけがなかったのである。ウィンクまで飛ばしてカッコつけた自分を、後々陽介は殴りたかった。
畑仕事は、全力疾走した後の身体には酷な所業だった。だが瑞月はというと、野菜と言う野菜を両手で引っこ抜いてはリアカーに投げ入れた。リアカーで爆走した後だというのに、ちぎっては投げである。
陽介も時々出てくる虫にびっくりしながらも、必死で野菜を引き抜いた。手伝うと宣言した以上、逃げるわけにはいかない。しばらく野菜との格闘は続き、瑞月はOKサインを掲げる。在庫分の野菜が集まったのである。
陽介たちの働きを見かねた農家さんから、麦茶を一杯ご馳走になった。丁寧に淹れられた麦茶は香ばしくて美味しかった。
瑞月が丁寧に謝辞を述べ、陽介たちは畑を後にしたのであった。
「ありがとう、花村くん。この件は後ほど礼はする。……その、乗るか?」
「ダイジョブ……。流石に、歩けは、する」
慣れない畑仕事に陽介の身体はヘロヘロだった。対して、瑞月は息も切らさず、満杯のリアカーを引いている。
「なんで瀬名さんはそんなピンピンしてんだ……」
「……畑仕事への慣れと、日ごろの鍛錬?」
「んだよその体力……アマゾネスかよ……」
「誉め言葉として受け取るが、発言には気を付けるべきだ。そうだ、花村くん。君はなにかアレルギーを持っているか? 食べ物の好き嫌いは?」
「? ……いや、豆腐が苦手な以外はないけど?」
瑞月と陽介は会話しながら、八十神高校に帰ってきた。すでに、教室の設営は完了したらしく、校門前では松坂と千枝と雪子を含めたクラスの何名かが立っていた。
「2人ともお疲れ! 野菜の洗浄はやっておくから、休んでて!」
「里中! なんで入口に?」
「瀬名さんも花村も、2日間めっちゃ頑張ってたじゃん。企画を担ってくれたっていう、瀬名さんの話も聞いたよ。模擬店の設営も終わったから、声かかった子で2人を待ってたのさ!」
千枝が高らかに告げると、リアカーに乗った野菜を、クラスメイト達はさっさと運んでいく。去っていくクラスメイトの最後尾にいた松坂が、瑞月と陽介に頭を下げた。
苦労が報われたような満足感に、陽介の身体から力が抜けた。俯いた陽介の背中へと、瑞月が手を添える。
「体調が悪いか? 必要なら、保健室まで連れていくが」
「あ、ダイジョブっす。教室まで戻れるから」
瑞月の提案を断り、陽介は教室へ戻った。模擬店の設営は終わっている。しばらく経つと、野菜の洗浄を終えたクラスメイトと瑞月が入ってきた(リアカーを片付けて来たらしい)。クラス全員の集合である。
当日のシフトや、注意点、接客の応対が書かれたマニュアルを文化祭実行委員が配布し、読み合わせを行った後、解散となった。
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