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▼▼▼
俺をかばった彼を見て、どうしてだと思った。
彼が善良で優しい人であることは、初めて会ったときから知っていた。いや、もっと前、俺が一方的に彼を見かけたときから知っていた。
短い時間の交流でも、その印象が覆ることはなかった。転校してきたばかりの俺を気遣って、親しく話しかけてくれて、優しい人なんだというのは明白だった。
だがらといって、どうして会って間もない俺を庇おうとするのか。
泣き叫ぶような怒号を張り上げてまで、俺を『死』から遠ざけようとするのか。
そう瞳で問えば、彼はへらりと笑った。
きれいな笑みではなかったと思う。
いまにも怪物に襲われる恐怖にひきつった口角をあげて、健康的な肌色は血管が浮き彫りになるまで青ざめていた。
だけど、彼の恐怖と絶望の入り交じった瞳には
たしかに嘘偽りのない、あたたかな感情が込められていて。
きっとそれは”友愛”という感情なのだと思う。
親しい人など家族でさえいなかった俺が、今まで向けられたことのなかった強い感情。
「────こいよ、クソゴムまり野郎ッ!! 俺の不味い肉でせいぜいその中身ねーカラダを膨らませんだなッ!!」
そうして、彼は震える声で名乗りをあげる。
自分を犠牲にして、俺たちを生かすためだけに。
そのとき、失いたくないと思った。
この優しい人を失いたくないのだと。
論理だった理由なんてない。なんの脈絡もない、愚かな理由かもしれない。
けれど俺にとっては何にも変えがたい真実だった。
だからだ。
それだけ、だ。
だから──
──我は汝、汝は我……
──汝、扉を開く者よ……
──汝、己が双眸を見開きて……
──今こそ、発せよ。
──その扉を開いて、彼を、守れるのなら。
己のうちに沸き上がる激情へと、身を委ねた。
▼▼▼
青く、みなぎるような炎が陽介を巻き込んで地面を迸った。
炎は猛々しく、勇猛に、気焔をあげて視界を遮る霧を蹴散らす。圧倒的な圧を持って、炎は邪悪を打ち払う。それは目の前の怪物たちも例外ではなかった。
陽介に襲いかかっていた怪物たちは燃え立つそれに慄き、ゴムまりの身体をバウンドさせて後退する。ぞぞぞっと怯えを示すかのように丸い身体を、むき出しの舌をわなわなと震わせている。
「──────え?」
確定的な死を覚悟していた陽介は、急展開に呆然とする。地面から逆巻く炎に巻き込まれたというのに陽介は怪我も何ともない。むしろ心が高揚するような心地よさが、炎によってもたらされた。
炎の出どころは──悠だ。青く猛々しい炎が悠を取り囲んで踊り狂う。そして、立つ彼のもとに1枚のカードが降りてくる。天からいつのまにか舞い降りたそれは、一層強い炎をまとって、悠が差し出した片手の上で回転する。青い炎に照らされた悠は、不敵な勇ましい笑みを湛えていた。
「ぺ……」
カードがくるりと回った。それは悠に名を呼ばれる瞬間を、心待にしているようだった。
「ル……」
青い炎が爆ぜた。瞬間、炎の猛々しさに大気が揺らぐ。
「ソ……」
カードが明滅した。悠は手を大きく広げる。まるで何かを、大切なものを失うまいと、掴みとろうとするみたいに。
「ナ────ッ!」
そして、カードを何の躊躇いもなく握りつぶした。
『ペルソナ』──未知の言葉とともに、悠はカードを握りつぶした。カードはガラスのごとく砕け、光の粒となる。大気が渦のようにうねり、強者の咆哮のような雄叫びを上げる。渦を巻いた大気によって、猛々しい青い炎と清冽な光は混じりあう。そうして出来上がったのは、1つの異形だった。
