大事なこと
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シャドウを追い払った小部屋の中に二人はいた。どこぞの家政婦みたいな恰好で俺は適当な壁に隠れている。
全力疾走した荒い息で、陽介が彼女の名を呼んだ。反応した彼女が振り向く。ギョッと瞳を開いた。彼女は瞬時に陽介と距離を詰める。
「どうしたんだ! おまえさま。こんなに息を切らして」
疲弊した陽介の身体を支えて、うつむいた陽介を心配そうに覗き込む。陽介は首を振った。それは大丈夫という意思表示で。彼は空気を取り込もうとする身体に逆らって言葉を吐く。
「さっきの……アレ、違うから……、お前が男らしかったり、かっこいいのは事実だけど……俺、あんなこと思ってないから」
違うだろ!! と俺は心中陽介に毒づいた。ナゼそこで「男らしい」という地雷を踏む! しかも「あんなこと」ってふわっとしてるな!
彼女の表情は何事も無かったかのように凪いでいる。しかし、りせいわく、「タルンダを受けたときより、気力が抜けている」とのこと。
「よいのだ、花村。大勢の前で恥をかかせてしまったな。何事もなく流せばよかったものを……弱い私ですまない。おおかた、悪ふざけが過ぎてしまったのだろう? 口は災いの元ということを忘れないように」
俺は頭を抱えた。
逆に諭されてどうするんだ、陽介!
しかも、たじろぐんじゃあない!
あまりのじれったさに俺は殴り込みに行きたい。
もう一回、河原で性根を叩きなおし合うか?相棒よ。
立ち尽くす陽介に、脆く崩れそうな弱々しい微笑みを向けた。彼女は無理に笑っている。
「それに、もし、本当だとしても、それは私の努力不足――」
「んなこと言うなよッ!!」
陽介が彼女と顔を突き合せた。がちんと音がしそうな勢いで視線がかち合う。彼女の奥にある弱い部分まで見通したように、陽介が顔を歪めた。
肩に添えられた彼女の片手をとって、陽介は両手で包み込む。それは前線で武器を振るってきた、見えないだけで傷がたくさん刻まれた彼女の一部だ。陽介はそれを強く握りしめる。
ぐっと唇を引き結んでから、陽介ははっきりと口を開いた。勇ましく覚悟を決めたのだ。
「努力不足なんかじゃねぇ。自分で決めたことを貫くために、苦しいことも辛いことも噛みしめて進むお前の、どこが努力不足なもんかよ」
陽介は彼女から目を逸らさない。内側から溢れる感情を余すことなく彼女にぶちまける。
「今だって、俺の言葉が足りねーだけで、お前は今のままでも十分すげーヤツだ。だから、その……え……」
ああああああああ馬鹿野郎!! ナゼ今更、彼女と顔が近いことに気が付いてるんだ!! 最後まで突っ走れよ追い風に乗れ疾風属性だろうが陽介お前ぇぇええええええ!!
