雲行き崩れて
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3人の情報を共有し、テレビの中で起こった出来事と、八十稲羽の連続殺人の経過を整理する。クマによれば、テレビの中に三回ほど外の世界から何かが放り込まれる事態が起こったという。
うち1つは悠たちが不慮の事故を起こしたものである。ほかの2件については、人の気配を感じて近づいてみたが、怖くなって探索を断念したとはクマの話。なんでも、《シャドウ》——テレビの中の怪物たちが2人の周りをウヨウヨしていて近づけなかったという。
「クマ、戦う力ないから逃げるしかできなかったクマ。そのときは、『霧』がもうすぐ晴れそうで、危なかったし」
そう証言するクマを、陽介は複雑な表情でトンと軽く押してみる。
「のわーーー、ヨースケ、やめれーーーー!」
踏ん張ることができず、クマは重心を崩して倒れた。障子紙だってもう少し根性あるぞ、と言いたいような脆弱さに、陽介と悠は絶句した。どうやら、護身用にゴルフクラブを持ってきたのは間違いではなかったらしい。
やめれーと引き続きもがくクマを、鳴上が助け起こす。
「クマ。もうひとつ質問だ。さっきから……というか初めて会ったときから『霧』をやたらと気にしているけど、『霧』とこの世界と何か関係があるのか?」
「あ、ありがとクマ……。んっとね、こっちの世界では霧が晴れるととっても危なくて、シャドウたちが暴れるクマ」
「霧が晴れる? テレビの中の霧が晴れることがあるのか?」
悠は疑問を抱く。テレビの中の世界は、染み付いたように濃い霧に満たされて、晴れたところなど想像ができない。何か条件があるのかと思案していると、クマが答えを話す。
「あっち──キミタチの世界で霧が出る日は、こっちだと霧が晴れるクマよー。で、シャドウたちが大暴れするの。おっかないから、いつもクマ隠れてるクマよ」
「おいそれって……! 山野アナと小西先輩……2人はどうなったんだ?」
『暴れる』という物騒な表現に、陽介の背筋をひやりとした予感が駆ける。あの怪物襲われる恐怖は、陽介に身に嫌といえるほどしみている。思わず荒げた声が出てしまって、クマは怯えた様子で耳を塞いだ。
「う……こっちの霧が晴れてしばらくすると、ふたりとも気配……消えちゃったクマ。たぶん、シャドウたちに襲われたんだとおもう……」
陽介がグッと奥歯を噛んだ。その横で悠は冷静に尋ねる。
「そういえば、山野アナの時も今回も、事件当日には霧が出てたな。『霧』を通じて、テレビの中の世界と現実が繋がっているのか?」
テレビの中の出来事と、現実世界の出来事を悠は並べる、その表情は心なしか険しい。
霧が晴れると暴れるテレビの中のシャドウと、現実世界で霧が出るときに上がった死体。詳しい仕組みは説明できないけれど、『霧』という現象を通じてテレビの世界と現実の世界が連動しているような気がしたのだ。陽介が「そうだな」と頷く。
「……それから、その霧が晴れて、シャドウが暴れたっつーのも、なんか嫌な予感がする。2人がいなくなったことに関係がありそうっつか……」
だが最後まで言いきれずに、陽介は俯いた。彼の心情を慮って、おそらく続くであろう言葉を悠は引き継ぐ。
「とりあえず小西先輩と山野アナの件について、仮説をまとめよう。まず、誰かがテレビの中に2人を放り込んだ。そして、おそらくだけど、彼女たちはシャドウに遭遇し、襲われたんだ。昨日、こちらの世界に迷い込んだ俺たちのように」
「それって、悪意を持った殺人じゃねぇかッ……。畜生……!」
陽介が拳を固く握りしめる。ぎりと歯を食い締めて、苦しそうな彼を見て、悠は心苦しさを覚えた。
想いを寄せていた小西先輩が亡くなった真相を知りたいと言ったのは彼自身だ。しかし、それは彼女が苦しみ、無残な死を遂げた道筋を無常に鼻先へと突き付ける行為に他ならない。好きな人を無くした、彼の心の傷を抉るにも等しい行いなのだ。
