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「なになになになに!? なんあのアレッ!」
「俺が知るかよ! とにかく逃げんぞ!」
「ずんぐり……むっくりしてた……!」
「お前は冷静にジョーキョー分析してる場合かッ!?」
情けない声をあげながらも、トラスの足場を伝い、階段を上り、石材で囲われた直線距離を疾走した。3人の駆け抜ける景色は悪質なバラエティスタジオから、住宅地の一角のような現実味のあるものに変わっている。
しかし得体の知れないUMA(?)から逃げる3人は風景の変化にも気がつかない。そもそも濃い霧に阻まれた世界だ。それでもとにかく遠く遠くへ。がむしゃらに疾走し、安全地帯を血眼で捜索する。
とにかく身を隠さなければ──。先頭を走っていた陽介は狭窄的な思考のまま、いつのまにか出現したドアへと体当たりを繰り出し、内部へと飛び込んだ。
「グハッ!」
ガタンッ! と騒々しく開いた扉の内側に、後方を走っていた悠と千枝も転がり込む。開けた空間の中で、3人は切れた息を落ち着ける。3人が迷い込んだのは、個室のようだった。最後に飛び込んだ千枝は、ドアのすき間に恐々として顔を近づけてみる。そうして、つかの間、肩から力を抜いた。
「とりあえず、さっきの変なのは来てないみたい……」
「撒いたって、ことか……ハァ、よかった」
とりあえず安全地帯には避難できたらしい。そう認識すると緊張の解けた身体にどっと疲れが押し寄せて、陽介はぐたりと床の上に寝転がる。どうやらあの妙に身体にまとわりつく霧も薄いらしく、陽介は深呼吸をする。
しかし、悠だけは違った。彼はここに入ってきてから一言も言葉を発していない。彼の視線は空中のある一点を注視していた。心なしか、彼の身体はかたく強ばっているようで陽介は首を捻る。
「どうしたよ、鳴上? そんなおったまげた顔して」
「なんだ……ここ……」
安心する陽介と対照的に、悠は譫言のようにつぶやき後ずさる。だが、その瞳孔が狭まりきったその瞳だけは恐怖で凍りついたように固定されていた。
「鳴上くん……? ────ッッ!!」
様子がおかしい悠にならって、千枝が悠の注視するモノを見て──絶句した。
「──────は」
陽介もまた天井を見て言葉を無くす。
悠が見つめる先には、簡易的な絞首台があった。麻縄に輪になったスカーフが括り付けられ、椅子を踏み台にするつもりだったのだろうか。手ごろな日用品でつくられた手軽さが、いかにも切羽詰まっていた。
「なんだよこれ!? 悪趣味にもほどがあ──────ッ!?」
陽介は焦って飛び起きる。そうして自分たちの迷い混んだ場所が決して安全ではないと思い知らされた。
そもそもが普通の部屋ではなかった。生活感のない殺風景をベースに警告色の絵具がめちゃくちゃにぶちまかれた床と壁。病的なほど白い壁紙にも、ワックスのつやがみすぼらしく剥げたフローリングにも、まるで血飛沫でもあげたかのような、生々しい赤の絵の具が飛び散っている。
極めつけは、部屋の壁に貼り付けられたおびただしいポスターの数々。それらは余すことなく、顔の部分を妄執的に痛めつけられていた。
皮を剥ぐように引きはがされたもの、刃物で滅多刺しにされたもの。暴力的な方法で顔だけを抉られた、和服の女性が映りこんだ一種類のポスターたち。かろうじて読み取れるのは『演歌道』『みすず』という文言のみ。
いずれにしろ、正気の人間が住む部屋ではない。あまりにも異様な殺風景な部屋の中で、痛めつけられたポスターたちからは、どろりとどす黒い怨嗟さえ漂ってくる気配がする。
ぞくりと、憎悪さえ感じる風景に反応して、陽介の背筋に悪寒が走る。その悪寒は全身を駆けめぐり、そして────陽介の股間を撃ち抜いた。
「アーーーーーーーーッ!?!?」
「ビャァーーーーーーッ!?!?」
「!?」
沸き上がった生理的な反応に、陽介は雄叫びを上げて飛び上がる。背中に冷たい手で捕まれたときのような悲鳴を千枝が上げ、悠の身体がびくりと跳ねた。
「な、なにごとっ」
「花村っ!? どうした」
