客人〈マレビト〉来たりき
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靴を取りに昇降口へ向かうと、悠たちは意外な人物を発見した。白い花飾りとオレンジのヘッドホン、異なるアクセサリーを身につけた二人が顔を付き合わせている。言わずもがな、瀬名と花村である。2人とも、教室から飛び出したときと一転して難しい顔をしていた。
瀬名は消沈したように肩を落とし、陽介はもどかしそうに組んだ腕を指で叩く。
「ありゃ、おふたりさんってば、どしたの?」
「あぁ……里中か。実はな……」
そこに、千枝がするりと割り込む。彼女に気がついた花村は、困った様子で瀬名を指し示した。
「コイツが、学校にカナちゃ──妹さんを迎えにいかなきゃないんだけど、さっきも言った通り、ひとりで出歩いてたらヤバそーじゃん? なのに、気ばっかり焦ってるみたいだから、止めてたんだよ」
「別に、焦ってなどいない」
「教室出て短距離並みの勢いで走ろうとしたクセにか? それにお前、ちょっと落ち着いた方がいいと思うぞ。なんか、すっげ苦しそうな顔してる」
「それは……」
「なぁ、妹さんってどういうことだ?」
思わず悠は疑問を挟む。食いぎみな悠を、花村が怪訝そうに見つめた。悠は臆さず、まっすぐに理由を伝える。
「俺、お世話になってる下宿先に小学生の娘さんがいて、その子が心配なんだ。迎えにいけたらいいと思ってたんだけど、小学校の場所が分からなくて……」
「あー、そりゃ心配になるね。ちなみに学校の名前は?」
千枝に、菜々子の通う学校の名前を告げる。すると瑞月が即座に反応した。
「同じだ。私の妹が通っている学校と」
「おお! なら、一緒に行った方がいいでしょ。鳴上くん男の子だから、ボディーガードがわりになるだろうし! ね、雪子」
「そうだね。一人で帰るより、全然いいと思う」
「よっしゃ! じゃあ決まりだな。頼むぜ!」
いつの間にか、瀬名の後ろにまわりこんでいたらしい花村が、ポンと彼女の肩に両手をのせる。そうして、ズイズイと3人の前に押し出した。一仕事終えたとばかりに、敬礼の真似を取って悠たちに笑いかけた。端正な顔立ちと、白い歯が眩しい爽やかな笑みだった。
「んじゃ! お前ら気ィつけて帰れよ。里中は転校生、いじめすぎんなよな~」
「ひっと聞きが悪いな! 話聴くだけだっつのーーーー!!」
素早く身を翻し、花村は昇降口を脱兎のごとく駆け出す。千枝の抗議なぞ知らんぷりで、花村はあっという間に姿を消した。千枝は不服そうにため息をつく。
「……ったく、アイツは。相変わらず、いらんヒトコト残してくんだから」
「でも、優しいヤツだな」
悠が呟いて、彼が託していった瑞月の背を眺める。わざわざ、女の子が不穏な道で一人にならないよう計らってくれたのだ。
「あぁ、優しい人だよ。ただ、カッコつけようとする悪癖があるけれどね。今も勢いつけすぎて転んでいなければいいが」
柔らかな声とともに、瀬名が花村の去っていった方向に目を向けている。外は霧で覆われているというのに、必死で走る花村の姿を見失うまいとしているようだ。
彼──花村の面影を見ていた瀬名が、ふっと頬を緩める。悠は目を見張った。まるで氷のような人だとばかり思っていたのに、花のような柔らかさで彼女が笑ったから。
「そうだ。自己紹介がまだだったな」
一瞬で、彼女は唇を引き締める。背筋を正して、まっすぐに悠と向き合った。つられた悠も慌てて背中をまっすぐに伸ばす。瀬名の紺碧の瞳が、緊張した悠を鮮明に映しだした。
