残り香
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土の、香りがした。
植木鉢に如雨露で水をそそぐと、湿っぽい——命を育む苗床の温かな香りが匂い立つ。一人暮らしを始めたベランダにて、陽介はまだ咲きやらぬ花へと顔を寄せた。
『土の香りはね、この中に住むバクテリアが土を耕してできる香りなの』
その声はもはやおぼろげだ。けれど、そう言った人がいた。その記憶は確かにある。匂いは、深く記憶と結びつく。声も、顔もおぼろげだけれど、匂いが記憶を連れてくる。
香りの粒子が過去を描いた。激動の一年が始まる前、まだ自分という根を持っていなかった陽介自身と、そのそばにいた人について。
植木鉢に如雨露で水をそそぐと、湿っぽい——命を育む苗床の温かな香りが匂い立つ。一人暮らしを始めたベランダにて、陽介はまだ咲きやらぬ花へと顔を寄せた。
『土の香りはね、この中に住むバクテリアが土を耕してできる香りなの』
その声はもはやおぼろげだ。けれど、そう言った人がいた。その記憶は確かにある。匂いは、深く記憶と結びつく。声も、顔もおぼろげだけれど、匂いが記憶を連れてくる。
香りの粒子が過去を描いた。激動の一年が始まる前、まだ自分という根を持っていなかった陽介自身と、そのそばにいた人について。
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