客人〈マレビト〉来たりき
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霧の中を走っている。
視界を覆う霧は濃い。 一寸先は崖かもしれない。それでも、帰りたくて。帰らなければいけないと強く願って、悠は霧の中を走る。
『真実が知りたいって……?』
『それなら捕まえてごらんよ』
せせら笑うような、誘うような声が、霧の中で反響している。微かな音を頼りに、悠は進行方向を選び走る。
唐突に現れた扉を抜けると、人影が現れた。人影はいっそう濃い霧を纏っている。姿は隠され、性別すらも分からない。影は姿を隠して悠を挑発する。
『追いかけてくるのは……君か。ふふ……やってごらんよ……』
もやを払おうと手を横に払う。いつの間にか悠は刀を持っていて、刃先で薄い何かを切った。霧の中に埋もれていても、斬撃は届くらしい。
『この霧の中なのに少しは見えるみたいだね。なるほど……たしかにおもしろい素養だ。でも……簡単には捕まえられないよ』
霧が濃くなる。人の形を保っていた影が崩壊する。ならば、と悠は大きく踏み込んで刀を突き刺す。刃は空を切った。自身が有利な状況とは裏腹に、諦めと倦怠がにじんだ様子で影は言葉を続ける。
『求めているものが“真実”なら、なおさらね。
誰だって見たいものだけを見たいように見る』
人影が指を鳴らす。空気が氷つき、霧が質量を持った。悠の身体はびくとも動かない。
『またいつか会えるのかな。こことは違う別の場所で』
突然、立っていた足場が消え、悠の意識は底のしれない谷間に落ちていった。
◇◇◇
引っ越しの日の翌日──寝覚めは最悪だった。悪夢を見た悠の身体は寝汗でびっしょりと濡れている。昨日から、意味深な夢ばかりを悠は見ていた。一つは、災難と謎を予言する夢。もう一つは、捕まえてごらんと誘う夢だ。
(あの人影は、俺の周りで何かを起こそうとしているのか?)
悠は人影の言葉を思い出そうとする。しかし、霧で遮られたかのように、頭にはモヤがかかって思い出せない。そして思考は、パタパタと階段を上る音に中断された。
「朝ごはんできてるよー」
悠の下宿先、堂島家の一人娘──悠にとっては従姉妹にあたる──菜々子だ。幼い呼び掛けに、悠は我に返る.
今日は、編入した高校へと登校する初日だ。通学路の確認や担任との打ち合わせと、何かと忙しい一日になるだろう。悪夢の内容に気を取られている場合ではなかった。
「ありがとう。今行く」
頭を振って、じっとりとした夢の余韻を振り払う。幾分か頭の冴えた悠は、布団を抜けて身支度を始めた。
視界を覆う霧は濃い。 一寸先は崖かもしれない。それでも、帰りたくて。帰らなければいけないと強く願って、悠は霧の中を走る。
『真実が知りたいって……?』
『それなら捕まえてごらんよ』
せせら笑うような、誘うような声が、霧の中で反響している。微かな音を頼りに、悠は進行方向を選び走る。
唐突に現れた扉を抜けると、人影が現れた。人影はいっそう濃い霧を纏っている。姿は隠され、性別すらも分からない。影は姿を隠して悠を挑発する。
『追いかけてくるのは……君か。ふふ……やってごらんよ……』
もやを払おうと手を横に払う。いつの間にか悠は刀を持っていて、刃先で薄い何かを切った。霧の中に埋もれていても、斬撃は届くらしい。
『この霧の中なのに少しは見えるみたいだね。なるほど……たしかにおもしろい素養だ。でも……簡単には捕まえられないよ』
霧が濃くなる。人の形を保っていた影が崩壊する。ならば、と悠は大きく踏み込んで刀を突き刺す。刃は空を切った。自身が有利な状況とは裏腹に、諦めと倦怠がにじんだ様子で影は言葉を続ける。
『求めているものが“真実”なら、なおさらね。
誰だって見たいものだけを見たいように見る』
人影が指を鳴らす。空気が氷つき、霧が質量を持った。悠の身体はびくとも動かない。
『またいつか会えるのかな。こことは違う別の場所で』
突然、立っていた足場が消え、悠の意識は底のしれない谷間に落ちていった。
◇◇◇
引っ越しの日の翌日──寝覚めは最悪だった。悪夢を見た悠の身体は寝汗でびっしょりと濡れている。昨日から、意味深な夢ばかりを悠は見ていた。一つは、災難と謎を予言する夢。もう一つは、捕まえてごらんと誘う夢だ。
(あの人影は、俺の周りで何かを起こそうとしているのか?)
悠は人影の言葉を思い出そうとする。しかし、霧で遮られたかのように、頭にはモヤがかかって思い出せない。そして思考は、パタパタと階段を上る音に中断された。
「朝ごはんできてるよー」
悠の下宿先、堂島家の一人娘──悠にとっては従姉妹にあたる──菜々子だ。幼い呼び掛けに、悠は我に返る.
今日は、編入した高校へと登校する初日だ。通学路の確認や担任との打ち合わせと、何かと忙しい一日になるだろう。悪夢の内容に気を取られている場合ではなかった。
「ありがとう。今行く」
頭を振って、じっとりとした夢の余韻を振り払う。幾分か頭の冴えた悠は、布団を抜けて身支度を始めた。