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◇◇◇
瑞月の家で夕食をご馳走になった後、陽介はまっすぐに自宅へと帰った。仕事で両親不在の家は物静かだ。
荷物を自室に放ると、すぐさま風呂掃除を済ませ、給湯器が自動で湯船を張ってくれるのを待ちながら、居間で数冊のファッション誌を開いてみる。しかし、内容が頭に入ってこない。
(あー、こりゃ……)
陽介はずんと重い身体に顔をしかめる。瑞月たちと過ごしていた楽しさに紛らわされていたが、やはり身体も頭も霞がかったようにだるい。
放課後、テレビの中へ入ったという異常体験が誤魔化しようもなく現実であったと思い知らされて気が滅入る。
気分転換にと、陽介はテレビを付けてみる。バラエティに回そうとして──手が止まった。
画面のテロップには『続報! 稲羽“女子アナ”怪死事件』の文字。放課後に迷い込んだ異世界の、怨念じみた殺風景の部屋が過って、チャンネルを回せなかった。馴染みのニュースキャスターが、平生と変わらない様子で原稿を読み上げる。
【……被害に遭う直前の山野さんの行動は、はっきりしていませんでしたが、地元の名所として知られる“天城屋旅館”に宿泊していたことが、警察の調べで分かりました】
【ああ、”天城屋旅館”! あそこの温泉はね~、いいですよ~!】
「え……天城の?」
意外な地名の登場に、陽介は目を点にした。
“天城屋旅館”は陽介はのクラスメイト・天城雪子の実家である。そういえばと陽介は記憶を手繰った。
『……うん。私も瑞月ちゃんも、家で用事があるから』
今日の帰り際、焦ったようにどこか追い詰められたように目を伏せていた雪子。彼女がせわしなく教室を出ていった姿を思い出す。もしかするとマスコミへの応対で、実家が忙しかったのかもしれない。
【女将の高校生の娘さんが働いてるんですが、この春にも跡継ぐかって噂がありましてね。そうしたら“現役女子高生女将”ですよ! いや~ボクもまた行きたいな~】
「継いでねーよ。鼻の下伸ばしやがって……みっともねぇ」
コメンテーターのセクハラじみた口ぶりに陽介はむっとした。実家の手伝いで身体を張っている雪子を間近で見ているからか、彼女の苦労を度外視して、いやに囃し立てる輩には嫌気がさす。
辟易した陽介はチャンネルを天気予報に切り替えた。いつも通りほがらかな声音のお天気キャスターによれば、今夜は一晩中振り続いたのち、翌朝は霧が出るらしい。
(一晩中……つーことは今日も《マヨナカテレビ》、映るのかな)
陽介はパチリと目を閉じる。昨日の雨降る午前0時、電源の入っていないテレビに流れた、黄色いノイズだらけの映像。巷では《マヨナカテレビ》と呼ばれている本物の怪奇現象。
そこに写った──陽介が心を寄せる人──”小西早紀”先輩と良く似た人影。
陽介はスマホのメールボックスを確認した。昨日、陽介が送ったメールへの返信はいまだ来ない。陽介の心がざわつく。
小西先輩は送ったメールに必ず返信をくれる人だ。陽介が送ったメールを1日読まずに放置するなんてことは絶対にしない。
(いや、でも小西先輩、山野アナの死体、直に見たって言うし……スゲー落ち込んで、ケータイ開けないってコトが、あってもおかしくないよな……)
しかもテレビアンテナにぶら下がっていた猟奇的な死体の第一発見者だ。いくらジュネスで面倒な客に遭遇した後の切り替えの早い小西先輩といっても、死体を見たトラウマから早々に立ち直れるものではないだろう。ショックを受けて、何事も手に着かなくなっているのかもしれないと、陽介は自身に言い聞かせる。
(でも、なんか……イヤな予感、消えないんだよなぁ)
ピピピと、風呂場から湯船が出来上がったと知らせる機械音が届いた。不穏な思考を打ち切って、陽介はそそくさと風呂へ向かう。
けれど、熱いシャワーを浴びようが、適温の湯船につかろうが、陽介の中から小西先輩への気ががりな想いは消えてくれなかった。