「もう無理だ! 漏る! 俺のボーコーが破裂する!」
「「…………はっ?」」
決壊寸前の股間を抑え、跳び跳ねる陽介に2人は目を点にする。いったいこんな殺伐とした部屋の中でもよおすとは、なんとも拍子抜けな事態ゆえに。悠はきょとんと、千枝はじわじわと顔を真っ赤に染め、プンスコと唇を尖らせる。
「な……なぁ……! アンタそんなコトで騒いだのぉ!? 不潔っ、サイテー信じらんないッ!」
「生理現象だから仕方ねーだろッ!? お前だってオンナノコのそういうのとかなんとかコントロールできんのかよ!」
「なっ……! なんでそういうときだけ女扱いするわけっ!? ホントサイテーデリカシー無し男!」
「あ……えっと……里中、落ち着いて」
地雷を爆発させた千枝も尻目に、「おお~~ッ!! モるッモるぅ~!!」と恥も外聞もなく陽介は喚き散らす。陽介自身も無様だと思うし、千枝と悠には申し訳ないが、仕方がないのだ。何人たりとも人間であるかぎり生理現象には逆らえない。
「もーダメだ! 俺のボーコーは限界だッ!」
遂に決壊ギリギリギリギリまで迫った陽介は苦肉の策に出た。部屋の角まで転がるようにかけ、かじかむ手でジッパーを下に下ろす。ごそごそと股間をまさぐるその仕草に、千枝は遂に悲鳴を上げた。
「はぁ!? ちょっと待ってよ。そこでやんのぉ!?」
「仕方ねーだろ!? 出すもん出さねーとボーコー炎になりそうなんだよ!」
「ホント信じられない! 鳴上くんもなんか言ってやってよ!」
「いや、その……我慢する方が健康に悪いし」
「な……!」
予想を裏切って、悠が陽介側に肩を持った事実に千枝は面食らう。そしてわなわなと身体を震わせ、ワッと羞恥に叫んだ。
「もう、知んない! あたし外行ってるからっ」
「すまん里中……、でもマジで仕方ねーんだ……」
頬を膨らませて、千枝は殺風景な部屋の出入り口であるドアへと向かう。彼女が出ていく瞬間、さすがに陽介は謝罪を口にした。言い訳を捲し立ててしまったが、一応女子である里中に陽介の粗相は許容できないものだっただろう。
彼女が出ていった後で、陽介はことを済ませようとして────
──千枝の絹を裂くような悲鳴を聞いた。
「俺が知るかよ! とにかく逃げんぞ!」
「ずんぐり……むっくりしてた……!」
「お前は冷静にジョーキョー分析してる場合かッ!?」
情けない声をあげながらも、トラスの足場を伝い、階段を上り、石材で囲われた直線距離を疾走した。3人の駆け抜ける景色は悪質なバラエティスタジオから、住宅地の一角のような現実味のあるものに変わっている。
しかし得体の知れないUMA(?)から逃げる3人は風景の変化にも気がつかない。そもそも濃い霧に阻まれた世界だ。それでもとにかく遠く遠くへ。がむしゃらに疾走し、安全地帯を血眼で捜索する。
とにかく身を隠さなければ──。先頭を走っていた陽介は狭窄的な思考のまま、いつのまにか出現したドアへと体当たりを繰り出し、内部へと飛び込んだ。
「グハッ!」
ガタンッ! と騒々しく開いた扉の内側に、後方を走っていた悠と千枝も転がり込む。開けた空間の中で、3人は切れた息を落ち着ける。3人が迷い込んだのは、個室のようだった。最後に飛び込んだ千枝は、ドアのすき間に恐々として顔を近づけてみる。そうして、つかの間、肩から力を抜いた。
「とりあえず、さっきの変なのは来てないみたい……」
「撒いたって、ことか……ハァ、よかった」
とりあえず安全地帯には避難できたらしい。そう認識すると緊張の解けた身体にどっと疲れが押し寄せて、陽介はぐたりと床の上に寝転がる。どうやらあの妙に身体にまとわりつく霧も薄いらしく、陽介は深呼吸をする。
しかし、悠だけは違った。彼はここに入ってきてから一言も言葉を発していない。彼の視線は空中のある一点を注視していた。心なしか、彼の身体はかたく強ばっているようで陽介は首を捻る。
「どうしたよ、鳴上? そんなおったまげた顔して」
「なんだ……ここ……」
安心する陽介と対照的に、悠は譫言のようにつぶやき後ずさる。だが、その瞳孔が狭まりきったその瞳だけは恐怖で凍りついたように固定されていた。
「鳴上くん……? ────ッッ!!」