それはヒト型をした異生物だった。丈の長い黒い学ランが、風圧で裏返り、鮮やかな紅い裏地を晒す。鉄仮面に覆われてなお、すき間から除く金色の瞳は鷹のごとく鋭い。頭から鉢巻のような白布をたなびかせたその姿は、一太刀の剣が人形となったようだ。獲物なのか、片手に大太刀を構えている。
「行け! イザナギ!」
悠の声に応じたのか、異形──イザナギがゴムまりに肉迫する。逃げる暇も与えずに、リーダーの一匹を大太刀に串刺した。それを乱暴に振り払い、もう一匹に叩きつける。2匹は水を入れすぎた風船のごとく弾け、消失した。
「ッ、──うわぁああッ!」
「──くっ」
やけを起こしたのか、残党が陽介に襲い掛かった。大口を開けて陽介を飲み込もうとする。身を守ろうと身体を丸めた陽介の元へとイザナギが風を切って横なぎに滑空する。イザナギは身を呈して陽介を守り──ガブリと怪物がその肩に噛みつく。
「! 鳴上ッ────!」
「……ッ、この────!!」
陽介が叫ぶ。肩を食いちぎろうと怪物がイザナギに歯を立てた。瞬間、悠の顔が歪んだ。だが痛みを食いしばって彼は耐える。激情により一周回った冷静さを保ったまま、悠は次の一手を打つ。
「イザナギ、ジオ!」
イザナギが怪物を掴み、空中へ放り投げた。成すすべもない怪物に、天から飛来した紫電が直撃する。くす玉のごとく、黒い靄を吹き散らして怪物は消失した。
「……すげえ」
怪物が散った空に向かって、陽介は感嘆を漏らす。あの青い炎の影響なのか、恐怖に壊されたはずの腰はきちんと立ち上がれるようになっていた。
戦闘は、悠の操るイザナギという異形の圧勝だった。一方的に怪物たちを成敗するイザナギの雄姿はとても凛々しくてかっこよくて。陽介が幼い頃に憧れたヒーローみたいだ。陽介は圧倒される。
こうして、怪物に襲われながらも悠の不思議な力によって、陽介は無傷で生還することができた。
俺をかばった彼を見て、どうしてだと思った。
彼が善良で優しい人であることは、初めて会ったときから知っていた。いや、もっと前、俺が一方的に彼を見かけたときから知っていた。
短い時間の交流でも、その印象が覆ることはなかった。転校してきたばかりの俺を気遣って、親しく話しかけてくれて、優しい人なんだというのは明白だった。
だがらといって、どうして会って間もない俺を庇おうとするのか。
泣き叫ぶような怒号を張り上げてまで、俺を『死』から遠ざけようとするのか。
そう瞳で問えば、彼はへらりと笑った。
きれいな笑みではなかったと思う。
いまにも怪物に襲われる恐怖にひきつった口角をあげて、健康的な肌色は血管が浮き彫りになるまで青ざめていた。
だけど、彼の恐怖と絶望の入り交じった瞳には
たしかに嘘偽りのない、あたたかな感情が込められていて。
きっとそれは”友愛”という感情なのだと思う。
親しい人など家族でさえいなかった俺が、今まで向けられたことのなかった強い感情。
「────こいよ、クソゴムまり野郎ッ!! 俺の不味い肉でせいぜいその中身ねーカラダを膨らませんだなッ!!」
そうして、彼は震える声で名乗りをあげる。
自分を犠牲にして、俺たちを生かすためだけに。
そのとき、失いたくないと思った。
この優しい人を失いたくないのだと。
論理だった理由なんてない。なんの脈絡もない、愚かな理由かもしれない。
けれど俺にとっては何にも変えがたい真実だった。
だからだ。
それだけ、だ。
だから──
──我は汝、汝は我……
──汝、扉を開く者よ……
──汝、己が双眸を見開きて……
──今こそ、発せよ。
──その扉を開いて、彼を、守れるのなら。
己のうちに沸き上がる激情へと、身を委ねた。
