客人〈マレビト〉来たりき
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2-2組──転校先のクラスにて、鳴上悠は瞬きした。それは挨拶に訪れた職員室にて、高圧的な担任教師 諸岡 金四郎 に言いがかりじみた説教を押しつけられた疲労も吹き飛んでしまうほどの驚き。悠は教室内のある2人に注目する。
(まさか……同じクラスだったのか)
教室の中心となる座席に、印象深い人たちを発見したのだ。というより、彼と彼女は目立つ服装をしているからか、自然と視界に飛び込んでくる。
かたや田舎にしてはハイカラな茶髪に、オレンジベースのヘッドフォンの男子生徒。かたやスタイリッシュなマウンテンパーカーを羽織り、白蓮の髪飾りをつけた女生徒である。
今朝の通学路で悠が遭遇した、仲のいい男女2人組だ。コケた男子生徒を颯爽と助け出す女生徒と、雨に濡れた彼女を労って髪を拭っていた男子生徒の姿は、悠の記憶に新しい。たしか、男子生徒は『花村』。女生徒は『瀬名』といったはずだ。
唐突にバンッ! と大きな物音がした。気に入らないとばかりに、諸岡が教卓に名簿を叩きつけたのだ。まったく突拍子もない出来事に、悠は思考を遮られる。
「静かにしろー、貴様ら!」
手をポケットに突っ込んだ、品行方正とはかけ離れた柄物シャツのオカッパに出っ歯を生やした中年男性教師 諸岡の高圧的な物言いに、ざわついていたクラスがピタリと静まる。と同時に、クラスメイトたちの視線が、一斉に悠へと降り注いだ。
「えー、今日から貴様らの担任になる諸岡だ。いいか、春だからって恋愛だ異性交遊だと浮ついてるんじゃないぞ! ……ワシの目の黒い内は、貴様らには特に『清く』『正しい』学生生活を送ってもらうからな!」
青年期の高校生を理性のない獣だとでも思っているのか。諸岡のあんまりな物言いに、大半の生徒たちが苦い反応を示した。眉間にシワを刻んだり、眉をひそめたり、俯いたり。だが、悠はそれほど気にならない。興味のある2人を観察していたので、言葉を聞き流していたのだ。
観察したところ、2人はずいぶんとマイペースな性分らしい。茶髪の男子生徒『花村』は、怒鳴る諸岡を前に、平然と机につっぷしていた。やけに力が抜けている様子から、どうやら寝ているらしい。あからさまな暴君である諸岡を前に、なんとも肝が座っている。
そして白蓮の女生徒『瀬名』は──こちらも肝が座っているらしい──凛と背を伸ばし、無表情で諸岡の話を聞き流している。彼の威圧的な説教にもまったく動じる気配がなく、特徴的な紺碧の瞳は冷たく凪いでいる。
はっきり言って、モノクロで古めかしい教室からメチャクチャ浮いている2名だ。なるほどだから仲が良かったのかもしれないと、悠は腑に落ちる。
「あー、それからね。不本意ながら転校生を紹介する」
ようやく説教に区切りがついたらしい。諸岡はギロリと悠を睨みつけ、黒板を顎で示す。名前を書け。という無言の圧力だろう。
「爛れた都会からヘンピな地方都市に飛ばされてきた哀れな奴だ。いわば落武者 だ、分かるな? 女子は間違っても色目など使わないように!」
悠がチョークを滑らせる間、適当極まりない紹介をされた。これでは今後、謂れのない陰口を叩かれそうだ。叔父とはいえ、ほぼ他人である堂島の家に下宿させてもらっている悠にとって、これは痛手だ。ヘンな噂を流されれば、堂島にも危害が及ぶやも知れないのだから。
