一陽来復
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瑞月はといえば陽介から早々に視線を外し、パンフとなるプリントを折り出す。彼女の中では、陽介はすでに帰宅する人間として判定されているらしい。瑞月は一人で作業を続行するつもりで、陽介に助力を請おうとはしない。
このまま、陽介が何も見なかったふりをして教室を去ろうと、瑞月は何も言わないのだろう。
(けど、それは薄情じゃないか?)
陽介はグッと拳を握りしめる。足を動かし、複合テーブルを軸に瑞月とは反対の位置に歩み寄る。
「なぁ、それ、手伝っていいか?」
「なぜ? これは私の仕事だ。きみが手伝う必要はないだろう。それに、面倒な作業だ。かなり時間もかかる。同情なら断る」
瑞月の怜悧な瞳が陽介を射抜く。あまりに冷たい声音に、陽介がいい加減な人間だと遠回しに告げられている気がしてくる。陽介はムッとした。
普段なら笑って受け流せるが、陽介はモロキンの説教もあって気が立っている。勇気を振り絞って告げた提案をはねつけた瑞月に、陽介は口角を引きつらせる。
「あのな……人の申し出は素直に受け取っとけって。それに、瀬名さんに関係してる仕事なら、俺だって無関係じゃないだろ。俺は瀬名さんの手伝い引き受けたわけだし。……終わらせずに投げ出すなんて、みっともねーマネしねーよ」
瑞月が寒色の瞳を丸くした。近くにあった椅子を掴んで、陽介は強引に腰かける。
陽介はやけになっていた。こうなったら、何が何でも瑞月を手伝うつもりだった。モロキンに加え、瑞月にも言われっぱなしのまま帰宅というのは、何ともカッコ悪いと意地になっていたのである。
完成済みのパンフレットに目を通し、陽介は構造を頭に入れた。長編の中央を折り、真ん中2か所をホッチキスで止めるようだ。ページとなるプリントは全部で6種類。
「まず、ココにあるプリントを全部折ればいーのな。中央揃えるために」
「……ああ、そうだが」
「なら3つのプリントは俺が折るわ。したらホッチキスで止めるなりなんなりすりゃいいだろ。合ってっか?」
「合っている。全ての紙を折ってからホチキスでまとめる流れも」
「OK。じゃ、サッサとやろうぜ」
陽介は右側にあったプリント3種を引き寄せ、角を合わせて折っていく。陽介にしては珍しく、会話は無しで作業に集中する。
もともと文化祭の終了までの仲だと瑞月が宣言しているのだ。陽介と仲良くなるつもりがないのなら、話しても仕方がない。加えて作業に集中しろというのなら、無言が最適だ。
陽介は黙々と折り紙を続けてゆく。対する瑞月も作業を再開したらしい。紙を折る速度は陽介よりも上だ。
自分を無碍にした相手に負けられないと、陽介もまた正確さはそのままに折るスピードを上げていった。
事故以外で陽介を何も知らない相手に啖呵を切った以上、負けるわけにはいかない。
しかし、瑞月には一向として敵わない。もともと速かったが、陽介が強引に割り込む前よりも作業スピードが速くなっている。思わず視界に入った瑞月は、瞳の光をさらに鋭くして目の前の紙の山を次々と崩していく。まるで、陽介には負けないと示しているかのようだ。
(ただ紙折ってるだけなのに、すげー真剣じゃんか)
単調な作業に没頭していくうちに、陽介はいつの間にか楽しくなっていた。紙と手と机がすれる単調な音が、2人の集中力を研いでゆく。競い合ううちに、いつの間にか2人はプリントをすっかり折り終わっていた。
「ホチキスと紙。どちらをやりたい」
「じゃ、ホチキス」
短いやり取りの後、二人は構える。瑞月がページをまとめ、陽介がホチキスでそれを留めていく。途切れなく、端を揃えてプリントを突き出してくる瑞月の手つきは、まるでキレのいい正拳突きだ。
陽介は後れを取らないように必死でプリントを受け止める。単調な作業には似合わない、まるで戦場のような空気の中で、2人は次々とパンフレットを生産する。
このまま、陽介が何も見なかったふりをして教室を去ろうと、瑞月は何も言わないのだろう。
(けど、それは薄情じゃないか?)
