falling down
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悠と陽介、瑞月の3人は、ぜーぜーと息を切らしながら、あぜ道の前に立つ。沈む瑞月をなんとか引き上げ、雪山から脱出成功した結果である。しかし、瑞月の容態は改善しない。陽介に右手を繋がれたまま、空いた左手で胸を押さえてへたり込んでいる。
「うう……2人ともすまない。手汗がひどい上に、足手まといになるなんて……。かくなる上は——」
「いや気にしてねーから。こんな状況なら誰だって手汗かくから。パーカーに隠した短刀に手を伸ばさんでいい」
「瀬名、焦らなくていい。瀬名が休んでいるうちに、俺たちはこの手についてちょっと調べておくよ」
悠による診断=陽介の供給過多。オーバーヒートの影響か、思考回路もちょっと物騒になっている。完全に重症であった。対処法は放置あるのみ。
復帰不能な瑞月をよそに、陽介と悠は繋がれた手を色々と調べてみた。しかし、繋がれた手は全く離れる気配がない。悠が困ったように眉を下げる。
「回復も、状態異常の無効化も効かないな。このまま探索を続けるしかないみたいだ」
「マジかー。このまま2人と手と手がぴったんこか……。どうすっかな、見たところ、この花畑には敵、いなそうだけど」
陽介を中央として、陽介の右手を悠が、陽介の左手を瑞月が握っている状態である。陽介がため息を吐き出した。真ん中の陽介は両手を塞がれているのだ。陽介はげんなりとため息を吐き出す。
「2人に手ぇ繋がれてるとか……なんか俺、連行される宇宙人みたくねー?」
「宇宙人か? 俺は陽介の親になる夢を思い出したけど。俺の手を引いて小さな歩幅で歩く陽介、かわいかったなぁ」
「鳴上。あとで鈴カステラをご馳走するからその話をぜひ聞かせてくれ」
「いいよ、瀬名。そして復帰してくれて良かった」
「2人とも菓子みてーに気軽に話題に食いつくな! そして、鳴上は何話す気だよ!」
「まあまあ陽介。瀬名が復活したから、結果オーライじゃないか?」
「おま……狙っててやったのか?」
はてな?と悠は首をひねる。悠の真意は不明だが、幸か不幸か、瑞月はいつも通りの凛とした佇まいを取り戻していた。ほんのりと赤い頬は見ないふりをする。
逸れた話はさておき、陽介は気を取り直して再び塞がれた両手を眺めた。3人が手をつないでいる状況は、危機管理のリスクからも好ましくない。
「しかしマジな話、これ敵襲ってきたらどーするよ。見た目的にもダサいけど、俺らスキだらじゃん」
「私も落下中、武器を手放してしまった。戦闘が不安だ」
「……瀬名、武器に関しては心配がないみたいだ、ほら」
「え、相棒。ドコ指して——あれは……」
悠は空いた右手で、ある方向を示す。花畑の向こうから、2体のペルソナが近づいてくる。赤いマフラーがトレードマークのジライヤと、恐ろしい血濡れの馬の仮面を横面にひっかけた童女——ヨナガヒメである。
ヨナガヒメは瑞月のペルソナだ。血濡れの面さえ除けば、ただただ可憐な童女に変わりない。夜空を切り取ったような、濃藍 の地に金粉を散らした絢爛 な着物一式に身を包み、側頭部に飾った仮面の下からは玉のように白くまろい肌が輝いている。ヨナガヒメは氷の操作に長けていた。悠たちの墜落を防いだ雪山も、彼女によるものだった。
ジライヤとヨナガヒメは、花畑を渡って3人の下へと滑空してくる。艶やかに長い黒髪をそよがせて、ヨナガヒメは野を駆けた。そして勢いを緩めずに——陽介へと抱き着く。濃藍の衣が陽介を包み込んだ。
「えっ、あっ、ちょ、ヨナガヒメ!?」
「!?」
突然の抱擁に、陽介は上ずった声を上げた。隣の瑞月も、瞳の丸みがあらわになるほど、瞼を開いている。
イザナギやジライヤと違い、ヨナガヒメの大きさは13歳~15歳の人間に近い。浮遊したヨナガヒメの胸部に陽介の頭はすっぽりと収まってしまった。雪山に接着した陽介の背中を、ヨナガヒメは何度も何度も撫でている。
人ならざる者の肉体には温度がない。けれども、壊れ物に触れるような手つきがなお一層、彼女が陽介へと抱く親愛の熱がこもった憐憫を伝えてくる。はた目から見ている悠からでも、その手つきは慈母そのものだ。