「だから、その……お前はそのままでもみ……魅力的だし、お前をお嫁さんとして貰える男は、間違いなく、幸せだから!」
けれど何とか言い終わった。グッジョッブ。俺は心の中になにか温かいものが沸き上がるのを感じる。
これで、彼女と仲直りが──
「つまり、私を娶れば、おまえさまは幸せだということよな!」
「なんでそうなったッ?」
話が斜め上にぶっ飛んだ。陽介の言葉を聞き届けた彼女の頬は紅潮している。先程の脆そうな笑顔ではなく、喜びに満ち溢れたゆるぎない笑顔だ。野暮な陽介の突っ込みなど、歯もたたない。
「安心してくれ。私はおまえさま以外に嫁ぐつもりはない。私が嫁にならずとも必ず花村を婿にとる。清々しいほど無問題だ! おまえさまと共にあるためなら私は手を尽くすとも。……ああ、喜びで魂が召されそうだ、なにやら青い部屋が見える」
「戻ってこい! それ多分行っちゃダメなトコ!! さらりとプロポーズしてんじゃねーよ! 大事な大事なことだろが、軽率 に言うんじゃねェ!」
「んん……生き返った! そうだな、生きねば結婚どころか交際を申し込めないゆえな。ではまず、結婚を前提に付き合ってはくれまいか」
「もうやだこの娘 ナンニモ分かってくれない」
彼女は陽介の両手を自らの両手で包み込む。繊細な花を包み込むように、ゆっくりと。先ほど陽介が本心を伝えたように、彼女も瞳を逸らさず告げる。
「大事なことだから、寄り添いたいと何度でも、どちらにいようとも伝えるよ」
「だ、だいじ……」
陽介が沸騰した。ぶわりと耳までのぼせあがって、器用にも硬直している。かくいう俺も顔が熱い。なんというドストレートなプロポーズか。ずるずるずると、寄りかかった壁を支えに崩れ落ちる。
「……それにしても、わざわざ追ってきて『お前はそのままでも魅力的』か……花村は優しいな、熱烈よな……そんなところもとても好きだ。ふふふっ、ふふふふふふふふっ」
テンションが振り切れた彼女の笑い声は怪しい。
チャラく見えるが、陽介は恋愛に奥手だし、臆病だ。それでも好意に応えてくれた彼の勇気が、彼女にはよほど嬉しかったらしい。
けれど落としたとはいえ、高く飛ばしすぎだ、陽介。
まぁ、彼女が持ち直したのなら一件落着なのだろう。さすが陽介。俺の相棒。ガッカリだろうと、決めるところは決める男だ。
「ああ、そうだ。君たちに感謝を。休憩時間を延ばしてくれてありがとう」
発言とは裏腹に、俺は氷の刃で首筋を撫でられたような気がした。彼女はギャラリーに気がついていたのである。
彼女の言葉に解凍された陽介が俺を見つけ、絶叫し合うのは数秒後。
残りの特捜隊が撃沈した現場を見つけて、休憩時間が延長になるのは数分後のことだった。
全力疾走した荒い息で、陽介が彼女の名を呼んだ。反応した彼女が振り向く。ギョッと瞳を開いた。彼女は瞬時に陽介と距離を詰める。
「どうしたんだ! おまえさま。こんなに息を切らして」
疲弊した陽介の身体を支えて、うつむいた陽介を心配そうに覗き込む。陽介は首を振った。それは大丈夫という意思表示で。彼は空気を取り込もうとする身体に逆らって言葉を吐く。
「さっきの……アレ、違うから……、お前が男らしかったり、かっこいいのは事実だけど……俺、あんなこと思ってないから」
違うだろ!! と俺は心中陽介に毒づいた。ナゼそこで「男らしい」という地雷を踏む! しかも「あんなこと」ってふわっとしてるな!
彼女の表情は何事も無かったかのように凪いでいる。しかし、りせいわく、「タルンダを受けたときより、気力が抜けている」とのこと。
「よいのだ、花村。大勢の前で恥をかかせてしまったな。何事もなく流せばよかったものを……弱い私ですまない。おおかた、悪ふざけが過ぎてしまったのだろう? 口は災いの元ということを忘れないように」
俺は頭を抱えた。
逆に諭されてどうするんだ、陽介!
しかも、たじろぐんじゃあない!
