一陽来復
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片付けも終わり、陽介はショルダーバックを肩にかける。もちろん、そこには苦労して探し回ったノートも入っている。探し出すのに苦労はしたが、それも今は笑い飛ばせる。このノートがあったからこそ、陽介は瑞月を手伝って、彼女から真摯なお礼を受け取ることができたのだから。
陽介は満足げに笑う。そして、教室を去ろうとして──手をかけようとした扉が開かれた。ドアの先には、瑞月がいた。いきなり現れた彼女に「うわっ」と陽介は足を止める。「おつかれ」と言った瑞月は、おもむろに教室を一瞥した。そしてきちんと片付けられた教室を確認すると、背筋を正して陽介と向き合う。
「花村くん、机を元通りにしてくれたのだな。ありがとう」
「いやいや。礼言われるほど、大したことじゃねーよ」
「なら私が、お礼を言いたいだけだ。お礼と言えば、これも受け取ってほしい」
瑞月は左手に持っていたスチール缶を差し出した。パッケージには大胆な筆遣いで『やそぜんざい』と商品名が記載されている。陽介は一瞬思考を停止した。『やそぜんざい』と瑞月を交互に見比べる。
「どうしたんだ、花村くん。早くとらなければ冷めてしまう。温かい飲み物だから。もしや……ぜんざいは嫌いか?」
「え、まさか、さっき苦手な飲み物聞いてきたのって……このため?」
「そうだが?」
謝罪と感謝だけでは飽き足らず、瑞月はお礼に飲み物まで買ってきたらしい。頭を下げられた上に、飲み物まで渡されるとはなんだか申し訳ない。慌てて、陽介は両手を突き出して遠慮を示す。
「いや、そんないいから! もう、お礼言ってくれただけでイッパイイッパイだから」
「どうか受け取ってくれ。でないと私は、きみに嫌味を言ったあげくタダで人を働かせる人間になってしまう。それに、これは温かい状態が美味しいんだ」
瑞月は強引にスチール缶を押しつけた。瑞月は教室の入り口立っている状態だ。陽介が『やそぜんざい』を受け取るまで動かないだろう。
「わかった。サンキュな」
陽介は『やそぜんざい』を受け取る。すると、瑞月はこわばっていた肩を下げた。心なしか、瑞月の雰囲気も柔らかいものになった気がする。瑞月はドライではあるが、義理堅い一面も持ち合わせているらしい。
「あー、でもさ……わざわざこんな礼とかしなくても、色々頼んでいいから」
瑞月はキョトンとしている。陽介の発言について今一つ要領を得ていない様子だ。
「瀬名さんの手伝い、引き受けた以上はちゃんとやり遂げたいっつか。バイトとかが入る場合もあるけど、それ以外なら優先して俺も手伝うし」
「そ、それは……私がやるべきことを、対価もなしに押し付けているようで、嫌だ」
「人頼るのド下手か」
思わず陽介は半目になった。ウグッと、彼女は言葉を詰まらせる。どうやら図星のようだ。山のようなパンフを一人で作ろうとしたりと、人との関りを厭う弊害だろう。
陽介はため息をつき、瑞月に向けてはにかんだ。
「押し付けるも何もないだろ。俺は瀬名さんの手伝いだし。それに、さっきも言ったように、あー、生半可な気持ちで引き受けたわけじゃねーから。むしろ大船に乗ったつもりで頼ってくれよってな!」
「あまり大きな口を叩くと良くないのでは? 花村くん」
「こ、こうゆーのは気持ちが大事なんだってば!!」
「それもそうだな。きみの気持ちは確かに先ほど見たとも」
瑞月は2回ほど頷いた。どうやら、彼女は陽介を認めてくれたらしい。陽介自身、それを嫌だとは思わなかった。
瀬名瑞月という人間は、ドライに見えて義理堅い人間らしい。陽介の行った仕事も、正当な基準で受け入れてくれている。メールアドレスを交換したときと比べると、瑞月は陽介と僅かずつだけれど打ち解けている気がした。
「さて、時間を拝借したな。失礼した。下校時間も近い。夜道には気を付けて帰るように。八十稲羽の通学路は暗いからな」
「そういう瀬名さんは、一人で帰んのか?」
「ああ、時間を取りそうな私用があるんだ。君は気にしなくていい」
もう行くんだ。と瑞月に促され、陽介は八十神高校を後にした。お礼としてもらった『やそぜんざい』はちょうどいい熱さに落ち着いている。
