抑圧した心
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◇◇◇
過酷な戦闘が嘘であったかのように、コニシ酒店の中はシャドウが暴走する前の状態に戻っていた。酒類が圧迫感と閉塞感を伴って詰め込まれた様子も、無残に引き裂かれたジュネスのバイト仲間との記念写真も、全て元通りに配置されている。
その中で一人、金色の目を持つ陽介の《影》が佇んでいる。倒されて力を失ったのか、シャドウの黒靄に包まれていない。
陽介を煽ってきた悪辣さもなかった。肩を落とし、まるで迷子のような心細い顔をしていた。
陽介は《影》を見つけるなり、一歩一歩と近づいていく。歩みを進めるたびに大きくなる嫌悪感をこらえ、陽介は着実に距離を近づけた。悠とクマは、たしかに歩を進める陽介の後ろ姿を黙って見守った。
あと一歩踏み込めばつま先が触れる。その位置で、陽介とその《影》は対峙した。陽介は、目の前にある金の瞳を臆すことなく見つめる。徐に、引き結んだ唇を陽介は開いた。
「……お前が俺の中にいるってこと、知ってたよ。みっともないって、どーしょもないって、見ないふりしてたけどさ……お前も全部ひっくるめて俺ってことだよな」
不意に、陽介の《影》がぐっと表情を固めた。それは幼い子が涙をこらえる仕草にも似ている。
「お前は俺で、俺はお前だ」
「《……おせーよ、バーカ》」
悠たちに向けた殺意が嘘のように、清々しく陽介のシャドウが笑った。憎まれ口をたたきながらも、ポンと陽介の肩を労うように叩く。
「《じゃあ、俺から忠告。受け入れたんなら、ちゃんと向き合えよ。お前が何であんな風に退屈だって、特別になりたいって、瀬名が欲しいって、思うのか》」
────忘れんじゃ、ねぇぞ。
それだけを言い残して、陽介の《影》は青い光に包まれる。清浄な青の光の中に陽介の《影》は薄れて消えた。燐光は徐々に眩い光の柱へと成長し、立ちのぼる。その中に、巨大なシルエットが現れた。
頭頂部に備えられた2つの円盤がカエルの目を思わせる、人型の異形だ。だが両生類の不気味さはなく、デフォルメ化された愛嬌がある。
ゴムのようにしなやかなフォルムの身体を包むのは迷彩柄が組みこまれた白スーツ。加えて手に組み込まれた手裏剣が忍者を連想させる。首に巻いた赤いマフラーがたなびいて、いつか陽介の憧れた颯爽とバイクで駆け抜けて悪者を退治するヒーローを思い起こさせた。
「これが……俺のペルソナ……『ジライヤ』か……」
陽介がジライヤの名を呼ぶ。ジライヤは陽介の声に反応し、2人と一匹の頭上を滑空する。その後を柔らかな薄絹にも似た光の粒が降り注いだ。
「これは……!」
「 うきゃーーー!! ヨースケー! 先生の傷がみるみるうちに治っていくクマーー!!」
クマが驚嘆して飛び上がった。陽介が振り向くと、悠の服も含めた傷が、ジライヤが発した光の粒に触れては治っていく。痛々しく残っていた顔の傷までもが、跡形もなくきれいに消失した。ジライヤは、傷を癒す力を持っているらしい。
「これが、ジライヤの力なの……か……」
「花村!」
「ヨースケェ!」
ジライヤの技が精神の負荷となったらしい。ふっと、陽介の視界が眩んだのを引き金に、疲労に耐え切れず陽介は倒れかける。だが、とっさに悠とクマが支えてくれたので、なんとか陽介は持ち直した。
「花村、大丈夫か!?」
「わり。ちとダリぃわ。けどさ──」
へらりと、陽介は弱々しく笑った。やり遂げたというような達成感とともに。
「よかった。これで俺も……闘えるんだよな。もう、お前ひとりに無理させないで、隣でさ」
「────ッ」
《シャドウ》という怪物が溢れるこの世界で、怯えるだけだった自分から少しだけ歩き出せた気がして、嬉しかったのだ。
悠が陽介の肩をしっかりと、離れないように抱いてくれる。しかも、呼吸しやすいように、身体の位置を調節してくれたらしい。密着しているというのに苦しくなく、陽介は息を整えることができた。
呼吸が落ち着いてきたおかげで、ゴチャゴチャしていた思考が頭の中で整理されていく。
「なぁ、クマ……、もしかして小西先輩は、この場所でもう一人の自分に殺されたってことか? さっきの俺みたいに……」
「……たぶんそうだと思うクマ。……でもヨースケ、だいぶ疲れてるクマね。とりあえず出口に移動してお話はそれから。あそこなら霧も薄いから、身体の負担も少ないクマ。こっちの霧は、ヨースケたちにはあんまりよくないから」
