客人〈マレビト〉来たりき
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流れいく町並みを、悠は眺めていた。今は車で堂島の自宅に向かう道中である。堂島が運転する車から見えるのは、畑や木々の緑、民家と物寂しいものだ。悠が都会で見慣れた商業施設や、チェーン店は見受けられない。それがむしろ、悠にとっては物珍しい。
眺めている町の名は『八十稲羽 』。正確な名称は"稲羽 市"だが、昔からの習わしでそちらの呼ばれ方が一般的だ。
かつては石炭を採掘する炭鉱の町として栄えていたが、エネルギー燃料が石油資源へと移行するにつれて衰退していった──いや現在進行形で衰退している山あいの町だ。これといった基幹産業がない八十稲羽は少子高齢化と過疎化が激しい。ゆえに土地は広いわりに、人が少ない。その事実通り、車窓からは人がまばらな、寂しげな町並みが見受けられる。
「しっかし、兄さんと姉貴も相変わらず仕事一筋だな……海外勤めだったか?」
ミラー越しに、堂島が気にかけるような視線を向ける。堂島の言う通り、悠の転校は両親の事情によるものだ。仕事で彼らは1年の間、海外に出向する運びとなったらしい。通常なら悠もついていくところだが、期間の短さと向こうの治安を踏まえて、叔父のいる八十稲羽で預かってもらうことになったのだ。
「1年間限りとはいえ、親に振り回されてこんなとこ来ちまって……子供も大変だな」
「いえ、慣れていますから」
同情する堂島に、すげなく返す。悠の両親は多忙で、場所を転々として生活していた。生活環境がガラリと替わる機会は、悠にとって珍しくない。
「ま、ウチは俺と菜々子の2人だし、お前みたいのがいてくれると俺も助かる。これからはしばらく家族同士だ。気楽にやってくれ」
「ええ、お世話になります」
「あー、固い固い、気ぃ遣いすぎだ。見ろ、菜々子ビビってるぞ」
助手席の菜々子が肩を縮ませている。子供を怯えさせてしまったとあって、悠はあわあわと手をまごつかせた。
「そうそう。そんな風に、だ。力を抜いていい」
「あ、はい」
運転席の堂島は喉の奥で笑い、菜々子は大きな瞳を開いた。悠は戸惑う。都会の人々と比べて、堂島家の人々は他人への関心が高いから。悠はどうしていいか分からなくなるのだ。
「はは。すまんすまん。長旅で疲れてるだろうに。寝ててもいいぞ」
そういった堂島は、視線を前方に移す。菜々子も静かに居ずまいを正した。
会話が途切れて、車内が静かになる。多分、悠に気を使ってくれているのだろう。2人の厚意に甘えて悠は再び、車窓の外を眺めた。空白の思考を埋めるように、悠は電車の中で見た奇妙な夢を瞼を閉じて思い出す。
眺めている町の名は『
かつては石炭を採掘する炭鉱の町として栄えていたが、エネルギー燃料が石油資源へと移行するにつれて衰退していった──いや現在進行形で衰退している山あいの町だ。これといった基幹産業がない八十稲羽は少子高齢化と過疎化が激しい。ゆえに土地は広いわりに、人が少ない。その事実通り、車窓からは人がまばらな、寂しげな町並みが見受けられる。
「しっかし、兄さんと姉貴も相変わらず仕事一筋だな……海外勤めだったか?」
ミラー越しに、堂島が気にかけるような視線を向ける。堂島の言う通り、悠の転校は両親の事情によるものだ。仕事で彼らは1年の間、海外に出向する運びとなったらしい。通常なら悠もついていくところだが、期間の短さと向こうの治安を踏まえて、叔父のいる八十稲羽で預かってもらうことになったのだ。
「1年間限りとはいえ、親に振り回されてこんなとこ来ちまって……子供も大変だな」
「いえ、慣れていますから」
同情する堂島に、すげなく返す。悠の両親は多忙で、場所を転々として生活していた。生活環境がガラリと替わる機会は、悠にとって珍しくない。
「ま、ウチは俺と菜々子の2人だし、お前みたいのがいてくれると俺も助かる。これからはしばらく家族同士だ。気楽にやってくれ」
「ええ、お世話になります」
「あー、固い固い、気ぃ遣いすぎだ。見ろ、菜々子ビビってるぞ」
助手席の菜々子が肩を縮ませている。子供を怯えさせてしまったとあって、悠はあわあわと手をまごつかせた。
「そうそう。そんな風に、だ。力を抜いていい」
「あ、はい」
運転席の堂島は喉の奥で笑い、菜々子は大きな瞳を開いた。悠は戸惑う。都会の人々と比べて、堂島家の人々は他人への関心が高いから。悠はどうしていいか分からなくなるのだ。
「はは。すまんすまん。長旅で疲れてるだろうに。寝ててもいいぞ」
そういった堂島は、視線を前方に移す。菜々子も静かに居ずまいを正した。
会話が途切れて、車内が静かになる。多分、悠に気を使ってくれているのだろう。2人の厚意に甘えて悠は再び、車窓の外を眺めた。空白の思考を埋めるように、悠は電車の中で見た奇妙な夢を瞼を閉じて思い出す。