待つ彼女
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「……やはり、大学に同行すべきだったか」
洗濯機に衣類を入れながら、瑞月は悔い気味に独りごちた。一般からすれば、その言葉は束縛が強いと引かれるかもしれない。けれど瑞月には訳があった。
何故って、陽介が遅れると連絡した場合、その遅れ幅が半端ではなく長くなるのだ。原因は決して本人の惰性ではない。それは陽介が人に絡まれやすい性質であったり、間の悪さであったり、複数の要素がまぜこぜになって起こることが多い。今日も要件を済ませたあと、教授や後輩に絡まれているかもしれない。
実際、トラブルがなければ、待ち合わせの時間より早く目的地に着いてるのが花村陽介という人間である。つまりは、誠実だが運が低い。
瑞月はそれを哀れんだことはない。むしろ、不運であったことが陽介の優しさを形作る1つの要素であると捉えている。おっちょこちょいで、運がなくて、だからこそ人の機微に敏感で、誰よりも優しい、それが花村陽介という人である。瀬名瑞月の大好きな人である。
ゆえに、彼に降りかかる面倒くさいものたちから、陽介を守りたいという想いは、出会った当初から変わらない。
よって、前日も大学への同行を提案してみた。瑞月が同行するメリットを陳列して。やはりというか、はねのけられた。何故という疑問に対する陽介の返答は以下の通り。
『お前が大切だから、見せびらかすような真似したくないんだよ!!!分かれ!!!』
尊さに、瑞月はちょっと目が眩んだ。私の彼氏天使。と再確認した。発作的にスクショを連射してしまった。
そう言われてしまっては妥協するしかない。陽介の厚意を無下にするなんて万死に値する。結果、瑞月は陽介の部屋を訪ねると決めた。なぜなら、ここにいれば確実に陽介は帰ってくる。
ゆえに待ち時間を使っての洗濯である。事前に、陽介から許可は得ている。幸い、扱いが難しい衣服はなかったので,スムーズに仕分けができた。どんどん衣類を洗濯機に入れていく。さぁ最後、と掴んだものを不意に瑞月は凝視した。
それはUネックTシャツだった。
この夏、陽介がよく着ているお気に入りの一着である。瑞月も好きな一着だ。単純に彼に合った色というのもあるが、一見華奢な陽介の、男らしく筋張った鎖骨があらわになって瑞月の胸を打ち抜くのである。陽介の輝く笑顔と合わせると心停止は必至。悟られるものかと息を吹き返すは瑞月の日常であった。
瑞月にとって、陽介はどんな格好でもきれいな人だ。女装だって破壊的に可愛いくて、瑞月はいまだにコレクションを眺めては悦に浸る機会がある。
陽介はきれい。どんな衣装だろうと、化粧だろうと、その魅力は損なわれない。きれい=陽介のこと。これは宇宙の真理。もちろんおしゃれ好きで、身だしなみに気を配る細やかさと向上心も好き。瑞月の秘めたる持論である。閑話休題。
話を戻す。
瑞月は陽介がよく着ているUネックを手に固まっていた。それは汗のせいか、若干の湿り気を帯びている。よく着ている、汗の湿り気——つまり陽介の匂いがよくしみついているということ。陽介不足の瑞月の脳は誤作動を起こしかけた。
陽介の内面はもちろん、彼を構成するパーツの1つ1つだって、瑞月は偏愛している。
明るく響くテノールに、細くてきれいだけど、男らしい筋張った手。甘く垂れた人懐こい感じのするヘーゼルの瞳。
ちなみに各パーツについてコイバナで語ったら、旧知の同級生と後輩たちはドン引きしていた。さもありなん。ついてこれるのは、オカン級の寛容さを持つ異性の親友くらいである。
すなわち、陽介に触れ、触れられること。体温を伴った接触は瑞月にとってすさまじい幸せであった。麻薬にも似ている。依存性のない麻薬。
といっても、触れられない時間が長引くとやはり寂しさや人肌恋しさを覚える。例えるなら、太陽が雲隠れしたときの、うすら寒さ。
このうすら寒さは厄介で、ただ顔を突き合せたり、話したりするだけでは消えてくれない。ハグだったり、キスだったり、それ以上のことでようやく満たされるものなのである。
最初に、『共に過ごせない日々』と記したが、SNSでのやり取りは毎日しているし、近況報告と雑談を織り交ぜて食事をすることもあった。お互い誘ったり、誘われたりして。
もちろん瑞月も日程の調節はするが、貴重な時間を瑞月と過ごすために予定を入れたり詰めたりしてくれる陽介が愛おしかった。
全人類ご覧あれ、私の旦那は無敵にかっこよくて無限にかわいいと叫びたいくらいに。陽介に恥をかかせるし、他人に盗られるのが嫌なのでやらないけれど。
しかしそれでは満たされない、人肌に触れられないうすら寒さは募る。
瑞月が持っているのは、それを埋めてくれそうなアイテムであった。陽介のお気に入りの、UネックTシャツ。恋しい人の一部がしみ込んだ、スポンジ。瑞月しか知らない、陽介自身の香り。