「では、鳴上悠 。簡単に自己紹介しなさい」
だというのに、言った本人は何食わぬ顔で悠に命令する。自身の発言がもたらす影響をまったく考えていない。モラルの低さに、さすがに黙っている訳にはいかなくなった。
居候の身として、悠はお世話になっている堂島家の風評を守らねばならないのだ。悠は決意し、大きく息を吸う。
「鳴上悠といいます。今は親戚の家に居候させて頂いている立場ですので、お世話になっている人たちの名誉のために、1つ訂正します」
そうして、諸岡を睨みつけた。平手を食らったように唖然とする彼に、悠は臆さず言い放つ。
「俺は落武者ではありません。流言は控えていただきたい」
ドヤドヤと教室がざわめく。対する諸岡はというと、一瞬間抜けに口を開けた。だが、みるみるうちに額に青筋を浮かべ、特徴的な出っ歯を威嚇のようにむき出しにする。
「貴様……。生徒指導教員であるワシに口答えするとは何事だッ!」
あ、しまったと悠は青ざめた。どうやら諸岡の地雷を踏んでしまったようだ。そして、その認識は正しかったらしい。怒気で顔が歪まんばかりに、諸岡は真っ赤に顔を爆発させていたのだ。
「いいかね! ここは貴様がいままで居たイカガワシイ街とは違うからな! もし何かあれば腐ったミカン帳の名の下に貴様を停学に────」
血管が切れそうな勢いで諸岡は捲し立てる。怒声に悠が目をつぶった、そのとき。
ドサドサドサッ!!
諸岡の長広舌が、突如遮られる。クラス全員──諸岡と悠を含む──が一斉に音の鳴った方へ注目した。騒音の発生源はいくつかのノートと参考書だった。おそらく高くから机の上に落として、大きな音を出したのだろう。
そして、犯人は白蓮の髪飾りの女生徒──瀬名だ。全クラスメイトの視線を集めたにも関わらず、彼女は凛と伸びた背を崩さない。
諸岡は無言で、彼女を睨みつける。だが、彼の不機嫌など気にも止めず、瀬名はニコリとわざとらしい作り笑いを浮かべた。その笑みは冷めた瞳と合わさって、氷のように冷たい。
「これは失敬、諸岡先生。私は春休みに出された課題を取りまとめる係でしたので、焦って自分のものを取り落としてしまいましたね」
諸岡が不機嫌そうに息巻いた。だがしかし、瀬名は動じる気配もない。どころか、次の瞬間、彼女は諸岡を凍りつかせた。
「なにせ、9:30から始まる新学期の全校集会前に、集めておきたかったものですので」
「全校集会? ────!」
慌てた様子で、諸岡は頭上を仰ぎ見る。教室に備え付けられた時計は、9:18。悠の記憶によれば、全校集会は体育館で行われる予定だ。出席を取る時間や、移動時間を含めると間に合うかギリギリといったところだろう。
つまり瀬名は、『お前が説教する時間などない』と、『お前のせいでクラスが集会に遅れてもいいのか?』と、暗に脅迫しているのだ。生徒指導を担当する諸岡には、これ以上にない痛烈な一撃である。瀬名の的確な対応に、悠は思わずため息を吐いてしまった。
対して、反論に窮した諸岡が口ごもる。その隙を突いて、ある女子生徒が手を挙げた。
「センセー! 転校生の席、ここでいいですかー?」
緑のジャージを着た、活発そうな女子生徒だ。明るい茶髪のボブカットを揺らしながら、彼女は笑顔で隣の空席を指差す。すると、諸岡が逃げ道を見つけたかのように、短い息を吐いた。
「そ、そうだな。よし、では貴様の席はあそこだ。分かったら、さっさと着席しろ!」
