friendship
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自宅に帰った陽介は、2階の自室にて本日の戦利品をローテーブルの上に広げた。千枝から貰った肉ガム、雪子がくれたあられ菓子、パートのおばちゃんから貰ったチョコレートの数々に、瑞月から貰った『友チョコ』、それから小西先輩から貰った同情(?)チョコだ。
とりあえず中身のわかっているものは除外して、先輩から貰ったボックスを開ける。瑞月のは、開けるのが躊躇われた。
『────言わない。花村がその目で確かめるといい』
そういたずらっぽく、けれど自信満々に笑った瑞月が忘れられなかったのだ。ははん、そんなに言うなら後回しにしてやろうと、陽介はシメシメ企んだのである。
「さて、じゃ、先輩から貰ったやつ……」
先輩から貰ったものは、ブラウニーであった。きれいに包装されたラッピングから、ザクザクに刻まれたナッツが香ばしく漂って、思わず陽介の顔がにやける。片恋の相手から手作りのお菓子を貰えた。今にも躍り上がりそうな気分だ。
陽介は急に、食べるのが惜しくなってきた。そうだ、どうせなら好きな人から貰ったものは最後がいい。ブラウニーをローテーブルに乗せ、瑞月から貰った『友チョコ』のショッパーに手をかけた。口を閉じるテープを慎重に剥ぐ。
箱の中を見て、陽介は息を止めた。
瑞月の『友チョコ』のなかには、3つの包装と手紙が入っている。
ひとつめ、プラスチックのケースを陽介は慎重に掴み上げる。ポップな、明らかに子供向けとわかる一口チョコの詰め合わせだ。大人気の幼児向けアニメ『魔女探偵 ラブリーン』がパッケージに描かれている。くくりつけられた、同じくラブリーンが刻まれたメモ帳を開くと、『陽介おにいちゃん、あそんでくれて ありがとう』と元気な文字が跳び跳ねている。幼いその字を書いたのは、きっと瑞月の妹である佳菜だ。
ふたつめ、アイスのピノを大きくして木ベラを挿したようなお菓子の詰め合わせを手に取る。リボンでくくりつけられたメッセージカードには『娘たちと仲良くしてくれてありがとうございます。これはショコラ・ショーといって、ホットミルクに溶かして飲むチョコレートです。疲れたときにどうぞ 瀬名 水奈子』と流麗な文字で書かれていた。水奈子とは、瑞月の母親だ。
最後にみっつめ、瑞月がくれたであろう『友チョコ』──アルミ缶を手に取る。蓋を開けてみると、ふわりと果実の甘い香りが漂う。たしかにそれはチョコではなかった。
小さな飴だ。紅、黄色、翠、紫と、コロンとしたビー玉のように、彩り豊かなフルーツキャンディたちが、まるで宝石箱のようににぎやかに敷き詰められている。
フルーツキャンディ──陽介の好物だ。
バレンタインだというのに、千枝たちに渡したドーナツといい、陽介にくれたキャンディといい、瑞月の『友チョコ』はどうしてかチョコではなかった。
瑞月は多分、チョコよりも、それを贈られた人について考えたのだろう。千枝と雪子にあげた豆腐ドーナツも、陽介にくれたキャンディも。どうすれば、その人が喜んでくれるのか。
言葉も忘れた陽介の目に、一つのメッセージカードが飛び込んでくる。白地に縁の観葉植物が印刷された、爽やかなカードには几帳面な筆跡でこう書かれていた。
『花村陽介くんへ
ハッピーバレンタイン、花村くん。家族以外に贈り物をするのは慣れていないので、おかしな点があったのなら、どうか笑って見逃していただきたい。
佳菜とお母さんもお世話になったあなたに『友チョコ』を贈りたいとのことでしたので、サプライズで同封させていただきました。
日頃、お世話になっているあなたに、私からはキャンディを贈ります。チョコばかり食べていたら、きっと他のものが食べたくなるでしょうから。ハチミツ入りらしいので、のど飴が好きなあなたに良いかと選びました。
私が困ると背中を押して支えてくれる優しいあなたに、いつも助けられています。
ありがとう。
そして親友として、これからも仲良くしてくれると嬉しく思います。それではどうか、今後ともよろしく。
じんわりと、陽介の胸の奥が甘く痺れる。喉がつまって、陽介は思わず、メッセージカードを胸のなかへかたく抱きしめた。カードからかすかに香る、彼女の花のような気配に陽介はぐずりと鼻を鳴らす。
甘い夢なんて、とんでもない。高校一年生のバレンタインは、陽介にとってかけがえのない、親友を手にいれた日だった。
