抑圧した心
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◇◇◇
テレビの中を通過する感覚はやはり妙で、目眩を伴い2人の方向感覚を狂わせた。
テレビを潜り抜け、網膜を焼く強烈な光が懐かしい。ドサリと床に落ち、目眩が治まるのを悠は待った。
「あ……」
目を開いた先で、里中千枝が呆然と悠と陽介を交互に見た。みるみるうちに、きゅるりと丸っこいその瞳に涙がこみ上げる。
「か……帰っでぎだぁ……!! 」
千枝の涙腺が決壊した。顔をぐしゃぐしゃにして、赤い顔で彼女は号泣する。
「あ、里中? うっわ、どうしたんだよ、その顔?」
純粋に驚く陽介に、千枝の瞳がキッと吊り上がる。立ち上がる勢いを利用して、手にしていたロープ──命綱の残骸──を陽介へと投げつけた。
「あがっ!」
「どうした、じゃないよ! ほんっとバカ! 最悪!! もう信じらんない! アンタら、サイッテー!」
鳩尾にロープを食らった陽介が倒れた。千枝が膝を折り、号泣する。必死にしゃくりあげながら、千枝は声を大にした。
「ロープ、切れちゃうし……、どうしていいか、分かんないし……、心配……、したんだから」
最後には声が小さくなり、しゃくりあげるだけとなった。偶然、目にした時計の時刻に、悠は納得した。悠たちがテレビに入った時からかなりの時間が経っている。
危険な世界に行く陽介と悠を止められず、頼みの命綱も切れ、帰らない友人2人を一人待っていた千枝はどれほど混乱し、心細さを感じていただろうか。憤懣やるかたない彼女の心境察したのか、陽介も顔を引きつらせている。
「すっげー、心配したんだからね!」
「「すみませんでした」」
「あーもう、腹立つ!! もう知らない帰るっ!!!」
千枝の怒号に、男2名の謝罪がハモった。怒りが収まらない千枝は泣きながらエレベーターへと走り去っていった。みるみるうちに小さくなる後ろ姿を目で追いながら、陽介は困ったように頭を掻く。
「……ちょっとだけ、悪い事したな」
「あれは『ちょっと』どころじゃあなくないか? 人の死ぬような場所に行った友達を、帰ってくる保証もないまま一人で何時間も待たされたんだぞ」
「……だいぶ、ヤベーこと、してね? 俺ら」
「ああ、ヤバいな」
2人は渋い顔を見合せる。そうして、互いに苦笑いを浮かべた。
「しゃーない。明日あたり謝って、都合いいときにビフテキでもオゴるわ」
「俺もそうしようかな。……花村、どこかオススメの場所とか、知ってるか?」
「商店街の『愛屋』の肉丼。アイツの好物だってさ。3杯くらい奢ってやれ。慰謝料なら安いもんだろ」
「了解。無茶っていうものは、本当に高くつくな」
陽介はガシガシと頭をかいた。とりあえず今、千枝を追いかける体力はない。テレビの中で死に物狂いの戦闘を繰り広げたせいか、どっと身体が重いのだ。疲れをとるには、早風呂に早寝だ。悠も陽介も自分の荷物を引っ提げ、そのままジュネスを後にする。
「今日はさ、疲れたし、眠れそーな気ぃするよ」
別れ際、陽介はそう言っていた。だが、悠は心配だった。彼は想いを寄せていた相手を無くした後だ。
だが、何も言えなかった。陽介と悠は出会ったばかりで──イレギュラーで相手の本音を目にしたとはいえ──互いの内側に踏み込める仲ではないのだから。
「ああ、よく休めよ」
だから、悠は手短に告げた。本当に彼が深い眠りにつけるようにと。返答を聞いた陽介が、微かに頬を持ち上げた。
