決意
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帰宅した陽介は夕食を取った。正直、腹は空いていなかったが、母親が作ってくれたものだからなんとか平らげる。どことなく元気が無さそうだと心配されたが、無理をおして装った空元気で誤魔化したあと、促されるままに風呂を済ませ、自室へと一目散に退散した。
おざなりに扉を閉じて、まだ湿り気のある髪をそのままにベッドへと倒れこむ。ずしりと重い身体が、ベッドのスプリングを軋ませた。身体に悪影響があるというテレビの中の世界の霧による影響だろうか。
「ふぅ……」
いや、それだけではないことは、誰でもない陽介自身がよく分かっている。
重いため息を吐き出しながら、もう眠ってしまおうと、使い慣れたブランケットで身体をくるむ。だが、眠気は一向に訪れない。代わりに頭に浮かぶのは────聞き親しんだと思っていたはずの声で吐き出された、まったく聞いたことのない嫌悪の告白。
『花ちゃんのこと、ウザくて、妬ましかった』
『仲良くしてたの、店長の息子だから、都合いいってだけだったのに……』
『勘違いして、盛り上がって……、ほんと、ウザい……』
『それに花ちゃんはいいよね……心配してくれる、仲いい子がいて────私なんて誰も、だあれも居なかったよ』
不気味な商店街で聞いた、小西先輩の暗く沈んだ本音が何度もリフレインして陽介の脳内をかき乱す。
そんな風に思われているなんて、露ほど考えてもいなかった。いや、考える以前に見えていなかった。目先の恋に盲目になって、相手の事情なんてお構い無しで自分の気持ちだけを押しつけた。役に立ちたいなんて言いながら、彼女が抱える苦悩の一部になっていた。
そのツケがこれだ。小西先輩は唐突にいなくなって、遠い場所へと行ってしまった。陽介の謝罪も、彼女が抱えた苦悩を解す術も、届かないほど遠くへ。
ならば、一体どうすれば彼女を救えたのか? そんな問いが陽介の思考をぐるぐると巡る。
(もし、テレビに落ちた昨日、あの場所に行けてたなら)
もし、最後に会ったあの日、無理にでも彼女を自宅まで送り届けていたら。
もし、彼女が抱えていた息苦しさにもっと早く気がついていたら。
もし、彼女の孤独にもっと寄り添えていたら。
仮定の話はいくらでも思いつく。だが、全ては叶わない話だ。時計の針は戻らないように、小西先輩は死んでしまって、その事実は覆しようがないのだから。
どうやっても動かせない結論に、陽介の喉の奥がじくじくと痛む。堪えきれない悔恨の念に喉を焼かれて、ベッドの中で身体を丸め込んだ。
悔しかった、悲しかった。小西先輩を助けられなかったことが。そして、小西先輩に恋心を抱きながら、なにもできなかった愚かしさと無力が陽介にはどうしようもなく腹立たしくて────虚しかった。
胸がむしゃくしゃして、やるせない。行き場のない激情をどうにかしたくてシーツを強く握りしめると ── Pi Pi Pi Pi Pi Pi ── ローテーブルに放置していたスマホが甲高く着信を知らせる。
「……誰、だ?」
ブランケットにくるまったまま、陽介はスマホに手を伸ばす。表示画面を確認した後、動揺でスマホを取り落としそうになった。わわっと、お手玉よろしくスマホを空中に放り投げた。
だって通話してきた人物は、今一番会いたくない……というより、会ってどうしたら良いか分からない人物だったから。だが、出ないという選択肢は友人である彼女に対する陽介の誠意が許さない。
キャッチしたスマホを前に、一呼吸置く。ここぞとばかりに咳払いまでして、通話ボタンをタッチした。そして、平生と何ら変わらない、お調子者らしいにぎやかさを意識して「もしもーし」と電話をかけてきた相手に話しかける。
『もしもし、こんばんは花村。今、時間貰っても?』
「おー……瀬名じゃん。今夜はどしたよー」
着信相手は瑞月だった。陽介の同級生で、気のおけない親友で────そんな友愛とは裏腹に『自分のものにしたい』とおおよそ友人に抱きうる以上の執着を陽介が抱いている女の子。シャドウがバラした事実を思い出してドギマギするも、陽介はなんとかさざ波立つ心を抑え込んで、何でもない風を装った。
八十稲羽に来て、様々な苦労をやり過ごした経験から、陽介には後ろめたい気持ちを隠し通す自信はあるのだ。
『ああ。学校の課題を済ませている最中でな。すこし飽きてしまったから、君と喋ろうかと思ったんだ』
幸いにも、陽介の不調は気取られなかったらしい。いつも通り清水のような落ち着きと、親しみの籠った瑞月の声が耳朶を打つ。
「へー、お前らしく真面目だなぁ……」
『真面目って……。花村、まさか忘れていないだろうな? 明日の古典、提出プリントがあるのだが?』
