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「そうだ。里中無事か!」
化け物たちを掃討した悠に見とれていたのもつかの間。陽介は我に返って、倒れていた千枝の元に駈け寄った。地面に倒れ伏した彼女を一瞥し、陽介は身体の力が抜けてへたりこむ。そして──
「はぁあああああ~~~~~! よかったぁ~~~~~~~~!!」
──腹の底から安堵の溜め息をつく。千枝は無事だ。彼女の規則正しい寝息に、視界が若干にじんだ。怪物の消滅とともにべったりと付いていたはずの唾液は消えうせ、ジャージは乾いている。顔色にも赤みがあるから、気絶してただ眠っているようだ。
「……無事みたいだな、周りにはもう怪物たちもいないみたいだ。」
穏和な声がする方へ振り返ると、悠があたりを見回しながら陽介の元へ歩いてきていた。先ほどの不敵な笑顔は消え、通常運転の無表情に戻っている。
彼は陽介の元までやってくると、膝を折った。そうして、右手をそっと陽介の目の前に差し出してくる。
「……立てる?」
その声は気遣わしげで、揺らいでいる。陽介は頷き、「サンキュ!」とごく自然に悠の手を借りた。
その右手に、陽介はさっきの記憶を鮮明に思い出した。爆ぜる炎、笑う悠、怪物を一刀のもとに切り伏せる勇猛無比な仮面の異形。
「────って、それよりさっきの“ペルソナ”ってなんだ!? すっげーカッコよかったんだけど!!」
「お、落ち着いてくれ。俺もよく分からないんだ」
興奮を堪えきれずにまくし立てた陽介に、悠は若干目を泳がせた。小さい挙動だが、悠が困惑している。握った右手は少しだけ震えているような気がした。
いや、困惑というより、怯えているようだった。よく考えれば、先ほど陽介に投げかけた言葉の揺らぎも、不安の響きに近かったような気がした。陽介はぱちぱちと目を瞬く。どうして怪物を倒した彼自身が怯えているのか。
だがひとつ、確かなことがあった。
「……そっか、よくわかんねえのか。ならこれ以上聞いてもメーワクだよな」
困惑であれ、不安であれ、不安定な相手を問い詰める行動はよくない。だから陽介は、沸き上がった好奇心を心の中に引っ込める。
そうしてへらりと、怯える悠へと笑いかけた。怪物という危機がさったせいか、晴れやかな笑みに、悠がびっくりして目を丸くした。陽介はそれに気づかず、いまだ気絶している千枝へと歩みを進める。
「ちょっと里中起こしてみるわ。したらまた出口、探そうぜ」
「……怖く、ないのか」
か細く震える呟きが陽介の耳に届く。振り返れば、悠は陽介が握った、《ペルソナ》という異形を召喚するカードを握りつぶした右手を信じられないものを見るように見つめていた。
「……怖く、ないのか。あんな、得体の知らない力を使った俺が……」
陽介は目を見張る。悠がどうしてか怯えているように見えたからだ。怪物を真正面から見据えて勇ましかった気性はいまや鳴りを潜めている。
今の彼は震える手も、声も、灰色の瞳も、仕草のすべてがすべて──まるで未知の恐怖に怯える子供のように痛ましかった。
「────助けてくれたろ?」
自然と、陽介の口から言葉が飛び出す。
「え?」
「『イザナギ』ってゆーの? をお前が呼び出したとき、そりゃ怖かったけどさ。ソイツ使って俺のこと助けてくれただろ」
そう、悠は助けてくれたのだ。怪物たちに襲われるはずだった陽介のことを。
彼も怪物に襲われて、声を震わせていたのに。イザナギが怪物に肩を齧られたとき、彼も痛みに襲われた。そのはずなのに。
迫りくる恐怖にも屈せず、彼は陽介を助けてくれた。
「だからさ、お前も、お前が呼び出したイザナギってのも、悪いヤツじゃないんだって思う」
そうして、陽介は笑った。それは恐怖にひきつったものではない。心からの感謝がこもった、きれいなきれいな、暗闇を照らし、夜の冷たさを打ち祓う、太陽のような笑みだった。
「ありがとうな」
悠が言葉を無くす。そして、明るく笑う陽介をただひたすら、記憶に焼きつけるように見つめていた。だが、陽介はそれに気がつかない。ばつが悪そうに赤くなった頬を彼はぽりぽりと掻く。
「て、ハズイ! 口先だけで大見得きった俺がナニ言ってんだってハナシだけどな」
「そんなことない!」
一転して、強い声が上がる。目が覚めたような心地で陽介は悠を見やる。悠は声ふさわしい、強い真摯な瞳で陽介を射ぬく。
「花村が庇ってくれたから、俺はイザナギを呼べた。だから──俺のほうこそ、ありがとう」
「お、おう」
穏やかだが、例外的に鋭い瞳から繰り出される悠の眼光に陽介はたじろぐ。予想し得ない悠の反応に困って、結局笑いとともにごまかした。
「それより里中。はやく起こそうぜ。あのクマのあとも追わねーといけねーし」
言い放って、陽介は千枝を起そうと試みる。残念な姿を晒したにもかかわらず、面とむかって真剣に感謝を告げられたのが気恥ずかしくて頬が熱くほてった。