耐えがたい飢餓に襲われた獣じみた衝動と、己の理性と常識が、瑞月の中で取っ組み合った。
洗濯機に衣類を入れながら、瑞月は悔い気味に独りごちた。一般からすれば、その言葉は束縛が強いと引かれるかもしれない。けれど瑞月には訳があった。
何故って、陽介が遅れると連絡した場合、その遅れ幅が半端ではなく長くなるのだ。原因は決して本人の惰性ではない。それは陽介が人に絡まれやすい性質であったり、間の悪さであったり、複数の要素がまぜこぜになって起こることが多い。今日も要件を済ませたあと、教授や後輩に絡まれているかもしれない。
実際、トラブルがなければ、待ち合わせの時間より早く目的地に着いてるのが花村陽介という人間である。つまりは、誠実だが運が低い。
瑞月はそれを哀れんだことはない。むしろ、不運であったことが陽介の優しさを形作る1つの要素であると捉えている。おっちょこちょいで、運がなくて、だからこそ人の機微に敏感で、誰よりも優しい、それが花村陽介という人である。瀬名瑞月の大好きな人である。
ゆえに、彼に降りかかる面倒くさいものたちから、陽介を守りたいという想いは、出会った当初から変わらない。
よって、前日も大学への同行を提案してみた。瑞月が同行するメリットを陳列して。やはりというか、はねのけられた。何故という疑問に対する陽介の返答は以下の通り。
『お前が大切だから、見せびらかすような真似したくないんだよ!!!分かれ!!!』
尊さに、瑞月はちょっと目が眩んだ。私の彼氏天使。と再確認した。発作的にスクショを連射してしまった。
そう言われてしまっては妥協するしかない。陽介の厚意を無下にするなんて万死に値する。結果、瑞月は陽介の部屋を訪ねると決めた。なぜなら、ここにいれば確実に陽介は帰ってくる。
ゆえに待ち時間を使っての洗濯である。事前に、陽介から許可は得ている。幸い、扱いが難しい衣服はなかったので,スムーズに仕分けができた。どんどん衣類を洗濯機に入れていく。さぁ最後、と掴んだものを不意に瑞月は凝視した。
それはUネックTシャツだった。
この夏、陽介がよく着ているお気に入りの一着である。瑞月も好きな一着だ。単純に彼に合った色というのもあるが、一見華奢な陽介の、男らしく筋張った鎖骨があらわになって瑞月の胸を打ち抜くのである。陽介の輝く笑顔と合わせると心停止は必至。悟られるものかと息を吹き返すは瑞月の日常であった。
瑞月にとって、陽介はどんな格好でもきれいな人だ。女装だって破壊的に可愛いくて、瑞月はいまだにコレクションを眺めては悦に浸る機会がある。
陽介はきれい。どんな衣装だろうと、化粧だろうと、その魅力は損なわれない。きれい=陽介のこと。これは宇宙の真理。もちろんおしゃれ好きで、身だしなみに気を配る細やかさと向上心も好き。瑞月の秘めたる持論である。閑話休題。
話を戻す。
瑞月は陽介がよく着ているUネックを手に固まっていた。それは汗のせいか、若干の湿り気を帯びている。よく着ている、汗の湿り気——つまり陽介の匂いがよくしみついているということ。陽介不足の瑞月の脳は誤作動を起こしかけた。
陽介の内面はもちろん、彼を構成するパーツの1つ1つだって、瑞月は偏愛している。
明るく響くテノールに、細くてきれいだけど、男らしい筋張った手。甘く垂れた人懐こい感じのするヘーゼルの瞳。
ちなみに各パーツについてコイバナで語ったら、旧知の同級生と後輩たちはドン引きしていた。さもありなん。ついてこれるのは、オカン級の寛容さを持つ異性の親友くらいである。
すなわち、陽介に触れ、触れられること。体温を伴った接触は瑞月にとってすさまじい幸せであった。麻薬にも似ている。依存性のない麻薬。
といっても、触れられない時間が長引くとやはり寂しさや人肌恋しさを覚える。例えるなら、太陽が雲隠れしたときの、うすら寒さ。
このうすら寒さは厄介で、ただ顔を突き合せたり、話したりするだけでは消えてくれない。ハグだったり、キスだったり、それ以上のことでようやく満たされるものなのである。
最初に、『共に過ごせない日々』と記したが、SNSでのやり取りは毎日しているし、近況報告と雑談を織り交ぜて食事をすることもあった。お互い誘ったり、誘われたりして。
もちろん瑞月も日程の調節はするが、貴重な時間を瑞月と過ごすために予定を入れたり詰めたりしてくれる陽介が愛おしかった。
全人類ご覧あれ、私の旦那は無敵にかっこよくて無限にかわいいと叫びたいくらいに。陽介に恥をかかせるし、他人に盗られるのが嫌なのでやらないけれど。
しかしそれでは満たされない、人肌に触れられないうすら寒さは募る。
瑞月が持っているのは、それを埋めてくれそうなアイテムであった。陽介のお気に入りの、UネックTシャツ。恋しい人の一部がしみ込んだ、スポンジ。瑞月しか知らない、陽介自身の香り。
耐えがたい飢餓に襲われた獣じみた衝動と、己の理性と常識が、瑞月の中で取っ組み合った。