決意
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「よっ、と……」
────時刻は午前0時、数分前。
外では雨が降っていた。騒々しい雨音をBGMに、陽介は電源の切れた液晶画面へと頭を押しつけてみる。すると予想通り、みっちりと部品が詰まっているはずのテレビ画面が水面のごとく波打って、陽介を呑み込んだ。
テレビを透過し、その内側に入り込む能力。その先にある霧にまみれた異界の化け物たちに抗う能力。なんの罪もない小西先輩を殺した────そしていまも、無実の誰かを毒牙にかけようとしているかもしれない、まだ尻尾すら掴めていない犯人を追うにあたって必要な能力。
それに目覚めていると知って、陽介の心が熱く燃え上がる。
(もう誰も死なせやしない。そんで……絶対に犯人を捕まえてやる)
八十稲羽にはこんな都市伝説がある。雨の降りしきる真夜中の午前0時、電源の切れたテレビ画面に映りこんだ己の顔を見つめると、”運命の人”の姿が映り込むという怪奇現象を伝える、《マヨナカテレビ》という、およそ馬鹿馬鹿しい都市伝説が。
けれど、それは一部が本当で一部が嘘だ。雨の日に電源の落ちたテレビに”誰か”が映るまでは本当。だが、映りこむ”誰か”は”運命の人”なんて可愛らしいものではない。
《マヨナカテレビ》に映る人は一人だけ。テレビを覗きこんだ人間の違いは関係なしに、ただ一人だけが映りこむ。そして、その人は────悪意ある何者かによって連れ去られ、テレビの中という異形がはびこる異界に閉じ込められ、殺される。
けれど、それを防ぐ力を陽介は得た。
ならばもう、絶対に誰も殺させないと陽介は決めた。
もう、誰も自分のように大切な人を亡くす誰かを生み出さないために。
そして、揺らぎそうになる”平穏”のなかに生きる、かけがえのない人の未来を奪わせないために。
テレビの内側の世界はやはり霧深い。一寸先も分からない視界は、まるで陽介たちが挑む難事件の道行きを暗示しているようだ。だが、挫けない。挫けるわけにはいかない。
波打つテレビ画面から突っ込んだ頭を引き抜き、陽介はテレビ画面と向き合う。真っ黒な液晶には、激情と使命に駆り立てられた復讐者が映っていた。
真っ暗な液晶画面が、不気味な黄色い光を帯びる。陽介はこれから流れるであろう、誰かの映像を絶対に見逃さないようにと、瞼を押し上げてひたと見つめる。誰に言われたでもなく奇怪なノイズを立てるテレビは、不明瞭な映像を映し出した。
────目前を覆いつくし、身を打つような雨が絶え間なく降りしきる夜。
────午前0時、《マヨナカテレビ》に誰かが映る。
────時刻は午前0時、数分前。
外では雨が降っていた。騒々しい雨音をBGMに、陽介は電源の切れた液晶画面へと頭を押しつけてみる。すると予想通り、みっちりと部品が詰まっているはずのテレビ画面が水面のごとく波打って、陽介を呑み込んだ。
テレビを透過し、その内側に入り込む能力。その先にある霧にまみれた異界の化け物たちに抗う能力。なんの罪もない小西先輩を殺した────そしていまも、無実の誰かを毒牙にかけようとしているかもしれない、まだ尻尾すら掴めていない犯人を追うにあたって必要な能力。
それに目覚めていると知って、陽介の心が熱く燃え上がる。
(もう誰も死なせやしない。そんで……絶対に犯人を捕まえてやる)
八十稲羽にはこんな都市伝説がある。雨の降りしきる真夜中の午前0時、電源の切れたテレビ画面に映りこんだ己の顔を見つめると、”運命の人”の姿が映り込むという怪奇現象を伝える、《マヨナカテレビ》という、およそ馬鹿馬鹿しい都市伝説が。
けれど、それは一部が本当で一部が嘘だ。雨の日に電源の落ちたテレビに”誰か”が映るまでは本当。だが、映りこむ”誰か”は”運命の人”なんて可愛らしいものではない。
《マヨナカテレビ》に映る人は一人だけ。テレビを覗きこんだ人間の違いは関係なしに、ただ一人だけが映りこむ。そして、その人は────悪意ある何者かによって連れ去られ、テレビの中という異形がはびこる異界に閉じ込められ、殺される。
けれど、それを防ぐ力を陽介は得た。
ならばもう、絶対に誰も殺させないと陽介は決めた。
もう、誰も自分のように大切な人を亡くす誰かを生み出さないために。
そして、揺らぎそうになる”平穏”のなかに生きる、かけがえのない人の未来を奪わせないために。
テレビの内側の世界はやはり霧深い。一寸先も分からない視界は、まるで陽介たちが挑む難事件の道行きを暗示しているようだ。だが、挫けない。挫けるわけにはいかない。
波打つテレビ画面から突っ込んだ頭を引き抜き、陽介はテレビ画面と向き合う。真っ黒な液晶には、激情と使命に駆り立てられた復讐者が映っていた。
真っ暗な液晶画面が、不気味な黄色い光を帯びる。陽介はこれから流れるであろう、誰かの映像を絶対に見逃さないようにと、瞼を押し上げてひたと見つめる。誰に言われたでもなく奇怪なノイズを立てるテレビは、不明瞭な映像を映し出した。
────目前を覆いつくし、身を打つような雨が絶え間なく降りしきる夜。
────午前0時、《マヨナカテレビ》に誰かが映る。
──── Momento 1 ~ to roadless travel ~ 〈了〉
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