何はともあれ、窮地を無事に乗り切ったようだ。自分の情けなさをごまかすための担任の虚勢を背に、早足で悠は自分の席へと向かい、着席する。瞬間、緊張の糸が緩んだ。
「かっわいそ、転校生。来ていきなり”モロ組”か……」
「目ェつけられると、停学とかリアルに食らうもんねぇ……」
「でも、あのモロキンに啖呵切るとか、ちょっとカッコよかったよね……」
噂話など、気にかける暇もない。どっと疲れが押し寄せて、悠は椅子の背もたれに寄りかかる。すると、ちょんちょんと横から肩を小突かれた。そちらに振り向くと、緑ジャージの女子生徒が気遣わしげに笑っている。先ほど、助け船を出してくれた子だ。
「お疲れさま。転校早々大変だったね。でも、アイツに言い返しちゃうなんて、きみもスゴいよ!」
小声とともに、彼女はグッと力強く親指を立てた。悠も目を細めて、小さく頷き返す。八十稲羽に越してからというもの、意味深な悪夢であったり暴君な担任であったりと散々な目に合っているから、彼女が示してくれたひたむきな善意がありがたかった。
「きみこそ、ありがとう。おかげで助かったよ」
「あ、ううん。いいよお礼なんて。あたしはうまい具合にタイミング見つけて割り込んだだけだから」
言い終えて彼女は後ろ──悠にとっては右斜め後ろの席に座る瀬名を盗み見た。どうやら、お礼は彼女に、と暗に示しているようだ。
だが瀬名はというと、悠には目もくれない。隣で寝ている花村を、シャーペンのノック部分で小突いて起こそうとしている。
ふが、と寝ぼけ眼の花村に、彼女は優しく笑いかけた。先ほどの冷たい笑みではない、木漏れ日のような、細 やかなあたたかさのある笑みだ。横暴な諸岡と渡り合った怜悧さはまったくない。悠の中で彼女の印象が書き変わる。朝の件といい、彼女は思いのほか面倒見がいいらしい。
緑ジャージの女の子や瀬名といった、親切な人間もクラスには多いようだ。
「静かにしろ、貴様ら! 出席を取るから、折り目正しく返事しろ!」
……担任こそ最悪だが。と悠は憂鬱な気分になった。せめて緑ジャージの女の子といった人の良さそうなクラスメイトたちが救いだと、悠は自身に言い聞かせる。緑ジャージの女の子は、同情気味な笑みをつくった。
「……まー、このクラスんなっちゃったのが運の尽き……一年間、頑張ろ?」
点呼! と声を張り上げた諸岡を尻目に、緑ジャージの女の子が小さく手を振る。同じ苦境に立たされた仲間に向けるような笑顔とともに、悠を励ましてくれたのだ。その言葉に頷いて、悠は姿勢を正して前を向く。
(まさか……同じクラスだったのか)
教室の中心となる座席に、印象深い人たちを発見したのだ。というより、彼と彼女は目立つ服装をしているからか、自然と視界に飛び込んでくる。
かたや田舎にしてはハイカラな茶髪に、オレンジベースのヘッドフォンの男子生徒。かたやスタイリッシュなマウンテンパーカーを羽織り、白蓮の髪飾りをつけた女生徒である。
今朝の通学路で悠が遭遇した、仲のいい男女2人組だ。コケた男子生徒を颯爽と助け出す女生徒と、雨に濡れた彼女を労って髪を拭っていた男子生徒の姿は、悠の記憶に新しい。たしか、男子生徒は『花村』。女生徒は『瀬名』といったはずだ。
唐突にバンッ! と大きな物音がした。気に入らないとばかりに、諸岡が教卓に名簿を叩きつけたのだ。まったく突拍子もない出来事に、悠は思考を遮られる。
「静かにしろー、貴様ら!」
