動き出す運命
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4月13日 放課後
「──では、諸連絡は以上だ。貴様ら、寄り道せず速やかに下校するように!」
担任の諸岡──通称”モロキン”の号令を皮切りに、教室がどっと騒がしくなる。予定されていた1日の授業を終わり、生徒たちがガヤガヤと騒がしくなるなか、悠は張っていた緊張を解いた。
八十神高校は田舎の学校だけれど、学業にも力を入れているらしい。教師陣はとかく変わり者は多いが、授業自体は非常に真面目で気を抜けなかったのだ。だがその分、一日の時間割りをこなした後の達成感は、すこし気持ちがいい。
解放感から背伸びをすると、「なぁなぁ」と気さくに話しかけられた。閉じていた目をパッと開くと、その先で今朝知り合った男子生徒──花村陽介が人懐っこく笑っている。ゴールデンレトリバーに似て垂れた瞳が無邪気に悠をうかがっていた。
「どーだったよ、こっちの先生。変わったヤツばっかだろ?」
「そうだな。まさかツタンカーメンの被り物をしている人がいるとは思わなかった」
「ああ、世界史の祖父江 な。あんなナリだけど授業とかは臨場感あって面白いんだぜ。世界史の探求者なんだとさ、まぁいわゆる歴オタってヤツ」
「そうなのか。なんでツタンカーメンの姿なのか気になって仕方なかったんだけど」
ピカピカと異彩を放つツタンカーメンの被り物、まだらの蛇を?の形に曲げた独特な杖に度肝を抜かれ、講義を聞き漏らさないようにするのが大変だった。悠が苦笑すると、陽介が楽しそうに笑い声を上げる。
「はは、まさか日本でカーメン見れるとは思わないもんな。まぁ、慣れだな慣れ。慣れたと言えば、この町はもう慣れたんか? 転校生」
「まだ慣れないかな。越してきたの、始業式の前の日だし」
親しみやすい気軽さに乗せられて白状すると、陽介が目を丸くする。
「うっわ、ホントに来たばっかじゃん。じゃあ、この町の名物とかもまだ知んないカンジ?」
「名物? 野菜とかか?」
「それがな……んなフレッシュなんじゃねーんだ。なんと”ビフテキ”なんだとさ。野暮ったい響きスゴいっしょ! ……で、稲羽に越してきたってコトで食いにいかね? 街回った後にさ」
「え……」
つまり陽介は、街を案内してくれると言ってくれているのだろう。思いもよらない申し出に、悠は戸惑う。まだ土地勘がないから一緒に回ってくれる人がいるのは頼もしいが、迷惑ではないだろうか? 返答に詰まる悠に、陽介は軽やかにウインクを飛ばす。
「ダイジョーブ! 俺安いトコ知ってっから。それにオゴるぜ? 今朝助けてもらったお礼にさ」
「え、なになにー? いま”オゴる”って聞こえたんだけど? ”ビフテキ”って聞こえたんだけど!?」
「里中はメシの話になるとすぐ来るな……」
近くにいたクラスメイト──里中千枝がひょこっと顔を出す。耳敏い彼女に陽介が盛大にため息をついた。けれどどちらも楽しそうな様子だったので、悠は腹を決める。
どうやら、にぎやかな帰り道になりそうだ。
「──では、諸連絡は以上だ。貴様ら、寄り道せず速やかに下校するように!」
担任の諸岡──通称”モロキン”の号令を皮切りに、教室がどっと騒がしくなる。予定されていた1日の授業を終わり、生徒たちがガヤガヤと騒がしくなるなか、悠は張っていた緊張を解いた。
八十神高校は田舎の学校だけれど、学業にも力を入れているらしい。教師陣はとかく変わり者は多いが、授業自体は非常に真面目で気を抜けなかったのだ。だがその分、一日の時間割りをこなした後の達成感は、すこし気持ちがいい。
解放感から背伸びをすると、「なぁなぁ」と気さくに話しかけられた。閉じていた目をパッと開くと、その先で今朝知り合った男子生徒──花村陽介が人懐っこく笑っている。ゴールデンレトリバーに似て垂れた瞳が無邪気に悠をうかがっていた。
「どーだったよ、こっちの先生。変わったヤツばっかだろ?」
「そうだな。まさかツタンカーメンの被り物をしている人がいるとは思わなかった」
「ああ、世界史の
「そうなのか。なんでツタンカーメンの姿なのか気になって仕方なかったんだけど」
ピカピカと異彩を放つツタンカーメンの被り物、まだらの蛇を?の形に曲げた独特な杖に度肝を抜かれ、講義を聞き漏らさないようにするのが大変だった。悠が苦笑すると、陽介が楽しそうに笑い声を上げる。
「はは、まさか日本でカーメン見れるとは思わないもんな。まぁ、慣れだな慣れ。慣れたと言えば、この町はもう慣れたんか? 転校生」
「まだ慣れないかな。越してきたの、始業式の前の日だし」
親しみやすい気軽さに乗せられて白状すると、陽介が目を丸くする。
「うっわ、ホントに来たばっかじゃん。じゃあ、この町の名物とかもまだ知んないカンジ?」
「名物? 野菜とかか?」
「それがな……んなフレッシュなんじゃねーんだ。なんと”ビフテキ”なんだとさ。野暮ったい響きスゴいっしょ! ……で、稲羽に越してきたってコトで食いにいかね? 街回った後にさ」
「え……」
つまり陽介は、街を案内してくれると言ってくれているのだろう。思いもよらない申し出に、悠は戸惑う。まだ土地勘がないから一緒に回ってくれる人がいるのは頼もしいが、迷惑ではないだろうか? 返答に詰まる悠に、陽介は軽やかにウインクを飛ばす。
「ダイジョーブ! 俺安いトコ知ってっから。それにオゴるぜ? 今朝助けてもらったお礼にさ」
「え、なになにー? いま”オゴる”って聞こえたんだけど? ”ビフテキ”って聞こえたんだけど!?」
「里中はメシの話になるとすぐ来るな……」
近くにいたクラスメイト──里中千枝がひょこっと顔を出す。耳敏い彼女に陽介が盛大にため息をついた。けれどどちらも楽しそうな様子だったので、悠は腹を決める。
どうやら、にぎやかな帰り道になりそうだ。