「……落ち着け、花村。怒りに我を忘れないでくれ」
だから悠は、努めて冷静に彼へと呼びかけた。心の中に抱えた怒りや悲しみに彼が吞まれないように。
テレビの中という未知の世界において、感情的な行動は命取りになりかねない。だからこそ悠は自分が冷静であるように努め、感情で飛び出しそうな陽介を止めなければならないのだ。
それに、彼が怒って────その裏に見える、想い人を喪った彼の悲しみを感じ取るのが、悠は堪らなかった。
懇願の滲むその声に、陽介がはっと我に返る。冷静さを欠いた自覚を持ったのか、はたまた悠の悲し気な困惑を感じ取ったのか、陽介はバツが悪そうな顔をする。
「ワリ。本題から逸れちまったな。それで……?」
「まだ、これらは推測の域を出ない。本当に2人がこちらに来たという証拠がないからだ。……なにか直接的な証拠があればいいんだけど、あの殺風景な部屋と山野アナの関係を証明するのは難しい」
「……たしかにそうか。あのズタズタにされたポスターと山野アナの関係って推測でしかないもんな。山野アナがやったんじゃないかってだけで、こっちのシャドウとか、他のヤツがズタズタにした可能性だってある」
「そう。……山野アナが身につけてたアクセサリーとか、本人の髪の毛とかがあれば、ちゃんと結び付けられるんだけどな。けど、仮にそれらを見つけたとしても、俺たちには山野アナのだって確かめる方法がない。それに、一瞥しただけだけど、あの部屋にはそういうのは無さそうだったから」
あの殺風景な部屋はたしかに山野アナと関係があるのかもしれない。けれど、直接的な証拠でもって関係づけるのは難しかった。家宅捜索や聞き込みによって、警察のようにプライベートな情報まで握っているなら話は別だが、あいにくと悠たちはただの高校生だ。山野アナに関しては、人となりをニュースで聞くくらいにしか知らない。
つまり、山野アナと殺風景な部屋の関係を証明する手立てを悠たちは持っていなかった。けれど──
「────小西先輩なら、掴めるかもしれない。小西先輩がいなくなった場所を見つけて、そこに小西先輩に繋がる証拠があれば。こっちには小西先輩と知り合いだった花村もいるし、見つられる可能性も大きいと思うんだ」
捜索の方針を打ち出した悠に、陽介が目を輝かせた。不可解が極まる問題を前に光明を見出した明るさで彼は食いついた。
「じゃあ、小西先輩が落ちてきて、そんでいなくなった場所を見つけられればいいんだな……! そうだな、上手くすれば犯人についても、なんか分かっかも知んねーよな!」
「コニシセンパイかどうかは分からないけど、イッチバーン最近人が落っこちて消えちゃった場所、分かるクマ! クマ戦えないけど、案内はできるクマよ?」
「ッ!? おいそれマジかクマ吉!」
「マジマジ。そうと決まったらさっそく行くクマ!」
そういって両手を伸ばしたクマは、悠と陽介の手を掴むとものすごい勢いで走り出そうとする。
視界の効かない陽介は慌てて踏ん張った。弱気なのか強気なのか、よく分からないクマである。
「ちょっ、クマ、待て待てストップ! お前と違って俺は、霧のせいで前が見えないんだよっ」
「あ、そっか。ヨースケにはメガネ渡してなかったクマね。ほい、どーんっ」
「どわっ、なにす……っておお、ナニコレめっちゃよく見える」
強引に、陽介はメガネをかけられた。どうやら霧を見通すメガネの効果に感動を覚えたらしく、オレンジ色のスクエアフレームを上げ下げする。劇的なメガネの働きに感心する陽介に、クマはしてやったりと胸を張った。
「さっ、これで準備はOK クマね、急ぐクマ!」
「クマ、待ってくれ。まだ聞きたいことがあるんだ」
悠の呼び止めにクマは応じた。もう一つの謎、《マヨナカテレビ》とテレビの中の因果関係について質問する。
だが事件と関連が疑われる《マヨナカテレビ》について芳しい答えは得られなかった。クマは困ったように眉にあたる部分を力なく垂らす。