「瀬名瑞月だ。道中、お世話になる」
「あ、ああ。俺のほうも……その、コンゴトモヨロシク」
折り目正しく、2人はお辞儀をしあう。ちょうど自己紹介を終えたタイミングを見計らった千枝が明るく外を指さした。
「ほんじゃ、行こっか。早く出ろって言われてるし」
◇◇◇
4人は昇降口から外に出て──一度足を止めた。理由は簡単。外に満ちた霧が深いのだ。目を凝らすも、微細な水の粒子が光を拡散させて、校門がぼんやりとしか見えないほどだ。
「うげー、霧だー。全然先が見えないよー」
「そうだね。車に気をつけなきゃ」
隣にいた千枝と雪子をちらりと見やる。地元民らしい二人と帰ると決めた選択に、悠は胸を撫で下ろした。土地勘のない悠だけで帰れば、濃い霧のなかで迷うハメになった恐れがあるからだ。
しかし、本当にひどい霧だ。悠は教室で霧を鬱陶しがってた生徒を思い出す。彼は”雨が降ったあとは霧がよく出る”と愚痴をこぼしていた。
「稲羽では、霧がよく出るのか?」
「昔はそうではなかったのだがな。公的な発表によれば、近年よく見られるようになった現象で、原因は『不明』とのことだ」
霧を眺めていた瀬名──瀬名瑞月が答える。”原因不明”という言葉が悠の中でひっかかった。
(…………昨日の夢も、なんだか不思議だったな)
ひたすらに霧の中を走り続ける謎の夢。帰りたいのに、帰れない。何かを求めているのに、その『何か』に触れることの叶わない不思議な夢だ。
そして、夢の中で見たまとわりくような霧と、悠の目の前で稲羽を覆う霧は、なんとなく似ているような、無関係ではない気がしたのだ。
(あの夢は一体なんだったのだろう)
「どうした。帰るのだろう?」
ピシャリとした声に、悠は我に帰る。千枝と雪子はすでに先に進んで悠が動くのを待っている。悠のそばにいるのは瑞月だけだ。まるで清浄な泉にも似た碧の瞳が、まっすぐに悠を見つめている。その澄んだ碧に、悠は何をすべきか思い出して歩き出す。
瀬名は消沈したように肩を落とし、陽介はもどかしそうに組んだ腕を指で叩く。
「ありゃ、おふたりさんってば、どしたの?」
「あぁ……里中か。実はな……」
そこに、千枝がするりと割り込む。彼女に気がついた花村は、困った様子で瀬名を指し示した。
「コイツが、学校にカナちゃ──妹さんを迎えにいかなきゃないんだけど、さっきも言った通り、ひとりで出歩いてたらヤバそーじゃん? なのに、気ばっかり焦ってるみたいだから、止めてたんだよ」
「別に、焦ってなどいない」
「教室出て短距離並みの勢いで走ろうとしたクセにか? それにお前、ちょっと落ち着いた方がいいと思うぞ。なんか、すっげ苦しそうな顔してる」
「それは……」
「なぁ、妹さんってどういうことだ?」
思わず悠は疑問を挟む。食いぎみな悠を、花村が怪訝そうに見つめた。悠は臆さず、まっすぐに理由を伝える。
「俺、お世話になってる下宿先に小学生の娘さんがいて、その子が心配なんだ。迎えにいけたらいいと思ってたんだけど、小学校の場所が分からなくて……」
「あー、そりゃ心配になるね。ちなみに学校の名前は?」
千枝に、菜々子の通う学校の名前を告げる。すると瑞月が即座に反応した。
「同じだ。私の妹が通っている学校と」
「おお! なら、一緒に行った方がいいでしょ。鳴上くん男の子だから、ボディーガードがわりになるだろうし! ね、雪子」
「そうだね。一人で帰るより、全然いいと思う」
「よっしゃ! じゃあ決まりだな。頼むぜ!」
