向き合う2人
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瑞月がおずおずと、片足を立ててしゃがむ陽介のもとへ膝を寄せた。そのまま姿勢を正すが、陽介と目が合わないようにしている。両手で陽介のお気に入りのUネックを抱えたまま。
陽介が自室に入ったとき、瑞月はきれいに畳まれた洗濯物の脇で寝こけていた。
Uネックを抱きしめた状態で。
もちろん陽介はフリーズした。そして冷蔵庫に買ってきた食料品を詰めた。冷静になるための処置である。アイスティーは仕方がないので、連れていく。
そしてもう一度、自室の彼女をチェック。炎天の幻ではなかった。胎児のように丸くなって、Uネックを口元に当てた瑞月が寝息を立てていたのである。
どうして、恋人は俺のTシャツを抱き締めているのか。
無言でアイスティーをローテーブルに置く。
内緒で写真を撮った。彼女が知ったら絶対に消されるので、心のお口をチャックする。もっと眺めていたかったけれど、瑞月が身体を痛めてはいけないので起こしたのだった。フローリングの床がこの時ばかりは恨めしい。
起き上がった瑞月の頬はまだ赤い。俯いて目を合わせてくれない。このままだと、ずっと瑞月からは喋りそうにないので、陽介からネタを提供することにした。
「そのTシャツさ……」
ゆっくりと、彼女は顔をあげた。顔の赤みは先ほどよりいくらか引いている。あいまいに語尾を濁して、瑞月が先を言うよう陽介は誘導してみる。
「……洗濯を済ませたものの、一枚だったが、見ての通り、しわがついてしまっている。私も少し汗をかいたので、陽介にはすまないが、もう一度、洗いなおしてほしい」
ひらりと矛先をかわされた。陽介が聞きたかったのは、Tシャツの状態ではない。質問を変える。
「冷房、つけてないけど、寝てて大丈夫だったか?」
「今日は、風が涼しかったから……昨日夜中まで起きてたから、眠気を誘われて寝てしまったんだ……」
これも避けられた。瑞月はUネックを抱いていた理由を頑なに話そうとしない。はぁああああと、陽介は盛大なため息をつく。びくりと瑞月の肩が揺れた。ストレートに聞くしかないらしい。改まって、陽介は姿勢を正した。
「瑞月」
「はい」
「お前、口元に、俺のUネック当てて寝てたよな」
「……はい」
案外、素直に瑞月は肯定した。俯いた表情が暗くかげる、陽介は確信した。瑞月はUネックへの所業に罪悪感を覚えている。
しわを付けたことを気にしているとしたら、すこし態度が大げさすぎる。顔を赤らめた理由も説明がつかない。
「理由を聞かせて貰おうか」
「……言えない」
瑞月は膝の上で拳を強く握っていた。沈んだ表情で陽介の喉元あたりに視線を向けていた。
「いえねーような理由なんか?」
「言えない、恥ずかしいのだ。……言ったらきっと、私はおまえさまに幻滅される」
それだけ言うと、瑞月は再びうつむいた。ウソは言わずも本心を話す気もなく、頑なに口を閉ざそうとしている。
「俺は、嬉しかったよ」
だから、陽介は恥ずかしいけれど本音を晒すことにした。瑞月がたちまち顔をあげた。その瞳は大きく開かれて陽介を見つめている。
「瑞月が俺の服、口元に当ててさ。自惚れかもしれないけど、俺がいなくて寂しかったのかなって思っちまった……。俺も瑞月と一緒にいられなくて、その、寂しかったから……」
自惚れにしてもしゃべりすぎた……と、陽介は口元を手のひらで覆った。寂しかったとか、彼氏にしては頼りがなくて残念過ぎる。
ガッカリ王子という高校時代のあだ名は健在である。あまりにもいたたまれなくて、頬をかいた。
「悪ィ、もう昼だろ。お詫びにメシ買ってきたから食お——」
「自惚れではない」
立ち上がろうとした陽介を、瑞月がその手を握って制した。瑞月はそろりと陽介と目線を合わせる。おもむろに、彼女は口を開いた。
「わたしも、おまえさまと過ごせない日々が辛かった。その寂しさを紛らわすために、……服の匂いを嗅いだ。私しか知らないおまえさまの匂いを感じて、独占欲を満たしたかった。私の方がよほど寂しがりやで……卑しい。だから、陽介が寂しさを感じたとしても、恥じることではない」
思わぬ爆弾を陽介は真正面から食らう。さっきまで恋人に情けない姿を見せて凹んだというのに、今は心が浮き立っている。
瑞月が自分にしか見せない、劣情も含んだ陽介への強い恋慕。ジワリと心の一部分が満たされていく感覚。陽介もまた、己の独占欲が満たされていく感覚に高鳴った。
「そんなに、俺が恋しかった?」
言っていて自分でイタいと思った。それでも一度高ぶった気持ちは止まらない。重なっていた瑞月の手をほどき、指の一本一本をゆっくりと絡めていく。互いの汗が手のひらになじむ。
それは合図だった。瑞月と陽介だけにしか分からない、恋人同士のやりとり。絡ませた指を瑞月はゆっくりと口元に持っていく。
「会えない日々が続いたからな……積もるものもある」
瑞月は陽介の指に口づける。そして、ほんのすこし上目遣いで陽介を睨んだ。瑞月の白い頬は再び紅く染まっている。言葉と行動に、待ちこがれた寂しさとこれからすることへの期待がにじんでいた。
