残り香
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あっという時は過ぎて、夕暮れが似合う季節になった。植えられた純白のカーネーションに、秋の灯 が落ちている光景を横目に、陽介は廊下を歩いた。
この学校に来るのは今日が最後だ。なんとなく、陽介は園芸委員の控え室に立ち寄った。ガラリと扉を開けると、空白の机だけがある。いつもいるはずの樹はいない。陽介は、なんだか寒々しい気持ちになった。
「……助手くん?」
不意に、背後から呼び止められた。振り返ると、樹が立っている。小さい——植木鉢とその他が収まる程度の段ボールを樹は抱えていた。
「樹先輩」
「こんなところに、いたんだね。はい、これ」
そういうと、樹は手にしていた段ボールを陽介へと差し出す。箱の大きさは、見た目にたがわず軽かった。
「……え、なんすかこれ。まさか俺への餞別とか!?」
「これ、次の植え込みで仕込もうと思ってた花の種」
なぜ、そんなものを渡すのだろうか。陽介は押し黙る。理解が追い付かない陽介を察してか、彼女はつづけた。
「君はまだ、種だから」
「は?」
「発芽できるエネルギーは秘めてる。けど、まだちゃんと条件が揃ってない」
あいまいなことを、彼女は告げる。
「園芸の仕事、とっても丁寧だった。熱意はあるけど、君はそれをどこに向けていいかが、自分でも分かってないんだよ。
……これはね、私のワガママ。君は何にもないなんて言うけれど、私はそんなことないと思う。でも、きっとそれは君が見つけることだから、私が口出しできることじゃない」
樹は、目を細めた。子の成長を見守る母のような慈しみが、その瞳には宿っていた。
「見てみたかったなぁ、君がどんな花を咲かせるのか」
——君の育てた向日葵、すごくまっすぐで、色鮮やかでキレイだったから。
「助手くん、じゃあね」
それだけを残して、樹は去った。いつものように、控えめに手を振って。あとには、彼女の残り香だけが残った。土の匂いに入り混じる、ほのかにくゆる花の香 を、陽介は知らなかった。
この学校に来るのは今日が最後だ。なんとなく、陽介は園芸委員の控え室に立ち寄った。ガラリと扉を開けると、空白の机だけがある。いつもいるはずの樹はいない。陽介は、なんだか寒々しい気持ちになった。
「……助手くん?」
不意に、背後から呼び止められた。振り返ると、樹が立っている。小さい——植木鉢とその他が収まる程度の段ボールを樹は抱えていた。
「樹先輩」
「こんなところに、いたんだね。はい、これ」
そういうと、樹は手にしていた段ボールを陽介へと差し出す。箱の大きさは、見た目にたがわず軽かった。
「……え、なんすかこれ。まさか俺への餞別とか!?」
「これ、次の植え込みで仕込もうと思ってた花の種」
なぜ、そんなものを渡すのだろうか。陽介は押し黙る。理解が追い付かない陽介を察してか、彼女はつづけた。
「君はまだ、種だから」
「は?」
「発芽できるエネルギーは秘めてる。けど、まだちゃんと条件が揃ってない」
あいまいなことを、彼女は告げる。
「園芸の仕事、とっても丁寧だった。熱意はあるけど、君はそれをどこに向けていいかが、自分でも分かってないんだよ。
……これはね、私のワガママ。君は何にもないなんて言うけれど、私はそんなことないと思う。でも、きっとそれは君が見つけることだから、私が口出しできることじゃない」
樹は、目を細めた。子の成長を見守る母のような慈しみが、その瞳には宿っていた。
「見てみたかったなぁ、君がどんな花を咲かせるのか」
——君の育てた向日葵、すごくまっすぐで、色鮮やかでキレイだったから。
「助手くん、じゃあね」
それだけを残して、樹は去った。いつものように、控えめに手を振って。あとには、彼女の残り香だけが残った。土の匂いに入り混じる、ほのかにくゆる花の