客人〈マレビト〉来たりき
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結果を知らされていた待機組と合流し、悠たちは事件現場から迂回した。急いでいるためか、4人の会話は少なく、それぞれがあたりを警戒するように進んでいく。
しばらく歩くと、分かれ道に差し当たった。雪子と千枝が、悠と瑞月とは別の道に足を進める。
「じゃあね、2人とも。あたしたちはここまでだから」
「帰り道、気をつけてね」
「千枝さん、雪子さん、ありがとう。また明日」
「2人とも、明日からよろしく」
別れを告げ、雪子と千枝、瑞月は手を振りながら歩みを進める。悠も真似をすると、千枝が降り幅を大きくした気がする。──人に手を振るなんて何年ぶりだろう、そう思いながら悠は二人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
かくして、悠と帰り道をともにする者は瑞月のみとなる。あたりは背の高い植物で覆われた田舎道だ。その中を、二人は早足で進む。事件現場から離れたからか、彼女の調子も戻っていた。
「体調、大丈夫か?」
「ああ、もう問題はない。すまないな。心配をかけて」
そう答える瑞月から、不調の気配は消え去っている。足取りもきびきびと気持ちのいい速度だ。調子を取り戻した彼女に、悠はほっとした。
「良かった。もし倒れられたら、俺が顔向けできないから」
「おや、おかしなことを言う。まるで頼まれたかのような口ぶりだ。誰かにそう言われたか?」
「ああ。『頼むな』って、花村に」
まじまじと、瑞月が悠を見つめる。それから「そうだな」としみじみと噛み締めるように呟く。しかも瑞月の頬は嬉しそうに緩んでいる。やはり彼女は花村が関わると、とても嬉しそうな表情を見せる。心なしか、足取りも軽やかになった気がする。
それが興味深くて、悠は隣で彼女を見ていた。すると、「鳴上くん?」と声がかかる。いつの間にか、見すぎてしまったらしい。瑞月が不思議そうに首をかしげていた。
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「……気は抜かないほうがいい。思わぬところから動物が出るからな。狸とか野うさぎとか鹿とか」
「え、鹿!? ホントに出るの?」
「出るとも。そして汁物にして食べて──」
「そんなワイルドな狩猟社会なの八十稲羽っ!?」
「──いたらしい」
「過去形だった」
「ちなみに『狸汁』は食されている」
「え、嘘でしょ。狸のジビエなんで聞いたこともないし一番想像ができないんだけど」
「なぜなら『狸汁』はこんにゃくを肉に見立てた味噌汁だからな。精進料理の一種よ」
「騙された。でもなんかちょっと賢くなった気がする」
ピロリンと悠のなかで何かが鳴った。知識が高まったような気分だ。ふっと悠は満足げに息を吐く。すると瑞月がじっと悠を見つめてた。そして、感心したように瑞月は頷く。
「きみは素直なのだな。今の会話といい、先ほどの花村の話といい」
「え、そうなのか?」
「私から見ればそうだな。私と仲良くしてくれている人たちと性質が近い。気が合うかもしれん。友人として推薦しておく」
「それを言うなら、きみも以外と素直だよな」
そう悠は返答する。最初に通学路で目撃したときは冷たそうに見えし、何よりも諸岡や雪子に絡んでいた不審な少年を撃退した口先は、随分と嫌らしいやり口だった。けれど、話してみると良識を持ち合わせた人柄がすぐに分かる。
「そうであるよう、心がけてはいるよ。ところでクラスはどうだ。今日のところ、馴染めそうか?」
「なんとか、里中とか親切な人がいるって分かったし。担任以外は、ね」
「同感だな。私もあの人から目をつけられているから、まぁ、なんだ……耐えよう」
苦笑する瑞月に、悠は思い出した。今日一日、彼女には何度も助けてもらったというのに、お礼をしていない。
