動き出す運命
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「こんなものかな」
自室に戻り、悠が引っ越しの荷解きをすべて終えると、ちょうど午前0時の数分前になっていた。千枝との約束《マヨナカテレビ》を試すために、自室の整理で暇な時間を埋めていたのだ。
(たとえ押しつけられたものでも、約束は約束だからな)
カーテンの隙間から外を覗くと、しきりに雨が降っている。これならば、《マヨナカテレビ》の条件は十分に満たしているといえよう。のっそりとソファーに移動し、千枝に教わった通り、悠は備え付けられたテレビに自身の顔を映す。
時計を見れば、針は全て文字盤の“12”を指している。しかし、テレビは電源の落ちた暗い画面に自身の顔を映したままだ。他人の顔など写る気配すらない。電源を落としているので当たり前の結果だ。やはり都市伝説など眉唾ものだったと、悠は一笑に付し布団に向かおうとする。
その時だった。
キュルキュルというノイズ音とともに、騒がしい黄色の光をテレビが放つ。何事か、と驚いた悠がテレビを見つめると、そこにぼんやりと縦に長い影が映って見えた。影──?
────いや、人影だ。
引っかき傷のようなノイズで分かりにくいが、八十神高校の校章が刻まれた、黒のセーラー服。女性なのだろうが、顔を切り取るように白いノイズが走って、誰かは分からない。
セーラー服の誰かは、がむしゃらに足を動かしては止まり、また反対方向へ走り出すという意味の分からない動きを繰り返していた。わずかに映った色素の薄い長髪が乱れる。気が動転しているとしか思えない悲痛な動きだ。人影の隠しきれない悲痛さに、悠は思わずテレビ画面に手を伸ばした、その瞬間。
────我は汝、汝は我、汝、扉を開くものよ……
「!? ぐっ……ウゥ……ッ?」
ピシャンとけたたましい雷鳴とともに、何者かの声が脳を揺らした。自分の声と似ている──けれども異質な、厳かさをたたえた呼び声だった。それが強烈な目眩を悠にもたらす。
支えを求めて伸ばした手が──奇妙なことに、まるで導かれるかのように──自分の意思とは関係なしに前へ進む。そして画面に触れたはずの手が、滑らかに沈み込んだ 。
「!?」
瞬間、悠の喉がひきつる。声が出ないほどの恐怖に駆られた悠は力一杯に腕を引き抜こうとする。
だが渾身の力を込めても腕はびくとも動かない。どころかテレビは、腕ごと悠を引きずり込もうとしている。
まずい、と画面に刺さった腕を悠は引っ張る。けれど、腕は憎らしいほど順調に暗い水面へと飲み込まれていった。まるで悠の非力さを嘲笑っているかのようだ。
もう形振 り構ってはいられない。死にもの狂いでテレビの枠に空いた腕をかけ、反対方向に身体を引きはがした。
「うわっ──────ッッ!!」
ゴンッ! ────勢い余って転倒した悠は、ローテーブルに頭をぶつけた。痛みに悶絶する悠の元に、コンコンという控えめなノック音が届く。
『だいじょうぶ? すごい音、したけど』
「あ、あぁ……騒がしくしてごめん。平気だから」
悠の転倒を聞きつけた菜々子が駆けつけてくれたらしい。痛みをこらえて、なんとか謝罪を口にすると、菜々子はほっと息をついた。
『そっか。夜ふかししちゃだめだよ』
そう言い残すと、小さな足音は遠ざかっていった。菜々子が去ったところで悠はあらためて自分の手を検分する。表、裏と観察するが特に変わった様子はない。
何の変哲もない己の腕が、テレビ画面に刺さった。悪夢のような出来事だが、後頭部に残った痛みの余韻が間違いなく現実であると知らしめる。
「……何だったんだ、今の」
元凶となったテレビに悠は目を向ける。ノイズを発することもなく、電源の落とされたソレは沈黙して、驚愕する悠の姿を映し出していた。
湾曲した画面に写った自身の顔は、大きくふくれて不気味に歪む。後には呆然とする悠と、嵐を告げる雷鳴が残るばかりだった。
自室に戻り、悠が引っ越しの荷解きをすべて終えると、ちょうど午前0時の数分前になっていた。千枝との約束《マヨナカテレビ》を試すために、自室の整理で暇な時間を埋めていたのだ。
(たとえ押しつけられたものでも、約束は約束だからな)
カーテンの隙間から外を覗くと、しきりに雨が降っている。これならば、《マヨナカテレビ》の条件は十分に満たしているといえよう。のっそりとソファーに移動し、千枝に教わった通り、悠は備え付けられたテレビに自身の顔を映す。
時計を見れば、針は全て文字盤の“12”を指している。しかし、テレビは電源の落ちた暗い画面に自身の顔を映したままだ。他人の顔など写る気配すらない。電源を落としているので当たり前の結果だ。やはり都市伝説など眉唾ものだったと、悠は一笑に付し布団に向かおうとする。
その時だった。
キュルキュルというノイズ音とともに、騒がしい黄色の光をテレビが放つ。何事か、と驚いた悠がテレビを見つめると、そこにぼんやりと縦に長い影が映って見えた。影──?
