待つ彼女
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蝉時雨を切り抜けて、瀬名 瑞月は恋人の家に着いた。
チャイムを鳴らすが応答はない。ドアにはしっかりと鍵がかかっている。慣れた様子で瑞月はバックから合鍵を取り出した。
「お邪魔するともー」
返答なしは承知の上、礼儀として一声かける。ガチャリとドアを開け、瑞月は敷居をまたいだ。
夏特有の、籠るような熱気が部屋に満ちている。早朝からの主の不在が伺われた。
換気のため、瑞月は窓際へ急ぐ。ガラス窓を開けると、ヒュウッと爽やかな風が部屋に舞い込む。新鮮な風を肺に取り込んだ瑞月は1つ、ため息をついた。
——本当ならば、今日は朝から陽介と過ごせるはずだった。
陽介——花村陽介とは、この部屋の主であり、瑞月の恋人である。
今朝は本来、瑞月は陽介の自室であう約束をしていたのだ。久しぶりに、2人だけで過ごせる連休。その先駆けとなる日であった。大学の夏季定期試験や、アルバイト、ゼミのミーティングが互いに込み合って、共に過ごせない日々が続いていた。多忙を乗り越えて、やっと2人で勝ち取った時間。
しかし、彼は自室を不在にしている。その理由は、前日に陽介から瑞月へ送られたメッセージに込められていた。
『ごめん。明日の朝、大学にいかなきゃなんない』
なんでも、ゼミの研究に使う資料が見つかったので、とりに行かなければならないとのこと。
陽介と瑞月は上京した大学生だ。アルバイトもしているが、同郷に住む親たちから学費も出してもらっている身である。ならば、大学の修了課程をこなす重要性は瑞月にも明らかであった。
けれども彼のメッセージからは、約束を反故にしてしまった隠しきれない罪悪感がにじみ出ている。
正直に連絡してくれたのだからそんなに謝らなくてよいのに。苦笑して、しばしのやり取りのあと瑞月は諾と返答した。
『了解した。気を付けて』
『ところで、おまえさまの留守を訪ねても問題ないか』
そうして瑞月は今に至る。長引いた陽介との攻防については割愛する。ただ、陽介から瑞月への気遣いが綴られたやり取りであったのは確かである。
瑞月はとても嬉しかったので、そのやり取りを画像に直してPCに保存している。涼しい風の中、メッセージを思いだした瑞月の頬が緩んだ。
ひとしきり風を受けた後、瑞月は移動した。歩いてきたのだから、手を洗っておかないと不衛生であるし、もしそれが原因で陽介の健康を害することとなったら悔やみきれない。
1Kの部屋は床に雑誌が落ちていることもなく、きれいに片付いていた。きっと陽介が前日に整理したのだろう。心づかいに半ば感動しながら、瑞月は洗面所についた。
さて手を洗おうとドアを開けた瑞月が、あるものを発見した。洗濯機の脇に積まれた衣類の数々、洗濯物である。布団から起き上がって、玄関から飛び出していく陽介の姿が瑞月にはありありと想像できた。その様子がおかしくて、瑞月はひとりでに声を殺して笑ってしまう。
「時間はあるな。では片付けてしまおう」
よし。と笑いを収めたあと、瑞月は手を洗いはじめる。
チャイムを鳴らすが応答はない。ドアにはしっかりと鍵がかかっている。慣れた様子で瑞月はバックから合鍵を取り出した。
「お邪魔するともー」
返答なしは承知の上、礼儀として一声かける。ガチャリとドアを開け、瑞月は敷居をまたいだ。
夏特有の、籠るような熱気が部屋に満ちている。早朝からの主の不在が伺われた。
換気のため、瑞月は窓際へ急ぐ。ガラス窓を開けると、ヒュウッと爽やかな風が部屋に舞い込む。新鮮な風を肺に取り込んだ瑞月は1つ、ため息をついた。
——本当ならば、今日は朝から陽介と過ごせるはずだった。
陽介——花村陽介とは、この部屋の主であり、瑞月の恋人である。
今朝は本来、瑞月は陽介の自室であう約束をしていたのだ。久しぶりに、2人だけで過ごせる連休。その先駆けとなる日であった。大学の夏季定期試験や、アルバイト、ゼミのミーティングが互いに込み合って、共に過ごせない日々が続いていた。多忙を乗り越えて、やっと2人で勝ち取った時間。
しかし、彼は自室を不在にしている。その理由は、前日に陽介から瑞月へ送られたメッセージに込められていた。
『ごめん。明日の朝、大学にいかなきゃなんない』
なんでも、ゼミの研究に使う資料が見つかったので、とりに行かなければならないとのこと。
陽介と瑞月は上京した大学生だ。アルバイトもしているが、同郷に住む親たちから学費も出してもらっている身である。ならば、大学の修了課程をこなす重要性は瑞月にも明らかであった。
けれども彼のメッセージからは、約束を反故にしてしまった隠しきれない罪悪感がにじみ出ている。
正直に連絡してくれたのだからそんなに謝らなくてよいのに。苦笑して、しばしのやり取りのあと瑞月は諾と返答した。
『了解した。気を付けて』
『ところで、おまえさまの留守を訪ねても問題ないか』
そうして瑞月は今に至る。長引いた陽介との攻防については割愛する。ただ、陽介から瑞月への気遣いが綴られたやり取りであったのは確かである。
瑞月はとても嬉しかったので、そのやり取りを画像に直してPCに保存している。涼しい風の中、メッセージを思いだした瑞月の頬が緩んだ。
ひとしきり風を受けた後、瑞月は移動した。歩いてきたのだから、手を洗っておかないと不衛生であるし、もしそれが原因で陽介の健康を害することとなったら悔やみきれない。
1Kの部屋は床に雑誌が落ちていることもなく、きれいに片付いていた。きっと陽介が前日に整理したのだろう。心づかいに半ば感動しながら、瑞月は洗面所についた。
さて手を洗おうとドアを開けた瑞月が、あるものを発見した。洗濯機の脇に積まれた衣類の数々、洗濯物である。布団から起き上がって、玄関から飛び出していく陽介の姿が瑞月にはありありと想像できた。その様子がおかしくて、瑞月はひとりでに声を殺して笑ってしまう。
「時間はあるな。では片付けてしまおう」
よし。と笑いを収めたあと、瑞月は手を洗いはじめる。
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