抑圧した心
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「けど、なるほどな……たしかにココにできてんのが誰かの心から見た現実の景色なら、あのポスターと……ヘンな配置の縄と椅子とかがあった、殺風景な部屋と山野アナの繋がりも説明がつくな……」
「不倫が発覚して、積み上げてきたキャリアを失う絶望と、強かな不倫相手の奥さんへの怨恨を踏まえれば、まぁ……現実をあんな悲惨な世界に捉えてもおかしくかなとは思う」
「それにその説なら、ここがなんで商店街なのかっつーのも分かるかも。……商店街は小西先輩の実家があるトコだし、一番身近っていえば身近な場所だ」
クマのボディプレスを退け、陽介が上体を起こした。悠も続いて立ち上がれば、先に立ち上がった陽介がうらぶれた空気の漂う商店街を見渡す。
「……とりあえずこの場所がどやってできたのかは分かんねーけど、土地勘ある場所でラッキーだったぜ。だってココがウチの商店街なら、この先はたしか、小西先輩の……」
「あ! 花村、一人で行くな!」
陽介は意図を持った動きで走り出した。みるみるうちに離れていくクラスメイトに慌てた悠は、クマを伴って後を追いかける。
◇◇◇
しばらく走ると、陽介がある商店の前で立ち止まる。
彼が見つめる視線の先、寂れた古い店の軒先には、『コニシ酒店』と彫られた看板が掲げられていた。
もっとも、入口は赤と黒の禍々しい波紋を発して、異様な雰囲気を醸し出している。異空間につながっていそうな有様である。陽介は店先の隅から隅まで見渡し、そして頷いた。
「やっぱり……。ココ、先輩んちの酒屋だ」
確信し、深く頷いた陽介は異様な酒屋の入り口を前にして言い放つ。
「クマ! 人が消えたって言うのは、この場所で間違いないか?」
「そうクマ……。でもその中、なんかすごく怖い気配がす——」
言いかけて、クマはビクンと身体を縮こめて耳を塞いだ。その理由を問わずとも2人はすぐに知ることとなる。
『ジュネスなんて潰れればいいのに』
どろり、と嫌悪の感情がまとわりついた罵声。一つをきっかけに、膿のように粘着質な厭怨が、悠たちを取り囲む異様な商店街からどこからともなく漏れ出して悠たちに雪崩かかる。
『ジュネスのせいで……』
『そういえば小西さんちの早紀ちゃん、ジュネスでバイトしてるんですってよ』
『まあ……、おうちが大変だって時に……ねぇ』
『ジュネスのせいでこのところ、売上が良くないっていうし』
『娘さんがジュネスで働いているなんて、ご主人も苦労するわねぇ』
『本当、困った子……』
「や、やめろよ……」
クスクス、クスクス。あざけるような含み笑いに、陽介が苦しそうに呻いた。悲痛に歪められた眉には動揺が如実に現れている。
おそらく彼は知らなかったのだろう。商店街の人間が、ジュネスに、そして小西先輩に、こんな明け透けな嘲りを吐いていた事実を。
ジュネス店長の息子であり、小西先輩とアルバイト仲間であった彼は胸を掴んで拒絶を示すように頭を振った。
しかし、くすくす、くすくす、ねばつく嘲笑の声が2人の耳にまとわりついて離れない。
「……おいクマ。ホントにこの場所が小西先輩にとっての現実だってのか?」
陽介が目を怒らせて、低い声でクマに問う。彼は慕っていた人を侮辱されて怒っていた。
「さっきも言ったけど、ココはココにいる者にとっての“現実”クマよ? それ以上でもそれ以下でもないクマ」
「……上等だよ」
痺れを切らした陽介が、酒店の入り口に手を突っ込んだ。無鉄砲な行動に悠は目を見開く。
咄嗟に手を伸ばすも、届かない。陽介はそのまま、赤と黒の渦に飲み込まれるかのように、異界と化した酒店に吸いこまれていく。
「ヨースケ!?」
「花村! 無茶だッ」
彼を一人で行かせるわけにはいかない。シャドウを倒す『ペルソナ』を持つ悠ならともかく、陽介は何の力もない一般人だ。