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青く、みなぎるような炎が陽介を巻き込んで地面を迸った。
炎は猛々しく、勇猛に、気焔をあげて視界を遮る霧を蹴散らす。圧倒的な圧を持って、炎は邪悪を打ち払う。それは目の前の怪物たちも例外ではなかった。
陽介に襲いかかっていた怪物たちは燃え立つそれに慄き、ゴムまりの身体をバウンドさせて後退する。ぞぞぞっと怯えを示すかのように丸い身体を、むき出しの舌をわなわなと震わせている。
「──────え?」
確定的な死を覚悟していた陽介は、急展開に呆然とする。地面から逆巻く炎に巻き込まれたというのに陽介は怪我も何ともない。むしろ心が高揚するような心地よさが、炎によってもたらされた。
炎の出どころは──悠だ。青く猛々しい炎が悠を取り囲んで踊り狂う。そして、立つ彼のもとに1枚のカードが降りてくる。天からいつのまにか舞い降りたそれは、一層強い炎をまとって、悠が差し出した片手の上で回転する。青い炎に照らされた悠は、不敵な勇ましい笑みを湛えていた。
「ぺ……」
カードがくるりと回った。それは悠に名を呼ばれる瞬間を、心待にしているようだった。
「ル……」
青い炎が爆ぜた。瞬間、炎の猛々しさに大気が揺らぐ。
「ソ……」
カードが明滅した。悠は手を大きく広げる。まるで何かを、大切なものを失うまいと、掴みとろうとするみたいに。
「ナ────ッ!」
そして、カードを何の躊躇いもなく握りつぶした。
『ペルソナ』──未知の言葉とともに、悠はカードを握りつぶした。カードはガラスのごとく砕け、光の粒となる。大気が渦のようにうねり、強者の咆哮のような雄叫びを上げる。渦を巻いた大気によって、猛々しい青い炎と清冽な光は混じりあう。そうして出来上がったのは、1つの異形だった。
それはヒト型をした異生物だった。丈の長い黒い学ランが、風圧で裏返り、鮮やかな紅い裏地を晒す。鉄仮面に覆われてなお、すき間から除く金色の瞳は鷹のごとく鋭い。頭から鉢巻のような白布をたなびかせたその姿は、一太刀の剣が人形となったようだ。獲物なのか、片手に大太刀を構えている。
「行け! イザナギ!」
悠の声に応じたのか、異形──イザナギがゴムまりに肉迫する。逃げる暇も与えずに、リーダーの一匹を大太刀に串刺した。それを乱暴に振り払い、もう一匹に叩きつける。2匹は水を入れすぎた風船のごとく弾け、消失した。
「ッ、──うわぁああッ!」
「──くっ」
やけを起こしたのか、残党が陽介に襲い掛かった。大口を開けて陽介を飲み込もうとする。身を守ろうと身体を丸めた陽介の元へとイザナギが風を切って横なぎに滑空する。イザナギは身を呈して陽介を守り──ガブリと怪物がその肩に噛みつく。
「! 鳴上ッ────!」
「……ッ、この────!!」
陽介が叫ぶ。肩を食いちぎろうと怪物がイザナギに歯を立てた。瞬間、悠の顔が歪んだ。だが痛みを食いしばって彼は耐える。激情により一周回った冷静さを保ったまま、悠は次の一手を打つ。
「イザナギ、ジオ!」
イザナギが怪物を掴み、空中へ放り投げた。成すすべもない怪物に、天から飛来した紫電が直撃する。くす玉のごとく、黒い靄を吹き散らして怪物は消失した。
「……すげえ」
怪物が散った空に向かって、陽介は感嘆を漏らす。あの青い炎の影響なのか、恐怖に壊されたはずの腰はきちんと立ち上がれるようになっていた。
戦闘は、悠の操るイザナギという異形の圧勝だった。一方的に怪物たちを成敗するイザナギの雄姿はとても凛々しくてかっこよくて。陽介が幼い頃に憧れたヒーローみたいだ。陽介は圧倒される。
こうして、怪物に襲われながらも悠の不思議な力によって、陽介は無傷で生還することができた。