「あのさ、瀬名」
「なにか? 鳴上くん」
「さっき、ペットボトルとティッシュくれたろ。お陰で具合の悪そうな人を助けられた。ありがとうな。どっちもちゃんと明日返すから」
「……別に返さずとも構わないが? 特別なものでもないから、気にしなくていい」
「そういうわけにはいかないよ。それから、今朝もありがとう。諸岡先生から絡まれたとき、助けてくれただろ?」
「今朝……、あぁ、あのときのことか」
瑞月は思い出したらしい。
「別段、気にせずとも良い。あのままだと、本当に全校集会まで気付かず説教が続いたかもしれなかったからな。それに……」
「それに?」
「家の人に迷惑をかけたくないというのは、私も少し理解できる」
実感がこもった、懐かしささえ含む言いぶりだ。まるで共通点があるかのように。だが別段、悠と瑞月に共通点などないはずだ。──と考えて、瑞月には妹がいることを思い出した。同居人に幼い子がいるという点では、悠と同じだ。瑞月は姉ゆえに責任感が強い人柄で、同居人に迷惑をかけたくないという悠と自分を重ねたのかもしれない。
「そういえば、妹さんを迎えにいくんだよな? 何年生?」
「一年生だな。今年入学したばかりで、ピカピカだ」
「え、本当? 同い年だ。俺が迎えに行く子、下宿先の叔父さんの娘さんなんだけど」
「叔父ということは、従姉妹か。ちなみに名前を聞いても?」
「うん。『堂島菜々子』って名前なんだけど」
「うん?」
ピタリと、瑞月が動きを止める。キョトンとした様子は今日一番に驚いていた。その訳が分からない悠はおろおろと手をさ迷わせる。
「……その、鳴上くん。間違っていたら聞き流してほしいのだが、二つ結びの女の子か? ピンク色のリボンを飾りに使った」
「あ、うん。それで普通の子より大人びた感じの」
「ああ、なるほど。ならば、きみがついてきてくれたことは、私にとって幸運だったということだな」
「んん?」
意味深な物言いに、悠は首を傾げる。だが、早足で前を行く彼女に話しかけることはできない。そして小学校にたどり着いた瞬間、その意味を知るところになるのであった。
しばらく歩くと、分かれ道に差し当たった。雪子と千枝が、悠と瑞月とは別の道に足を進める。
「じゃあね、2人とも。あたしたちはここまでだから」
「帰り道、気をつけてね」
「千枝さん、雪子さん、ありがとう。また明日」
「2人とも、明日からよろしく」
別れを告げ、雪子と千枝、瑞月は手を振りながら歩みを進める。悠も真似をすると、千枝が降り幅を大きくした気がする。──人に手を振るなんて何年ぶりだろう、そう思いながら悠は二人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
かくして、悠と帰り道をともにする者は瑞月のみとなる。あたりは背の高い植物で覆われた田舎道だ。その中を、二人は早足で進む。事件現場から離れたからか、彼女の調子も戻っていた。
「体調、大丈夫か?」
「ああ、もう問題はない。すまないな。心配をかけて」
そう答える瑞月から、不調の気配は消え去っている。足取りもきびきびと気持ちのいい速度だ。調子を取り戻した彼女に、悠はほっとした。
「良かった。もし倒れられたら、俺が顔向けできないから」
「おや、おかしなことを言う。まるで頼まれたかのような口ぶりだ。誰かにそう言われたか?」
「ああ。『頼むな』って、花村に」
まじまじと、瑞月が悠を見つめる。それから「そうだな」としみじみと噛み締めるように呟く。しかも瑞月の頬は嬉しそうに緩んでいる。やはり彼女は花村が関わると、とても嬉しそうな表情を見せる。心なしか、足取りも軽やかになった気がする。
それが興味深くて、悠は隣で彼女を見ていた。すると、「鳴上くん?」と声がかかる。いつの間にか、見すぎてしまったらしい。瑞月が不思議そうに首をかしげていた。