「まよなかてれび……? この世界は、クマとシャドウしかいないから、その……バングミとかゆうの、トルことなんてないクマよ? だからどうして、この世界のことがそっちのテレビに映るかは分からないクマ」
うち1つは悠たちが不慮の事故を起こしたものである。ほかの2件については、人の気配を感じて近づいてみたが、怖くなって探索を断念したとはクマの話。なんでも、《シャドウ》——テレビの中の怪物たちが2人の周りをウヨウヨしていて近づけなかったという。
「クマ、戦う力ないから逃げるしかできなかったクマ。そのときは、『霧』がもうすぐ晴れそうで、危なかったし」
そう証言するクマを、陽介は複雑な表情でトンと軽く押してみる。
「のわーーー、ヨースケ、やめれーーーー!」
踏ん張ることができず、クマは重心を崩して倒れた。障子紙だってもう少し根性あるぞ、と言いたいような脆弱さに、陽介と悠は絶句した。どうやら、護身用にゴルフクラブを持ってきたのは間違いではなかったらしい。
やめれーと引き続きもがくクマを、鳴上が助け起こす。
「クマ。もうひとつ質問だ。さっきから……というか初めて会ったときから『霧』をやたらと気にしているけど、『霧』とこの世界と何か関係があるのか?」
「あ、ありがとクマ……。んっとね、こっちの世界では霧が晴れるととっても危なくて、シャドウたちが暴れるクマ」
「霧が晴れる? テレビの中の霧が晴れることがあるのか?」
悠は疑問を抱く。テレビの中の世界は、染み付いたように濃い霧に満たされて、晴れたところなど想像ができない。何か条件があるのかと思案していると、クマが答えを話す。
「あっち──キミタチの世界で霧が出る日は、こっちだと霧が晴れるクマよー。で、シャドウたちが大暴れするの。おっかないから、いつもクマ隠れてるクマよ」
「おいそれって……! 山野アナと小西先輩……2人はどうなったんだ?」
『暴れる』という物騒な表現に、陽介の背筋をひやりとした予感が駆ける。あの怪物襲われる恐怖は、陽介に身に嫌といえるほどしみている。思わず荒げた声が出てしまって、クマは怯えた様子で耳を塞いだ。
「う……こっちの霧が晴れてしばらくすると、ふたりとも気配……消えちゃったクマ。たぶん、シャドウたちに襲われたんだとおもう……」
陽介がグッと奥歯を噛んだ。その横で悠は冷静に尋ねる。
「そういえば、山野アナの時も今回も、事件当日には霧が出てたな。『霧』を通じて、テレビの中の世界と現実が繋がっているのか?」
テレビの中の出来事と、現実世界の出来事を悠は並べる、その表情は心なしか険しい。
霧が晴れると暴れるテレビの中のシャドウと、現実世界で霧が出るときに上がった死体。詳しい仕組みは説明できないけれど、『霧』という現象を通じてテレビの世界と現実の世界が連動しているような気がしたのだ。陽介が「そうだな」と頷く。
「……それから、その霧が晴れて、シャドウが暴れたっつーのも、なんか嫌な予感がする。2人がいなくなったことに関係がありそうっつか……」
だが最後まで言いきれずに、陽介は俯いた。彼の心情を慮って、おそらく続くであろう言葉を悠は引き継ぐ。
「とりあえず小西先輩と山野アナの件について、仮説をまとめよう。まず、誰かがテレビの中に2人を放り込んだ。そして、おそらくだけど、彼女たちはシャドウに遭遇し、襲われたんだ。昨日、こちらの世界に迷い込んだ俺たちのように」
「それって、悪意を持った殺人じゃねぇかッ……。畜生……!」
陽介が拳を固く握りしめる。ぎりと歯を食い締めて、苦しそうな彼を見て、悠は心苦しさを覚えた。
想いを寄せていた小西先輩が亡くなった真相を知りたいと言ったのは彼自身だ。しかし、それは彼女が苦しみ、無残な死を遂げた道筋を無常に鼻先へと突き付ける行為に他ならない。好きな人を無くした、彼の心の傷を抉るにも等しい行いなのだ。
「……落ち着け、花村。怒りに我を忘れないでくれ」
だから悠は、努めて冷静に彼へと呼びかけた。心の中に抱えた怒りや悲しみに彼が吞まれないように。