なにより、悠は彼が傷つくところなんて見たくなかった。
先走った陽介を追いかけて、悠は異様なコニシ酒店へと飛び込む。
「不倫が発覚して、積み上げてきたキャリアを失う絶望と、強かな不倫相手の奥さんへの怨恨を踏まえれば、まぁ……現実をあんな悲惨な世界に捉えてもおかしくかなとは思う」
「それにその説なら、ここがなんで商店街なのかっつーのも分かるかも。……商店街は小西先輩の実家があるトコだし、一番身近っていえば身近な場所だ」
クマのボディプレスを退け、陽介が上体を起こした。悠も続いて立ち上がれば、先に立ち上がった陽介がうらぶれた空気の漂う商店街を見渡す。
「……とりあえずこの場所がどやってできたのかは分かんねーけど、土地勘ある場所でラッキーだったぜ。だってココがウチの商店街なら、この先はたしか、小西先輩の……」
「あ! 花村、一人で行くな!」
陽介は意図を持った動きで走り出した。みるみるうちに離れていくクラスメイトに慌てた悠は、クマを伴って後を追いかける。
◇◇◇
しばらく走ると、陽介がある商店の前で立ち止まる。
彼が見つめる視線の先、寂れた古い店の軒先には、『コニシ酒店』と彫られた看板が掲げられていた。
もっとも、入口は赤と黒の禍々しい波紋を発して、異様な雰囲気を醸し出している。異空間につながっていそうな有様である。陽介は店先の隅から隅まで見渡し、そして頷いた。
「やっぱり……。ココ、先輩んちの酒屋だ」
確信し、深く頷いた陽介は異様な酒屋の入り口を前にして言い放つ。
「クマ! 人が消えたって言うのは、この場所で間違いないか?」
「そうクマ……。でもその中、なんかすごく怖い気配がす——」
言いかけて、クマはビクンと身体を縮こめて耳を塞いだ。その理由を問わずとも2人はすぐに知ることとなる。
『ジュネスなんて潰れればいいのに』
どろり、と嫌悪の感情がまとわりついた罵声。一つをきっかけに、膿のように粘着質な厭怨が、悠たちを取り囲む異様な商店街からどこからともなく漏れ出して悠たちに雪崩かかる。
『ジュネスのせいで……』
『そういえば小西さんちの早紀ちゃん、ジュネスでバイトしてるんですってよ』
『まあ……、おうちが大変だって時に……ねぇ』
『ジュネスのせいでこのところ、売上が良くないっていうし』
『娘さんがジュネスで働いているなんて、ご主人も苦労するわねぇ』
『本当、困った子……』
「や、やめろよ……」
クスクス、クスクス。あざけるような含み笑いに、陽介が苦しそうに呻いた。悲痛に歪められた眉には動揺が如実に現れている。
おそらく彼は知らなかったのだろう。商店街の人間が、ジュネスに、そして小西先輩に、こんな明け透けな嘲りを吐いていた事実を。
ジュネス店長の息子であり、小西先輩とアルバイト仲間であった彼は胸を掴んで拒絶を示すように頭を振った。
しかし、くすくす、くすくす、ねばつく嘲笑の声が2人の耳にまとわりついて離れない。
「……おいクマ。ホントにこの場所が小西先輩にとっての現実だってのか?」
陽介が目を怒らせて、低い声でクマに問う。彼は慕っていた人を侮辱されて怒っていた。
「さっきも言ったけど、ココはココにいる者にとっての“現実”クマよ? それ以上でもそれ以下でもないクマ」
「……上等だよ」
痺れを切らした陽介が、酒店の入り口に手を突っ込んだ。無鉄砲な行動に悠は目を見開く。
咄嗟に手を伸ばすも、届かない。陽介はそのまま、赤と黒の渦に飲み込まれるかのように、異界と化した酒店に吸いこまれていく。
「ヨースケ!?」
「花村! 無茶だッ」
彼を一人で行かせるわけにはいかない。シャドウを倒す『ペルソナ』を持つ悠ならともかく、陽介は何の力もない一般人だ。
なにより、悠は彼が傷つくところなんて見たくなかった。
先走った陽介を追いかけて、悠は異様なコニシ酒店へと飛び込む。