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「でか! しかも高っ! こんなの誰が買うの?」
「里中声がデケェだろーがッ! ここ一応ジュネスん中だからな!」

 ジュネス2階、家電売り場にティーンの騒々しい会話がけたたましく響いた。他の買い物客──といっても、売り上げの大黒柱となっている食品売り場よりは格段に少ない──にジロリと睨まれ、千枝はごまかすような苦笑いを同行者たちに見せる。

「あーごめんごめん。ホントにデカかったからさ、ついつい」
「まぁ、確かに驚きもするよな。何てったて、畳1枚分はヨユーであっからさ──」

 同行者の一人である陽介は、家電売り場の展示品のうちでもっとも巨大なテレビ──横幅だけでも、陽介が両手を水平に広げても届きそうもないくらいに大きい──を目の前に自慢げに笑った。
 そうして、後ろで千枝と同じくテレビの大きさに呆気にとられている悠にむかって、ニヤリと笑う。

「こんなら人も楽勝に入れるってこった。鳴上さんや」

 陽介のからかいも意に介さず、もう一人の同行者である悠は夢中で──まるで別世界への入り口を発見したみたいに、巨大なテレビに見入っている。


***

「テレビの中に、腕が入り込んだんだ」

 《マヨナカテレビ》と呼ばれる怪奇現象について、悠・陽介・千枝の三人で話し合っていたところ、電源のつかないテレビが映った仕組みより、そこに映った身元不明の”運命の人”より、悠は不可解な体験を口にした。

 もちろん、陽介も千枝も一笑に伏した。よしんばスイッチの切れたテレビに流れた映像が信じられても、硬いはずのテレビ画面に腕が入り込むなど、どうしたって信じられない。現実的に考えて跳ね返されるか、テレビ画面が腕の勢いに負けて割れるかのどちらかだ。

「本当だったんだって。テレビ画面が水みたいに波打って」
「へいへい、疲れてたんだろ。お前こっち越してきたばっかだし」

 必死に言い縋る悠には取り合わずに、寝落ちだろうと陽介は結論づけた。しかし──

「けど夢にしても面白い話だね、それ。“テレビが小さいから入らなかった”ってとことか変にリアルだし。もし大きかったら……」

 ────里中だけは、実体験じみた悠の話に興味を示した。もちろん悠の思い込みという前提はあるが。

 ***

 したがって、悠の話に触発された三人は、ジュネス家電売り場の一角、テレビの展示場へと足を運んだ。
 なんとも無為な時間の潰し方かもしれないが、一応『買い替えのテレビを検討したい』という千枝の要望もあるので無駄足ではない。
 頻繁に買わなければいけない日用品が揃っている1階のスーパーと違い、ジュネスの家電売り場は閑散として、客がいないためじっくりと商品を見られる。

 テレビを見に行くという提案の発案者である千枝は、ジロジロと巨大な液晶テレビを観察する。
 先ほどの千枝が見せた驚きっぷりは大げさではなく、三人の目の前にあるテレビは大きい。横幅は、もっとも身長がある悠が両手を開いても端まで届かないくらいだ。テレビに吸いこまれたという悠の話が本当なら、湖面のようにダイブすれば間違いなく黒い画面の向こうへ落ちているだろう。
 陽介もまたテレビに近寄ると、新品ならではの光沢がある画面に軽く掌を当ててみた。千枝も同じようにペタリと掌を貼り付ける。

「「ふんっ!!」」

 ふざけて押しつけてみるも、液晶の硬さが手に伝わるだけでテレビ画面は何ともない。手を離してみても、陽介の指紋が軽く残っているだけだ。液体のよう波打ちはしない。取り残された悠の方にふり返って、陽介はいたずらっぽく宣言した。

「目が冴えてる時にゃ、ご覧の通り。はは、やっぱ寝落ち確定だね」
「あははっ、そだね。入るっていっても、このテレビ薄型だから裏に突き抜けちゃうよ」

 からからと笑う千枝の指摘はもっともだ。テレビに腕が突っ込まれるなんて、非現実的かつ非物理的すぎてありえない。

「はは。だよなぁ。で、里中。お前んち、どんなテレビ買うわけ?」
「ん~親はね、とりあえず安いヤツって言ってた。オススメある?」
「じゃ、こちらなどいかがでしょうか、お客様。この春発売されたばかりの最新型で……」