テレビの中という未知の世界において、感情的な行動は命取りになりかねない。だからこそ悠は自分が冷静であるように努め、感情で飛び出しそうな陽介を止めなければならないのだ。
それに、彼が怒って────その裏に見える、想い人を喪った彼の悲しみを感じ取るのが、悠は堪らなかった。
懇願の滲むその声に、陽介がはっと我に返る。冷静さを欠いた自覚を持ったのか、はたまた悠の悲し気な困惑を感じ取ったのか、陽介はバツが悪そうな顔をする。
「ワリ。本題から逸れちまったな。それで……?」
「まだ、これらは推測の域を出ない。本当に2人がこちらに来たという証拠がないからだ。……なにか直接的な証拠があればいいんだけど、あの殺風景な部屋と山野アナの関係を証明するのは難しい」
「……たしかにそうか。あのズタズタにされたポスターと山野アナの関係って推測でしかないもんな。山野アナがやったんじゃないかってだけで、こっちのシャドウとか、他のヤツがズタズタにした可能性だってある」
「そう。……山野アナが身につけてたアクセサリーとか、本人の髪の毛とかがあれば、ちゃんと結び付けられるんだけどな。けど、仮にそれらを見つけたとしても、俺たちには山野アナのだって確かめる方法がない。それに、一瞥しただけだけど、あの部屋にはそういうのは無さそうだったから」
あの殺風景な部屋はたしかに山野アナと関係があるのかもしれない。けれど、直接的な証拠でもって関係づけるのは難しかった。家宅捜索や聞き込みによって、警察のようにプライベートな情報まで握っているなら話は別だが、あいにくと悠たちはただの高校生だ。山野アナに関しては、人となりをニュースで聞くくらいにしか知らない。
つまり、山野アナと殺風景な部屋の関係を証明する手立てを悠たちは持っていなかった。けれど──
「────小西先輩なら、掴めるかもしれない。小西先輩がいなくなった場所を見つけて、そこに小西先輩に繋がる証拠があれば。こっちには小西先輩と知り合いだった花村もいるし、見つられる可能性も大きいと思うんだ」
捜索の方針を打ち出した悠に、陽介が目を輝かせた。不可解が極まる問題を前に光明を見出した明るさで彼は食いついた。
「じゃあ、小西先輩が落ちてきて、そんでいなくなった場所を見つけられればいいんだな……! そうだな、上手くすれば犯人についても、なんか分かっかも知んねーよな!」
「コニシセンパイかどうかは分からないけど、イッチバーン最近人が落っこちて消えちゃった場所、分かるクマ! クマ戦えないけど、案内はできるクマよ?」
「ッ!? おいそれマジかクマ吉!」
「マジマジ。そうと決まったらさっそく行くクマ!」
そういって両手を伸ばしたクマは、悠と陽介の手を掴むとものすごい勢いで走り出そうとする。
視界の効かない陽介は慌てて踏ん張った。弱気なのか強気なのか、よく分からないクマである。
「ちょっ、クマ、待て待てストップ! お前と違って俺は、霧のせいで前が見えないんだよっ」
「あ、そっか。ヨースケにはメガネ渡してなかったクマね。ほい、どーんっ」
「どわっ、なにす……っておお、ナニコレめっちゃよく見える」
強引に、陽介はメガネをかけられた。どうやら霧を見通すメガネの効果に感動を覚えたらしく、オレンジ色のスクエアフレームを上げ下げする。劇的なメガネの働きに感心する陽介に、クマはしてやったりと胸を張った。
「さっ、これで準備はOK クマね、急ぐクマ!」
「クマ、待ってくれ。まだ聞きたいことがあるんだ」
悠の呼び止めにクマは応じた。もう一つの謎、《マヨナカテレビ》とテレビの中の因果関係について質問する。
だが事件と関連が疑われる《マヨナカテレビ》について芳しい答えは得られなかった。クマは困ったように眉にあたる部分を力なく垂らす。
「まよなかてれび……? この世界は、クマとシャドウしかいないから、その……バングミとかゆうの、トルことなんてないクマよ? だからどうして、この世界のことがそっちのテレビに映るかは分からないクマ」