瑞月の家で夕食をご馳走になった後、陽介はまっすぐに自宅へと帰った。仕事で両親不在の家は物静かだ。
荷物を自室に放ると、すぐさま風呂掃除を済ませ、給湯器が自動で湯船を張ってくれるのを待ちながら、居間で数冊のファッション誌を開いてみる。しかし、内容が頭に入ってこない。
(あー、こりゃ……)
陽介はずんと重い身体に顔をしかめる。瑞月たちと過ごしていた楽しさに紛らわされていたが、やはり身体も頭も霞がかったようにだるい。
放課後、テレビの中へ入ったという異常体験が誤魔化しようもなく現実であったと思い知らされて気が滅入る。
気分転換にと、陽介はテレビを付けてみる。バラエティに回そうとして──手が止まった。
画面のテロップには『続報! 稲羽“女子アナ”怪死事件』の文字。放課後に迷い込んだ異世界の、怨念じみた殺風景の部屋が過って、チャンネルを回せなかった。馴染みのニュースキャスターが、平生と変わらない様子で原稿を読み上げる。
【……被害に遭う直前の山野さんの行動は、はっきりしていませんでしたが、地元の名所として知られる“天城屋旅館”に宿泊していたことが、警察の調べで分かりました】
【ああ、”天城屋旅館”! あそこの温泉はね~、いいですよ~!】
「え……天城の?」
意外な地名の登場に、陽介は目を点にした。
“天城屋旅館”は陽介はのクラスメイト・天城雪子の実家である。そういえばと陽介は記憶を手繰った。
『……うん。私も瑞月ちゃんも、家で用事があるから』
今日の帰り際、焦ったようにどこか追い詰められたように目を伏せていた雪子。彼女がせわしなく教室を出ていった姿を思い出す。もしかするとマスコミへの応対で、実家が忙しかったのかもしれない。
【女将の高校生の娘さんが働いてるんですが、この春にも跡継ぐかって噂がありましてね。そうしたら“現役女子高生女将”ですよ! いや~ボクもまた行きたいな~】
「継いでねーよ。鼻の下伸ばしやがって……みっともねぇ」
コメンテーターのセクハラじみた口ぶりに陽介はむっとした。実家の手伝いで身体を張っている雪子を間近で見ているからか、彼女の苦労を度外視して、いやに囃し立てる輩には嫌気がさす。
辟易した陽介はチャンネルを天気予報に切り替えた。いつも通りほがらかな声音のお天気キャスターによれば、今夜は一晩中振り続いたのち、翌朝は霧が出るらしい。
(一晩中……つーことは今日も《マヨナカテレビ》、映るのかな)
陽介はパチリと目を閉じる。昨日の雨降る午前0時、電源の入っていないテレビに流れた、黄色いノイズだらけの映像。巷では《マヨナカテレビ》と呼ばれている本物の怪奇現象。
そこに写った──陽介が心を寄せる人──”小西早紀”先輩と良く似た人影。
陽介はスマホのメールボックスを確認した。昨日、陽介が送ったメールへの返信はいまだ来ない。陽介の心がざわつく。
小西先輩は送ったメールに必ず返信をくれる人だ。陽介が送ったメールを1日読まずに放置するなんてことは絶対にしない。
(いや、でも小西先輩、山野アナの死体、直に見たって言うし……スゲー落ち込んで、ケータイ開けないってコトが、あってもおかしくないよな……)
しかもテレビアンテナにぶら下がっていた猟奇的な死体の第一発見者だ。いくらジュネスで面倒な客に遭遇した後の切り替えの早い小西先輩といっても、死体を見たトラウマから早々に立ち直れるものではないだろう。ショックを受けて、何事も手に着かなくなっているのかもしれないと、陽介は自身に言い聞かせる。
(でも、なんか……イヤな予感、消えないんだよなぁ)
ピピピと、風呂場から湯船が出来上がったと知らせる機械音が届いた。不穏な思考を打ち切って、陽介はそそくさと風呂へ向かう。
けれど、熱いシャワーを浴びようが、適温の湯船につかろうが、陽介の中から小西先輩への気ががりな想いは消えてくれなかった。