「花村に抱き着くとは……私の半身だが羨ましい。ああ、でも……抱きしめられて赤面する陽介が良く見える……。ふふ、新発見だ。しかもなんだか胸のあたりがポカポカする……ふふふっ」
驚いたり頬を膨らませたり口の端が上に曲げたりと百面相ののち、使役者である瑞月は唇をニヨニヨと動かす。『胸がポカポカする』というのは、ペルソナと共有している身体感覚のせいだろう。ヨナガヒメに抱きしめられた陽介を、彼らの死角から瑞月は堪能していた。
ちょっと怖いので、悠は聞かなかったフリをする。そしてペルソナに抱き着かれて赤くなる相棒を尻目に、瑞月へと問いかけた。
「瀬名、ヨナガヒメはどうして陽介に抱き着いたんだ?」
「雪山に着陸した花村を心配しているのだろう」
なるほど、と悠は納得する。ヨナガヒメは冷えてしまった陽介の背中を温めたいと同時に、身体は大丈夫なのかと気をもんでいるようだ。最終的に、瑞月は二人の姿を見守ると決めたらしい。瑞月は薄い笑みを浮かべて、真っ赤になる陽介とヨナガヒメを眺めている。しかし、瑞月の後ろでまごまごしているジライヤを、悠は見逃さなかった。
「ところでジライヤ、お前も瀬名にしたいことがあるんじゃないか?」
「え?」
悠がジライヤに呼びかけると、彼は悠に感謝の一礼を向けた。瑞月がジライヤへと振り向く。ジライヤは瑞月の前にしゃがみこんで、椀状に組んだ両手を瑞月へと差し出した。瑞月は息を飲む。ジライヤの両手には、瑞月の斧槍が収まっていたのである。
「ジライヤ……」
瑞月は感嘆の息を吐いた。遠目から見ても、斧槍を形づくる氷の刃には欠けがない。瑞月の斧槍を探し、ジライヤは傷つけないように大切に抱えてきてくれたのだ。
にわかに、瑞月がしゃがみこんだジライヤの額へと手を伸ばした。つるりとしたジライヤの額に瑞月は優しく手を這わせる。羽のように軽やかに、瑞月はジライヤに触れた手を動かした。
「わざわざ私の武器を持ってきてくれたのか。ありがとう。君は花村と同じで本当に優しいのだなぁ」
「あれ、なんかオレ、背中だけじゃなくて頭まで優しく撫でられてる気がするんだけど」
陽介の疑問など無視して、瑞月はジライヤを撫で続けた。ジライヤは赤いマフラーに顔をうずめ、驚いたように口元を両手で抑える。マフラーから覗く頬が赤く発色していた。反応が乙女である。
互いのペルソナとの交流をほほえましい気持ちで見守りながらも、リーダーとして悠は提案した。
「ペルソナも合流したからそろそろ前に進もう、2人とも。ジライヤとヨナガヒメには俺たちを守ってほしいんだ」
「うう……2人ともすまない。手汗がひどい上に、足手まといになるなんて……。かくなる上は——」
「いや気にしてねーから。こんな状況なら誰だって手汗かくから。パーカーに隠した短刀に手を伸ばさんでいい」
「瀬名、焦らなくていい。瀬名が休んでいるうちに、俺たちはこの手についてちょっと調べておくよ」
悠による診断=陽介の供給過多。オーバーヒートの影響か、思考回路もちょっと物騒になっている。完全に重症であった。対処法は放置あるのみ。
復帰不能な瑞月をよそに、陽介と悠は繋がれた手を色々と調べてみた。しかし、繋がれた手は全く離れる気配がない。悠が困ったように眉を下げる。
「回復も、状態異常の無効化も効かないな。このまま探索を続けるしかないみたいだ」
「マジかー。このまま2人と手と手がぴったんこか……。どうすっかな、見たところ、この花畑には敵、いなそうだけど」
陽介を中央として、陽介の右手を悠が、陽介の左手を瑞月が握っている状態である。陽介がため息を吐き出した。真ん中の陽介は両手を塞がれているのだ。陽介はげんなりとため息を吐き出す。
「2人に手ぇ繋がれてるとか……なんか俺、連行される宇宙人みたくねー?」
「宇宙人か? 俺は陽介の親になる夢を思い出したけど。俺の手を引いて小さな歩幅で歩く陽介、かわいかったなぁ」
「鳴上。あとで鈴カステラをご馳走するからその話をぜひ聞かせてくれ」
「いいよ、瀬名。そして復帰してくれて良かった」
「2人とも菓子みてーに気軽に話題に食いつくな! そして、鳴上は何話す気だよ!」
「まあまあ陽介。瀬名が復活したから、結果オーライじゃないか?」
「おま……狙っててやったのか?」
はてな?と悠は首をひねる。悠の真意は不明だが、幸か不幸か、瑞月はいつも通りの凛とした佇まいを取り戻していた。ほんのりと赤い頬は見ないふりをする。
