動き出す運命
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◇◇◇
商店街や鮫川、登下校に使える裏道(千枝が教えてくれた)など町をひととおり回った悠は、千枝とともにプラスチック製の椅子に腰かけていた。
あたりのスピーカーからはキャッチーなBGMが流れ、買い物帰りと思われる主婦が飲み物片手にベンチに腰かけていた。遠くにある縦長のウッドテーブルでは八十神高校の男子生徒たちがタコ焼きを摘まみながらダベっている。商業施設でよく見られる光景である。
それもそのはず。悠たちがいるのは八十稲羽に堂々と軒を構える大型ショッピングセンター『ジュネス』なのだから。
「ほい、お待ちどさん」
そのフードコートの一角で待つ悠と千枝の下に、陽介がドリンクとプラケースの乗ったトレイを持ってきた。焦げ目のついたフランクフルトと唐揚げのセットという、いかにも食べ盛りの高校生といったチョイスだ。
ちなみに料金はすべて陽介持ち。なんと千枝の分もコミという太っ腹っぷりである。
その理由については以下の通り。
「裏道はフツーに役立つし、成龍伝説、面白かったからな」
「成龍伝説? あのカンフー映画の?」
「そそ。なになに、鳴上くんも映画はイケる口?」
「うん。テレビで放送されるのとかよく家で見てたよ。カンフーとかも」
「そっかー! じゃあ今度なんかオススメとか持ってくるね!」
「え、いいのか?」
「いーんだよ鳴上。里中のヤツ、カンフー好きで語りに飢えてるから。名作にもワリと詳しいぜ。この前教えてもらった映画も面白かったし」
「うおー! それって劇場公開されたアレでしょー! キャストの技のキレがすごいんよー!」
「ああ、それ瀬名も言ってたぞ。『機敏な回し蹴りによる連撃がカッコよかった』って」
「……」
「……」
「……? どした2人とも。いきなり黙っちまって」
「……花村。瀬名と見に行ったの? その、男女で」
「え? おお、アイツとはワリと遊びに行くし、親友だし」
隣を歩く千枝と目が合う。パチクリと瞼を瞬き、2人は宇宙を背負った。男女で映画を見に行くという所業を平然とやってのける男は、何かおかしいのかと首をひねっていた。
閑話休題。
予算の都合もあったのだろう。ビフテキではないけれど、目の前で湯気を立てる唐揚げに悠の顔が綻ぶ。一方で千枝は肩を落とした。ビフテキではない別の品物が、彼女にとっては残念だったらしい。
「まあ、あんたって言ったら実家のココになるよね」
「実家じゃねえよ。3人飲み食いするなら、ココじゃないと無理だっての。それともなんだ、いらないのか?」
「わーーーーっ、食べる! たべるから! フランクフルトも唐揚げも立派な肉だから! 奢っていただき光栄です花村さま!」
トレイを引き離そうとする陽介に、慌てて千枝がしがみつく。一方で、悠は話題についていけずに疑問をこぼした。千枝が相当な肉好きらしいとは分かったが、ひとつ解せない。
「ショッピングセンターが……実家?」
「あー、お前にはまだ言ってなかったよな。ワリィ」
謝りながら、陽介は悠に飲み物を手渡す。そして自分の胸元を指さした。そこに下がっている田舎らしくないオシャレなオレンジベースのヘッドフォンは、お気に入りなのか、よく手入れされてピカピカと光っている。
「俺も鳴上と同じく都会から引っ越してきたんだよ。親父が新しくできるジュネス の店長になるってコトで、半年ぐらい前にな」
「ああ、だから実家なのか」
「実家っつっても、んな大したもんじゃねーけどな。親父は雇われ店長のタダのアラフィフだし?」
悪態をつきながらも、その言葉は優しく、眼差しにはあたたかさがあった。察するに、家族仲はいいようだ。
「じゃ、歓迎の印ってことで、冷めないうちに食おうぜ」
身の上話は手短に、ドリンクを手に3人は乾杯する。杯を打ち合わせながら、悠はひっそりと陽介を観察する。
悠と同じ都会育ちとは言えど、やはり話してみるとだいぶ違う。キャラメルブラウンの髪を外はねさせた髪型に、琥珀色の瞳、華やかな容姿からも分かるように、陽介は明るく、気さくだ。
別に会話が苦手なわけではないが、どちらかと言えば内向的で人付き合いの少ない悠とは正反対のタイプと言える。加えて、悠にとっては気になる点があった。
(家族と、仲がいいのか……)
社交性に、内面の明るさ、それに──表面上は悪態をついてはいるが、仲のよい家族。悠は自分の両親と、現在進行形でお世話になっている堂島家を思い浮かべた。どちらも仲が悪いわけでもないが、仕事熱心な両親不在のリビングといい、菜々子が寂しそうにする堂島家の居間といい、どちらも居心地はぎこちない。
要するに、陽介は悠と正反対の人間なのだ。悠には持ち得ないものを持っている。
それを、いいなと思った。
そして、自分とは違う──自分にはないものを持っている人間が、こうして自分に関心を持ってくれたことが、悠はなんだか嬉しかった。