化け物たちを掃討した悠に見とれていたのもつかの間。陽介は我に返って、倒れていた千枝の元に駈け寄った。地面に倒れ伏した彼女を一瞥し、陽介は身体の力が抜けてへたりこむ。そして──
「はぁあああああ~~~~~! よかったぁ~~~~~~~~!!」
──腹の底から安堵の溜め息をつく。千枝は無事だ。彼女の規則正しい寝息に、視界が若干にじんだ。怪物の消滅とともにべったりと付いていたはずの唾液は消えうせ、ジャージは乾いている。顔色にも赤みがあるから、気絶してただ眠っているようだ。
「……無事みたいだな、周りにはもう怪物たちもいないみたいだ。」
穏和な声がする方へ振り返ると、悠があたりを見回しながら陽介の元へ歩いてきていた。先ほどの不敵な笑顔は消え、通常運転の無表情に戻っている。
彼は陽介の元までやってくると、膝を折った。そうして、右手をそっと陽介の目の前に差し出してくる。
「……立てる?」
その声は気遣わしげで、揺らいでいる。陽介は頷き、「サンキュ!」とごく自然に悠の手を借りた。
その右手に、陽介はさっきの記憶を鮮明に思い出した。爆ぜる炎、笑う悠、怪物を一刀のもとに切り伏せる勇猛無比な仮面の異形。
「────って、それよりさっきの“ペルソナ”ってなんだ!? すっげーカッコよかったんだけど!!」
「お、落ち着いてくれ。俺もよく分からないんだ」
興奮を堪えきれずにまくし立てた陽介に、悠は若干目を泳がせた。小さい挙動だが、悠が困惑している。握った右手は少しだけ震えているような気がした。
いや、困惑というより、怯えているようだった。よく考えれば、先ほど陽介に投げかけた言葉の揺らぎも、不安の響きに近かったような気がした。陽介はぱちぱちと目を瞬く。どうして怪物を倒した彼自身が怯えているのか。
だがひとつ、確かなことがあった。
「……そっか、よくわかんねえのか。ならこれ以上聞いてもメーワクだよな」
困惑であれ、不安であれ、不安定な相手を問い詰める行動はよくない。だから陽介は、沸き上がった好奇心を心の中に引っ込める。
そうしてへらりと、怯える悠へと笑いかけた。怪物という危機がさったせいか、晴れやかな笑みに、悠がびっくりして目を丸くした。陽介はそれに気づかず、いまだ気絶している千枝へと歩みを進める。
「ちょっと里中起こしてみるわ。したらまた出口、探そうぜ」
「……怖く、ないのか」
か細く震える呟きが陽介の耳に届く。振り返れば、悠は陽介が握った、《ペルソナ》という異形を召喚するカードを握りつぶした右手を信じられないものを見るように見つめていた。
「……怖く、ないのか。あんな、得体の知らない力を使った俺が……」
陽介は目を見張る。悠がどうしてか怯えているように見えたからだ。怪物を真正面から見据えて勇ましかった気性はいまや鳴りを潜めている。
今の彼は震える手も、声も、灰色の瞳も、仕草のすべてがすべて──まるで未知の恐怖に怯える子供のように痛ましかった。
「────助けてくれたろ?」
自然と、陽介の口から言葉が飛び出す。
「え?」
「『イザナギ』ってゆーの? をお前が呼び出したとき、そりゃ怖かったけどさ。ソイツ使って俺のこと助けてくれただろ」
そう、悠は助けてくれたのだ。怪物たちに襲われるはずだった陽介のことを。
彼も怪物に襲われて、声を震わせていたのに。イザナギが怪物に肩を齧られたとき、彼も痛みに襲われた。そのはずなのに。
迫りくる恐怖にも屈せず、彼は陽介を助けてくれた。
「だからさ、お前も、お前が呼び出したイザナギってのも、悪いヤツじゃないんだって思う」
そうして、陽介は笑った。それは恐怖にひきつったものではない。心からの感謝がこもった、きれいなきれいな、暗闇を照らし、夜の冷たさを打ち祓う、太陽のような笑みだった。
「ありがとうな」
悠が言葉を無くす。そして、明るく笑う陽介をただひたすら、記憶に焼きつけるように見つめていた。だが、陽介はそれに気がつかない。ばつが悪そうに赤くなった頬を彼はぽりぽりと掻く。
「て、ハズイ! 口先だけで大見得きった俺がナニ言ってんだってハナシだけどな」
「そんなことない!」
一転して、強い声が上がる。目が覚めたような心地で陽介は悠を見やる。悠は声ふさわしい、強い真摯な瞳で陽介を射ぬく。
「花村が庇ってくれたから、俺はイザナギを呼べた。だから──俺のほうこそ、ありがとう」
「お、おう」
穏やかだが、例外的に鋭い瞳から繰り出される悠の眼光に陽介はたじろぐ。予想し得ない悠の反応に困って、結局笑いとともにごまかした。
「それより里中。はやく起こそうぜ。あのクマのあとも追わねーといけねーし」
言い放って、陽介は千枝を起そうと試みる。残念な姿を晒したにもかかわらず、面とむかって真剣に感謝を告げられたのが気恥ずかしくて頬が熱くほてった。