「……………………おい瀬名サンそれは確かで?」
『この手の話題で、私がウソを吐くとでも?』
陽介はベッドから転げ落ち、即座に通学用のショルダーバッグに飛びついた。
おざなりに扉を閉じて、まだ湿り気のある髪をそのままにベッドへと倒れこむ。ずしりと重い身体が、ベッドのスプリングを軋ませた。身体に悪影響があるというテレビの中の世界の霧による影響だろうか。
「ふぅ……」
いや、それだけではないことは、誰でもない陽介自身がよく分かっている。
重いため息を吐き出しながら、もう眠ってしまおうと、使い慣れたブランケットで身体をくるむ。だが、眠気は一向に訪れない。代わりに頭に浮かぶのは────聞き親しんだと思っていたはずの声で吐き出された、まったく聞いたことのない嫌悪の告白。
『花ちゃんのこと、ウザくて、妬ましかった』
『仲良くしてたの、店長の息子だから、都合いいってだけだったのに……』
『勘違いして、盛り上がって……、ほんと、ウザい……』
『それに花ちゃんはいいよね……心配してくれる、仲いい子がいて────私なんて誰も、だあれも居なかったよ』
不気味な商店街で聞いた、小西先輩の暗く沈んだ本音が何度もリフレインして陽介の脳内をかき乱す。
そんな風に思われているなんて、露ほど考えてもいなかった。いや、考える以前に見えていなかった。目先の恋に盲目になって、相手の事情なんてお構い無しで自分の気持ちだけを押しつけた。役に立ちたいなんて言いながら、彼女が抱える苦悩の一部になっていた。
そのツケがこれだ。小西先輩は唐突にいなくなって、遠い場所へと行ってしまった。陽介の謝罪も、彼女が抱えた苦悩を解す術も、届かないほど遠くへ。
ならば、一体どうすれば彼女を救えたのか? そんな問いが陽介の思考をぐるぐると巡る。
(もし、テレビに落ちた昨日、あの場所に行けてたなら)
もし、最後に会ったあの日、無理にでも彼女を自宅まで送り届けていたら。
もし、彼女が抱えていた息苦しさにもっと早く気がついていたら。
もし、彼女の孤独にもっと寄り添えていたら。
仮定の話はいくらでも思いつく。だが、全ては叶わない話だ。時計の針は戻らないように、小西先輩は死んでしまって、その事実は覆しようがないのだから。
どうやっても動かせない結論に、陽介の喉の奥がじくじくと痛む。堪えきれない悔恨の念に喉を焼かれて、ベッドの中で身体を丸め込んだ。
悔しかった、悲しかった。小西先輩を助けられなかったことが。そして、小西先輩に恋心を抱きながら、なにもできなかった愚かしさと無力が陽介にはどうしようもなく腹立たしくて────虚しかった。
胸がむしゃくしゃして、やるせない。行き場のない激情をどうにかしたくてシーツを強く握りしめると ── Pi Pi Pi Pi Pi Pi ── ローテーブルに放置していたスマホが甲高く着信を知らせる。
「……誰、だ?」
ブランケットにくるまったまま、陽介はスマホに手を伸ばす。表示画面を確認した後、動揺でスマホを取り落としそうになった。わわっと、お手玉よろしくスマホを空中に放り投げた。
だって通話してきた人物は、今一番会いたくない……というより、会ってどうしたら良いか分からない人物だったから。だが、出ないという選択肢は友人である彼女に対する陽介の誠意が許さない。
キャッチしたスマホを前に、一呼吸置く。ここぞとばかりに咳払いまでして、通話ボタンをタッチした。そして、平生と何ら変わらない、お調子者らしいにぎやかさを意識して「もしもーし」と電話をかけてきた相手に話しかける。
『もしもし、こんばんは花村。今、時間貰っても?』
「おー……瀬名じゃん。今夜はどしたよー」
着信相手は瑞月だった。陽介の同級生で、気のおけない親友で────そんな友愛とは裏腹に『自分のものにしたい』とおおよそ友人に抱きうる以上の執着を陽介が抱いている女の子。シャドウがバラした事実を思い出してドギマギするも、陽介はなんとかさざ波立つ心を抑え込んで、何でもない風を装った。
八十稲羽に来て、様々な苦労をやり過ごした経験から、陽介には後ろめたい気持ちを隠し通す自信はあるのだ。
『ああ。学校の課題を済ませている最中でな。すこし飽きてしまったから、君と喋ろうかと思ったんだ』
幸いにも、陽介の不調は気取られなかったらしい。いつも通り清水のような落ち着きと、親しみの籠った瑞月の声が耳朶を打つ。
「へー、お前らしく真面目だなぁ……」
『真面目って……。花村、まさか忘れていないだろうな? 明日の古典、提出プリントがあるのだが?』
「……………………おい瀬名サンそれは確かで?」
『この手の話題で、私がウソを吐くとでも?』
陽介はベッドから転げ落ち、即座に通学用のショルダーバッグに飛びついた。