動き出す運命
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《マヨナカテレビ》とは。
八十稲羽で最近噂になっている怪奇現象だという。雨の降りしきる午前0時に、消えているテレビに自身の顔を映す。その顔を見つめていると、運命の相手が画面に映るとは千枝の話だ。気軽に遭遇できる都市伝説として、八十稲羽の学生の間で流行って噂されているらしい。
得意気に語り終えた千枝に、盛大に顔をしかめたのは陽介だ。まるで子供の信じる絵空事を打ち砕く無慈悲さで、彼は千枝の話を一蹴した。
「それ、タダの勘違いじゃねーの? 『寝ぼけてテレビを覗きこんだら、自分の寝顔がヘンに映ったー』みてーな」
「それがさ、ホントに見た人もいるみたいなんよ。それも2、3人じゃなくて結構な数」
「『みたい』って……お前はやったことないんか」
呆れたとばかりに陽介がため息をつく。そのまま、胡乱な様子で唐揚げをつついた。
「第一、その話がホントだとして……どやって映ったヤツが『運命の相手』だって確かめんだよ。怪しすぎるだろ」
「いーじゃん。都市伝説ってそういうもんでしょ」
「たしかに、含みのある言い方になってるのがソレっぽいよな」
「お、鳴上くんも興味あるー? そんで今晩、おあつらえ向きに雨な訳ですよ」
そう空を指さし、千枝はにんまりと笑った。
結局、彼女に押されて悠と陽介は《マヨナカテレビ》を試す運びとなったのだ。「失敗しても話のネタになるし、害はないんだから試してみよう!」と千枝は面白そうに言った。半ば呆れる陽介と、半信半疑の悠。2人に 絶対だよ、と千枝が念をおして、悠の歓迎会はお開きとなった。
◇◇◇
外は暗くなり、堂島宅の外ではしきりに雨が降っている。夕食の片付けに勤しみながら、悠は雨音に耳を澄ました。ざぁざぁと激しく屋根を打っているから、きっと夜通し大量に降り続くのだろう。下手をすれば、翌朝までひどく降りつづくかもしれない。
外靴の予備を持っていこうか。と明日の登校について悠が思案していると、ガラリと玄関が開いた。しばらくすると居間に見知った顔が現れる。昨日から仕事で家を空けていた堂島がやっと帰ってきたのだ。かなり疲労しているのか、覇気のない様子に菜々子が心配そうに父親を見やる。
「ただいま。何か、変わりなかったか?」
「ない。帰ってくるの、おそい」
「悪い悪い……仕事が忙しいんだよ。テレビ、ニュースにしてくれ」
抗議する菜々子を軽くあしらって、堂島は重そうに引きずっていた身体をソファーに落ち着けた。彼の意向で、テレビのチャンネルがニュースへと変えられる。
テロップには、『山野アナウンサー 変死事件 遺体第一発見者インタビュー』と出ていた。
画面に映し出されたのは、八十神高校の制服を着た女子生徒だ。顔は伏せられているが、悠は既視感を覚える。
胸のあたりまで伸ばされた、亜麻色に波打ったロングヘア──今日の放課後、ジュネスで出会った小西先輩にそっくりだ。
「第一発見者のインタビューだぁ? どこから掴んでんだんだ、まったく……」
不機嫌な様子で堂島がぼやく。警察である彼からすれば、現場関係者を不用意に混乱させるマスコミは目の上のタンコブでしかないのだろう。
悠は気の毒にと堂島を見やる。警察の内情を知らないインタビュアーは、まるで世紀の大発見でもしたかのように騒ぎ立てた。
【最初に見たとき、死んでるって分かった? 顔は見た?】
【え、ええと……】
【霧の日に殺人なんて、なんだか怖いよね?】
【え……? 殺人……なんですか?】
無神経な質問に、小西先輩(?)はうろたえている。始終、問答にならず、唐突に映像が切られるとアナウンサーは取ってつけたような結論で締めくくる。
【このように地元の人々も混乱しているようです。治安のほか、地元産業にも影響があるとみられ、現場近くの商店街では客足がさらに遠のくのではと懸念しています】
「よく言ったもんだ。ウチのまわりをちょこまか嗅ぎ回ったうえで妨害しやがって……まったく。そんなふうにマスコミが騒ぐから客足が遠のくんだろ」
【犯行声明などは出ていないようですが──】
「いたずら電話なら、殺到しているがな……」
【事件か事故かも分からないなんて、ったく、警察は血税で何遊んでるんだか……】
「………………ぐぅ」
うんざり、といった様子で愚痴っていた堂島は、いつの間にか眠っていた。愚痴の内容から、かなり仕事における雑務が苦だったのだったのだろう。
「また、ねちゃった」
父親がそこにいるというのに、変わらずさみしそうな様子で菜々子は呟く。夕食の片付けを終えた悠は、菜々子と堂島を見比べ、堂島の方へと歩みを進める。
「菜々子ちゃん、ごめん。お父さんのお布団、敷いてきてくれないか? このままだと風邪引いちゃうから」
「うん。分かった」
ぱたぱたと、菜々子は堂島の寝室へと駆けていく。
「よいせっと………………おもっ」
その間に、悠は堂島を担いだ。疲労が溜まって身体が重くなった堂島を引き連れ、菜々子の後を追う。布団に寝かせた彼の目元にはうっすらと隈ができていた。