通学路にて自転車を引きながら、陽介はそれを飲んだ。なかなかに、謎のとろみの効いた甘さが病みつきになる飲み物である。意外にも悪くないなと思いながら、陽介は『やそぜんざい』を仰いだ。
陽介は満足げに笑う。そして、教室を去ろうとして──手をかけようとした扉が開かれた。ドアの先には、瑞月がいた。いきなり現れた彼女に「うわっ」と陽介は足を止める。「おつかれ」と言った瑞月は、おもむろに教室を一瞥した。そしてきちんと片付けられた教室を確認すると、背筋を正して陽介と向き合う。
「花村くん、机を元通りにしてくれたのだな。ありがとう」
「いやいや。礼言われるほど、大したことじゃねーよ」
「なら私が、お礼を言いたいだけだ。お礼と言えば、これも受け取ってほしい」
瑞月は左手に持っていたスチール缶を差し出した。パッケージには大胆な筆遣いで『やそぜんざい』と商品名が記載されている。陽介は一瞬思考を停止した。『やそぜんざい』と瑞月を交互に見比べる。
「どうしたんだ、花村くん。早くとらなければ冷めてしまう。温かい飲み物だから。もしや……ぜんざいは嫌いか?」
「え、まさか、さっき苦手な飲み物聞いてきたのって……このため?」
「そうだが?」
謝罪と感謝だけでは飽き足らず、瑞月はお礼に飲み物まで買ってきたらしい。頭を下げられた上に、飲み物まで渡されるとはなんだか申し訳ない。慌てて、陽介は両手を突き出して遠慮を示す。
「いや、そんないいから! もう、お礼言ってくれただけでイッパイイッパイだから」
「どうか受け取ってくれ。でないと私は、きみに嫌味を言ったあげくタダで人を働かせる人間になってしまう。それに、これは温かい状態が美味しいんだ」
瑞月は強引にスチール缶を押しつけた。瑞月は教室の入り口立っている状態だ。陽介が『やそぜんざい』を受け取るまで動かないだろう。
「わかった。サンキュな」
陽介は『やそぜんざい』を受け取る。すると、瑞月はこわばっていた肩を下げた。心なしか、瑞月の雰囲気も柔らかいものになった気がする。瑞月はドライではあるが、義理堅い一面も持ち合わせているらしい。
「あー、でもさ……わざわざこんな礼とかしなくても、色々頼んでいいから」
瑞月はキョトンとしている。陽介の発言について今一つ要領を得ていない様子だ。
「瀬名さんの手伝い、引き受けた以上はちゃんとやり遂げたいっつか。バイトとかが入る場合もあるけど、それ以外なら優先して俺も手伝うし」
「そ、それは……私がやるべきことを、対価もなしに押し付けているようで、嫌だ」
「人頼るのド下手か」
思わず陽介は半目になった。ウグッと、彼女は言葉を詰まらせる。どうやら図星のようだ。山のようなパンフを一人で作ろうとしたりと、人との関りを厭う弊害だろう。
陽介はため息をつき、瑞月に向けてはにかんだ。
「押し付けるも何もないだろ。俺は瀬名さんの手伝いだし。それに、さっきも言ったように、あー、生半可な気持ちで引き受けたわけじゃねーから。むしろ大船に乗ったつもりで頼ってくれよってな!」
「あまり大きな口を叩くと良くないのでは? 花村くん」
「こ、こうゆーのは気持ちが大事なんだってば!!」
「それもそうだな。きみの気持ちは確かに先ほど見たとも」
瑞月は2回ほど頷いた。どうやら、彼女は陽介を認めてくれたらしい。陽介自身、それを嫌だとは思わなかった。
瀬名瑞月という人間は、ドライに見えて義理堅い人間らしい。陽介の行った仕事も、正当な基準で受け入れてくれている。メールアドレスを交換したときと比べると、瑞月は陽介と僅かずつだけれど打ち解けている気がした。
「さて、時間を拝借したな。失礼した。下校時間も近い。夜道には気を付けて帰るように。八十稲羽の通学路は暗いからな」
「そういう瀬名さんは、一人で帰んのか?」
「ああ、時間を取りそうな私用があるんだ。君は気にしなくていい」
もう行くんだ。と瑞月に促され、陽介は八十神高校を後にした。お礼としてもらった『やそぜんざい』はちょうどいい熱さに落ち着いている。
通学路にて自転車を引きながら、陽介はそれを飲んだ。なかなかに、謎のとろみの効いた甘さが病みつきになる飲み物である。意外にも悪くないなと思いながら、陽介は『やそぜんざい』を仰いだ。