一陽来復
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10月15日 金曜日
放課後の廊下には誰にもいない。それもそのはず。最後の授業が終わってから、かなりの時間が過ぎているのだから。
陽介は左手に持ったノートに恨めし気な視線を送る。ノートの内側には、明日提出しなければならないプリントが挟まれてる。
あろうことか、陽介はそれを別教室に忘れてしまったのだ。校内を探し回った末、最後に立ち寄った職員室に届けられていたというオチである。
不運にも、受け渡しに応じた教師が諸岡──モロキンであった。ねちねちとした小言が、今も頭の中を回って陽介はげんなりする。
「モロキンの説教が長引かなきゃ、早く帰れたんだけどな……」
せっかくバイトが休みだというのに、ツイてない。ため息とともに独り言を吐き出し、塗装の禿げた教室のドアを開く。教室に誰もいないだろうとの陽介の予想は裏切られた。
窓際にて、夕日を羽織った誰かがぽつねんと佇んでいる。夕日を羽織る、というのは彼女が着用するパールホワイトのマウンテンパーカーに、秋の暮が反射しているせいだ。思わず、陽介は口を開いた。
「瀬名さん?」
「ん? ……花村くん」
女生徒——瀬名瑞月が振り返った。珍しさに、陽介は思わず瑞月をまじまじと見てしまった。教室に最低限しかいない瑞月は、放課後もすぐに帰宅してしまうのが常である。つい気になった陽介は、瑞月に不思議そうな様子で声をかける。
「瀬名さんが居残りなんて、珍しーこともあんだな。何してんの」
「文化祭実行委員の仕事だ。来客用のパンフレットを作成している」
身じろいだ瑞月の先──いくつかの机が組み合わされた複合テーブルには、紙の束と小冊子が積みあがっている。瑞月の両手は机の上に置かれ、緑色の色上質紙を折っていた。
なるほど、と陽介は納得する。放課後もすぐに姿を消してしまう瑞月がわざわざ教室に残っていた理由は文化祭準備のためだった。
「君はいま帰りか。気を付けて」
「ああ、じゃあな。──って、ちょっと待て!」
陽介は手に持っていたノートを掲げ──自分の席へと置いた。危うく、ごく自然に別れを告げた瑞月のペースに飲まれるところだった。
「パンフづくり、一人でやってんの? 見るからに量多いけど」
「そうだが? 私の請け負った仕事なのでな。最後までやるとも」
瑞月は無表情で小首を傾げる。対する陽介は、瑞月の眼前にうず高く積まれた紙束に内心頬を引きつらせた。明らかに一人では苦戦する作業量が予想される。
生まれつきおせっかいな性分から、陽介としてはどうも気にかかる案件だ。相手が陽介を助けてくれた人ならば、なおさら。
放課後の廊下には誰にもいない。それもそのはず。最後の授業が終わってから、かなりの時間が過ぎているのだから。
陽介は左手に持ったノートに恨めし気な視線を送る。ノートの内側には、明日提出しなければならないプリントが挟まれてる。
あろうことか、陽介はそれを別教室に忘れてしまったのだ。校内を探し回った末、最後に立ち寄った職員室に届けられていたというオチである。
不運にも、受け渡しに応じた教師が諸岡──モロキンであった。ねちねちとした小言が、今も頭の中を回って陽介はげんなりする。
「モロキンの説教が長引かなきゃ、早く帰れたんだけどな……」
せっかくバイトが休みだというのに、ツイてない。ため息とともに独り言を吐き出し、塗装の禿げた教室のドアを開く。教室に誰もいないだろうとの陽介の予想は裏切られた。
窓際にて、夕日を羽織った誰かがぽつねんと佇んでいる。夕日を羽織る、というのは彼女が着用するパールホワイトのマウンテンパーカーに、秋の暮が反射しているせいだ。思わず、陽介は口を開いた。
「瀬名さん?」
「ん? ……花村くん」
女生徒——瀬名瑞月が振り返った。珍しさに、陽介は思わず瑞月をまじまじと見てしまった。教室に最低限しかいない瑞月は、放課後もすぐに帰宅してしまうのが常である。つい気になった陽介は、瑞月に不思議そうな様子で声をかける。
「瀬名さんが居残りなんて、珍しーこともあんだな。何してんの」
「文化祭実行委員の仕事だ。来客用のパンフレットを作成している」
身じろいだ瑞月の先──いくつかの机が組み合わされた複合テーブルには、紙の束と小冊子が積みあがっている。瑞月の両手は机の上に置かれ、緑色の色上質紙を折っていた。
なるほど、と陽介は納得する。放課後もすぐに姿を消してしまう瑞月がわざわざ教室に残っていた理由は文化祭準備のためだった。
「君はいま帰りか。気を付けて」
「ああ、じゃあな。──って、ちょっと待て!」
陽介は手に持っていたノートを掲げ──自分の席へと置いた。危うく、ごく自然に別れを告げた瑞月のペースに飲まれるところだった。
「パンフづくり、一人でやってんの? 見るからに量多いけど」
「そうだが? 私の請け負った仕事なのでな。最後までやるとも」
瑞月は無表情で小首を傾げる。対する陽介は、瑞月の眼前にうず高く積まれた紙束に内心頬を引きつらせた。明らかに一人では苦戦する作業量が予想される。
生まれつきおせっかいな性分から、陽介としてはどうも気にかかる案件だ。相手が陽介を助けてくれた人ならば、なおさら。