残り香
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
八十稲羽に引っ越した後、陽介は樹からもらった種を育てた。樹からもらった段ボールの中に、育て方を記したメモが入っていたのだ。花の名前はなぜか記されていなかった。メールを送ろうにも、陽介は樹のアドレスを知らなかった。
最初は都会との繋がりを忘れないための、手慰み程度に始めた。
だが、世話をするにつれてだんだんと愛着が湧いてきた。共に過ごしているうちに、物言わぬ植物の、小さな変化に気が付くようになっていったのだ。
冬。樹からもらった植物は芽吹いた。厚い土の天蓋を持ち上げて、伸びていく新芽に陽介は喜んだものだ。すべてが白く息絶える寒さの中で、新緑はのびのびと育っていった。
春。花が開いた。樹の花は雪にも似て小さく、可憐な花をいくつも付けた。初恋に破れた日、匂い立つ花の香に思わず陽介は顔を寄せた。花は健気にも、陽介の手間を汲んですくすくと育った。
初めてできた親友の、園芸談議につい乗ってしまった。口元を抑える陽介に対し、親友の目は同士を見つけたと言わんばかりに輝いた。親友との対話ははずみにはずんだ。
花は枯れ、種を残した。陽介はそれを再び植えた。
夏。転がり込んできた弟分とともに花の剪定に勤しんだ。騒がしい暑さも、植物に集中すれば忘れることができた。
——ヨースケー、このお花さんたち、まだ咲いてないけどキレイねー。
そう、キャラキャラ笑った弟分へ、陽介は誇らしげに、笑った。
秋。樹の花が蕾をつけた。陽介は親友と、互いの存在を認め合った。蕾から漂う柔らかな香りに、親友にこの花を見せてみたいと思った。彼ならば、きっと鼻で笑ったりしないだろう。
冬。再び花が開いた。視界を濃く覆う霧の中、花はたしかにあり続けた。凍てつき、命を眠りに誘う白の中、樹の花はいつまでも淡い色で咲き続けた。
最初は都会との繋がりを忘れないための、手慰み程度に始めた。
だが、世話をするにつれてだんだんと愛着が湧いてきた。共に過ごしているうちに、物言わぬ植物の、小さな変化に気が付くようになっていったのだ。
冬。樹からもらった植物は芽吹いた。厚い土の天蓋を持ち上げて、伸びていく新芽に陽介は喜んだものだ。すべてが白く息絶える寒さの中で、新緑はのびのびと育っていった。
春。花が開いた。樹の花は雪にも似て小さく、可憐な花をいくつも付けた。初恋に破れた日、匂い立つ花の香に思わず陽介は顔を寄せた。花は健気にも、陽介の手間を汲んですくすくと育った。
初めてできた親友の、園芸談議につい乗ってしまった。口元を抑える陽介に対し、親友の目は同士を見つけたと言わんばかりに輝いた。親友との対話ははずみにはずんだ。
花は枯れ、種を残した。陽介はそれを再び植えた。
夏。転がり込んできた弟分とともに花の剪定に勤しんだ。騒がしい暑さも、植物に集中すれば忘れることができた。
——ヨースケー、このお花さんたち、まだ咲いてないけどキレイねー。
そう、キャラキャラ笑った弟分へ、陽介は誇らしげに、笑った。
秋。樹の花が蕾をつけた。陽介は親友と、互いの存在を認め合った。蕾から漂う柔らかな香りに、親友にこの花を見せてみたいと思った。彼ならば、きっと鼻で笑ったりしないだろう。
冬。再び花が開いた。視界を濃く覆う霧の中、花はたしかにあり続けた。凍てつき、命を眠りに誘う白の中、樹の花はいつまでも淡い色で咲き続けた。