こらえる喉が痛くなって、陽介は瑞月のフルーツキャンディに手を伸ばす。口に含むと、レモンの爽やかな香りと、すっと沁みていくような甘酸っぱさに満たされた。
とりあえず中身のわかっているものは除外して、先輩から貰ったボックスを開ける。瑞月のは、開けるのが躊躇われた。
『────言わない。花村がその目で確かめるといい』
そういたずらっぽく、けれど自信満々に笑った瑞月が忘れられなかったのだ。ははん、そんなに言うなら後回しにしてやろうと、陽介はシメシメ企んだのである。
「さて、じゃ、先輩から貰ったやつ……」
先輩から貰ったものは、ブラウニーであった。きれいに包装されたラッピングから、ザクザクに刻まれたナッツが香ばしく漂って、思わず陽介の顔がにやける。片恋の相手から手作りのお菓子を貰えた。今にも躍り上がりそうな気分だ。
陽介は急に、食べるのが惜しくなってきた。そうだ、どうせなら好きな人から貰ったものは最後がいい。ブラウニーをローテーブルに乗せ、瑞月から貰った『友チョコ』のショッパーに手をかけた。口を閉じるテープを慎重に剥ぐ。
箱の中を見て、陽介は息を止めた。
瑞月の『友チョコ』のなかには、3つの包装と手紙が入っている。
ひとつめ、プラスチックのケースを陽介は慎重に掴み上げる。ポップな、明らかに子供向けとわかる一口チョコの詰め合わせだ。大人気の幼児向けアニメ『魔女探偵 ラブリーン』がパッケージに描かれている。くくりつけられた、同じくラブリーンが刻まれたメモ帳を開くと、『陽介おにいちゃん、あそんでくれて ありがとう』と元気な文字が跳び跳ねている。幼いその字を書いたのは、きっと瑞月の妹である佳菜だ。
ふたつめ、アイスのピノを大きくして木ベラを挿したようなお菓子の詰め合わせを手に取る。リボンでくくりつけられたメッセージカードには『娘たちと仲良くしてくれてありがとうございます。これはショコラ・ショーといって、ホットミルクに溶かして飲むチョコレートです。疲れたときにどうぞ 瀬名 水奈子』と流麗な文字で書かれていた。水奈子とは、瑞月の母親だ。
最後にみっつめ、瑞月がくれたであろう『友チョコ』──アルミ缶を手に取る。蓋を開けてみると、ふわりと果実の甘い香りが漂う。たしかにそれはチョコではなかった。
小さな飴だ。紅、黄色、翠、紫と、コロンとしたビー玉のように、彩り豊かなフルーツキャンディたちが、まるで宝石箱のようににぎやかに敷き詰められている。
フルーツキャンディ──陽介の好物だ。
バレンタインだというのに、千枝たちに渡したドーナツといい、陽介にくれたキャンディといい、瑞月の『友チョコ』はどうしてかチョコではなかった。
瑞月は多分、チョコよりも、それを贈られた人について考えたのだろう。千枝と雪子にあげた豆腐ドーナツも、陽介にくれたキャンディも。どうすれば、その人が喜んでくれるのか。
言葉も忘れた陽介の目に、一つのメッセージカードが飛び込んでくる。白地に縁の観葉植物が印刷された、爽やかなカードには几帳面な筆跡でこう書かれていた。
『花村陽介くんへ
ハッピーバレンタイン、花村くん。家族以外に贈り物をするのは慣れていないので、おかしな点があったのなら、どうか笑って見逃していただきたい。
佳菜とお母さんもお世話になったあなたに『友チョコ』を贈りたいとのことでしたので、サプライズで同封させていただきました。
日頃、お世話になっているあなたに、私からはキャンディを贈ります。チョコばかり食べていたら、きっと他のものが食べたくなるでしょうから。ハチミツ入りらしいので、のど飴が好きなあなたに良いかと選びました。
私が困ると背中を押して支えてくれる優しいあなたに、いつも助けられています。
ありがとう。
そして親友として、これからも仲良くしてくれると嬉しく思います。それではどうか、今後ともよろしく。
瀬名瑞月』
じんわりと、陽介の胸の奥が甘く痺れる。喉がつまって、陽介は思わず、メッセージカードを胸のなかへかたく抱きしめた。カードからかすかに香る、彼女の花のような気配に陽介はぐずりと鼻を鳴らす。
甘い夢なんて、とんでもない。高校一年生のバレンタインは、陽介にとってかけがえのない、親友を手にいれた日だった。
こらえる喉が痛くなって、陽介は瑞月のフルーツキャンディに手を伸ばす。口に含むと、レモンの爽やかな香りと、すっと沁みていくような甘酸っぱさに満たされた。