爆走
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クラスメイトが昼休みに浮かれる中、件の瑞月が教室へと飛び込んできた。彼女は調理班のリーダーも務めているので、今日は食材の在庫確認作業で教室にいないはずだ。
瑞月はきょろきょろと教室を見回して、誰かを探している様子であった。見かねた陽介は声をかける。
「どした、瀬名さん? 誰か、探してるみたいだけど」
「花村くん。松坂くんはいるだろうか。発注の件について尋ねたい」
松坂とは、文化祭実行委員の一人だ。会計として、金銭関係のやり取りや発注を担当している男子生徒である。
陽介が松坂を呼び寄せると、瑞月は野菜の発注書を見せてほしいと頼み込んだ。
松坂がすぐさま発注書を持ってくる。手にしていた納品書と発注書を見比べ、瑞月は口元に組んだ手を当てた。
「やはり、発注書か。地元農家から納品された野菜が、予定より少なかったんだ。発注書に誤りがあった」
瑞月は納品書と発注書を松坂に示す。松坂の顔が青ざめた。松坂はごめんごめん、と冷や汗を流して謝っている。傍らで見ている陽介に焦りがひしひしと伝わってくる。そんな松坂の震える肩に――瑞月は軽く手を置いた。
「謝るのはそこまででいい。私も申し訳なかった。発注書の確認を怠った私にも非はある。すまなかったな」
追い込む必要はないのだと、瑞月は松坂に言い聞かせる。陽介は瑞月の対応に驚く。てっきり彼女は効率を重視して、彼を𠮟りつけるものと思っていた。
「今から発注業者にかけあって、追加の納品を明日にしてもらおう。しかし、クラスのみんなには申し訳ないが、開店時間が予定より遅くなってしまうな」
「え! それはまずくねぇか!?」
「花村くん、声が大きい。……クラスに、松坂くんと私が代表して謝るしかないだろう」
瑞月は口を引き結ぶ。声は平常通りだが、細い眉が少しだけこわばっていた。陽介はおもむろに、模擬店を開くために彼女が積み上げた時間を想像した。
クラスの人間は、瑞月の努力を知らない。メニューの考案や、面倒な書類のやり取り、山のようなパンフレットの作成、それを知っているのは、文化祭実行委員と陽介だけだ。途方もない努力が、1つのミスで形を崩そうとしている。それが、どうも陽介には歯がゆかった。
「3人ともどうしたの?深刻な顔して」
「里中……実はな」
ひょこっと、千枝が3人の間に顔を出した。親友である雪子も一緒だ。陽介は千枝たちに納品のミスを伝える。千枝が口を大きく開け、身体をのけぞらせた。
「えぇ、それまずくない!?」
「里中、声デカいっつの!」
陽介は千枝を注意する。対する雪子は、考え込んだ様子で唇に指を添える。そして、何かを思いついたように頷いた。
「瀬名さん、ちょっと私、アテがあるんだけど、いいかな」
言い終えぬうちに、雪子は携帯電話を取り出す。流れるように携帯を耳に当て、真剣な言葉づかいで雪子は誰かと通話を始める。
瑞月はきょろきょろと教室を見回して、誰かを探している様子であった。見かねた陽介は声をかける。
「どした、瀬名さん? 誰か、探してるみたいだけど」
「花村くん。松坂くんはいるだろうか。発注の件について尋ねたい」
松坂とは、文化祭実行委員の一人だ。会計として、金銭関係のやり取りや発注を担当している男子生徒である。
陽介が松坂を呼び寄せると、瑞月は野菜の発注書を見せてほしいと頼み込んだ。
松坂がすぐさま発注書を持ってくる。手にしていた納品書と発注書を見比べ、瑞月は口元に組んだ手を当てた。
「やはり、発注書か。地元農家から納品された野菜が、予定より少なかったんだ。発注書に誤りがあった」
瑞月は納品書と発注書を松坂に示す。松坂の顔が青ざめた。松坂はごめんごめん、と冷や汗を流して謝っている。傍らで見ている陽介に焦りがひしひしと伝わってくる。そんな松坂の震える肩に――瑞月は軽く手を置いた。
「謝るのはそこまででいい。私も申し訳なかった。発注書の確認を怠った私にも非はある。すまなかったな」
追い込む必要はないのだと、瑞月は松坂に言い聞かせる。陽介は瑞月の対応に驚く。てっきり彼女は効率を重視して、彼を𠮟りつけるものと思っていた。
「今から発注業者にかけあって、追加の納品を明日にしてもらおう。しかし、クラスのみんなには申し訳ないが、開店時間が予定より遅くなってしまうな」
「え! それはまずくねぇか!?」
「花村くん、声が大きい。……クラスに、松坂くんと私が代表して謝るしかないだろう」
瑞月は口を引き結ぶ。声は平常通りだが、細い眉が少しだけこわばっていた。陽介はおもむろに、模擬店を開くために彼女が積み上げた時間を想像した。
クラスの人間は、瑞月の努力を知らない。メニューの考案や、面倒な書類のやり取り、山のようなパンフレットの作成、それを知っているのは、文化祭実行委員と陽介だけだ。途方もない努力が、1つのミスで形を崩そうとしている。それが、どうも陽介には歯がゆかった。
「3人ともどうしたの?深刻な顔して」
「里中……実はな」
ひょこっと、千枝が3人の間に顔を出した。親友である雪子も一緒だ。陽介は千枝たちに納品のミスを伝える。千枝が口を大きく開け、身体をのけぞらせた。
「えぇ、それまずくない!?」
「里中、声デカいっつの!」
陽介は千枝を注意する。対する雪子は、考え込んだ様子で唇に指を添える。そして、何かを思いついたように頷いた。
「瀬名さん、ちょっと私、アテがあるんだけど、いいかな」
言い終えぬうちに、雪子は携帯電話を取り出す。流れるように携帯を耳に当て、真剣な言葉づかいで雪子は誰かと通話を始める。