動き出す運命
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4月13日 朝
曇天のもと、悠は朝から奇妙な生き物を発見した。
通学路の脇、ゴミ捨て場に置かれた青いポリバケツからニョキっと人の脚が生えている。ポリバケツはゴロンゴロンと、右へ左へ転がった。
状況から推測するに生きたポリバケツではなく、ポリバケツに人が突っ込んだらしい。どんな状況だ。と悠は心のなかで思わずツッコんでしまう。
「だ、誰か……」
困り果てたポリバケツ(?)の呻きはあまりにも切実だった。飛び出た脚が陸に打ち上げられた魚の勢いでビチビチ跳ねる。だが、道行く人は助ける気もなく、指を指して笑う者までいる。自力で抜け出すこともできずに、見世物よろしく放置されていたのだろう。可哀想にもほどがある。
不憫に思い、悠はポリバケツ星人の足元にしゃがみこんだ。ポリバケツから伸びた腰をしっかりと掴む。さすがにこのままほったらかすのは気がひけたからだ。
「今出すから、暴れないでくれよ」
ソイヤッと、悠はポリバケツから人を引き抜いた。スッポーンとバケツから人が誕生する。ぷはーっと、腹筋の要領で起き上がったその人が立てるようにと、悠は手を差し出す。
バケツの暗がりから抜け出したその人は犬よろしくブンブンと頭を振って──悠はその人の正体に驚く。明るく外跳ねした茶髪と、それによく似合う、首にかかったオレンジベースのヘッドフォン。垂れ目がちの瞳が開いて、情けなさそうな苦笑いを見せた。
「花村陽介……」
思わず、悠は呟いた。昨日、帰り道を共にした女生徒──瀬名瑞月の友人とおぼしき男。彼女が誇らしげに話していたから興味はあったが、まさかこんな不意を突く出会い方に「えっ、えっ……」と悠は盛大に困惑した。
「なんで、こんなところに不法投棄されてるんだ……?」
「俺は粗大ゴミかよ! ちげーよ! 事故だ事故!」
不名誉とばかりに陽介が抗議する。その他にもイロイロと疑問が沸き上がるが、叫べるだけの元気があるというのは分かった。
「えっと、立てる……?」
悠が手を伸ばすと、陽介は一転してハッと驚いた表情になる。それから申し訳なさそうに眉を下げながら悠の手をとった。
「いやー、助かったわ。ありがとな。えっと……転校生の鳴上悠だったっけ」
「ああ、そっちは身体とか大丈夫か?」
「へーきへーき!」
悠の手を握って、難なく陽介は立ち上がる。どうやら怪我がない様子に悠はほっとした。2人して並びあったところ、陽介は悠をまっすぐに見つめてくる。人懐っこい笑みを浮かべた、髪と揃いの琥珀色に近い澄んだ瞳がきれいだ。
「俺は花村陽介。同じクラスだから、よろしくな」
「知ってる。昨日、瀬名からよろしくされた」
陽介の明るい笑顔が、即座にきょとんとした表情に変わる。それからじわじわと目の端を染めて恥ずかしそうにあわあわと取り乱す。
「え、アイツなんか言った? まさか、ハズイこととかじゃないよなっ!?」
「いや、ハズイことって……。きっと話しかけてくるけど、悪いヤツじゃなくて優しい人だからよろしくって」
「え゛」
「昨日の帰り道で」
「あ、あ~~。そういや一緒に帰ってたもんな。つかそうさせたの俺だったわ、あっはっは」
さらに照れたみたいに、陽介は目じりを赤くした。喜怒哀楽がオーバーリアクションぎみにコロコロと変わる様子は騒がしくもある。感情が豊かな、悠があまり付き合ったことのないタイプの人間だ。
ついまじまじと彼を観察して、学ランに付着したホコリに気がついた。やはりポリバケツのなかにはゴミが入っていたようだ。手を伸ばして振り払うと「サンキュな」と照れ臭そうに笑う。目まぐるしい表情の変化に釣られて、悠も笑ってしまった。
「いいよ。ウェットティッシュいる?」
「いんや、もう大丈夫だと思う。中に入ってたの乾いた落ち葉みたいのバッカだったし……サンキュな」
「不幸中の幸いだったな……。ところで、さっきは何でポリバケツにハマってたんだ?」
「あ、えっと、それは……」
陽介が気まずそうにゴミ捨て場に目をやる。そこには黄色いマウンテンバイクが、前衛芸術よろしくダイナミックにゴミ山に突き刺さっている。エキセントリックな粗大ごみだなぁと悠が眺めていると、陽介がためらいがちに指を指す。
「……チャリ漕いでたら、ブレーキ効かなくてポリバケツに突っ込んだ」
「えっ」
件の自転車を、ギコギコギコと鳴らしながら陽介は取ってくる。チェーンが痛んでいるのだろうか、素人目にしても走行危険な代物である。けれどと、悠は呆れた。