その目を見たらダメだった。陽介の理性は決壊する。空いた手で彼女の顔を捉え、唇を性急に重ねる。瑞月は片腕を陽介の背中へと回した。
陽介が自室に入ったとき、瑞月はきれいに畳まれた洗濯物の脇で寝こけていた。
Uネックを抱きしめた状態で。
もちろん陽介はフリーズした。そして冷蔵庫に買ってきた食料品を詰めた。冷静になるための処置である。アイスティーは仕方がないので、連れていく。
そしてもう一度、自室の彼女をチェック。炎天の幻ではなかった。胎児のように丸くなって、Uネックを口元に当てた瑞月が寝息を立てていたのである。
どうして、恋人は俺のTシャツを抱き締めているのか。
無言でアイスティーをローテーブルに置く。
内緒で写真を撮った。彼女が知ったら絶対に消されるので、心のお口をチャックする。もっと眺めていたかったけれど、瑞月が身体を痛めてはいけないので起こしたのだった。フローリングの床がこの時ばかりは恨めしい。
起き上がった瑞月の頬はまだ赤い。俯いて目を合わせてくれない。このままだと、ずっと瑞月からは喋りそうにないので、陽介からネタを提供することにした。
「そのTシャツさ……」
ゆっくりと、彼女は顔をあげた。顔の赤みは先ほどよりいくらか引いている。あいまいに語尾を濁して、瑞月が先を言うよう陽介は誘導してみる。
「……洗濯を済ませたものの、一枚だったが、見ての通り、しわがついてしまっている。私も少し汗をかいたので、陽介にはすまないが、もう一度、洗いなおしてほしい」
ひらりと矛先をかわされた。陽介が聞きたかったのは、Tシャツの状態ではない。質問を変える。
「冷房、つけてないけど、寝てて大丈夫だったか?」
「今日は、風が涼しかったから……昨日夜中まで起きてたから、眠気を誘われて寝てしまったんだ……」
これも避けられた。瑞月はUネックを抱いていた理由を頑なに話そうとしない。はぁああああと、陽介は盛大なため息をつく。びくりと瑞月の肩が揺れた。ストレートに聞くしかないらしい。改まって、陽介は姿勢を正した。
「瑞月」
「はい」
「お前、口元に、俺のUネック当てて寝てたよな」
「……はい」
案外、素直に瑞月は肯定した。俯いた表情が暗くかげる、陽介は確信した。瑞月はUネックへの所業に罪悪感を覚えている。
しわを付けたことを気にしているとしたら、すこし態度が大げさすぎる。顔を赤らめた理由も説明がつかない。
「理由を聞かせて貰おうか」
「……言えない」
瑞月は膝の上で拳を強く握っていた。沈んだ表情で陽介の喉元あたりに視線を向けていた。
「いえねーような理由なんか?」
「言えない、恥ずかしいのだ。……言ったらきっと、私はおまえさまに幻滅される」
それだけ言うと、瑞月は再びうつむいた。ウソは言わずも本心を話す気もなく、頑なに口を閉ざそうとしている。
「俺は、嬉しかったよ」
だから、陽介は恥ずかしいけれど本音を晒すことにした。瑞月がたちまち顔をあげた。その瞳は大きく開かれて陽介を見つめている。
「瑞月が俺の服、口元に当ててさ。自惚れかもしれないけど、俺がいなくて寂しかったのかなって思っちまった……。俺も瑞月と一緒にいられなくて、その、寂しかったから……」
自惚れにしてもしゃべりすぎた……と、陽介は口元を手のひらで覆った。寂しかったとか、彼氏にしては頼りがなくて残念過ぎる。
ガッカリ王子という高校時代のあだ名は健在である。あまりにもいたたまれなくて、頬をかいた。
「悪ィ、もう昼だろ。お詫びにメシ買ってきたから食お——」
「自惚れではない」
立ち上がろうとした陽介を、瑞月がその手を握って制した。瑞月はそろりと陽介と目線を合わせる。おもむろに、彼女は口を開いた。
「わたしも、おまえさまと過ごせない日々が辛かった。その寂しさを紛らわすために、……服の匂いを嗅いだ。私しか知らないおまえさまの匂いを感じて、独占欲を満たしたかった。私の方がよほど寂しがりやで……卑しい。だから、陽介が寂しさを感じたとしても、恥じることではない」
思わぬ爆弾を陽介は真正面から食らう。さっきまで恋人に情けない姿を見せて凹んだというのに、今は心が浮き立っている。
瑞月が自分にしか見せない、劣情も含んだ陽介への強い恋慕。ジワリと心の一部分が満たされていく感覚。陽介もまた、己の独占欲が満たされていく感覚に高鳴った。
「そんなに、俺が恋しかった?」
言っていて自分でイタいと思った。それでも一度高ぶった気持ちは止まらない。重なっていた瑞月の手をほどき、指の一本一本をゆっくりと絡めていく。互いの汗が手のひらになじむ。
それは合図だった。瑞月と陽介だけにしか分からない、恋人同士のやりとり。絡ませた指を瑞月はゆっくりと口元に持っていく。
「会えない日々が続いたからな……積もるものもある」
瑞月は陽介の指に口づける。そして、ほんのすこし上目遣いで陽介を睨んだ。瑞月の白い頬は再び紅く染まっている。言葉と行動に、待ちこがれた寂しさとこれからすることへの期待がにじんでいた。
その目を見たらダメだった。陽介の理性は決壊する。空いた手で彼女の顔を捉え、唇を性急に重ねる。瑞月は片腕を陽介の背中へと回した。