そのまま帰路を共にして、途中の別れ道で2人は手を振りあった。悠は、一人で帰りの道を行く陽介の背中が見えなくなるまで見送った。
テレビの中を通過する感覚はやはり妙で、目眩を伴い2人の方向感覚を狂わせた。
テレビを潜り抜け、網膜を焼く強烈な光が懐かしい。ドサリと床に落ち、目眩が治まるのを悠は待った。
「あ……」
目を開いた先で、里中千枝が呆然と悠と陽介を交互に見た。みるみるうちに、きゅるりと丸っこいその瞳に涙がこみ上げる。
「か……帰っでぎだぁ……!! 」
千枝の涙腺が決壊した。顔をぐしゃぐしゃにして、赤い顔で彼女は号泣する。
「あ、里中? うっわ、どうしたんだよ、その顔?」
純粋に驚く陽介に、千枝の瞳がキッと吊り上がる。立ち上がる勢いを利用して、手にしていたロープ──命綱の残骸──を陽介へと投げつけた。
「あがっ!」
「どうした、じゃないよ! ほんっとバカ! 最悪!! もう信じらんない! アンタら、サイッテー!」
鳩尾にロープを食らった陽介が倒れた。千枝が膝を折り、号泣する。必死にしゃくりあげながら、千枝は声を大にした。
「ロープ、切れちゃうし……、どうしていいか、分かんないし……、心配……、したんだから」
最後には声が小さくなり、しゃくりあげるだけとなった。偶然、目にした時計の時刻に、悠は納得した。悠たちがテレビに入った時からかなりの時間が経っている。
危険な世界に行く陽介と悠を止められず、頼みの命綱も切れ、帰らない友人2人を一人待っていた千枝はどれほど混乱し、心細さを感じていただろうか。憤懣やるかたない彼女の心境察したのか、陽介も顔を引きつらせている。
「すっげー、心配したんだからね!」
「「すみませんでした」」
「あーもう、腹立つ!! もう知らない帰るっ!!!」
千枝の怒号に、男2名の謝罪がハモった。怒りが収まらない千枝は泣きながらエレベーターへと走り去っていった。みるみるうちに小さくなる後ろ姿を目で追いながら、陽介は困ったように頭を掻く。
「……ちょっとだけ、悪い事したな」
「あれは『ちょっと』どころじゃあなくないか? 人の死ぬような場所に行った友達を、帰ってくる保証もないまま一人で何時間も待たされたんだぞ」
「……だいぶ、ヤベーこと、してね? 俺ら」
「ああ、ヤバいな」
2人は渋い顔を見合せる。そうして、互いに苦笑いを浮かべた。
「しゃーない。明日あたり謝って、都合いいときにビフテキでもオゴるわ」
「俺もそうしようかな。……花村、どこかオススメの場所とか、知ってるか?」
「商店街の『愛屋』の肉丼。アイツの好物だってさ。3杯くらい奢ってやれ。慰謝料なら安いもんだろ」
「了解。無茶っていうものは、本当に高くつくな」
陽介はガシガシと頭をかいた。とりあえず今、千枝を追いかける体力はない。テレビの中で死に物狂いの戦闘を繰り広げたせいか、どっと身体が重いのだ。疲れをとるには、早風呂に早寝だ。悠も陽介も自分の荷物を引っ提げ、そのままジュネスを後にする。
「今日はさ、疲れたし、眠れそーな気ぃするよ」
別れ際、陽介はそう言っていた。だが、悠は心配だった。彼は想いを寄せていた相手を無くした後だ。
だが、何も言えなかった。陽介と悠は出会ったばかりで──イレギュラーで相手の本音を目にしたとはいえ──互いの内側に踏み込める仲ではないのだから。
「ああ、よく休めよ」
だから、悠は手短に告げた。本当に彼が深い眠りにつけるようにと。返答を聞いた陽介が、微かに頬を持ち上げた。
そのまま帰路を共にして、途中の別れ道で2人は手を振りあった。悠は、一人で帰りの道を行く陽介の背中が見えなくなるまで見送った。