未確認で進行形
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「里中ッ!?」
「里中ッ!? なんかあったんか!」
甲高い彼女の叫びに何事かと、悠は先行する。陽介もチャックを締め(ちなみに微々として出なかった)、殺風景な部屋のドアを潜り抜け──千枝の目の前にあるものに首をかしげる。
「へ……ナニこいつ、熊?」
そこには、妙ちくりんな着ぐるみがいた。
上から、青・赤・顔をふちどる黄色と、視界を遮る霧のなかでも目立つようなビビットなカラーリングに、電球をひっくり返したような頭でっかちのフォルムをしている。
丸みを帯びた頭部と足に近づくほど幅が狭くなる胴体の境目は、銀色のチャックでつながれていた。黒くて大きな目はきゅるりとして愛らしい。丸っこい耳の形からして、デフォルメされた熊の着ぐるみだろうか。
妙ちくりんな熊(?)の着ぐるみは陽介たちをみてキョトンとしている。次の瞬間、ギョッとして手をあたふたさせた。
「キ、キミらダレクマ!? なんで、ボクの名前知ってるの!」
「しゃ、しゃべった」
「知らねーよ! くまみたいなカッコしやがって。お前こそ、ここで何してんだよ!」
妙な着ぐるみから飛び出た滑らかな日本語に千枝は目を剥く。対する陽介は、言葉が通じるのをいいことに奇妙な出で立ちの熊相手に食ってかかった。
すると、どうやら喧嘩を売られているというのは理解したらしい。熊の着ぐるみはプンスコと、陽介に対して怒りだす。
「ムッキー! 『くまみたい』、じゃなくて『クマ』クマ! クマ、ずーっとここに住んでるクマよ」
「ずっと……てことはアンタ、さっきあのスタジオっぽいトコで、アタシたちを脅かしたヤツ!?」
「なっ……! つーことはお前が俺らを襲おうとしたヤツだってのか!?」
怒鳴りつける陽介と千枝の剣幕に、「ピャッ」とクマは縮こまった。陽介は困惑した。先ほどは威勢よく騒いでいたというのに、ビクビクと頭を抱えて震えている。
小動物のように身体を震わせる姿から臆病な質らしい。図体は大きいというのに、年端もいかない幼さがチグハグだ。そして何より、泣きべそをかきそうな姿を見ると陽介が苛めたようで決まり悪くなって言葉に詰まる。
「お、おおきい声出さないでよ……、《シャドウ》が来ちゃう……。それに、襲おうだなんてしてないクマ。クマ……ずっとココでひとりだし、誰か襲うなんて、そんなコトしないのに……」
「《シャドウ》……?」
柔らかそうな毛並みをしおしおにながら、クマは切実に訴えかけた。その中に混じった聞きなれない単語を、静観していた悠が繰り返す。するとビクリとクマの身体がひきつる。
「な、なんと……知らないクマか……。あんま関わっちゃダメなヤツらクマよ……。 と、とにかく、キミたち早く帰った方がいいク────ヒエーーーーーッ!!」
「ッ」
「うわぁっ!」
「ど、どうした!」
突然、クマがピャッと飛び上がった。唐突に上がった魂が飛び出るような絶叫に3人は耳を塞ぐ。だが、クマはあたふたと身体を動かし、強引に悠の手を掴みとった。
「コレっ! コレあげるから、もとの世界に帰るクマよっ、シャドウが……シャドウがいるクマァ!」
その言葉とともに悠に何かを手渡したと思うと、「ぎぇえええええええ!! くるーーーーーッ!!」とクマは脱兎のごとく逃走した。
あっという間に、クマの姿は部屋の外を濃く覆う霧に飲まれる。
「あ、待て!」────陽介が引き留めようとするも、やはり図体に反して小動物のように機敏なクマを引き留める術はなかった。
「い、いっちゃった……」
「たくっ、なんだったんだ……つか、《シャドウ》ってなんなんだ?」
嵐のように去ったクマに苦言を2人は呈する。一方、悠はクマに押し付けられた何かを興味深そうに観察していた。一体何を渡されたのか? 気になった陽介は悠の手にあるそれを見て、ますますの不可解に眉間を険しくする。
「は? 何でアイツ、メガネなんて──」