手をポケットに突っ込んだ、品行方正とはかけ離れた柄物シャツのオカッパに出っ歯を生やした中年男性教師 諸岡の高圧的な物言いに、ざわついていたクラスがピタリと静まる。と同時に、クラスメイトたちの視線が、一斉に悠へと降り注いだ。
「えー、今日から貴様らの担任になる諸岡だ。いいか、春だからって恋愛だ異性交遊だと浮ついてるんじゃないぞ! ……ワシの目の黒い内は、貴様らには特に『清く』『正しい』学生生活を送ってもらうからな!」
青年期の高校生を理性のない獣だとでも思っているのか。諸岡のあんまりな物言いに、大半の生徒たちが苦い反応を示した。眉間にシワを刻んだり、眉をひそめたり、俯いたり。だが、悠はそれほど気にならない。興味のある2人を観察していたので、言葉を聞き流していたのだ。
観察したところ、2人はずいぶんとマイペースな性分らしい。茶髪の男子生徒『花村』は、怒鳴る諸岡を前に、平然と机につっぷしていた。やけに力が抜けている様子から、どうやら寝ているらしい。あからさまな暴君である諸岡を前に、なんとも肝が座っている。
そして白蓮の女生徒『瀬名』は──こちらも肝が座っているらしい──凛と背を伸ばし、無表情で諸岡の話を聞き流している。彼の威圧的な説教にもまったく動じる気配がなく、特徴的な紺碧の瞳は冷たく凪いでいる。
はっきり言って、モノクロで古めかしい教室からメチャクチャ浮いている2名だ。なるほどだから仲が良かったのかもしれないと、悠は腑に落ちる。
「あー、それからね。不本意ながら転校生を紹介する」
ようやく説教に区切りがついたらしい。諸岡はギロリと悠を睨みつけ、黒板を顎で示す。名前を書け。という無言の圧力だろう。
「爛れた都会からヘンピな地方都市に飛ばされてきた哀れな奴だ。いわば
悠がチョークを滑らせる間、適当極まりない紹介をされた。これでは今後、謂れのない陰口を叩かれそうだ。叔父とはいえ、ほぼ他人である堂島の家に下宿させてもらっている悠にとって、これは痛手だ。ヘンな噂を流されれば、堂島にも危害が及ぶやも知れないのだから。
「では、
だというのに、言った本人は何食わぬ顔で悠に命令する。自身の発言がもたらす影響をまったく考えていない。モラルの低さに、さすがに黙っている訳にはいかなくなった。
居候の身として、悠はお世話になっている堂島家の風評を守らねばならないのだ。悠は決意し、大きく息を吸う。
「鳴上悠といいます。今は親戚の家に居候させて頂いている立場ですので、お世話になっている人たちの名誉のために、1つ訂正します」
そうして、諸岡を睨みつけた。平手を食らったように唖然とする彼に、悠は臆さず言い放つ。
「俺は落武者ではありません。流言は控えていただきたい」
ドヤドヤと教室がざわめく。対する諸岡はというと、一瞬間抜けに口を開けた。だが、みるみるうちに額に青筋を浮かべ、特徴的な出っ歯を威嚇のようにむき出しにする。
「貴様……。生徒指導教員であるワシに口答えするとは何事だッ!」
あ、しまったと悠は青ざめた。どうやら諸岡の地雷を踏んでしまったようだ。そして、その認識は正しかったらしい。怒気で顔が歪まんばかりに、諸岡は真っ赤に顔を爆発させていたのだ。
「いいかね! ここは貴様がいままで居たイカガワシイ街とは違うからな! もし何かあれば腐ったミカン帳の名の下に貴様を停学に────」
血管が切れそうな勢いで諸岡は捲し立てる。怒声に悠が目をつぶった、そのとき。
ドサドサドサッ!!