逸れた話はさておき、陽介は気を取り直して再び塞がれた両手を眺めた。3人が手をつないでいる状況は、危機管理のリスクからも好ましくない。
「しかしマジな話、これ敵襲ってきたらどーするよ。見た目的にもダサいけど、俺らスキだらじゃん」
「私も落下中、武器を手放してしまった。戦闘が不安だ」
「……瀬名、武器に関しては心配がないみたいだ、ほら」
「え、相棒。ドコ指して——あれは……」
悠は空いた右手で、ある方向を示す。花畑の向こうから、2体のペルソナが近づいてくる。赤いマフラーがトレードマークのジライヤと、恐ろしい血濡れの馬の仮面を横面にひっかけた童女——ヨナガヒメである。
ヨナガヒメは瑞月のペルソナだ。血濡れの面さえ除けば、ただただ可憐な童女に変わりない。夜空を切り取ったような、
ジライヤとヨナガヒメは、花畑を渡って3人の下へと滑空してくる。艶やかに長い黒髪をそよがせて、ヨナガヒメは野を駆けた。そして勢いを緩めずに——陽介へと抱き着く。濃藍の衣が陽介を包み込んだ。
「えっ、あっ、ちょ、ヨナガヒメ!?」
「!?」
突然の抱擁に、陽介は上ずった声を上げた。隣の瑞月も、瞳の丸みがあらわになるほど、瞼を開いている。
イザナギやジライヤと違い、ヨナガヒメの大きさは13歳~15歳の人間に近い。浮遊したヨナガヒメの胸部に陽介の頭はすっぽりと収まってしまった。雪山に接着した陽介の背中を、ヨナガヒメは何度も何度も撫でている。
人ならざる者の肉体には温度がない。けれども、壊れ物に触れるような手つきがなお一層、彼女が陽介へと抱く親愛の熱がこもった憐憫を伝えてくる。はた目から見ている悠からでも、その手つきは慈母そのものだ。
「花村に抱き着くとは……私の半身だが羨ましい。ああ、でも……抱きしめられて赤面する陽介が良く見える……。ふふ、新発見だ。しかもなんだか胸のあたりがポカポカする……ふふふっ」
驚いたり頬を膨らませたり口の端が上に曲げたりと百面相ののち、使役者である瑞月は唇をニヨニヨと動かす。『胸がポカポカする』というのは、ペルソナと共有している身体感覚のせいだろう。ヨナガヒメに抱きしめられた陽介を、彼らの死角から瑞月は堪能していた。
ちょっと怖いので、悠は聞かなかったフリをする。そしてペルソナに抱き着かれて赤くなる相棒を尻目に、瑞月へと問いかけた。
「瀬名、ヨナガヒメはどうして陽介に抱き着いたんだ?」
「雪山に着陸した花村を心配しているのだろう」
なるほど、と悠は納得する。ヨナガヒメは冷えてしまった陽介の背中を温めたいと同時に、身体は大丈夫なのかと気をもんでいるようだ。最終的に、瑞月は二人の姿を見守ると決めたらしい。瑞月は薄い笑みを浮かべて、真っ赤になる陽介とヨナガヒメを眺めている。しかし、瑞月の後ろでまごまごしているジライヤを、悠は見逃さなかった。
「ところでジライヤ、お前も瀬名にしたいことがあるんじゃないか?」
「え?」
悠がジライヤに呼びかけると、彼は悠に感謝の一礼を向けた。瑞月がジライヤへと振り向く。ジライヤは瑞月の前にしゃがみこんで、椀状に組んだ両手を瑞月へと差し出した。瑞月は息を飲む。ジライヤの両手には、瑞月の斧槍が収まっていたのである。
「ジライヤ……」
瑞月は感嘆の息を吐いた。遠目から見ても、斧槍を形づくる氷の刃には欠けがない。瑞月の斧槍を探し、ジライヤは傷つけないように大切に抱えてきてくれたのだ。
にわかに、瑞月がしゃがみこんだジライヤの額へと手を伸ばした。つるりとしたジライヤの額に瑞月は優しく手を這わせる。羽のように軽やかに、瑞月はジライヤに触れた手を動かした。
「わざわざ私の武器を持ってきてくれたのか。ありがとう。君は花村と同じで本当に優しいのだなぁ」
「あれ、なんかオレ、背中だけじゃなくて頭まで優しく撫でられてる気がするんだけど」
陽介の疑問など無視して、瑞月はジライヤを撫で続けた。ジライヤは赤いマフラーに顔をうずめ、驚いたように口元を両手で抑える。マフラーから覗く頬が赤く発色していた。反応が乙女である。
互いのペルソナとの交流をほほえましい気持ちで見守りながらも、リーダーとして悠は提案した。
「ペルソナも合流したからそろそろ前に進もう、2人とも。ジライヤとヨナガヒメには俺たちを守ってほしいんだ」