陽介はグッと拳を握りしめる。足を動かし、複合テーブルを軸に瑞月とは反対の位置に歩み寄る。
「なぁ、それ、手伝っていいか?」
「なぜ? これは私の仕事だ。きみが手伝う必要はないだろう。それに、面倒な作業だ。かなり時間もかかる。同情なら断る」
瑞月の怜悧な瞳が陽介を射抜く。あまりに冷たい声音に、陽介がいい加減な人間だと遠回しに告げられている気がしてくる。陽介はムッとした。
普段なら笑って受け流せるが、陽介はモロキンの説教もあって気が立っている。勇気を振り絞って告げた提案をはねつけた瑞月に、陽介は口角を引きつらせる。
「あのな……人の申し出は素直に受け取っとけって。それに、瀬名さんに関係してる仕事なら、俺だって無関係じゃないだろ。俺は瀬名さんの手伝い引き受けたわけだし。……終わらせずに投げ出すなんて、みっともねーマネしねーよ」
瑞月が寒色の瞳を丸くした。近くにあった椅子を掴んで、陽介は強引に腰かける。
陽介はやけになっていた。こうなったら、何が何でも瑞月を手伝うつもりだった。モロキンに加え、瑞月にも言われっぱなしのまま帰宅というのは、何ともカッコ悪いと意地になっていたのである。
完成済みのパンフレットに目を通し、陽介は構造を頭に入れた。長編の中央を折り、真ん中2か所をホッチキスで止めるようだ。ページとなるプリントは全部で6種類。
「まず、ココにあるプリントを全部折ればいーのな。中央揃えるために」
「……ああ、そうだが」
「なら3つのプリントは俺が折るわ。したらホッチキスで止めるなりなんなりすりゃいいだろ。合ってっか?」
「合っている。全ての紙を折ってからホチキスでまとめる流れも」
「OK。じゃ、サッサとやろうぜ」
陽介は右側にあったプリント3種を引き寄せ、角を合わせて折っていく。陽介にしては珍しく、会話は無しで作業に集中する。
もともと文化祭の終了までの仲だと瑞月が宣言しているのだ。陽介と仲良くなるつもりがないのなら、話しても仕方がない。加えて作業に集中しろというのなら、無言が最適だ。
陽介は黙々と折り紙を続けてゆく。対する瑞月も作業を再開したらしい。紙を折る速度は陽介よりも上だ。
自分を無碍にした相手に負けられないと、陽介もまた正確さはそのままに折るスピードを上げていった。
事故以外で陽介を何も知らない相手に啖呵を切った以上、負けるわけにはいかない。
しかし、瑞月には一向として敵わない。もともと速かったが、陽介が強引に割り込む前よりも作業スピードが速くなっている。思わず視界に入った瑞月は、瞳の光をさらに鋭くして目の前の紙の山を次々と崩していく。まるで、陽介には負けないと示しているかのようだ。
(ただ紙折ってるだけなのに、すげー真剣じゃんか)
単調な作業に没頭していくうちに、陽介はいつの間にか楽しくなっていた。紙と手と机がすれる単調な音が、2人の集中力を研いでゆく。競い合ううちに、いつの間にか2人はプリントをすっかり折り終わっていた。
「ホチキスと紙。どちらをやりたい」
「じゃ、ホチキス」
短いやり取りの後、二人は構える。瑞月がページをまとめ、陽介がホチキスでそれを留めていく。途切れなく、端を揃えてプリントを突き出してくる瑞月の手つきは、まるでキレのいい正拳突きだ。
陽介は後れを取らないように必死でプリントを受け止める。単調な作業には似合わない、まるで戦場のような空気の中で、2人は次々とパンフレットを生産する。