あまりのじれったさに俺は殴り込みに行きたい。
もう一回、河原で性根を叩きなおし合うか?相棒よ。
立ち尽くす陽介に、脆く崩れそうな弱々しい微笑みを向けた。彼女は無理に笑っている。
「それに、もし、本当だとしても、それは私の努力不足――」
「んなこと言うなよッ!!」
陽介が彼女と顔を突き合せた。がちんと音がしそうな勢いで視線がかち合う。彼女の奥にある弱い部分まで見通したように、陽介が顔を歪めた。
肩に添えられた彼女の片手をとって、陽介は両手で包み込む。それは前線で武器を振るってきた、見えないだけで傷がたくさん刻まれた彼女の一部だ。陽介はそれを強く握りしめる。
ぐっと唇を引き結んでから、陽介ははっきりと口を開いた。勇ましく覚悟を決めたのだ。
「努力不足なんかじゃねぇ。自分で決めたことを貫くために、苦しいことも辛いことも噛みしめて進むお前の、どこが努力不足なもんかよ」
陽介は彼女から目を逸らさない。内側から溢れる感情を余すことなく彼女にぶちまける。
「今だって、俺の言葉が足りねーだけで、お前は今のままでも十分すげーヤツだ。だから、その……え……」
ああああああああ馬鹿野郎!! ナゼ今更、彼女と顔が近いことに気が付いてるんだ!! 最後まで突っ走れよ追い風に乗れ疾風属性だろうが陽介お前ぇぇええええええ!!
「だから、その……お前はそのままでもみ……魅力的だし、お前をお嫁さんとして貰える男は、間違いなく、幸せだから!」
けれど何とか言い終わった。グッジョッブ。俺は心の中になにか温かいものが沸き上がるのを感じる。
これで、彼女と仲直りが──
「つまり、私を娶れば、おまえさまは幸せだということよな!」
「なんでそうなったッ?」
話が斜め上にぶっ飛んだ。陽介の言葉を聞き届けた彼女の頬は紅潮している。先程の脆そうな笑顔ではなく、喜びに満ち溢れたゆるぎない笑顔だ。野暮な陽介の突っ込みなど、歯もたたない。
「安心してくれ。私はおまえさま以外に嫁ぐつもりはない。私が嫁にならずとも必ず花村を婿にとる。清々しいほど無問題だ! おまえさまと共にあるためなら私は手を尽くすとも。……ああ、喜びで魂が召されそうだ、なにやら青い部屋が見える」
「戻ってこい! それ多分行っちゃダメなトコ!! さらりとプロポーズしてんじゃねーよ! 大事な大事なことだろが、
「んん……生き返った! そうだな、生きねば結婚どころか交際を申し込めないゆえな。ではまず、結婚を前提に付き合ってはくれまいか」
「もうやだこの
彼女は陽介の両手を自らの両手で包み込む。繊細な花を包み込むように、ゆっくりと。先ほど陽介が本心を伝えたように、彼女も瞳を逸らさず告げる。
「大事なことだから、寄り添いたいと何度でも、どちらにいようとも伝えるよ」
「だ、だいじ……」
陽介が沸騰した。ぶわりと耳までのぼせあがって、器用にも硬直している。かくいう俺も顔が熱い。なんというドストレートなプロポーズか。ずるずるずると、寄りかかった壁を支えに崩れ落ちる。
「……それにしても、わざわざ追ってきて『お前はそのままでも魅力的』か……花村は優しいな、熱烈よな……そんなところもとても好きだ。ふふふっ、ふふふふふふふふっ」
テンションが振り切れた彼女の笑い声は怪しい。
チャラく見えるが、陽介は恋愛に奥手だし、臆病だ。それでも好意に応えてくれた彼の勇気が、彼女にはよほど嬉しかったらしい。
けれど落としたとはいえ、高く飛ばしすぎだ、陽介。
まぁ、彼女が持ち直したのなら一件落着なのだろう。さすが陽介。俺の相棒。ガッカリだろうと、決めるところは決める男だ。
「ああ、そうだ。君たちに感謝を。休憩時間を延ばしてくれてありがとう」
発言とは裏腹に、俺は氷の刃で首筋を撫でられたような気がした。彼女はギャラリーに気がついていたのである。
彼女の言葉に解凍された陽介が俺を見つけ、絶叫し合うのは数秒後。
残りの特捜隊が撃沈した現場を見つけて、休憩時間が延長になるのは数分後のことだった。