いつの間にか、瀬名の後ろにまわりこんでいたらしい花村が、ポンと彼女の肩に両手をのせる。そうして、ズイズイと3人の前に押し出した。一仕事終えたとばかりに、敬礼の真似を取って悠たちに笑いかけた。端正な顔立ちと、白い歯が眩しい爽やかな笑みだった。
「んじゃ! お前ら気ィつけて帰れよ。里中は転校生、いじめすぎんなよな~」
「ひっと聞きが悪いな! 話聴くだけだっつのーーーー!!」
素早く身を翻し、花村は昇降口を脱兎のごとく駆け出す。千枝の抗議なぞ知らんぷりで、花村はあっという間に姿を消した。千枝は不服そうにため息をつく。
「……ったく、アイツは。相変わらず、いらんヒトコト残してくんだから」
「でも、優しいヤツだな」
悠が呟いて、彼が託していった瑞月の背を眺める。わざわざ、女の子が不穏な道で一人にならないよう計らってくれたのだ。
「あぁ、優しい人だよ。ただ、カッコつけようとする悪癖があるけれどね。今も勢いつけすぎて転んでいなければいいが」
柔らかな声とともに、瀬名が花村の去っていった方向に目を向けている。外は霧で覆われているというのに、必死で走る花村の姿を見失うまいとしているようだ。
彼──花村の面影を見ていた瀬名が、ふっと頬を緩める。悠は目を見張った。まるで氷のような人だとばかり思っていたのに、花のような柔らかさで彼女が笑ったから。
「そうだ。自己紹介がまだだったな」
一瞬で、彼女は唇を引き締める。背筋を正して、まっすぐに悠と向き合った。つられた悠も慌てて背中をまっすぐに伸ばす。瀬名の紺碧の瞳が、緊張した悠を鮮明に映しだした。
「瀬名瑞月だ。道中、お世話になる」
「あ、ああ。俺のほうも……その、コンゴトモヨロシク」
折り目正しく、2人はお辞儀をしあう。ちょうど自己紹介を終えたタイミングを見計らった千枝が明るく外を指さした。
「ほんじゃ、行こっか。早く出ろって言われてるし」
◇◇◇
4人は昇降口から外に出て──一度足を止めた。理由は簡単。外に満ちた霧が深いのだ。目を凝らすも、微細な水の粒子が光を拡散させて、校門がぼんやりとしか見えないほどだ。
「うげー、霧だー。全然先が見えないよー」
「そうだね。車に気をつけなきゃ」
隣にいた千枝と雪子をちらりと見やる。地元民らしい二人と帰ると決めた選択に、悠は胸を撫で下ろした。土地勘のない悠だけで帰れば、濃い霧のなかで迷うハメになった恐れがあるからだ。
しかし、本当にひどい霧だ。悠は教室で霧を鬱陶しがってた生徒を思い出す。彼は”雨が降ったあとは霧がよく出る”と愚痴をこぼしていた。
「稲羽では、霧がよく出るのか?」
「昔はそうではなかったのだがな。公的な発表によれば、近年よく見られるようになった現象で、原因は『不明』とのことだ」
霧を眺めていた瀬名──瀬名瑞月が答える。”原因不明”という言葉が悠の中でひっかかった。
(…………昨日の夢も、なんだか不思議だったな)
ひたすらに霧の中を走り続ける謎の夢。帰りたいのに、帰れない。何かを求めているのに、その『何か』に触れることの叶わない不思議な夢だ。
そして、夢の中で見たまとわりくような霧と、悠の目の前で稲羽を覆う霧は、なんとなく似ているような、無関係ではない気がしたのだ。
(あの夢は一体なんだったのだろう)
「どうした。帰るのだろう?」
ピシャリとした声に、悠は我に帰る。千枝と雪子はすでに先に進んで悠が動くのを待っている。悠のそばにいるのは瑞月だけだ。まるで清浄な泉にも似た碧の瞳が、まっすぐに悠を見つめている。その澄んだ碧に、悠は何をすべきか思い出して歩き出す。