最悪の出会い
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十月九日 土曜日
花村陽介は自身の不運を呪った。強く地面に叩きつけられた影響で、身体が動かない。十月の雨は冷たく、身体から容赦なく体温を奪う。さらに強く打ちすえた全身はじんじんと疼痛を訴えかけた。はっきり言って、とても不快だ。
雨の降る学校帰り、陽介は自転車を飛ばした。片手で傘を差しながら。通行人がいれば迷惑極まりない行為だが、陽介の引っ越してきた田舎──八十稲羽 はいつも道が閑散としている。おまけに道が広い。交通量も少ないし、狭い道路を人がごった返していた転校前の都会とは大違いだ。
そんな、わびしい大道路だ。解放感から、自転車のギアを上げたくもなる。どうせ通行人もいないだろうし、乗り慣れた自転車なら大事には至らないという驕りがあった。それが仇だったのだろう。惨事が陽介に降りかかった。
自転車のタイヤが何か──おそらくビニール──に引っ掛かり、陽介は転倒した。投げ出された身体はアスファルトに激突し、呻く余裕すらなく痛い。
「……ッ……ぐ、ゥ……」
重ねて、偶然にも通行人を巻き込んだ。
サドルから離れて反転する陽介の視界が、すっ飛んでいく自転車が大きな水たまりに突っ込むシーンを捉える。
反動によって跳ねた水しぶきが、前方を歩いていた通行人に頭からかかった。傘の合間を縫った軌道は、何かの悪意か。
相手が羽織っていたマウンテンパーカ―がぐしょりと重く垂れる。水を被った通行人が硬直した。
陽介は謝りたいけれども、声をあげられない。
水濡れになった通行人はぎこちなく後ろを振り向いた。角ばった動きが油の切れたロボットじみている。そして陽介を発見すると、また身体を硬直させた。だが一瞬の静止ののち、弾かれたように、彼女は陽介の下へと走ってくる。
「────! ────!」
かがみこんだ通行人が陽介に大声で呼びかけてきた。だが、ひどい頭痛の影響で言葉の意味を聞き取れない。そして、ついぞ反応のない陽介の顔を通行人がのぞき込む。相手を認識した陽介が、今度は硬直する番だった。
陽介が水濡れにした相手は、クラスメイトだ。冴え冴えとした寒色の瞳が陽介の視線とかち合う。すっかり冷え切った陽介の頬にふわりと微かなぬくもりが触れた。
そこで、陽介の記憶は途切れている。
花村陽介は自身の不運を呪った。強く地面に叩きつけられた影響で、身体が動かない。十月の雨は冷たく、身体から容赦なく体温を奪う。さらに強く打ちすえた全身はじんじんと疼痛を訴えかけた。はっきり言って、とても不快だ。
雨の降る学校帰り、陽介は自転車を飛ばした。片手で傘を差しながら。通行人がいれば迷惑極まりない行為だが、陽介の引っ越してきた田舎──
そんな、わびしい大道路だ。解放感から、自転車のギアを上げたくもなる。どうせ通行人もいないだろうし、乗り慣れた自転車なら大事には至らないという驕りがあった。それが仇だったのだろう。惨事が陽介に降りかかった。
自転車のタイヤが何か──おそらくビニール──に引っ掛かり、陽介は転倒した。投げ出された身体はアスファルトに激突し、呻く余裕すらなく痛い。
「……ッ……ぐ、ゥ……」
重ねて、偶然にも通行人を巻き込んだ。
サドルから離れて反転する陽介の視界が、すっ飛んでいく自転車が大きな水たまりに突っ込むシーンを捉える。
反動によって跳ねた水しぶきが、前方を歩いていた通行人に頭からかかった。傘の合間を縫った軌道は、何かの悪意か。
相手が羽織っていたマウンテンパーカ―がぐしょりと重く垂れる。水を被った通行人が硬直した。
陽介は謝りたいけれども、声をあげられない。
水濡れになった通行人はぎこちなく後ろを振り向いた。角ばった動きが油の切れたロボットじみている。そして陽介を発見すると、また身体を硬直させた。だが一瞬の静止ののち、弾かれたように、彼女は陽介の下へと走ってくる。
「────! ────!」
かがみこんだ通行人が陽介に大声で呼びかけてきた。だが、ひどい頭痛の影響で言葉の意味を聞き取れない。そして、ついぞ反応のない陽介の顔を通行人がのぞき込む。相手を認識した陽介が、今度は硬直する番だった。
陽介が水濡れにした相手は、クラスメイトだ。冴え冴えとした寒色の瞳が陽介の視線とかち合う。すっかり冷え切った陽介の頬にふわりと微かなぬくもりが触れた。
そこで、陽介の記憶は途切れている。
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