────いや、人影だ。
引っかき傷のようなノイズで分かりにくいが、八十神高校の校章が刻まれた、黒のセーラー服。女性なのだろうが、顔を切り取るように白いノイズが走って、誰かは分からない。
セーラー服の誰かは、がむしゃらに足を動かしては止まり、また反対方向へ走り出すという意味の分からない動きを繰り返していた。わずかに映った色素の薄い長髪が乱れる。気が動転しているとしか思えない悲痛な動きだ。人影の隠しきれない悲痛さに、悠は思わずテレビ画面に手を伸ばした、その瞬間。
────我は汝、汝は我、汝、扉を開くものよ……
「!? ぐっ……ウゥ……ッ?」
ピシャンとけたたましい雷鳴とともに、何者かの声が脳を揺らした。自分の声と似ている──けれども異質な、厳かさをたたえた呼び声だった。それが強烈な目眩を悠にもたらす。
支えを求めて伸ばした手が──奇妙なことに、まるで導かれるかのように──自分の意思とは関係なしに前へ進む。そして画面に触れたはずの手が、
「!?」
瞬間、悠の喉がひきつる。声が出ないほどの恐怖に駆られた悠は力一杯に腕を引き抜こうとする。
だが渾身の力を込めても腕はびくとも動かない。どころかテレビは、腕ごと悠を引きずり込もうとしている。
まずい、と画面に刺さった腕を悠は引っ張る。けれど、腕は憎らしいほど順調に暗い水面へと飲み込まれていった。まるで悠の非力さを嘲笑っているかのようだ。
もう
「うわっ──────ッッ!!」
ゴンッ! ────勢い余って転倒した悠は、ローテーブルに頭をぶつけた。痛みに悶絶する悠の元に、コンコンという控えめなノック音が届く。
『だいじょうぶ? すごい音、したけど』
「あ、あぁ……騒がしくしてごめん。平気だから」
悠の転倒を聞きつけた菜々子が駆けつけてくれたらしい。痛みをこらえて、なんとか謝罪を口にすると、菜々子はほっと息をついた。
『そっか。夜ふかししちゃだめだよ』
そう言い残すと、小さな足音は遠ざかっていった。菜々子が去ったところで悠はあらためて自分の手を検分する。表、裏と観察するが特に変わった様子はない。
何の変哲もない己の腕が、テレビ画面に刺さった。悪夢のような出来事だが、後頭部に残った痛みの余韻が間違いなく現実であると知らしめる。
「……何だったんだ、今の」
元凶となったテレビに悠は目を向ける。ノイズを発することもなく、電源の落とされたソレは沈黙して、驚愕する悠の姿を映し出していた。
湾曲した画面に写った自身の顔は、大きくふくれて不気味に歪む。後には呆然とする悠と、嵐を告げる雷鳴が残るばかりだった。