炭酸パニック!
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海水浴も一段落した昼頃。焼け付く太陽がガラス質を含む砂浜に反射して輝いている。光をはじく海のきらめきと合わせて実に美しい光景だ。
もっとも、今の俺には夏の暑さをよりギラギラと感じさせるものでしかないが。
「アチィーーーーー」
「暑いなー、ほれ」
隣に坐した彼女が、レジャーシートの上でへばった俺に小型扇風機を向けた。ビーチパラソルの影と相まって、残酷な熱気をわずかに忘れさせてくれる。
特捜隊のささやかな避暑地に彼女と俺しかいないのをいいことに、ごろりと俺は寝転がった。「行儀が悪い」と彼女は俺に注意するが、遊び疲れたことを察しているのか、あとは何もせずに黙っている。
現在、相棒たち特捜隊の面々は昼飯の買い出しにくり出していた。じゃんけんに一発KOした俺と、同じく負けたのであろう彼女は仲良く荷物番である。
しかし、猛暑のなか健気に待ち続けるのは中々酷である。額に当てるも、用意したスポドリはすでに生ぬるい。
「ハァ……、一気に涼む方法とか、ないもんかねー」
「昼食をとって休んだら、また海に入るんだろう。しばらくの辛抱だ」
「だーよーなー。アイツら早く帰って来いよー」
「して、おまえさま。みんなお帰りだ。良かったな」
俺は腹筋を跳ね上げる。確かに海の家がある方角から、相棒たちが荷物を抱えて帰って来ていた。ビーチパラソルの影から飛び出し、俺は両手を振る。クマがはしゃいだ様子で走ってきた。
「ヨースケー! お昼買ってきたクマー。ついでにすごいものもーー!」
「おーー!! なんだーー!! アイスかーー」
クマは片手にペットボトルのコーラと、もう一方に細長い包装の何かを持っている。粒状のキャンディーだ、あれは。何か、嫌な予感がした。
クマはペットボトルの蓋をぽーいっと開けると即座にキャンディを投入した。メントスコーラだ。コーラにメントスを入れると泡が途端に噴き出すヤツ。たしか、俺のスマホでクマはその動画を好んで見ていた。
メントスを投入したコーラから爆発的な速度でガスが噴き出す。持ち歩いて中身が揺れたコーラにメントスなんてブチ込んだら、そりゃあそうなる。
ビビったクマがペットボトルを手放した。そこまではいい。けどな。
「なんでソッチに飛ぶんだよーーーッ!!」
暴走するペットボトルが特捜隊の荷物めがけて突進してくる。カラメル色のしぶきが上がった。ボトルの中はまだ空じゃない。このままでは、荷物がコーラまみれになる。危機感に、俺の身体が一気に冷えた。
とっさに、コーラの軌道上で俺は立ちふさがった。みんなの荷物がコーラで濡れるよりはずっといい。目をつぶって衝撃に備える。
カッキーンと、ホームランを打つような小気味のいい音がした。恐る恐る俺が目を開くと、棒状の何かを振りかぶった姿で彼女が立っている。
彼女がビーチパラソルでコーラを打ち上げたのだ。
コーラの入ったペットボトルは、高く高く弧を描いた。カラメル色の雫が白く弾けて、日差しを反射して照りかえる。
海と空の青にも、砂浜のこがねにも、彼女が構えたスイカ色のビーチパラソルにも、どこもかしこも光の粒子が散って、色彩が浮き彫りになる。あまりにも鮮やかな静止画。
それは一瞬の出来事で、コーラの残骸は重力にしたがってポカンとしているクマの足元に落ちる。炭酸の泡がはじけるかのごとく、ひとときの清涼感を残して世界は元に戻った。
彼女はコーラの散った空を見て、ふむと頷く。
「これが『はじける夏』というものか」
「はじけたのは炭酸だろーがッ。 荷物にかかるのが怖くて肝が冷えたわ!」
「おお、ちょうどよかったではないか。海に入らなくとも涼めたのだから」
「内臓まで冷えたら身体に悪いっての!」