様子がおかしい悠にならって、千枝が悠の注視するモノを見て──絶句した。
「──────は」
陽介もまた天井を見て言葉を無くす。
悠が見つめる先には、簡易的な絞首台があった。麻縄に輪になったスカーフが括り付けられ、椅子を踏み台にするつもりだったのだろうか。手ごろな日用品でつくられた手軽さが、いかにも切羽詰まっていた。
「なんだよこれ!? 悪趣味にもほどがあ──────ッ!?」
陽介は焦って飛び起きる。そうして自分たちの迷い混んだ場所が決して安全ではないと思い知らされた。
そもそもが普通の部屋ではなかった。生活感のない殺風景をベースに警告色の絵具がめちゃくちゃにぶちまかれた床と壁。病的なほど白い壁紙にも、ワックスのつやがみすぼらしく剥げたフローリングにも、まるで血飛沫でもあげたかのような、生々しい赤の絵の具が飛び散っている。
極めつけは、部屋の壁に貼り付けられたおびただしいポスターの数々。それらは余すことなく、顔の部分を妄執的に痛めつけられていた。
皮を剥ぐように引きはがされたもの、刃物で滅多刺しにされたもの。暴力的な方法で顔だけを抉られた、和服の女性が映りこんだ一種類のポスターたち。かろうじて読み取れるのは『演歌道』『みすず』という文言のみ。
いずれにしろ、正気の人間が住む部屋ではない。あまりにも異様な殺風景な部屋の中で、痛めつけられたポスターたちからは、どろりとどす黒い怨嗟さえ漂ってくる気配がする。
ぞくりと、憎悪さえ感じる風景に反応して、陽介の背筋に悪寒が走る。その悪寒は全身を駆けめぐり、そして────陽介の股間を撃ち抜いた。
「アーーーーーーーーッ!?!?」
「ビャァーーーーーーッ!?!?」
「!?」
沸き上がった生理的な反応に、陽介は雄叫びを上げて飛び上がる。背中に冷たい手で捕まれたときのような悲鳴を千枝が上げ、悠の身体がびくりと跳ねた。
「な、なにごとっ」
「花村っ!? どうした」
「もう無理だ! 漏る! 俺のボーコーが破裂する!」
「「…………はっ?」」
決壊寸前の股間を抑え、跳び跳ねる陽介に2人は目を点にする。いったいこんな殺伐とした部屋の中でもよおすとは、なんとも拍子抜けな事態ゆえに。悠はきょとんと、千枝はじわじわと顔を真っ赤に染め、プンスコと唇を尖らせる。
「な……なぁ……! アンタそんなコトで騒いだのぉ!? 不潔っ、サイテー信じらんないッ!」
「生理現象だから仕方ねーだろッ!? お前だってオンナノコのそういうのとかなんとかコントロールできんのかよ!」
「なっ……! なんでそういうときだけ女扱いするわけっ!? ホントサイテーデリカシー無し男!」
「あ……えっと……里中、落ち着いて」
地雷を爆発させた千枝も尻目に、「おお~~ッ!! モるッモるぅ~!!」と恥も外聞もなく陽介は喚き散らす。陽介自身も無様だと思うし、千枝と悠には申し訳ないが、仕方がないのだ。何人たりとも人間であるかぎり生理現象には逆らえない。
「もーダメだ! 俺のボーコーは限界だッ!」
遂に決壊ギリギリギリギリまで迫った陽介は苦肉の策に出た。部屋の角まで転がるようにかけ、かじかむ手でジッパーを下に下ろす。ごそごそと股間をまさぐるその仕草に、千枝は遂に悲鳴を上げた。
「はぁ!? ちょっと待ってよ。そこでやんのぉ!?」
「仕方ねーだろ!? 出すもん出さねーとボーコー炎になりそうなんだよ!」
「ホント信じられない! 鳴上くんもなんか言ってやってよ!」
「いや、その……我慢する方が健康に悪いし」
「な……!」
予想を裏切って、悠が陽介側に肩を持った事実に千枝は面食らう。そしてわなわなと身体を震わせ、ワッと羞恥に叫んだ。
「もう、知んない! あたし外行ってるからっ」
「すまん里中……、でもマジで仕方ねーんだ……」
頬を膨らませて、千枝は殺風景な部屋の出入り口であるドアへと向かう。彼女が出ていく瞬間、さすがに陽介は謝罪を口にした。言い訳を捲し立ててしまったが、一応女子である里中に陽介の粗相は許容できないものだっただろう。
彼女が出ていった後で、陽介はことを済ませようとして────
──千枝の絹を裂くような悲鳴を聞いた。