肩を組み、悠と陽介は互いに身体を支えあいながら、クマに先導され出口のあるエントランスへと戻った。
過酷な戦闘が嘘であったかのように、コニシ酒店の中はシャドウが暴走する前の状態に戻っていた。酒類が圧迫感と閉塞感を伴って詰め込まれた様子も、無残に引き裂かれたジュネスのバイト仲間との記念写真も、全て元通りに配置されている。
その中で一人、金色の目を持つ陽介の《影》が佇んでいる。倒されて力を失ったのか、シャドウの黒靄に包まれていない。
陽介を煽ってきた悪辣さもなかった。肩を落とし、まるで迷子のような心細い顔をしていた。
陽介は《影》を見つけるなり、一歩一歩と近づいていく。歩みを進めるたびに大きくなる嫌悪感をこらえ、陽介は着実に距離を近づけた。悠とクマは、たしかに歩を進める陽介の後ろ姿を黙って見守った。
あと一歩踏み込めばつま先が触れる。その位置で、陽介とその《影》は対峙した。陽介は、目の前にある金の瞳を臆すことなく見つめる。徐に、引き結んだ唇を陽介は開いた。
「……お前が俺の中にいるってこと、知ってたよ。みっともないって、どーしょもないって、見ないふりしてたけどさ……お前も全部ひっくるめて俺ってことだよな」
不意に、陽介の《影》がぐっと表情を固めた。それは幼い子が涙をこらえる仕草にも似ている。
「お前は俺で、俺はお前だ」
「《……おせーよ、バーカ》」
悠たちに向けた殺意が嘘のように、清々しく陽介のシャドウが笑った。憎まれ口をたたきながらも、ポンと陽介の肩を労うように叩く。
「《じゃあ、俺から忠告。受け入れたんなら、ちゃんと向き合えよ。お前が何であんな風に退屈だって、特別になりたいって、瀬名が欲しいって、思うのか》」
────忘れんじゃ、ねぇぞ。
それだけを言い残して、陽介の《影》は青い光に包まれる。清浄な青の光の中に陽介の《影》は薄れて消えた。燐光は徐々に眩い光の柱へと成長し、立ちのぼる。その中に、巨大なシルエットが現れた。
頭頂部に備えられた2つの円盤がカエルの目を思わせる、人型の異形だ。だが両生類の不気味さはなく、デフォルメ化された愛嬌がある。
ゴムのようにしなやかなフォルムの身体を包むのは迷彩柄が組みこまれた白スーツ。加えて手に組み込まれた手裏剣が忍者を連想させる。首に巻いた赤いマフラーがたなびいて、いつか陽介の憧れた颯爽とバイクで駆け抜けて悪者を退治するヒーローを思い起こさせた。
「これが……俺のペルソナ……『ジライヤ』か……」
陽介がジライヤの名を呼ぶ。ジライヤは陽介の声に反応し、2人と一匹の頭上を滑空する。その後を柔らかな薄絹にも似た光の粒が降り注いだ。
「これは……!」
「 うきゃーーー!! ヨースケー! 先生の傷がみるみるうちに治っていくクマーー!!」
クマが驚嘆して飛び上がった。陽介が振り向くと、悠の服も含めた傷が、ジライヤが発した光の粒に触れては治っていく。痛々しく残っていた顔の傷までもが、跡形もなくきれいに消失した。ジライヤは、傷を癒す力を持っているらしい。
「これが、ジライヤの力なの……か……」
「花村!」
「ヨースケェ!」
ジライヤの技が精神の負荷となったらしい。ふっと、陽介の視界が眩んだのを引き金に、疲労に耐え切れず陽介は倒れかける。だが、とっさに悠とクマが支えてくれたので、なんとか陽介は持ち直した。
「花村、大丈夫か!?」
「わり。ちとダリぃわ。けどさ──」
へらりと、陽介は弱々しく笑った。やり遂げたというような達成感とともに。
「よかった。これで俺も……闘えるんだよな。もう、お前ひとりに無理させないで、隣でさ」
「────ッ」
《シャドウ》という怪物が溢れるこの世界で、怯えるだけだった自分から少しだけ歩き出せた気がして、嬉しかったのだ。
悠が陽介の肩をしっかりと、離れないように抱いてくれる。しかも、呼吸しやすいように、身体の位置を調節してくれたらしい。密着しているというのに苦しくなく、陽介は息を整えることができた。
呼吸が落ち着いてきたおかげで、ゴチャゴチャしていた思考が頭の中で整理されていく。
「なぁ、クマ……、もしかして小西先輩は、この場所でもう一人の自分に殺されたってことか? さっきの俺みたいに……」
「……たぶんそうだと思うクマ。……でもヨースケ、だいぶ疲れてるクマね。とりあえず出口に移動してお話はそれから。あそこなら霧も薄いから、身体の負担も少ないクマ。こっちの霧は、ヨースケたちにはあんまりよくないから」
肩を組み、悠と陽介は互いに身体を支えあいながら、クマに先導され出口のあるエントランスへと戻った。