漫才を繰り広げる俺たちの下へ、相棒たちが帰ってくる。静かだった避暑地はあっという間に賑わって、蒸すような熱気など忘れてしまった。メントスコーラが生み出したほんの一時が、夏の暑さを取り込んで弾けたのであった。
もっとも、今の俺には夏の暑さをよりギラギラと感じさせるものでしかないが。
「アチィーーーーー」
「暑いなー、ほれ」
隣に坐した彼女が、レジャーシートの上でへばった俺に小型扇風機を向けた。ビーチパラソルの影と相まって、残酷な熱気をわずかに忘れさせてくれる。
特捜隊のささやかな避暑地に彼女と俺しかいないのをいいことに、ごろりと俺は寝転がった。「行儀が悪い」と彼女は俺に注意するが、遊び疲れたことを察しているのか、あとは何もせずに黙っている。
現在、相棒たち特捜隊の面々は昼飯の買い出しにくり出していた。じゃんけんに一発KOした俺と、同じく負けたのであろう彼女は仲良く荷物番である。
しかし、猛暑のなか健気に待ち続けるのは中々酷である。額に当てるも、用意したスポドリはすでに生ぬるい。
「ハァ……、一気に涼む方法とか、ないもんかねー」
「昼食をとって休んだら、また海に入るんだろう。しばらくの辛抱だ」
「だーよーなー。アイツら早く帰って来いよー」
「して、おまえさま。みんなお帰りだ。良かったな」
俺は腹筋を跳ね上げる。確かに海の家がある方角から、相棒たちが荷物を抱えて帰って来ていた。ビーチパラソルの影から飛び出し、俺は両手を振る。クマがはしゃいだ様子で走ってきた。
「ヨースケー! お昼買ってきたクマー。ついでにすごいものもーー!」
「おーー!! なんだーー!! アイスかーー」
クマは片手にペットボトルのコーラと、もう一方に細長い包装の何かを持っている。粒状のキャンディーだ、あれは。何か、嫌な予感がした。
クマはペットボトルの蓋をぽーいっと開けると即座にキャンディを投入した。メントスコーラだ。コーラにメントスを入れると泡が途端に噴き出すヤツ。たしか、俺のスマホでクマはその動画を好んで見ていた。
メントスを投入したコーラから爆発的な速度でガスが噴き出す。持ち歩いて中身が揺れたコーラにメントスなんてブチ込んだら、そりゃあそうなる。
ビビったクマがペットボトルを手放した。そこまではいい。けどな。
「なんでソッチに飛ぶんだよーーーッ!!」
暴走するペットボトルが特捜隊の荷物めがけて突進してくる。カラメル色のしぶきが上がった。ボトルの中はまだ空じゃない。このままでは、荷物がコーラまみれになる。危機感に、俺の身体が一気に冷えた。
とっさに、コーラの軌道上で俺は立ちふさがった。みんなの荷物がコーラで濡れるよりはずっといい。目をつぶって衝撃に備える。
カッキーンと、ホームランを打つような小気味のいい音がした。恐る恐る俺が目を開くと、棒状の何かを振りかぶった姿で彼女が立っている。
彼女がビーチパラソルでコーラを打ち上げたのだ。
コーラの入ったペットボトルは、高く高く弧を描いた。カラメル色の雫が白く弾けて、日差しを反射して照りかえる。
海と空の青にも、砂浜のこがねにも、彼女が構えたスイカ色のビーチパラソルにも、どこもかしこも光の粒子が散って、色彩が浮き彫りになる。あまりにも鮮やかな静止画。
それは一瞬の出来事で、コーラの残骸は重力にしたがってポカンとしているクマの足元に落ちる。炭酸の泡がはじけるかのごとく、ひとときの清涼感を残して世界は元に戻った。
彼女はコーラの散った空を見て、ふむと頷く。
「これが『はじける夏』というものか」
「はじけたのは炭酸だろーがッ。 荷物にかかるのが怖くて肝が冷えたわ!」
「おお、ちょうどよかったではないか。海に入らなくとも涼めたのだから」
「内臓まで冷えたら身体に悪いっての!」
漫才を繰り広げる俺たちの下へ、相棒たちが帰ってくる。静かだった避暑地はあっという間に賑わって、蒸すような熱気など忘れてしまった。メントスコーラが生み出したほんの一時が、夏の暑さを取り込んで弾けたのであった。