事故を起こすにしたって、ポリバケツに突っ込むとはどんな偶然かと。
曇天のもと、悠は朝から奇妙な生き物を発見した。
通学路の脇、ゴミ捨て場に置かれた青いポリバケツからニョキっと人の脚が生えている。ポリバケツはゴロンゴロンと、右へ左へ転がった。
状況から推測するに生きたポリバケツではなく、ポリバケツに人が突っ込んだらしい。どんな状況だ。と悠は心のなかで思わずツッコんでしまう。
「だ、誰か……」
困り果てたポリバケツ(?)の呻きはあまりにも切実だった。飛び出た脚が陸に打ち上げられた魚の勢いでビチビチ跳ねる。だが、道行く人は助ける気もなく、指を指して笑う者までいる。自力で抜け出すこともできずに、見世物よろしく放置されていたのだろう。可哀想にもほどがある。
不憫に思い、悠はポリバケツ星人の足元にしゃがみこんだ。ポリバケツから伸びた腰をしっかりと掴む。さすがにこのままほったらかすのは気がひけたからだ。
「今出すから、暴れないでくれよ」
ソイヤッと、悠はポリバケツから人を引き抜いた。スッポーンとバケツから人が誕生する。ぷはーっと、腹筋の要領で起き上がったその人が立てるようにと、悠は手を差し出す。
バケツの暗がりから抜け出したその人は犬よろしくブンブンと頭を振って──悠はその人の正体に驚く。明るく外跳ねした茶髪と、それによく似合う、首にかかったオレンジベースのヘッドフォン。垂れ目がちの瞳が開いて、情けなさそうな苦笑いを見せた。
「花村陽介……」
思わず、悠は呟いた。昨日、帰り道を共にした女生徒──瀬名瑞月の友人とおぼしき男。彼女が誇らしげに話していたから興味はあったが、まさかこんな不意を突く出会い方に「えっ、えっ……」と悠は盛大に困惑した。
「なんで、こんなところに不法投棄されてるんだ……?」
「俺は粗大ゴミかよ! ちげーよ! 事故だ事故!」
不名誉とばかりに陽介が抗議する。その他にもイロイロと疑問が沸き上がるが、叫べるだけの元気があるというのは分かった。
「えっと、立てる……?」
悠が手を伸ばすと、陽介は一転してハッと驚いた表情になる。それから申し訳なさそうに眉を下げながら悠の手をとった。
「いやー、助かったわ。ありがとな。えっと……転校生の鳴上悠だったっけ」
「ああ、そっちは身体とか大丈夫か?」
「へーきへーき!」
悠の手を握って、難なく陽介は立ち上がる。どうやら怪我がない様子に悠はほっとした。2人して並びあったところ、陽介は悠をまっすぐに見つめてくる。人懐っこい笑みを浮かべた、髪と揃いの琥珀色に近い澄んだ瞳がきれいだ。
「俺は花村陽介。同じクラスだから、よろしくな」
「知ってる。昨日、瀬名からよろしくされた」
陽介の明るい笑顔が、即座にきょとんとした表情に変わる。それからじわじわと目の端を染めて恥ずかしそうにあわあわと取り乱す。
「え、アイツなんか言った? まさか、ハズイこととかじゃないよなっ!?」
「いや、ハズイことって……。きっと話しかけてくるけど、悪いヤツじゃなくて優しい人だからよろしくって」
「え゛」
「昨日の帰り道で」
「あ、あ~~。そういや一緒に帰ってたもんな。つかそうさせたの俺だったわ、あっはっは」
さらに照れたみたいに、陽介は目じりを赤くした。喜怒哀楽がオーバーリアクションぎみにコロコロと変わる様子は騒がしくもある。感情が豊かな、悠があまり付き合ったことのないタイプの人間だ。
ついまじまじと彼を観察して、学ランに付着したホコリに気がついた。やはりポリバケツのなかにはゴミが入っていたようだ。手を伸ばして振り払うと「サンキュな」と照れ臭そうに笑う。目まぐるしい表情の変化に釣られて、悠も笑ってしまった。
「いいよ。ウェットティッシュいる?」
「いんや、もう大丈夫だと思う。中に入ってたの乾いた落ち葉みたいのバッカだったし……サンキュな」
「不幸中の幸いだったな……。ところで、さっきは何でポリバケツにハマってたんだ?」
「あ、えっと、それは……」
陽介が気まずそうにゴミ捨て場に目をやる。そこには黄色いマウンテンバイクが、前衛芸術よろしくダイナミックにゴミ山に突き刺さっている。エキセントリックな粗大ごみだなぁと悠が眺めていると、陽介がためらいがちに指を指す。
「……チャリ漕いでたら、ブレーキ効かなくてポリバケツに突っ込んだ」
「えっ」
件の自転車を、ギコギコギコと鳴らしながら陽介は取ってくる。チェーンが痛んでいるのだろうか、素人目にしても走行危険な代物である。けれどと、悠は呆れた。
事故を起こすにしたって、ポリバケツに突っ込むとはどんな偶然かと。