まだあたたかい唐揚げを悠はヒョイッとつまみ上げる。きっと冷凍の唐揚げなのに、明るいクラスメイトたちとの団欒のなかだと美味しく思えた。
商店街や鮫川、登下校に使える裏道(千枝が教えてくれた)など町をひととおり回った悠は、千枝とともにプラスチック製の椅子に腰かけていた。
あたりのスピーカーからはキャッチーなBGMが流れ、買い物帰りと思われる主婦が飲み物片手にベンチに腰かけていた。遠くにある縦長のウッドテーブルでは八十神高校の男子生徒たちがタコ焼きを摘まみながらダベっている。商業施設でよく見られる光景である。
それもそのはず。悠たちがいるのは八十稲羽に堂々と軒を構える大型ショッピングセンター『ジュネス』なのだから。
「ほい、お待ちどさん」
そのフードコートの一角で待つ悠と千枝の下に、陽介がドリンクとプラケースの乗ったトレイを持ってきた。焦げ目のついたフランクフルトと唐揚げのセットという、いかにも食べ盛りの高校生といったチョイスだ。
ちなみに料金はすべて陽介持ち。なんと千枝の分もコミという太っ腹っぷりである。
その理由については以下の通り。
「裏道はフツーに役立つし、成龍伝説、面白かったからな」
「成龍伝説? あのカンフー映画の?」
「そそ。なになに、鳴上くんも映画はイケる口?」
「うん。テレビで放送されるのとかよく家で見てたよ。カンフーとかも」
「そっかー! じゃあ今度なんかオススメとか持ってくるね!」
「え、いいのか?」
「いーんだよ鳴上。里中のヤツ、カンフー好きで語りに飢えてるから。名作にもワリと詳しいぜ。この前教えてもらった映画も面白かったし」
「うおー! それって劇場公開されたアレでしょー! キャストの技のキレがすごいんよー!」
「ああ、それ瀬名も言ってたぞ。『機敏な回し蹴りによる連撃がカッコよかった』って」
「……」
「……」
「……? どした2人とも。いきなり黙っちまって」
「……花村。瀬名と見に行ったの? その、男女で」
「え? おお、アイツとはワリと遊びに行くし、親友だし」
隣を歩く千枝と目が合う。パチクリと瞼を瞬き、2人は宇宙を背負った。男女で映画を見に行くという所業を平然とやってのける男は、何かおかしいのかと首をひねっていた。
閑話休題。
予算の都合もあったのだろう。ビフテキではないけれど、目の前で湯気を立てる唐揚げに悠の顔が綻ぶ。一方で千枝は肩を落とした。ビフテキではない別の品物が、彼女にとっては残念だったらしい。
「まあ、あんたって言ったら実家のココになるよね」
「実家じゃねえよ。3人飲み食いするなら、ココじゃないと無理だっての。それともなんだ、いらないのか?」
「わーーーーっ、食べる! たべるから! フランクフルトも唐揚げも立派な肉だから! 奢っていただき光栄です花村さま!」
トレイを引き離そうとする陽介に、慌てて千枝がしがみつく。一方で、悠は話題についていけずに疑問をこぼした。千枝が相当な肉好きらしいとは分かったが、ひとつ解せない。
「ショッピングセンターが……実家?」
「あー、お前にはまだ言ってなかったよな。ワリィ」
謝りながら、陽介は悠に飲み物を手渡す。そして自分の胸元を指さした。そこに下がっている田舎らしくないオシャレなオレンジベースのヘッドフォンは、お気に入りなのか、よく手入れされてピカピカと光っている。
「俺も鳴上と同じく都会から引っ越してきたんだよ。親父が新しくできる
「ああ、だから実家なのか」
「実家っつっても、んな大したもんじゃねーけどな。親父は雇われ店長のタダのアラフィフだし?」
悪態をつきながらも、その言葉は優しく、眼差しにはあたたかさがあった。察するに、家族仲はいいようだ。
「じゃ、歓迎の印ってことで、冷めないうちに食おうぜ」
身の上話は手短に、ドリンクを手に3人は乾杯する。杯を打ち合わせながら、悠はひっそりと陽介を観察する。
悠と同じ都会育ちとは言えど、やはり話してみるとだいぶ違う。キャラメルブラウンの髪を外はねさせた髪型に、琥珀色の瞳、華やかな容姿からも分かるように、陽介は明るく、気さくだ。
別に会話が苦手なわけではないが、どちらかと言えば内向的で人付き合いの少ない悠とは正反対のタイプと言える。加えて、悠にとっては気になる点があった。
(家族と、仲がいいのか……)
社交性に、内面の明るさ、それに──表面上は悪態をついてはいるが、仲のよい家族。悠は自分の両親と、現在進行形でお世話になっている堂島家を思い浮かべた。どちらも仲が悪いわけでもないが、仕事熱心な両親不在のリビングといい、菜々子が寂しそうにする堂島家の居間といい、どちらも居心地はぎこちない。
要するに、陽介は悠と正反対の人間なのだ。悠には持ち得ないものを持っている。
それを、いいなと思った。
そして、自分とは違う──自分にはないものを持っている人間が、こうして自分に関心を持ってくれたことが、悠はなんだか嬉しかった。
まだあたたかい唐揚げを悠はヒョイッとつまみ上げる。きっと冷凍の唐揚げなのに、明るいクラスメイトたちとの団欒のなかだと美味しく思えた。