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「……気は抜かないほうがいい。思わぬところから動物が出るからな。狸とか野うさぎとか鹿とか」
「え、鹿!? ホントに出るの?」
「出るとも。そして汁物にして食べて──」
「そんなワイルドな狩猟社会なの八十稲羽っ!?」
「──いたらしい」
「過去形だった」
「ちなみに『狸汁』は食されている」
「え、嘘でしょ。狸のジビエなんで聞いたこともないし一番想像ができないんだけど」
「なぜなら『狸汁』はこんにゃくを肉に見立てた味噌汁だからな。精進料理の一種よ」
「騙された。でもなんかちょっと賢くなった気がする」
ピロリンと悠のなかで何かが鳴った。知識が高まったような気分だ。ふっと悠は満足げに息を吐く。すると瑞月がじっと悠を見つめてた。そして、感心したように瑞月は頷く。
「きみは素直なのだな。今の会話といい、先ほどの花村の話といい」
「え、そうなのか?」
「私から見ればそうだな。私と仲良くしてくれている人たちと性質が近い。気が合うかもしれん。友人として推薦しておく」
「それを言うなら、きみも以外と素直だよな」
そう悠は返答する。最初に通学路で目撃したときは冷たそうに見えし、何よりも諸岡や雪子に絡んでいた不審な少年を撃退した口先は、随分と嫌らしいやり口だった。けれど、話してみると良識を持ち合わせた人柄がすぐに分かる。
「そうであるよう、心がけてはいるよ。ところでクラスはどうだ。今日のところ、馴染めそうか?」
「なんとか、里中とか親切な人がいるって分かったし。担任以外は、ね」
「同感だな。私もあの人から目をつけられているから、まぁ、なんだ……耐えよう」
苦笑する瑞月に、悠は思い出した。今日一日、彼女には何度も助けてもらったというのに、お礼をしていない。
「あのさ、瀬名」
「なにか? 鳴上くん」
「さっき、ペットボトルとティッシュくれたろ。お陰で具合の悪そうな人を助けられた。ありがとうな。どっちもちゃんと明日返すから」
「……別に返さずとも構わないが? 特別なものでもないから、気にしなくていい」
「そういうわけにはいかないよ。それから、今朝もありがとう。諸岡先生から絡まれたとき、助けてくれただろ?」
「今朝……、あぁ、あのときのことか」
瑞月は思い出したらしい。
「別段、気にせずとも良い。あのままだと、本当に全校集会まで気付かず説教が続いたかもしれなかったからな。それに……」
「それに?」
「家の人に迷惑をかけたくないというのは、私も少し理解できる」
実感がこもった、懐かしささえ含む言いぶりだ。まるで共通点があるかのように。だが別段、悠と瑞月に共通点などないはずだ。──と考えて、瑞月には妹がいることを思い出した。同居人に幼い子がいるという点では、悠と同じだ。瑞月は姉ゆえに責任感が強い人柄で、同居人に迷惑をかけたくないという悠と自分を重ねたのかもしれない。
「そういえば、妹さんを迎えにいくんだよな? 何年生?」
「一年生だな。今年入学したばかりで、ピカピカだ」
「え、本当? 同い年だ。俺が迎えに行く子、下宿先の叔父さんの娘さんなんだけど」
「叔父ということは、従姉妹か。ちなみに名前を聞いても?」
「うん。『堂島菜々子』って名前なんだけど」
「うん?」
ピタリと、瑞月が動きを止める。キョトンとした様子は今日一番に驚いていた。その訳が分からない悠はおろおろと手をさ迷わせる。
「……その、鳴上くん。間違っていたら聞き流してほしいのだが、二つ結びの女の子か? ピンク色のリボンを飾りに使った」
「あ、うん。それで普通の子より大人びた感じの」
「ああ、なるほど。ならば、きみがついてきてくれたことは、私にとって幸運だったということだな」
「んん?」
意味深な物言いに、悠は首を傾げる。だが、早足で前を行く彼女に話しかけることはできない。そして小学校にたどり着いた瞬間、その意味を知るところになるのであった。