決意
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しばらく、会話が途切れる。そのあとで、瑞月が深い安堵のため息をついた。
『……そうやって、私を信じてくれるきみには、いつだって感謝している』
「……おう」
ありがとう。と瑞月は穏やかにそう告げた。そこに、先ほどまで覗いていた不安そうな揺らぎはない。いつも陽介の隣で聞こえる、清らかな清水を思わせる澄んだ響きだ。調子を取り戻した彼女に陽介が微かに笑む。
『話を戻そう。失敗や後悔は、倒れてしまったハードルと似ている。そのハードルを越えることは、二度とできないからだ。過去に遡ることなんて、誰もできはしないからな。
……だったら私は、そのハードルをどうして越えられなかったのか考える』
一転して、彼女は強く口調を切り替えた。一生取り返しのつかない失敗したらどうするか? 陽介がうち明けた途方もない苦悩から、彼女は目を逸らさない。逃げることなど考えもしない。ただ、いつものように誠実に親友の抱えた悩みへと彼女なりの哲学で向き合う。
『惨めな自分への怒りも、膝を擦りむいて痛かったときの悲しみも、越えられなかった悔しさも全部全部エネルギーに変えて、そのエネルギーで考えて、助走をつけて、次のハードルがあったとき────』
そうして告げた。彼女は告げる。極々真剣な、折れない彼女そのものの凛とした響きとともに。
『────つまづくことなんて思いもよらないほど、高く飛ぶんだ。澄んだ青空が見えるくらい高く高くね』
陽介は目を見開く。瞬間、目の前に不思議なくらい鮮明なイメージが閃いた。
それは今日の、テレビの中で起こった出来事の映像だった。自分を救ってくれた同級生の、鳴上悠の姿。陽介の《影》に圧倒的な力で打ちのめされて、いくつもの生傷を負いながらも、死と痛みの恐怖に震えながらも、決して勝利を諦めなかった気高い姿。彼の一対の瞳に宿った、砂埃に汚れにも褪せない、剣のように前に未来を切り開こうとする意志の輝き。
そして、彼の折れぬ意志がつかみ取った、怪物を打ち倒した未来。あのときの、怪物を祓う雷が見せた光は、どうしようもなくきれいだった。
陽介の目には、それがしかと焼きついていた。あの酒屋の、薄暗く、冷たく、閉塞感に満ちた空気を打ち払うほどに眩しかった、大気を震わせるほどにエネルギーに満ちた、陽介を己の《影》から救ってくれた、天駆ける白い稲妻。
瑞月が言うのは、きっとそういうことなのだろう。
『だから……引きずって、背負って、もがいて、そうやって進んだ先に綺麗な景色があるといいって願って、進むよ』
取り戻せない喪失も、後悔という名の業も、未来を乞う願いもすべて、背負う。背負って進む。彼女は、そうあっけらかんと、しかしたしかに言い切ったのだ。
過ちから目を逸らさない誠実さと、前を志す強い意思、一見真逆な2つの強さが共存する、実に彼女らしい答えだと。
だが、と陽介は思う。
「……途方もねぇハナシだな。俺に、んなこと……できるのか」
自嘲を交えて、そう呟く。瑞月が示したのは目もくらむような遠い道のりだった。そして、その道のりを行くにはきっと途方もない忍耐とエネルギーがいるだろう。しかも、報われるかどうかは分からないのだ。瑞月だって、いまだに信じて進んでいる最中だという。
陽介は、瑞月ほど強くない。だから、決して強くなどない自分が、後悔を抱えて、ないかもしれない報いを信じて進むことができるのか。陽介には、分からなくて。すると瑞月は言った。
『そう難しい話でもないさ。実際それが叶って、報われたこともあったから。──きみだよ、花村』
「…………は?」
今、瑞月は何と言ったのか。陽介が瑞月の『報われた』こととはどういう意味か。
『……そうやって、私を信じてくれるきみには、いつだって感謝している』
「……おう」
ありがとう。と瑞月は穏やかにそう告げた。そこに、先ほどまで覗いていた不安そうな揺らぎはない。いつも陽介の隣で聞こえる、清らかな清水を思わせる澄んだ響きだ。調子を取り戻した彼女に陽介が微かに笑む。
『話を戻そう。失敗や後悔は、倒れてしまったハードルと似ている。そのハードルを越えることは、二度とできないからだ。過去に遡ることなんて、誰もできはしないからな。
……だったら私は、そのハードルをどうして越えられなかったのか考える』
一転して、彼女は強く口調を切り替えた。一生取り返しのつかない失敗したらどうするか? 陽介がうち明けた途方もない苦悩から、彼女は目を逸らさない。逃げることなど考えもしない。ただ、いつものように誠実に親友の抱えた悩みへと彼女なりの哲学で向き合う。
『惨めな自分への怒りも、膝を擦りむいて痛かったときの悲しみも、越えられなかった悔しさも全部全部エネルギーに変えて、そのエネルギーで考えて、助走をつけて、次のハードルがあったとき────』
そうして告げた。彼女は告げる。極々真剣な、折れない彼女そのものの凛とした響きとともに。
『────つまづくことなんて思いもよらないほど、高く飛ぶんだ。澄んだ青空が見えるくらい高く高くね』
陽介は目を見開く。瞬間、目の前に不思議なくらい鮮明なイメージが閃いた。
それは今日の、テレビの中で起こった出来事の映像だった。自分を救ってくれた同級生の、鳴上悠の姿。陽介の《影》に圧倒的な力で打ちのめされて、いくつもの生傷を負いながらも、死と痛みの恐怖に震えながらも、決して勝利を諦めなかった気高い姿。彼の一対の瞳に宿った、砂埃に汚れにも褪せない、剣のように前に未来を切り開こうとする意志の輝き。
そして、彼の折れぬ意志がつかみ取った、怪物を打ち倒した未来。あのときの、怪物を祓う雷が見せた光は、どうしようもなくきれいだった。
陽介の目には、それがしかと焼きついていた。あの酒屋の、薄暗く、冷たく、閉塞感に満ちた空気を打ち払うほどに眩しかった、大気を震わせるほどにエネルギーに満ちた、陽介を己の《影》から救ってくれた、天駆ける白い稲妻。
瑞月が言うのは、きっとそういうことなのだろう。
『だから……引きずって、背負って、もがいて、そうやって進んだ先に綺麗な景色があるといいって願って、進むよ』
取り戻せない喪失も、後悔という名の業も、未来を乞う願いもすべて、背負う。背負って進む。彼女は、そうあっけらかんと、しかしたしかに言い切ったのだ。
過ちから目を逸らさない誠実さと、前を志す強い意思、一見真逆な2つの強さが共存する、実に彼女らしい答えだと。
だが、と陽介は思う。
「……途方もねぇハナシだな。俺に、んなこと……できるのか」
自嘲を交えて、そう呟く。瑞月が示したのは目もくらむような遠い道のりだった。そして、その道のりを行くにはきっと途方もない忍耐とエネルギーがいるだろう。しかも、報われるかどうかは分からないのだ。瑞月だって、いまだに信じて進んでいる最中だという。
陽介は、瑞月ほど強くない。だから、決して強くなどない自分が、後悔を抱えて、ないかもしれない報いを信じて進むことができるのか。陽介には、分からなくて。すると瑞月は言った。
『そう難しい話でもないさ。実際それが叶って、報われたこともあったから。──きみだよ、花村』
「…………は?」
今、瑞月は何と言ったのか。陽介が瑞月の『報われた』こととはどういう意味か。