スクエア型の黒いセルフレームのメガネだ。つるの部分に虹色のカラーバーに似た意匠が彫られていて中々にオシャレだが——それだけだ。何の変哲もないメガネである。帰り道とメガネ、なんの関連もない2つを結びつけられるわけがない。
陽介が首をひねっていると、物は試しとばかりに悠は眼鏡をかける。すると、まるで盲人が光を得たかのように瞠目した。だが、瞬時に、殺風景な部屋で絞首台を目にしたときのように瞳孔を極限まで引き絞る。嫌な予感がして、陽介は悠に問いかけた。
「え、鳴上。どうしたんだ?」
「──いる、何か」
フレームの奥でしか見えない世界に、悠のこめかみから汗が伝う。
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ────────
「えっ?なに、いやな雰囲気」
怯えた千枝がたたらを踏む。気がつけば、3人の周りはやけに騒がしい。その喧噪は、悠の見つめる虚空を中心に展開していた。
「──ッ!」
いや、もはや虚空ではなかった。衝撃で、陽介の喉が凍りつく。
黒い靄のような、ノイズが蠢いている。極彩色をグチャグチャに混ぜたノイズの中心では、生気のない仮面がゆらりゆらりともてあそばれている。仮面の中心にある目に宿った虚ろな穴には吸い込まれそうな虚無が宿っている。底知れない黒の虚しさに、陽介は生理的な嫌悪を覚えた。
「な……な……」
恐怖に千枝が後ずさる。
ノイズは徐々に、粘性をともなった黒い液体へと変わった。それはどろりと仮面をからめとり、ゴムまりに似た球体として宙に浮かぶ。
そして、まるでナイフで引き裂かれたかのごとく、球体に裂け目がはしる。黒いノイズが血のように飛び散って──内側から唇が生えた。生まれたての唇から、だらりと無気力そうに生々しい舌が飛び出る。出来上がったのは、ゴムボールに口が生えたような化け物だった。
それが2体、陽介たちの前に存在している。いや────
「う、うわああああああ!」
────背後からかかる生臭い息に、千枝が飛び上がった。後ろからも同じ化け物が出現したのである。千枝の悲鳴を皮切りに、3人は床を蹴って走り出した。
「里中ッ!? なんかあったんか!」
甲高い彼女の叫びに何事かと、悠は先行する。陽介もチャックを締め(ちなみに微々として出なかった)、殺風景な部屋のドアを潜り抜け──千枝の目の前にあるものに首をかしげる。
「へ……ナニこいつ、熊?」
そこには、妙ちくりんな着ぐるみがいた。
上から、青・赤・顔をふちどる黄色と、視界を遮る霧のなかでも目立つようなビビットなカラーリングに、電球をひっくり返したような頭でっかちのフォルムをしている。
丸みを帯びた頭部と足に近づくほど幅が狭くなる胴体の境目は、銀色のチャックでつながれていた。黒くて大きな目はきゅるりとして愛らしい。丸っこい耳の形からして、デフォルメされた熊の着ぐるみだろうか。
妙ちくりんな熊(?)の着ぐるみは陽介たちをみてキョトンとしている。次の瞬間、ギョッとして手をあたふたさせた。
「キ、キミらダレクマ!? なんで、ボクの名前知ってるの!」
「しゃ、しゃべった」
「知らねーよ! くまみたいなカッコしやがって。お前こそ、ここで何してんだよ!」
妙な着ぐるみから飛び出た滑らかな日本語に千枝は目を剥く。対する陽介は、言葉が通じるのをいいことに奇妙な出で立ちの熊相手に食ってかかった。
すると、どうやら喧嘩を売られているというのは理解したらしい。熊の着ぐるみはプンスコと、陽介に対して怒りだす。
「ムッキー! 『くまみたい』、じゃなくて『クマ』クマ! クマ、ずーっとここに住んでるクマよ」
「ずっと……てことはアンタ、さっきあのスタジオっぽいトコで、アタシたちを脅かしたヤツ!?」
「なっ……! つーことはお前が俺らを襲おうとしたヤツだってのか!?」
怒鳴りつける陽介と千枝の剣幕に、「ピャッ」とクマは縮こまった。陽介は困惑した。先ほどは威勢よく騒いでいたというのに、ビクビクと頭を抱えて震えている。