 陽介と千枝は興味を失って、他のテレビに移動する。テレビでよく見る販売員の真似をして、陽介は宣伝に興じた。元々の目的はオカルトの実証実験ではなく、千枝宅の買い換えに備えたテレビのリサーチなのだ。ゆえに陽介は千枝に付き合う。

 もちろん店長である父親を想えばジュネスで買ってほしいが、大迫力のカンフー映画を楽しむ千枝のことを考えれば、他の家電量販店を回る上でジュネスの価格を参考にしてからより良い買い物をしてほしい。
 陽介がフリーのパンフを元に紹介するも、対象となるテレビの値段を見て千枝は抗議の声を上げた。

「ちょ、全然安くないじゃん! ゼロ一個多いだろって」
「そう言われてもなぁ……。てか、ならまずお前の“安い”がどんぐらいか聞かないと」
「でも、このテレビもおっきくていいなぁ……。ねー、花村のコネで安くしてよ。そんなら、ここで買うからさ」
「イヤそーいうのは無理だって……じゃ、コッチとかどうだ? 展示品でちょっと安いけど、これなら……」

 店長の息子であるといっても、家電製品の値段を安くできる権限などない。家電コーナーの担当者に交渉を持ちかけるべきである。千枝のために売り場担当者の名前を調べておこうと、陽介は決めた。

「そういやさー、鳴上。お前んちのテレビって──!?」

 いまだ巨大なテレビの前にいるであろう、悠に話を振ろうとして──唖然とした。

 悠の腕が、テレビ画面に飲み込まれている。

「どしたの、花村────って、うわ!?」

 遅れて千枝も異常事態に気がついたらしい。陽介はパンフを放り出し、千枝は大事件でも目撃したかのように飛び上がって、テレビに突き刺さって(?)いる悠のもとへ駆けよる。混乱した千枝は大わらわで、悠の腕を飲み込んだテレビと悠をせわしなく見比べる。

「え、え? なんで腕が突き刺さってんのっ? 最新型? 新機能とか? って、どど、どんな機能!?」
「ねーよッ! 落ち着け里中!」

 大慌てでたしなめるも、あまり意味はない。陽介もキャパオーバーになるほど頭がこんがらがっているから、『落ち着け』などという言葉は薄紙よりも儚い説得力しか持たない。

 なぜなら目の前の光景はあまりにも非現実的で、非物理的だ。硬いはずのテレビ画面は水のようにやわらかく、悠の腕を飲み込んでいる。突き刺さった腕の縁から波紋まで生み出すほど、なめらかに波打つテレビ画面を見つめ、悠は独り言を漏らす。

「やっぱり、昨日と同じだ。夢なんかじゃなかった」
「うそ……鳴上くんの腕、マジでささってんの!?」
「マジだ……ホントにささってる……すげーよ、どんなイリュージョンだよ!? で、どうなってんだ、タネは!?」

 陽介の質問に、悠は首を横に振る。つまり、種も仕掛けもない現実──。
 さっと、陽介の身体から血の気が引いた。非現実的な光景に釘付けになっている二名をよそに、「もっといけるかも……」と呟いた悠は、テレビに上半身を突っ込んだ。

「バ、バカよせって! 何してんだ、お前ー!!」

 陽介の静止も聞かず、悠の身体はテレビの中を探るようにうごめいている。「す、すげぇー!!」と千枝が称賛(?)とともに目を丸くした。それは目の前の光景についてか、はたまた悠への度胸へ向けられたのかは分からない。対する陽介は理性を取り戻した。

 これめっちゃまずいんじゃねえの、急速に頭が冷えて下半身が違和感を訴えだした。

「やっべ! びっくりしすぎでモレそうっ」
「は、モレる? ちょっ、お客さん来てるよ、どーすんの!?」

 大声で騒ぐ陽介と、半分テレビに突き刺さった悠、そして迫りくる客、混乱のキャパがオーバーした千枝は陽介の腕をひっつかみ、体勢を崩した。足元から崩れかかった千枝の肩が悠のそれにぶつかる。弾みで陽介も引っ張られて──。

 ────ドミノが崩れるかのごとく、三人はテレビの中へあれよあれよと吸い込まれた。
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