諸岡の長広舌が、突如遮られる。クラス全員──諸岡と悠を含む──が一斉に音の鳴った方へ注目した。騒音の発生源はいくつかのノートと参考書だった。おそらく高くから机の上に落として、大きな音を出したのだろう。
そして、犯人は白蓮の髪飾りの女生徒──瀬名だ。全クラスメイトの視線を集めたにも関わらず、彼女は凛と伸びた背を崩さない。
諸岡は無言で、彼女を睨みつける。だが、彼の不機嫌など気にも止めず、瀬名はニコリとわざとらしい作り笑いを浮かべた。その笑みは冷めた瞳と合わさって、氷のように冷たい。
「これは失敬、諸岡先生。私は春休みに出された課題を取りまとめる係でしたので、焦って自分のものを取り落としてしまいましたね」
諸岡が不機嫌そうに息巻いた。だがしかし、瀬名は動じる気配もない。どころか、次の瞬間、彼女は諸岡を凍りつかせた。
「なにせ、9:30から始まる新学期の全校集会前に、集めておきたかったものですので」
「全校集会? ────!」
慌てた様子で、諸岡は頭上を仰ぎ見る。教室に備え付けられた時計は、9:18。悠の記憶によれば、全校集会は体育館で行われる予定だ。出席を取る時間や、移動時間を含めると間に合うかギリギリといったところだろう。
つまり瀬名は、『お前が説教する時間などない』と、『お前のせいでクラスが集会に遅れてもいいのか?』と、暗に脅迫しているのだ。生徒指導を担当する諸岡には、これ以上にない痛烈な一撃である。瀬名の的確な対応に、悠は思わずため息を吐いてしまった。
対して、反論に窮した諸岡が口ごもる。その隙を突いて、ある女子生徒が手を挙げた。
「センセー! 転校生の席、ここでいいですかー?」
緑のジャージを着た、活発そうな女子生徒だ。明るい茶髪のボブカットを揺らしながら、彼女は笑顔で隣の空席を指差す。すると、諸岡が逃げ道を見つけたかのように、短い息を吐いた。
「そ、そうだな。よし、では貴様の席はあそこだ。分かったら、さっさと着席しろ!」
何はともあれ、窮地を無事に乗り切ったようだ。自分の情けなさをごまかすための担任の虚勢を背に、早足で悠は自分の席へと向かい、着席する。瞬間、緊張の糸が緩んだ。
「かっわいそ、転校生。来ていきなり”モロ組”か……」
「目ェつけられると、停学とかリアルに食らうもんねぇ……」
「でも、あのモロキンに啖呵切るとか、ちょっとカッコよかったよね……」
噂話など、気にかける暇もない。どっと疲れが押し寄せて、悠は椅子の背もたれに寄りかかる。すると、ちょんちょんと横から肩を小突かれた。そちらに振り向くと、緑ジャージの女子生徒が気遣わしげに笑っている。先ほど、助け船を出してくれた子だ。
「お疲れさま。転校早々大変だったね。でも、アイツに言い返しちゃうなんて、きみもスゴいよ!」
小声とともに、彼女はグッと力強く親指を立てた。悠も目を細めて、小さく頷き返す。八十稲羽に越してからというもの、意味深な悪夢であったり暴君な担任であったりと散々な目に合っているから、彼女が示してくれたひたむきな善意がありがたかった。
「きみこそ、ありがとう。おかげで助かったよ」
「あ、ううん。いいよお礼なんて。あたしはうまい具合にタイミング見つけて割り込んだだけだから」
言い終えて彼女は後ろ──悠にとっては右斜め後ろの席に座る瀬名を盗み見た。どうやら、お礼は彼女に、と暗に示しているようだ。
だが瀬名はというと、悠には目もくれない。隣で寝ている花村を、シャーペンのノック部分で小突いて起こそうとしている。
ふが、と寝ぼけ眼の花村に、彼女は優しく笑いかけた。先ほどの冷たい笑みではない、木漏れ日のような、
緑ジャージの女の子や瀬名といった、親切な人間もクラスには多いようだ。
「静かにしろ、貴様ら! 出席を取るから、折り目正しく返事しろ!」
……担任こそ最悪だが。と悠は憂鬱な気分になった。せめて緑ジャージの女の子といった人の良さそうなクラスメイトたちが救いだと、悠は自身に言い聞かせる。緑ジャージの女の子は、同情気味な笑みをつくった。
「……まー、このクラスんなっちゃったのが運の尽き……一年間、頑張ろ?」
点呼! と声を張り上げた諸岡を尻目に、緑ジャージの女の子が小さく手を振る。同じ苦境に立たされた仲間に向けるような笑顔とともに、悠を励ましてくれたのだ。その言葉に頷いて、悠は姿勢を正して前を向く。