小動物のように身体を震わせる姿から臆病な質らしい。図体は大きいというのに、年端もいかない幼さがチグハグだ。そして何より、泣きべそをかきそうな姿を見ると陽介が苛めたようで決まり悪くなって言葉に詰まる。
「お、おおきい声出さないでよ……、《シャドウ》が来ちゃう……。それに、襲おうだなんてしてないクマ。クマ……ずっとココでひとりだし、誰か襲うなんて、そんなコトしないのに……」
「《シャドウ》……?」
柔らかそうな毛並みをしおしおにながら、クマは切実に訴えかけた。その中に混じった聞きなれない単語を、静観していた悠が繰り返す。するとビクリとクマの身体がひきつる。
「な、なんと……知らないクマか……。あんま関わっちゃダメなヤツらクマよ……。 と、とにかく、キミたち早く帰った方がいいク────ヒエーーーーーッ!!」
「ッ」
「うわぁっ!」
「ど、どうした!」
突然、クマがピャッと飛び上がった。唐突に上がった魂が飛び出るような絶叫に3人は耳を塞ぐ。だが、クマはあたふたと身体を動かし、強引に悠の手を掴みとった。
「コレっ! コレあげるから、もとの世界に帰るクマよっ、シャドウが……シャドウがいるクマァ!」
その言葉とともに悠に何かを手渡したと思うと、「ぎぇえええええええ!! くるーーーーーッ!!」とクマは脱兎のごとく逃走した。
あっという間に、クマの姿は部屋の外を濃く覆う霧に飲まれる。
「あ、待て!」────陽介が引き留めようとするも、やはり図体に反して小動物のように機敏なクマを引き留める術はなかった。
「い、いっちゃった……」
「たくっ、なんだったんだ……つか、《シャドウ》ってなんなんだ?」
嵐のように去ったクマに苦言を2人は呈する。一方、悠はクマに押し付けられた何かを興味深そうに観察していた。一体何を渡されたのか? 気になった陽介は悠の手にあるそれを見て、ますますの不可解に眉間を険しくする。
「は? 何でアイツ、メガネなんて──」
スクエア型の黒いセルフレームのメガネだ。つるの部分に虹色のカラーバーに似た意匠が彫られていて中々にオシャレだが——それだけだ。何の変哲もないメガネである。帰り道とメガネ、なんの関連もない2つを結びつけられるわけがない。
陽介が首をひねっていると、物は試しとばかりに悠は眼鏡をかける。すると、まるで盲人が光を得たかのように瞠目した。だが、瞬時に、殺風景な部屋で絞首台を目にしたときのように瞳孔を極限まで引き絞る。嫌な予感がして、陽介は悠に問いかけた。
「え、鳴上。どうしたんだ?」
「──いる、何か」
フレームの奥でしか見えない世界に、悠のこめかみから汗が伝う。
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ────────
「えっ?なに、いやな雰囲気」
怯えた千枝がたたらを踏む。気がつけば、3人の周りはやけに騒がしい。その喧噪は、悠の見つめる虚空を中心に展開していた。
「──ッ!」
いや、もはや虚空ではなかった。衝撃で、陽介の喉が凍りつく。
黒い靄のような、ノイズが蠢いている。極彩色をグチャグチャに混ぜたノイズの中心では、生気のない仮面がゆらりゆらりともてあそばれている。仮面の中心にある目に宿った虚ろな穴には吸い込まれそうな虚無が宿っている。底知れない黒の虚しさに、陽介は生理的な嫌悪を覚えた。
「な……な……」
恐怖に千枝が後ずさる。
ノイズは徐々に、粘性をともなった黒い液体へと変わった。それはどろりと仮面をからめとり、ゴムまりに似た球体として宙に浮かぶ。
そして、まるでナイフで引き裂かれたかのごとく、球体に裂け目がはしる。黒いノイズが血のように飛び散って──内側から唇が生えた。生まれたての唇から、だらりと無気力そうに生々しい舌が飛び出る。出来上がったのは、ゴムボールに口が生えたような化け物だった。
それが2体、陽介たちの前に存在している。いや────
「う、うわああああああ!」
────背後からかかる生臭い息に、千枝が飛び上がった。後ろからも同じ化け物が出現したのである。千枝の悲鳴を皮切りに、3人は床を蹴って走り出した。